夢見る気持ち

私はため息とともに、しゃべり出した。
「私は美大に行ってるけど、画家になれるのは、ほんの一握りなの。私もその中の一人になれたらいいなとは思うけど、教授には認められないし、公募してもいい結果は出ないしね。正直どうしようか迷っているんだよ」
私の言葉を聞いた美香さんが、びっくりした表情を浮かべた。
「あんなに絵がうまいのにですか」
「う~ん、ひょっとしたらうまいのかもしれないけれど、うまい人は美大に行くとごろごろいるよ。うまいだけじゃあ、画家にはなれないのかもしれない」
私が笑って言うと、美香さんは、ますます肩を落として、うなだれた。
「それなら、どうしたら画家になれるんでしょうか」
「私にもそれは分からない。でもね、当たり前だけど描かないと始まらないと思うんだ。描くことによって、何かが生まれてくると思う」
自分自身にも聞かせるつもりで、私は美香さんに一言一言述べていった。
「とにかくずっと描いていこうという気持ちがあれば、その人は画家といって、いいんじゃないかなあ。描きたいものが、なくなったら……」
私はここ最近の自分の気持ちを振り返りながら、こう言葉を結んだ。
「その人は画家じゃないんだと思う」
美香さんは、顔をあげると、私を見た。その目には悔しそうな涙が浮かんでいた。
「私には描きたいものが、たくさんあります。なくなるなんてことはないと思います」
きっぱりと言い切る美香さんに、私は言った。
「だったら、美香さんはもう画家の一人だと思うよ。描きたいものがあるなら、その歩みを止めちゃいけないと思う。続けて行くのも一つの才能なんだと思う。私は止まってばかりで、才能ないかもしれないけれど……。美香さんには才能あると思うよ」
美香さんは、ゆっくりと首を横に振った。
「いえ、一之瀬さんには才能あると思います。私の才能は分からないけれど、間違いなく一之瀬さんには才能あると思います」
美香さんを励ましてるはずが、逆に私が励まされて、苦笑した。
「ありがとう」
「いえ、ほんとにお世辞じゃないですよ。一之瀬さんが、画家になれなかったら、私なんて、絶対なれないですよ」
熱心な口調で、美香さんにそう言われると、そうなのかしらと思ってしまう自分がいた。私は慌てて、こう告げた。
「ともかく、家出は駄目だよ。美香さんが画家になるのは、応援するけど、家出は駄目だよ。美香さんには才能あるんだから、焦っちゃ駄目だよ」
「そうですか……」
美香さんは、困った表情を浮かべながら口ごもった。