夕飯後、私は部屋で『たぬたぬ』を触って心を癒していた。さすりながらも頭では健人のことを考えていた。そうしていたら、昼間の久徳とのことを思い出してしまい、沸々とまた怒りが湧いてきた。
人が素直に頼んだというのに、あんな対応をされて怒り心頭なのだ。そもそもキスもやめてもらいたい。しかも、学校なんかでするとは言語道断!
もし今日の夜にやって来ても、突き返してやる。そして、絶対に今回の件で久徳には頼らないと心に決めた。
かと言って、ただの人間の私にどうにかできるかは不安でもあった。はあ。とため息を吐いて天井を見上げる。すると、『たぬたぬ』が私の頭を撫でた。
「あかりちゃん、だいじょうぶ? なやみごと?」
「うん、幼馴染がね、まだ分からないけど悪いものに取り憑かれてる気がして……」
「しんぱいだね。つかれてるなら、しぬまえに、はやくたすけてあげたいね」
え? 何て……?
私の聞き間違いであれと思いながら体を起こし、『たぬたぬ』を持ち上げた。
「たぬたぬ、今、死ぬって言った……?」
「うん、とりつかれてるとすれば、いきるためのちからが、すわれてるかも」
その説明で、私の予想はさらに確かなものになった。何かに取り憑かれているから、食べても食べても〝何か〟に栄養を取られて健人は痩せていくのだ。つまり、何かを特定できれば解決により近づく。
「たぬたぬ、ちなみにいっぱい食べてもお腹膨れた気にならなくて痩せるのって何かわかる?」
「う~ん、ほかのあやかしのことは、ちょっとわからないや、ごめんね」
悲しそうに頭を下げる『たぬたぬ』にいいんだよ、ありがとう。と優しく言えば嬉しそうに『たぬたぬ』は目を細めた。
余談だが、久徳は来なかった。来るかもしれないと思った自分に嫌気がさしたが、追い返す手間が省けたというものだ。
それから翌日は土曜日だった。健人のことについて調べるため、朝から私は赤羽神社と図書館に行くことにした。
家から市立図書館までの道中に神社があるので、ひとまず神社へ向かう。
「んーっ」
とても天気が良く、私は両腕を上げて伸びをした。暖かい春の日差しに包まれて心地いい。
そうして十分ほど歩けば神社に着いた。鳥居をくぐり、二十段の石段を登れば閑静とした境内が広がる。
参拝客は一人もおらず、がらんとしている。この神社は別段、有名というわけではないので、祭事でもない限り人はあまり来ないようだ。
神社に入ってすぐに私はお手を清めた。そして、神主さんから話を聞くために社務所を伺った。しかし、そこは閉まっており、誰もいない。
「うーん……」
神主さんも休みとかあるのかな……それとも偶々いないだけ?
静寂の中、私は一人佇んで首を傾げた。辺りを見渡すが人の気配はない。だが、諦めるのはだ早い。
もしかしたらどこかで何かしているかもしれない。という望みのもと、もう少し探してみることにした。
「はぁー……いない」
広くはない神社を周るのはあっという間で、私は肩を落とした。ちらりと、ある場所を一瞥する。
「…………う」
薄暗いことが些か怖くて、行くのを避けた本殿の裏だ。だが、健人が死ぬかもしれないことを思えば行くしかない!
