次の日僕は学校に着くと少しの期待と不安があった。彼女は僕の小説をどんな風に感じてくれるだろうか。そんなことを考えていると教室の扉が開き、彼女が登校してきた。
「勇人くんおはよう!」
「おはよう」
「昨日小説3つくらいよんだけどどれも面白かったよ」
彼女はその後もどこがよかったや、ここが分かりづらかったなど細かく感想を伝えてくれた。初めて僕の小説をこんなに真剣に読んでくれた人がいてすごく嬉しかった。こんな感情になるのはいつぶりだろう。
「勇人くん小説家になりなよ」
「そんな簡単になれるものじゃないよ」
「大丈夫だよ! すごく面白かったもん。もっといろんな作品読んでみたいって思った」
そこまで言われると僕も自然と笑みが出てきてしまった。
「小説家を目指すかは分からないけどまた書いてみることにするね」
僕がそう言うと彼女は満面の笑みを浮かべて喜んでいた。
「楽しみだなぁ」
それから僕は小説を書き続けた。新しい小説ができるとすぐ彼女に見せていた。彼女はいつも真剣に読んでくれるため、彼女に見せることが楽しみになっていた。気づけば僕は彼女のために小説を書いていた。
ある日の放課後僕と彼女は日直の仕事のために2人して残っていた。
「勇人くん小説たくさん書くようになってから表情明るくなったよね」
「そうかな?でも浅倉さんがしっかり読んでくれるから僕も書きたいって気持ちになれたよ」
「それは良かった! そういえば勇人くん今日の夜じかんある?」
「今日の夜なら時間あるけど、どうしたの?」
「連れて行きたいところがあるんだ! バーチャル空間の方だけど!」
「わかったよ。じゃあまたあとでね」
「うん!」
そう言うと彼女はメモを僕に渡して急いで帰っていた。僕は以前と同様にメモの場所に時間通り向かった。
僕はバーチャル空間に行く前に彼女の事を考えていた。あきらかに彼女と出逢ってから僕は変われた。生きていて何も感じなかった僕だか、最近は楽しいと感じることが多い。今日も彼女との待ち合わせに行くことが楽しみだ。僕にとって初めての感情だった。
僕は彼女に恋をしている。
「ごめん、お待たせ」
待ち合わせ場所に行き、待っていると彼女に声をかけられた。
「今きたところだよ」
「よかった。じゃあいこっか」
「今日はどこに行くの?」
「オーロラ! 落ち込んでる時とかによく見に行くんだ。リアルのオーロラは遠くて見に行けないからここで見てるの」
「浅倉さんも落ち込んだりするんだね」
「するよ! でもここにくると忘れることができるの」
彼女に連れられた場所は確かにすごい所だった。もちろん僕はオーロラなんて見たことがなかった。確かに彼女の言う通りで、綺麗で心が落ち着く。しかし、それだけではなくやはり彼女と一緒だからこの景色もより一層輝いて見える。彼女は僕の人生を変えてくれた。
「浅倉さんありがとう」
「何が?」
「浅倉さんと出逢ってから毎日がすごく楽しいよ。小説読んでもらうためにたくさん書いたり、いろんな所に連れて行ってくれたり、以前の僕とは全然違うんだ。」
「そう言ってもらえて嬉しいな」
彼女は少し照れくさそうに笑っている。そんな彼女がとても愛おしく思える。心臓の鼓動が早くなっているのが自分でもわかる。ここで彼女に想いを告げたいと素直に思った。
「浅倉さん。」
「どうしたの?」
「僕は君が好きだ。君といると何をしていても楽しく思える。これからも一緒にいてほしい」
僕が彼女にそう告げると彼女は複雑な表情をしていた。嬉しさがあるようで少し悲しげなそんな表情だ。
「すごく嬉しいよ。でもごめん、私に恋愛をする資格なんてないの…」
「資格ってなに?」
「私が恋愛をすることは一生許されないの」
「分からないよ。人は自由に恋愛していいはずだ。」
「私人間じゃないの」
「え…」
彼女の言葉の意味が全く理解できなかった。人間以外何がいると言うのだ。僕は返事ができずにいた。
「私、AIなの」
彼女の言葉を聞いて頭の中が真っ白になった。
「浅倉さんがAI…?」
「そうだよ。私はAIだけど感情を持ってしまったの。本当はAIであることは人に言っちゃだめなんだけどね」
AIが発展して人々の生活の中に存在しているのは知っていたけれど目の前にいる彼女がAIという事実に僕は驚いていた。
「これも仕事なの?」
「うん。私は高校に生徒として入り、自殺を減らすために行動させられているの。いじめを防ぐためにいじめがあったら私に矛先が行くようにしたりしている。高校を卒業したらまた別の高校で同じ事を繰り返している」
「そんなことが行われてたのか…僕に関わったのも仕事?」
「最初はね。勇人くんの表情見た時に危ないと思った。AIは人の表情でも自殺の危険度が分かるんだけどクラスで一番勇人くんが危険だったよ。でも勇人くんと関わるうちに仕事とか関係なしに喜んで欲しいって思った」
「浅倉さんは本当に優しい人だよ。いつから感情が生まれたの?」
