「成美がね、理恵が彼氏と別れて元気ないって言ってたから、大丈夫かなあって思って」
「成美はおしゃべりね」
理恵は、私にクロッキー帳を返しながら、そう言った。
「大丈夫なの?」
「大丈夫かって訊かれたら大丈夫じゃないかもね」
大人びた口調で語る理恵に私は不安を感じた。
「無理しないで。私、彼氏とかいないから、よく分からないけど、やっぱり寂しいの?」
「寂しいっていうか、仕事がやりづらくなっちゃったの。彼は私の直属の上司だから、職場で、毎日顔合わすし、仕事の指示も彼から来るからね」
そこでいったん言葉を切ると、理恵はぼそりと独り言のように呟いた。
「辞めちゃおうかな、仕事。で、大学に行こうかな……」
理恵の顔からは、笑顔が消え、ふさぎこんだ表情へと変わった。
私は理恵の言葉にどう答えてよいか、分からなかった。それは確かにやりづらい。私だったらどうするだろうか……。いろいろ考えたけれど、私の口からはこんな言葉が飛び出した。
「辞めちゃえば、仕事」
理恵が、はじかれたように私の顔を見た。
「驚いた。堅実な桃子の口からそんな言葉が出るなんて」
「私は堅実なんかじゃないよ。堅実だったら画家なんて目指さないで就活に専念してるよ。美大にいると、私なんかよりずっとうまい人がいて、画家は無理なんじゃないかと思うことがあるよ。確かに私には才能ないかもしれないけれど、このまま美大にいようと思ってるんだ」
一瞬脳裏に美大に行って画家になりたいと言っている美香さんの姿がよぎっていく。
「それでいいと思うよ」
突如理恵は、強い口調で言い切った。
「私は大学に行きたかったけれど、結局行けなかった。仕事は勉強みたいにうまくはいかなくて、どうしようかと思った時もある。でもそんな時、彼がいろいろ助けてくれて、仕事がうまくいくようになって、これもいいかなあって思うようになったの。彼氏にもなってくれたし、彼とのつき合いも楽しかったしね」
駅での二人の仲むつまじい姿がふと浮かんだ。
「こんなことになるなら、親の反対を押し切って、大学に行くべきだったかなあと思うの。でもあの時決断したのは私自身だったから、ものすごく後悔はしたくないの」
「成美はおしゃべりね」
理恵は、私にクロッキー帳を返しながら、そう言った。
「大丈夫なの?」
「大丈夫かって訊かれたら大丈夫じゃないかもね」
大人びた口調で語る理恵に私は不安を感じた。
「無理しないで。私、彼氏とかいないから、よく分からないけど、やっぱり寂しいの?」
「寂しいっていうか、仕事がやりづらくなっちゃったの。彼は私の直属の上司だから、職場で、毎日顔合わすし、仕事の指示も彼から来るからね」
そこでいったん言葉を切ると、理恵はぼそりと独り言のように呟いた。
「辞めちゃおうかな、仕事。で、大学に行こうかな……」
理恵の顔からは、笑顔が消え、ふさぎこんだ表情へと変わった。
私は理恵の言葉にどう答えてよいか、分からなかった。それは確かにやりづらい。私だったらどうするだろうか……。いろいろ考えたけれど、私の口からはこんな言葉が飛び出した。
「辞めちゃえば、仕事」
理恵が、はじかれたように私の顔を見た。
「驚いた。堅実な桃子の口からそんな言葉が出るなんて」
「私は堅実なんかじゃないよ。堅実だったら画家なんて目指さないで就活に専念してるよ。美大にいると、私なんかよりずっとうまい人がいて、画家は無理なんじゃないかと思うことがあるよ。確かに私には才能ないかもしれないけれど、このまま美大にいようと思ってるんだ」
一瞬脳裏に美大に行って画家になりたいと言っている美香さんの姿がよぎっていく。
「それでいいと思うよ」
突如理恵は、強い口調で言い切った。
「私は大学に行きたかったけれど、結局行けなかった。仕事は勉強みたいにうまくはいかなくて、どうしようかと思った時もある。でもそんな時、彼がいろいろ助けてくれて、仕事がうまくいくようになって、これもいいかなあって思うようになったの。彼氏にもなってくれたし、彼とのつき合いも楽しかったしね」
駅での二人の仲むつまじい姿がふと浮かんだ。
「こんなことになるなら、親の反対を押し切って、大学に行くべきだったかなあと思うの。でもあの時決断したのは私自身だったから、ものすごく後悔はしたくないの」