意を決して足を踏み出す。
「へ、」
恐る恐る顔を向けた先には、気持ちよさそうに眠る狐。その周りを転がる瓶はお酒が入っていたであろう空瓶だった。
「くっさ……」
思わず零れた言葉。私は鼻のあたりを手で覆う。
此処らを漂うこの臭いを私は知っている。これはベロベロによって帰ってきたお父さんから発せられるものだ。つまり、すごく酒臭い。
まさか狐が? いや、まさか。それなら神主さんが本殿の裏で酔い潰れて今はいないというほうが納得できる。
私は狐を起こさないよう、静かにその場を後にした。
それから、私は図書館に行って幽霊や妖怪の類を調べた。しかし、手がかりは一つも見つからない。
気付けば時刻は一時前になっており、空腹ですっかり集中力も切れていた。
とりあえず腹を満たすべく、私は近くのコンビニへ赴いた。おにぎりが陳列しているケースの前に立つ。端から順に見て行き、ツナマヨに手を伸ばしたその時。
「奥山さん!」
声の方に視線をやれば、そこにはサンドウィッチを手に顔を綻ばせる甘城がいる。その横には阿久田もいた。
「奇遇ですね、お昼ご飯ですか?」
「うん、図書館にいたんだけど、お腹空いて」
「奥山って本読むのか、すげえー。俺、図書館って行ったことねえや」
阿久田が牛カルビのおにぎりを取りながら言った。
「いや、私も本は読まない。だから、いつもは図書館なんて滅多に行かないんだよね。調べ物してたの」
「調べ物、ですか?」
「ちょっと大変なことになってて……」
私たちは会計を済ませた後、近くの公園で一緒にお昼ご飯を食べた。そこで私は二人に事情を説明したのであった。
人間でない甘城と阿久田ならヒントを持っているかもしれないと考えたからだ。久徳に見つかればまたグチグチ言われかねないが、協力してくれないのはアイツなのだから仕方ない。
「……とまあそんなわけ。何か分かることない?」
「ううん……すみません、僕はあまりそういうことに詳しくなくって」
「俺もよく分かんねえや」
一縷の望みも虚しく、二人から聞き出せることは何もなさそうだ。私はおにぎりとおしぼりのゴミを袋にまとめながら立ち上がった。
「ありがとう、また図書館で頑張ってみるよ」
私はすぐに立ち去ろうとしたが、甘城が私を呼び止めた。
「ぼ、僕でよければ調べるの手伝います!」
「え? 二人でゲーセン行くつもりだったんでしょ?」
はっと思い出したような表情で阿久田に顔を向ける甘城。何とも難しげに唸った後、彼は手を合わせた。
「真樹ごめん。僕、奥山さんを手伝いたい」
「別にいいぜ、ゲーセンなんていつでも行けるしな。それより、俺も手伝うぜ。マジもんの妖怪がいるならそれはそれで見てみてーし」
ニカッと歯を見せた阿久田に甘城は嬉しそうに「ありがとう!」と言った。礼を述べるのは私の方だと、二人に感謝の言葉を伝えた。
そして、私たちは三人で図書館へ行った。道中で私はあることを思い出し、先に断りを入れた。
「途中で久徳が現れたらごめんね、あいつ休みの日でも急に現れるから、どっか行けって脅してくるかもしれない」
「いえ、大丈夫ですよ、〝今日は〟」
意味深な言い方。それに、言い切っていることが妙に感じて私は聞き返す。
「今日は?」
「あっ、い、いや、なな何でもないです。え、っと、吸血鬼の勘みたいなものです、あは、あははは……」
乾いた笑いで話を流そうとする甘城は誰がどう見ても、嘘をついているか、隠し事をしているかのどちらかだ。とはいえ、私は自覚があるほどに甘城には甘いので突っ込まないであげた。
本当に久徳が現れないのであればラッキーなことだし、それ以上に越したことはないのだ。
*****
あれから私たちは関連書籍をめくり続け「狸憑き」という現象に辿り着いた。
この症状は、まず憑かれた者の大抵が大食いになるということ。だが、腹が膨れるのとは逆に衰弱していき、やがて命を落とす。厄介なことに、憂鬱状態や饒舌状態、暴力的になる場合もあるとか。
これは、まさに健人の状態であった。
「絶対、これだ。これしかない」
私は該当ページを二人の方に向けて詳細の書いてある部分を指で差した。
「うっわ、こえー」
「こんなものに人がかかっているなんて……。早く幼馴染さんを助けてあげたいですね! でも、助ける方法は書いてませんね……」
じっと本を見つめる甘城は真剣に方法が書かれていないか探してくれているようだった。この真摯で心優しい甘城をどうか久徳には見習ってもらいたい!
