夢見る気持ち

せっかく動物園に来ているのだから、できれば多くの動物を描きたいと、私はその後、いろいろ見て回った。
カワウソは見ていると本当にめまぐるしく水中を泳ぎまわり、茶目っ気たっぷりな瞳で私を魅了した。ただし、描くのは至難の技だった。あんなに動き回られたら、正確に描くことなど不可能だ。ともかく一瞬の姿を目に焼き付けるように私はまじまじと見つめながら描いた。
 テナガザルはテナガザルで二匹いて、仲間同士で毛繕いをしていた。人間のようなしぐさで、器用に毛繕いしている姿は愛くるしい。微笑ましい光景を見ながら、動物同士の信頼関係が見られるのも動物園ならではだろうと思った。
ツキノワグマはツキノワグマで、お昼寝中らしく、ぴくりともしないで寝入っている。描くことは簡単といえども、起きて他の動作もしてくれると助かるのにと思ったが、結局気持ちよさそうに寝入っていた。
それにしても動物園の園内は広かった。背の高い木々や、生け垣もあり、園内の地図を見ながら歩いているのだが、どうも迷ってしまう。緑の生け垣に囲まれてしまうと、自分が今どこにいるかも分からなくなってしまう。それでもなんとか、地図を見ながら、順路をたどりながら、キリン、カバ、シマウマ、フラミンゴ、ペンギンと、多くの動物をクロッキーしていった。
中でも鳥類ばかりを集めているゾーンがあったのだが、鳥の姿を上からも眺められ、いつも下から眺めている鳥のしぐさを、目の当たりにした私は夢中で描いていた。いつも見慣れている種類の鳥もいれば、舌をかみそうな名前の鳥もいて、その羽の色は、色鮮やかな群青色で、はっとさせられた。思えば、不思議の国のアリスの挿し絵の中でも鳥達は描かれていた。身近な動物でありながら、それほど、今日という今日まで熱心に目を向けてこなかったことが、なんとなく悔やまれた。
明日からは、野鳥の姿を描いていこうか。そんなことを考えながら、動物園を後にし、帰りの電車を駅のホームで待っている時だった。駅は夕方のラッシュで込み合っていた。
「理恵」
男の人の声高な声が聞こえてきた。理恵という名に私はとっさに親友の理恵の姿を思い浮かべ、振り返った。見るとホームの先に黒のパンツスーツ姿に身を包んだ理恵の姿があった。
「あ」
思わず声をあげて、私は理恵のそばに駆け寄ろうとしたが、すぐにその足は止まった。理恵と呼んだグレーのスーツ姿の背の高い男性が、理恵のそばに駆け寄った。すると理恵は、今まで見たこともないほどの、とびきりの笑顔で、その男性にさっと寄り添った。二人は仲むつまじくしゃべっている。
そのうち電車が来ると理恵と男性は、電車の中へと乗り込んだ。私はそんな二人を見送ることしかできなかった。