夢見る気持ち

何を言われるだろうかと、私がどきどきしていると、飼い主の一人が声をあげた。
「おお! これはすごい。うちの犬だとすぐにわかる」
「ほんとですね」
「おねえさん、絵がうまいですね」
三人とも、感嘆の声をあげてくれたので、とりあえずほっとしたが、よく考えたら道行く人に絵を見せたことは今までなかったなあと思った。見せたことのあるのは、知人と大学の学生と先生ぐらいのものだ。
私は手に汗をかきながらも、三人の飼い主にそのクロッキーをプレゼントした。飼い主達は喜びながら、それぞれの犬を連れて、家へと戻って行った。気がつけば空は群青色の暗闇に包まれていた。
喫茶店で時間をつぶそうと思っていたけれど、ずいぶん時間が経った。そんなことを考えながら、時計を見ると、ちょうど六時を指していた。そろそろ理恵が来る頃だけど、そう思って公園の入り口に目をやると、紺色のパンツスーツに白のVネックという服装の女性がこちらに向かって手を振っていた。
理恵だった。ぱっと見、理恵は笑顔だった。理恵が、彼氏と別れて意気消沈しているというのは嘘だったのだろうか。ちょっと驚きながらも、私も手を振り、理恵のもとへと駆け寄った。
「結構待った?」
 理恵に訊かれ、私は首を横に振った。
「ううん、犬の絵を描いていたから、そんな待ったって気はしなかったよ」
「犬の絵?」
 きょとんとした顔の理恵に、私はさっきまで描いていたクロッキー帳を手渡した。すると理恵はクロッキー帳を一ページずつ丁寧にめくっていった。時折感嘆の声をもらしながらも、理恵は食い入るようにそのクロッキー帳の中の犬達の姿を追っていった。そして最後のページを見終わった時、瞳をうるませながら、
「犬の絵を見てると、アリスのこと思い出すね」
「うん……」
 私は友の口からアリスの名が出たのが、とても嬉しかった。アリスのこと忘れたわけじゃなかったんだ……。そう思うと胸に迫るものがあった。
「でも珍しいね、桃子が平日に会おうなんて言ってくるなんて。何かあったの」
 そう訊かれて、私は返答に詰まった。しばらくどう言おうか迷ったけれども、結局素直に言うしかなかった。