あいつときたら口を開けば「嫁に来い」。条件ありでしか物事をしてくれないやつのもとなんかに嫁ぐわけがない。思い出したら怒りが湧いてきて私はバタン、と強く本を閉じた。
「助ける方法だけど、一つだけアテがあるの」
「え、そうなんですか!?」
「やるじゃん、奥山。それで、方法は?」
「まずは神社に行こう」
その言葉に肯いた二人の眼差しは期待を含んでおり、どこか楽しげである。
本を元の場所に返したら、私たちはすぐに神社へと出発した。
朝に来たときと同様に境内の中には一人も参拝客はいない。日も傾いてきたので、いっそう静寂が濃くなり出しているように思う。だが、そんな静けさを打ち破ったのは私たちではなかった。
「何じゃ、けったいな組み合わせじゃなぁ」
ぴょんっと、どこからともなく狐が目の前に降り立った。ぴたりと私たちの動きが止まる。狐と目が合った。
「お前さん、朝にも来ておったなぁ」
「え? しゃ、しゃべってる……ん? うわ、やっぱ酒くさい」
狐が言葉を話していることへの衝撃以上に酒臭いのが気にかかって、思わず口に出してしまう。失礼ながら、私はまた鼻のあたりを手で押さえた。
「くくっ、神様に向かって正直なやつじゃ」
「うそ、か、神様?」
「そうじゃ、横の二人は気づいとるぞ。吸血鬼に悪の遣い……いや、〝元〟か?」
〝あくのつかい〟とは一体なんだ?
消去法で阿久田のことを指しているのはわかるが、何者なのかさっぱり想像もつかない。それは『悪魔』とは別物なのか?
「……何、者?」
私が阿久田を見れば、バツが悪そうに彼は首を掻いた。まるで、悪いことをした子供のように、彼は口をへの字に曲げている。
人が素直に頼んだというのに、あんな対応をされて怒り心頭なのだ。そもそもキスもやめてもらいたい。しかも、学校なんかでするとは言語道断!
もし今日の夜にやって来ても、突き返してやる。そして、絶対に今回の件で久徳には頼らないと心に決めた。
かと言って、ただの人間の私にどうにかできるかは不安でもあった。はあ。とため息を吐いて天井を見上げる。すると、『たぬたぬ』が私の頭を撫でた。
「あかりちゃん、だいじょうぶ? なやみごと?」
「うん、幼馴染がね、まだ分からないけど悪いものに取り憑かれてる気がして……」
「しんぱいだね。つかれてるなら、しぬまえに、はやくたすけてあげたいね」
え? 何て……?
私の聞き間違いであれと思いながら体を起こし、『たぬたぬ』を持ち上げた。
「たぬたぬ、今、死ぬって言った……?」
「うん、とりつかれてるとすれば、いきるためのちからが、すわれてるかも」
その説明で、私の予想はさらに確かなものになった。何かに取り憑かれているから、食べても食べても〝何か〟に栄養を取られて健人は痩せていくのだ。つまり、何かを特定できれば解決により近づく。
「たぬたぬ、ちなみにいっぱい食べてもお腹膨れた気にならなくて痩せるのって何かわかる?」
「う~ん、ほかのあやかしのことは、ちょっとわからないや、ごめんね」
悲しそうに頭を下げる『たぬたぬ』にいいんだよ、ありがとう。と優しく言えば嬉しそうに『たぬたぬ』は目を細めた。
余談だが、久徳は来なかった。来るかもしれないと思った自分に嫌気がさしたが、追い返す手間が省けたというものだ。
それから翌日は土曜日だった。健人のことについて調べるため、朝から私は赤羽神社と図書館に行くことにした。
家から市立図書館までの道中に神社があるので、ひとまず神社へ向かう。
「んーっ」
とても天気が良く、私は両腕を上げて伸びをした。暖かい春の日差しに包まれて心地いい。
そうして十分ほど歩けば神社に着いた。鳥居をくぐり、二十段の石段を登れば閑静とした境内が広がる。
参拝客は一人もおらず、がらんとしている。この神社は別段、有名というわけではないので、祭事でもない限り人はあまり来ないようだ。
神社に入ってすぐに私はお手を清めた。そして、神主さんから話を聞くために社務所を伺った。しかし、そこは閉まっており、誰もいない。
「うーん……」
神主さんも休みとかあるのかな……それとも偶々いないだけ?
