ぺらぺらぺら
散った桜の花びらを踊らせるほどの強い風が、早く読めと急かすように本をめくる。
桜の咲き誇る春の日、高校生になっても帰宅部の僕は放課後にいつもこうして公園のベンチで本を読んでいた。
目の前には僕の座るベンチと全く同じものが一基。頭上には赤い屋根があり、ちょっとした小屋のようになっている。
本当なら本の世界の中のように快晴の空の下、時折流れる涼やかな風に吹かれながら読書に耽りたいものだが、実際は陽の光が紙を照らし、目がチカチカとなってしまうのだ。
そのため、いつもこうして赤い屋根の下、時折流れる涼やかな風に吹かれながら読書に耽っている。
「やあ、あおい君」
しばらく読んでいたからか、もう少しでまどろみの中に囚われそうになるともうすっかり聞き慣れた声が僕の耳を響かせた。
「こんにちは、瑞季先輩」
思わず笑みをこぼしてしまった。
「君、相変わらず読書が好きだなぁ」
呆れながらもため息混じりに笑ったその人は、僕の通う高校と同じ制服を着た先輩だ。
「別にいいでしょう、個人の自由です」
「それはそうなんだけど、私が子供の頃なんていつも友達と公園を駆け回ってたもんだよ」
瑞季先輩はそう言いながら僕のすぐ隣に腰掛けた。
「それ絶対幼少期ですよね? 高校生は公園で駆け回るなんでことしませんよ。それに僕、友達全然いませんし」
かなり残念なことを言っている自覚はあるが、これは事実であり瑞季先輩も知っていることだ。
「ふふっ、そうだったそうだった」
瑞季先輩はまるで幼い子どもを小バカににするように、クスリと小さく笑った。
「だけどね、あおいくん。高校生でも公園を駆け回る人はいるのだよっ」
そんなバカな、その人と一度会ってみたいものだ。
「たとえば?」
「たとえば学校の帰りに公園によって読書をする後輩くんとおしゃべりをする先輩とかね」
誰だ、それ。ああ、瑞季先輩か。
「それ、誰か当ててもいいやつですか?」
「だめだよ」
「了解です」
お互いが歳の差なんてないと言い張るようにテンポ良くいつものやりとりを交わした。
いつからこんな会話を交わすようになったのだろう。
たしか、瑞季さんと出会ったのは、まだ風が冷たさを持っていた、冬の終わりと春の始まりの間だった——