夢見る気持ち

「どうして」
美香さんは、私の問いに淡々と答えた。 
「私の親は美大に行くためのお金はないと言うんです。だから美大に行けないんです」
一瞬、高校の時の理恵のことが思い出された。大学に行けないと、ぽつんと寂しげに言ったあの時の理恵の言葉と美香さんの言葉が重なっていった。私は視線を落として、心を落ち着かせようとした。
「でも私は大丈夫です」
美香さんは、明るく言い放った。不安を感じさせないその言い方にびっくりして、彼女を見た。
「何が大丈夫なの?」
「私は美大に行かなくても画家を目指します。働きながら、画家を目指そうと思ってるんです」
力強く言う彼女の言葉に私は耳を疑った。
「桃子さん、公園で言ってくれたじゃないですか。ずっと描いていこうとう気持ちがあれば、画家なんだって。美大に行かなくても、絵は描けると思うんです。働いていても、絵は休みの日に描けばいいし、それで個展とか開いて、そのうち絵だけで食べていけるようになったら、その時夢が叶うと思うんです」
「確かにそう言ったけれど……。でも大変だと思うよ」
私が心配でそう言うと、美香さんは、きっぱりと言い切った。
「分かってます。いばらの道だってことは。それでも私は描かずにいられないんです」
純粋無垢な彼女の言葉が、私の胸に突き刺さってきた。そして私だって、そうなのだと思った。油絵学科から挿し絵画家を目指そうとしているのは、端から見ると、遠回りでしかないのに、私はその道を目指そうとしているのだ。だから、美香さんのことをとやかく言う権利はどこにもないのだ。
「あのね、美香さん。私も人のことは何も言えないんだ」
私がそう言うと、美香さんは、きょとんとした顔をした。
「どういうことですか」
私は油絵学科から挿し絵画家を目指す話を美香さんに、かいつまんで話した。
「そうだったんですか……。でもいいと思いますよ。桃子さんの絵にはストーリーが似合いそうな気がしますから。私、応援します」
「どうなるか分からないけど、やらなきゃって思うんだ」
「私も同じです」
美香さんは、うなずきながら、こう続けた。
「夢見る気持ちさえあれば、きっと私達大丈夫ですよ」
美香さんは満足げに微笑んで私を見た。彼女の真っ直ぐな瞳を見ながら私は思った。
そうだね。現実は、なかなか思うようにいかないことばかりだけれども、夢見る気持ちさえあれば、きっといつか願いは叶って報われる、そのことを胸に刻みながら、私達は前へと進む。未来はきっと明るいにちがいない。
(完)