静寂の中、私は一人佇んで首を傾げた。辺りを見渡すが人の気配はない。だが、諦めるのはだ早い。
もしかしたらどこかで何かしているかもしれない。という望みのもと、もう少し探してみることにした。
「はぁー……いない」
広くはない神社を周るのはあっという間で、私は肩を落とした。ちらりと、ある場所を一瞥する。
「…………う」
薄暗いことが些か怖くて、行くのを避けた本殿の裏だ。だが、健人が死ぬかもしれないことを思えば行くしかない!
意を決して足を踏み出す。
「へ、」
恐る恐る顔を向けた先には、気持ちよさそうに眠る狐。その周りを転がる瓶はお酒が入っていたであろう空瓶だった。
「くっさ……」
思わず零れた言葉。私は鼻のあたりを手で覆う。
此処らを漂うこの臭いを私は知っている。これはベロベロによって帰ってきたお父さんから発せられるものだ。つまり、すごく酒臭い。
まさか狐が? いや、まさか。それなら神主さんが本殿の裏で酔い潰れて今はいないというほうが納得できる。
私は狐を起こさないよう、静かにその場を後にした。
それから、私は図書館に行って幽霊や妖怪の類を調べた。しかし、手がかりは一つも見つからない。
気付けば時刻は一時前になっており、空腹ですっかり集中力も切れていた。
とりあえず腹を満たすべく、私は近くのコンビニへ赴いた。おにぎりが陳列しているケースの前に立つ。端から順に見て行き、ツナマヨに手を伸ばしたその時。
「奥山さん!」
声の方に視線をやれば、そこにはサンドウィッチを手に顔を綻ばせる甘城がいる。その横には阿久田もいた。
「奇遇ですね、お昼ご飯ですか?」
「うん、図書館にいたんだけど、お腹空いて」
「奥山って本読むのか、すげえー。俺、図書館って行ったことねえや」
阿久田が牛カルビのおにぎりを取りながら言った。
「いや、私も本は読まない。だから、いつもは図書館なんて滅多に行かないんだよね。調べ物してたの」
「調べ物、ですか?」
「ちょっと大変なことになってて……」
私たちは会計を済ませた後、近くの公園で一緒にお昼ご飯を食べた。そこで私は二人に事情を説明したのであった。
人間でない甘城と阿久田ならヒントを持っているかもしれないと考えたからだ。久徳に見つかればまたグチグチ言われかねないが、協力してくれないのはアイツなのだから仕方ない。
「……とまあそんなわけ。何か分かることない?」
「ううん……すみません、僕はあまりそういうことに詳しくなくって」
「俺もよく分かんねえや」
一縷の望みも虚しく、二人から聞き出せることは何もなさそうだ。私はおにぎりとおしぼりのゴミを袋にまとめながら立ち上がった。
「ありがとう、また図書館で頑張ってみるよ」
私はすぐに立ち去ろうとしたが、甘城が私を呼び止めた。
「ぼ、僕でよければ調べるの手伝います!」
「え? 二人でゲーセン行くつもりだったんでしょ?」
はっと思い出したような表情で阿久田に顔を向ける甘城。何とも難しげに唸った後、彼は手を合わせた。
「真樹ごめん。僕、奥山さんを手伝いたい」
「別にいいぜ、ゲーセンなんていつでも行けるしな。それより、俺も手伝うぜ。マジもんの妖怪がいるならそれはそれで見てみてーし」
ニカッと歯を見せた阿久田に甘城は嬉しそうに「ありがとう!」と言った。礼を述べるのは私の方だと、二人に感謝の言葉を伝えた。