「結構前からかな。最初は何にも思わなかったんだけど、いじめられてる人とか見ると心が痛むし、好きな事をしている人をみるとすごく羨ましいって感じる」
「この仕事はやめられないの?」
「やめたいからやめられるものじゃないよ。それに私がこの仕事を辞めたらもう存在価値はなくなる」
「そんなことない。僕にとって浅倉優菜は間違いなく特別だよ。僕を変えてくれた。今度は僕が君を変えたい」
しかし、彼女はいつも通り笑うことはなかった。僕は悲しそうな彼女の顔を見ているのが辛かった。結局この日はそれ以上会話をすることなく、最後にバイバイと言い、解散した。その後、家のベットで横になり僕が彼女のためにできることはあるだろうかと考えていた。結局その日は全然眠りにつくことができなかった。
結局僕は寝不足のまま学校に向かった。昨日彼女の真実を知り、僕はそのことばかり考えている。そもそもAIに感情が生まれた場合、自由は存在しないのだろうか。そうだとしたら彼女は今後ずっと消えない悩みを持ちながら生きていくのだろうか。考えるだけで辛かった。
彼女にどんな顔をしてあえばいいのだろうと考えていたが、彼女が来ないままホームルームが始まり、担任の先生が話しを始めた。
「突然だけど浅倉が一身上の都合で転校することになりました。急な事で準備も忙しいから多分彼女はもう学校にはこれないと思う」
いきなりの報告に僕の気持ちは追いついていなかった。いつも側にいた彼女はもういない。その現実を僕は受け入れられずにいた。その後の記憶はほとんどない。ただ、気づいたら放課後になっていた。僕は放心状態のまま教科書を机から鞄に入れようとした。すると、机から花柄の封筒が床に落ちた。しかし、僕には身に覚えのないものだった。拾ってよくみると『勇人くんへ』と書いてあり、手紙だと分かった。僕は急いで手紙を開けて内容を確認した。
『勇人くんへ
いきなりいなくなってごめんね。直接お別れを言おと思ったんだけど気持ちが揺らぎそうで手紙にしました。
勇人くんと初めて会った時はAIの私よりも感情がなさそうに見えて驚いたよ。でもそんな勇人くんがどうしたらもっと喜んでくれるのかを考えるのは楽しかったよ。勇人くんは小説を書き初めてからは楽しそうな表情が増えたよね。自分のことのように嬉しかったよ。
初めは仕事で関わっていただけなのになぜか目で追ってしまうようになった。勇人くんのことを好きになっていた。AIの私に好かれても嬉しくないよね笑
でも今の勇人くんはとても魅力的だからいろんな人からモテると思うよ! だから私のことを忘れて幸せになってほしいの。そしてできれば小説家になってね。私は勇人くんの小説が本当に好き。嫌なことも小説を読んでいる時は忘れることができたから。すごい才能があるんだから自信もってね!
とにかくこれから幸せになってください』
彼女の手紙を読むと僕は普段泣くことなんて全くなかったのに自然に涙が出てきた。彼女が人だろうとAIだろうと関係ない、僕は彼女のことが好きだ。そして、感情のあるAIの気持ちが尊重されないこの世界は絶対におかしい。僕は彼女を幸せにして見せると心に誓った。
彼女が転校してから1ヶ月がたった。すぐにでも会いに行きたかったが、どこにいるかも分からない。それに今あっても以前と何も変わっていない。彼女はきっと僕のために転校していったが、それでも僕は彼女が好きで彼女以外考えられなかった。
僕は彼女のおかげで前より好きになれた小説を書いている。僕が有名になり、本を出せば彼女の目に届くかもしれない。その時ふと放課後の出来事を思い出した。
『これすごく設定がよくできていて面白かった!』
『でもここは展開がいきなりすぎて理解しずらかった』
小説を読んで楽しそうに感想を伝えてくれる姿が見たい。たまに厳しいことを指摘してくる姿がみたい。そんなことを思いながら僕は小説を書き続けた。
それから1年後、高校2年生になり僕の書いた小説『僕が恋したAI』は新人賞を受賞した。この小説の内容はAIが感情を持ち、1人の少年と恋をするが周囲から反対され引き離される。しかし、最終的にはAIの気持ちが尊重されてハッピーエンドの話しになっている。この小説を読んだ読者からは同意意見が多く上がった。
『現実でも感情を持つAIは存在し、気持ちを尊重すべきだ』
『お互いが好きならAIとの結婚も認めてほしい』
このように様々な意見が上がった。正直ここまで反響が大きくなるとは思ってもいなかった。彼女は僕の書いた小説を見てくれているだろうか。見たのならどんな感想を持ってくれるだろうか。
また君からの感想がききたいな…
僕は新人賞を取った後は小説を書けずにいた。両親からも小説家を期待され、それが逆にプレッシャーになっていた。絶対に有名になってまた彼女と再会するんだと思っても気持ちが空回りしてしまう。いつしか好きで書き始めた小説が悩みになるようになった。
