夢見る気持ち

「でも」
「でも?」
松林教授は眼鏡をかけ直しながら、私に不思議そうな目を向けた。
「でも、一般論は、一般論だと思います。写実的な表現であっても、心を打つ要素はたくさんあります。心象風景画に写実的な表現を組み合わせることによって、見る人の心に何かを感じさせることは可能じゃないかと思います。まったくないとは言い切れないんじゃないでしょうか」
私が小林さんの主張を肯定すると、松林教授は唸った。
「うむ……」
しばらく腕組みして考え込んでいたが、松林教授は最終的には受け入れてくれた。
「分かった。なら、やってみるだけやってみるがいい」
松林教授から、お墨付きをもらうと、小林さんは満面の笑みを浮かべてこう言った。
「はい、ご期待に添えるようにがんばります!」
小林さんは早速自分の作業場へと戻ろうとしたその去り際に、私の耳に小さく言った。
「ありがとう」
私は振り返りながらも、嬉しくてしょうがなそうな小林さんの姿を見送った。一方私はというと、松林教授に遅れたことを改めて謝り、今後の私の自主制作について考えを述べた。
「先生、私は自主制作、動物画にしようかと思います」
「何、動物画?」
松林教授は、面食らった表情を浮かべて、私を見た。今度はなんだと言いたそうな様子だった。
「ここの授業はほとんど静物画ばかりだったが、動物画とはまたどうして」
松林教授の疑問に私は即座に答えた。
「命を描きたいんです」
「命ねえ……。命といっても、いろいろあるだろう。人だっていいし、植物だっていいわけだ」
私の頭に、アリスの姿が、ふと浮かんできた。そしてとっさにこう言っていた。
「犬を描きたいんです」
「犬? それはペットを描くってことかい」
私は手に持っていたクロッキー帳を開き、松林教授に見せた。
「私のペットじゃなくて、これはよその方のペットの犬達です」
「うむ、なかなかいいクロッキーだ。しかし、一之瀬さん、この犬達を描いて、最終的にどんな気持ちを込めたいんだい? テーマとはそういうことだよ。ただ犬を描きたいだけじゃ、駄目だよ」
「ええと、だから命をテーマにしたいんです」
手に汗をにじませながらも、私は必死に食いさがった。ここでがんばらないと、そう思った。