そして、私たちは三人で図書館へ行った。道中で私はあることを思い出し、先に断りを入れた。
「途中で久徳が現れたらごめんね、あいつ休みの日でも急に現れるから、どっか行けって脅してくるかもしれない」
「いえ、大丈夫ですよ、〝今日は〟」
意味深な言い方。それに、言い切っていることが妙に感じて私は聞き返す。
「今日は?」
「あっ、い、いや、なな何でもないです。え、っと、吸血鬼の勘みたいなものです、あは、あははは……」
乾いた笑いで話を流そうとする甘城は誰がどう見ても、嘘をついているか、隠し事をしているかのどちらかだ。とはいえ、私は自覚があるほどに甘城には甘いので突っ込まないであげた。
本当に久徳が現れないのであればラッキーなことだし、それ以上に越したことはないのだ。
*****
あれから私たちは関連書籍をめくり続け「狸憑き」という現象に辿り着いた。
この症状は、まず憑かれた者の大抵が大食いになるということ。だが、腹が膨れるのとは逆に衰弱していき、やがて命を落とす。厄介なことに、憂鬱状態や饒舌状態、暴力的になる場合もあるとか。
これは、まさに健人の状態であった。
「絶対、これだ。これしかない」
私は該当ページを二人の方に向けて詳細の書いてある部分を指で差した。
「うっわ、こえー」
「こんなものに人がかかっているなんて……。早く幼馴染さんを助けてあげたいですね! でも、助ける方法は書いてませんね……」
じっと本を見つめる甘城は真剣に方法が書かれていないか探してくれているようだった。この真摯で心優しい甘城をどうか久徳には見習ってもらいたい!
あいつときたら口を開けば「嫁に来い」。条件ありでしか物事をしてくれないやつのもとなんかに嫁ぐわけがない。思い出したら怒りが湧いてきて私はバタン、と強く本を閉じた。
「助ける方法だけど、一つだけアテがあるの」
「え、そうなんですか!?」
「やるじゃん、奥山。それで、方法は?」
「まずは神社に行こう」
その言葉に肯いた二人の眼差しは期待を含んでおり、どこか楽しげである。
本を元の場所に返したら、私たちはすぐに神社へと出発した。
朝に来たときと同様に境内の中には一人も参拝客はいない。日も傾いてきたので、いっそう静寂が濃くなり出しているように思う。だが、そんな静けさを打ち破ったのは私たちではなかった。
「何じゃ、けったいな組み合わせじゃなぁ」
ぴょんっと、どこからともなく狐が目の前に降り立った。ぴたりと私たちの動きが止まる。狐と目が合った。
「お前さん、朝にも来ておったなぁ」
「え? しゃ、しゃべってる……ん? うわ、やっぱ酒くさい」
狐が言葉を話していることへの衝撃以上に酒臭いのが気にかかって、思わず口に出してしまう。失礼ながら、私はまた鼻のあたりを手で押さえた。
「くくっ、神様に向かって正直なやつじゃ」
「うそ、か、神様?」
「そうじゃ、横の二人は気づいとるぞ。吸血鬼に悪の遣い……いや、〝元〟か?」
〝あくのつかい〟とは一体なんだ?
消去法で阿久田のことを指しているのはわかるが、何者なのかさっぱり想像もつかない。それは『悪魔』とは別物なのか?
「……何、者?」
私が阿久田を見れば、バツが悪そうに彼は首を掻いた。まるで、悪いことをした子供のように、彼は口をへの字に曲げている。