夢見る気持ち

それからしばらくして、理恵から連絡があった。今度のことでは二人に心配かけてるみたいだから、一度三人で会おうということになったのだ。
日曜日の午後、公園のそばの喫茶店ロベリアで会うことになった。
予定の時間より、少し遅れて中へ入ると、二人が既に揃っていた。理恵も成美も、何やら話しながら、明るく笑っていた。どうやらそれほど深刻な話にはなっていないようだった。
「ごめん、遅れて」
「いいよ、いいよ。気にしないで」
と、理恵は、微笑みながら答えた。
「心配して、損しちゃった。理恵元気なんだもん」
成美も、ちょっとむくれながら、ぼやいた。
「何、飲む?」
「アップルティーにしとくよ」
元気を出したい時には、りんごを食べるといいなんてことが、この間読んだ占い本に載っていた。私はそれを思い出して、アップルティーを頼むことにした。
「むしろ、桃子の方が元気ないみたいに見えるけど、なんかあった?」
成美に訊かれ、私は一瞬鋭いなあと思った。どうでもいい時だけ成美はつっ込んだことを訊いてくる。肝心な時はからっきし駄目なのに……。
「うーん。実はね。私挿し絵画家になることを目指すことにしたんだ」
「えっ、挿し絵画家? なんか油絵の挿し絵画家ってあんまり聞いたことないね」
先に頼んで飲んでいたアールグレーティーを一口飲みながら、成美は目を丸くした。
「うん。実はゼミの教授にも同じことを言われて……。私も挿し絵画家を目指すなら、油絵よりもペン画を習得したいと思ってるんだ」
「それじゃあ、今までの課題とかは、意味なかったってこと?」
「ううん、そんなことはないよ。構図の取り方とか、基本的なことは変わらないからね」
先日、挿し絵画家になることを報告しに行った時の松林教授のことを思い出した。
「君はずいぶん遠回りをしているのかもしれないね。それでも挿し絵画家になりたいのかね」
射抜くような目で、松林教授は私を見た。私は一瞬ひるんだけど、ここははっきり言わなくちゃいけないと思って、大きな声で、はいと返事をした。
すると松林教授は、
「それなら、自分でその道を切り開かなくちゃいけないよ。正直、君は教員や学芸員を目指した方がいいと思うんだけどね。何しろ画家という商売は自らの絵を売り込まないといけない仕事だからね。描けるのはもちろんだが、売り込む技術も必要だ。まして挿し絵画家など、ますます売り込まなくてはね」
賛成しかねるといった様子だったけれども、とりあえず私の背を押してくれた。いつもは穏やかな口調の松林教授が、少し強めの口調でそう言ってくれたのは、親心かもしれないけど、一方で私の画力を認めてくれていないということだった。
『わかってるよ。私だって、そんなに甘い世界じゃないことぐらい。でも……』