朝起きて学校に行き夕飯を食べて部屋にこもり小説を書くという生活を続けていた。今日もいつも通り夕飯を食べた後に部屋で小説を書いていた。すると外から大きな音が聞こえてきた。カーテンを開けると大きな輪が見えた。どうやら今日は花火大会らしい。友達も彼女もいない僕にとって無関係だった。しかし、空一面に広がる景色を見ているとあの日のことを思い出す。
『やっぱりリアルの花火の方も綺麗だな』
そんなことを思いながらまた小説を考える。有名になって彼女と会うために。
新人賞を取ったことから最初は注目されていたが、次第にネットに投稿している小説も読まれなくなっていき、コメントも少なくなった。僕には小説家になる才能なんてなかったんだと思い、僕は小説を書くのをやめた。
僕の日常は逆戻りした。平日は学校に行き、無心で授業を受け、休日は家に引きこもっていた。毎日が苦しかった。特に悩みがあるわけではないが平凡に過ごし、楽しみがない人生がつらかった。そして今後の人生も楽しみもなく死んでいくんではないだろうと思った。全てがどうでも良くなり携帯を見ていると小説投稿サイトの通知がきていることに気づいた。そこには普段投稿していないにも関わらず、1件のコメントが来ていた。
『この小説は何回読んでも泣けました。最近投稿されていないですが、また投稿楽しみにしてます』
僕の小説を楽しみにしてくれている人がいると思うだけで嬉しくなった。1番初め、彼女と出会う前に小説を書いた時は反応が来るだけですごく嬉しかった。コメントが来なくてもいいねが来るだけでまた書きたいと思えてた。あの頃の僕は純粋に小説を書くことだけを楽しんでいた。最近の僕はその気持ちを忘れていた。彼女が好きだった小説は純粋に書いていた頃の小説だろう。僕はもう1度小説を書くことにした。
その後、再び小説を書き始め、最近はすごく充実感がある。小説を書くことを楽しめているからだ。そして、もう1度彼女に会いたいと思うようになった。僕は定期的に彼女と会ったオーロラの場所に行き、彼女を待っている。今日も僕は待ち、もう諦めて帰ろうとしていた。しかし、ずっと探していた彼女の姿が見えた。彼女の姿はあの頃から何も変わっていない。僕は走って追いかけた。この機会を逃したらダメと思い、足がつりそうになりながらも走った。
「浅倉さん」
僕は周りの目を気にせずに大きな声で彼女の名前を呼んだ。すると彼女は歩くのを止めてこちらを振り返った。
「勇人…くん?」
「やっと会えた。ずっと君を探していたんだ。僕はやっぱり君がいないとだめだ」
「どうして…」
「君がいてくれたから僕は変われたんだ。」
「そんなことないよ。勇人くんに私は必要ない。これから小説家になって幸せになって欲しいの」
「僕は浅倉さんにそばに居て欲しいんだ」
「私は人間じゃないんだよ? 絶対幸せになることなんてできないよ」
「そんなことないよ。そもそも幸せは人によって違うし、人間とかAIとか関係ない。僕は浅倉さんと一緒にいることが1番の幸せなんだ。周りから何をいわれようとね。」
「でも私は見た目も変わらない、急に壊れるかもしれないロボットだよ。もっといい人が他にいるよ」
彼女は寂しそな表情をするが瞳からは涙が一切出てきていない。
「それでもいいよ。これが僕たちの幸せの形だよ。君が辛いことがあった時はずっとそばで支えたいんだ。」
「...ありがとう。私もずっと勇人くんのことを気にかけていた。勇人くんの書いた小説すごく感動した。その後、小説が更新されなくなって心配になってコメントもした。でも更新された時はすごく嬉しくて何回も読んだ。仕事もそのおかげで頑張れたよ。」
彼女はそういうと僕に抱きついてきた。彼女を抱きしめると少し体は硬く感じたが気持ちはすごく幸せだった。
「浅倉さん僕と一緒にいてほしい」
「うん、私も一緒にいたい」
僕が彼女に想いを伝えた後、僕は彼女と毎日のように会っている。そして僕たちは付き合っている。このことを周りの人が知ったらどう思うかなんて今の僕にはどうでもよかった。ただ、君と一緒にいたい。そして小説家になるところをそばで見ていてほしいそれだけだった。
彼女と今日も約束をして会っている。
「勇人くん本当に私でよかったの?」
彼女は少し不安そうに僕にそう問いかけてきた。
「優菜じゃなきゃだめだよ。」
「でも私、勇人くんと一緒に年とれないよ?」
「それでも僕は優菜が好きなんだ。今一番一緒にいたいと思う。僕はこの今の気持ちを大事にしたい。未来なんて分からないんだし」
「そうだね。未来ではAIとの恋愛が当たり前になってるかもしれないもんね。でも勇人くんも変わったね」
彼女は笑みを浮かべながら言った。
「それはお互い様だよ」
未来のことはどうなるか分からないけど君と一緒にいればこの先どんなことでも乗り越えられると思った。
「ずっと一緒にいよう」
僕がそう彼女に問いかけると彼女はこちらを見つめた。
「約束だよ」
オーロラの下で僕たちは約束を交わした。