私は慌ててゼミの教室へと向かっていた。他の授業のレポートを夜遅くまで、まとめていて、起きて気がついた時には、思い切り寝坊していた。午前中の時間は終わりかけていた。しかも今日はゼミの日だった。今日から皆自主制作に入るという大事な節目のゼミだった。
なんでこんな時に寝坊しちゃったんだろう。焦りながらも腕には、いろいろ描いたクロッキー帳を抱え、ゼミのドアを、授業の邪魔にならないように、そっと開けた。
「おはようございます」
私は、消え入りそうな小さな声で、挨拶しながら入っていくと、既に制作に入っている生徒達が何人もいた。イーゼルを立て、キャンパスに向かっている者。モチーフを組み立てている者。PCで、データを調べている者。皆が思い思いの作業をしているのを見ながら、私はちょっとほっとした。これなら遅刻でも目立たないか、そう思って松林教授を探すと、教室の隅で、小林さんと何やら話している姿を見つけた。
近づいてみると、松林教授は腕組みをしながら、難しそうな表情を浮かべている。小林さんは小林さんで、顔を上気させながら、松林教授をじっと見つめていた。
「おはようございます。すみません、先生、授業に遅れてしまいまして」
私が謝ると、松林教授は、ああと言った表情をしたけれども、すぐに小林さんの方へと顔を戻した。
「何かあったんですか」
いつも穏やかな様子の松林教授が、眉間にしわを寄せているので、気になって声をかけた。
「いやあね、小林さんが自主制作のテーマを心象風景画にしたいというからね。小林さんの持ち味は、写実的な描写だからね、ちょっと合わないんじゃないかと思ってね。しかも将来は心象風景画を描く画家になりたいというもんだからね。今回の自主制作だけならまだしも、将来に渡っていうと、僕も賛成しかねるというか」
弱った表情の松林教授とは対照的に、小林さんは意気揚々としていた。
「先生だって、いろんなことに挑戦すべきだと言ってたじゃないですか。無駄なことは何一つない、何かと何かが融合していい作品ができることがあると」
「それは確かに言ったが……」
松林教授は、言葉に詰まって私の方へ、ちらりと視線を投げてきた。私も何か言えということなのだろうか。今度は私の方が困ってしどろもどろになった。
「ええと、小林さんの持ち味は、先生の言う通り写実的な部分なんだと思います。それは心象風景画ではあまり必要とされてない部分だとは思います、一般的には」
私の言葉に、うんうん頷きながら、松林教授は諭すようにこう言った。
「一之瀬さんの言うとおりだよ、小林さん」
隣にいる小林さんは不服そうに私の方を見やった。いつもの私だったら、ここで黙ってしまうところだったけど、私も私で先生に報告しなければならないことがあったせいか、気分が高揚していた。
なんでこんな時に寝坊しちゃったんだろう。焦りながらも腕には、いろいろ描いたクロッキー帳を抱え、ゼミのドアを、授業の邪魔にならないように、そっと開けた。
「おはようございます」
私は、消え入りそうな小さな声で、挨拶しながら入っていくと、既に制作に入っている生徒達が何人もいた。イーゼルを立て、キャンパスに向かっている者。モチーフを組み立てている者。PCで、データを調べている者。皆が思い思いの作業をしているのを見ながら、私はちょっとほっとした。これなら遅刻でも目立たないか、そう思って松林教授を探すと、教室の隅で、小林さんと何やら話している姿を見つけた。
近づいてみると、松林教授は腕組みをしながら、難しそうな表情を浮かべている。小林さんは小林さんで、顔を上気させながら、松林教授をじっと見つめていた。
「おはようございます。すみません、先生、授業に遅れてしまいまして」
私が謝ると、松林教授は、ああと言った表情をしたけれども、すぐに小林さんの方へと顔を戻した。
「何かあったんですか」
いつも穏やかな様子の松林教授が、眉間にしわを寄せているので、気になって声をかけた。
「いやあね、小林さんが自主制作のテーマを心象風景画にしたいというからね。小林さんの持ち味は、写実的な描写だからね、ちょっと合わないんじゃないかと思ってね。しかも将来は心象風景画を描く画家になりたいというもんだからね。今回の自主制作だけならまだしも、将来に渡っていうと、僕も賛成しかねるというか」
弱った表情の松林教授とは対照的に、小林さんは意気揚々としていた。
「先生だって、いろんなことに挑戦すべきだと言ってたじゃないですか。無駄なことは何一つない、何かと何かが融合していい作品ができることがあると」
「それは確かに言ったが……」
松林教授は、言葉に詰まって私の方へ、ちらりと視線を投げてきた。私も何か言えということなのだろうか。今度は私の方が困ってしどろもどろになった。
「ええと、小林さんの持ち味は、先生の言う通り写実的な部分なんだと思います。それは心象風景画ではあまり必要とされてない部分だとは思います、一般的には」
私の言葉に、うんうん頷きながら、松林教授は諭すようにこう言った。
「一之瀬さんの言うとおりだよ、小林さん」
隣にいる小林さんは不服そうに私の方を見やった。いつもの私だったら、ここで黙ってしまうところだったけど、私も私で先生に報告しなければならないことがあったせいか、気分が高揚していた。


