農園スローライフ二日目の朝。
ゴソゴソとベッド(に見立てた地面にひいた毛布)から這い出し、テントの入り口を開けると、昨日と同じくカラッとした青空が出迎えてくれた。
街で買ったテントは現代の軍隊でも使われている「パップテント」に似た形のもので、入り口を開閉できるひさしが付いている。
一応、瘴気が降りることを警戒して夜間は締めておいたけど……瘴気特有の匂いはしないし降りてはいなさそうだな。
「う〜ん……気持ちいい朝だなぁ」
空に向かって大きく伸び。
つい院にいたときのクセで早起きしてしまったけど、昼くらいまで寝てても誰からも文句は言われないんだよな。
でも、生活習慣が崩れたら嫌だし早起きは続けるか。
焚き火に薪を添えて、炎の元になる燃えやすい乾いた植物などの燃料を添えてから火を付ける。
そこに鍋をかけて、飲料水を沸騰させる。
「朝と言ったら、やっぱりコーヒーだよね」
パルメザンの街で、挽いたコーヒーを買ってきたのだ。
ただ、ちょっと残念なのはこっちの世界のコーヒーはイマイチ味が薄いことだ。豆のせいなのか、水のせいなのかは分からないけれど。
のんびりとお湯が沸くのを待つ間、これからの予定を手帳にまとめてみることにした。
「……何よりまずは、土壌改良だよね」
種の付与魔法の効力を伸ばすために土にも付与魔法をかけてあげる必要がある。
それに、美味しい作物を育てるにはやっぱり土を作ってあげたほうが良いしね。
まぁ、やらなくても十分美味しかったけど、そこはこだわりだ。
「住居もしっかりとしたものが欲しいけど、ひとまずテント生活でもいいか。となると飲み水の確保と、敷地の確認ってところかな」
特に水はどうにかしたい。
街まで行けば確保はできるけれど、馬車で二日はかかる距離だ。農園に馬はいないので、行きは倍以上の時間がかかる。
どうにかして、ここで飲み水を確保できるようにしておきたい。
その次に敷地の確認だけど、これも意外と重要。
この区画に何があるのかはっきりわかっていないので、敷地を歩いて確認しておく必要がある。
できればモンスターがいそうな危険な場所には立ち入りたくないし、資源になりそうなものがあったら覚えておきたい。
などと手帳にペンで書いていると、お湯が湧いたのでコーヒーを煎れる。
相変わらず少しだけ味が薄いコーヒーだったが、場所が良いからかいつもより美味しく感じた。
「……よし、それじゃあ土壌改良といきますか」
合わせ付与の「範囲拡張」の効果を発動させ、昨日、テントの近くに作った畝の近くをガツガツと耕していく。
やっぱりテントの近くに畑があると何かと便利だし、ここを畑区画にしよう。
九つ分くらいの畝幅を耕して、そこに街で買ってきた「馬糞」と「苦土石灰」を混ぜて更に耕す。
そして最後に「免疫力強化」の付与魔法をかける。
これで瘴気に強い土壌ができて、作物が長持ちするはずだ。
ちなみに、馬糞は藁が入っているので、最高の肥料になるのだとか。
「お金に余裕ができたら馬を買うのも良いかもしれないな」
馬糞は肥料になるし、街に行くための足にもなる。
それに、馬って可愛いじゃない?
そういう癒やしもスローライフには必要だよね。
「土はこれでよし……っと」
土壌が出来たので買ってきた種を植える。
作付けするのは夏野菜たち。
キュウリ、トウモロコシ、レタス、ジャガイモ。
それにナス、エダマメ、トマト。
こっちの世界にもジャガイモやトマトがあるのにはちょっと驚いたけど、食べられるのは素直に嬉しい。
一部の種や種芋には「生命力強化」と「免疫力強化」だけをかけてじっくり育てることにした。
全部に「俊敏力強化」をかけて全部手早く作ってもいいけど、こういうのはじっくり育てて楽しまないとね。
何事もやりこみ要素は重要だ。
一通り植えてから川で汲んできた水を撒く。それから、畝の周りをぐるっとロープで囲って畑区画が一目でわかるようにした。
作業が終わった頃には、すっかり太陽が高く登っていた。
「そろそろお昼休みにするか」
作業したいときに作業をはじめて、休みたい時に休む。
うん、これぞスローライフの醍醐味。
テントに戻って、昨日作った大根の煮物と干し肉、パンに安物ワインを付けてお昼ごはんを取ることにした。
一日寝かせても煮物は美味かった。パンとワインが進む進む。
「さて、畑も一段落したし、次は……飲水の確保だな」
手帳を取り出して、やることを確認する。
敷地確認は飲み水問題が終わってから取り掛かることにしよう。
「……でも、どうやって確保すればいいんだろう? 川の水は飲めないしな」
桶に汲んできた赤紫色の水を見る。
ちょっと美味しそうな感じだけど、飲んだらやばいよね。
ぱっと見、瘴気濃度は低そうなので免疫力強化の付与魔法を自分にかければ大丈夫かもしれないけど、腹を下しそうだ。
川の水がだめとなると、考えられるのは井戸を掘る方法や雨水から得る方法、それに植物から得る方法になるけど──。
「どれも無理だよね」
まず、僕に井戸を掘る技術なんて無いから井戸案は却下。
雨水はこの天気じゃ確保できるのがいつになるかわからないのでそれもダメ。
最後に植物から水分を集めるのは……そもそも植物が無いから不可能。
となると。
「……お手製の簡易濾過器でも作ってみるかな?」
実は、ベランダ菜園をやっていたときに「良い野菜を美味しく食べるには、良い水が必要だ」と考えて、濾過器を作ったことがある。
ネットショップを使えば高性能の濾過器を買うことができるけど、意外と良い値段がしたのでチャレンジしてみたのだ。
おかげで少ない睡眠時間を更に削ることになったけど。
簡易的な濾過器なので瘴気の毒素を全て無くすことはできないだろうけど、装置に付与魔法をかければなんとかなるだろう。
「何事もとりあえずやってみる精神だ」
早速、街で買ってきた小さい桶に小さい穴を開けて、上から小石、砂、炭、布などをギュッと密度を高くして押し込める。
焚き火で出来た炭を砕いて押し詰め、それから細かい砂と、砂の浮き上がりを抑えるための布、小石の順番で入れる。
そこに耐性を高めるための「持久力強化」と、瘴気対策の「免疫力強化」、それに早く水が出てくるように「俊敏力強化」の付与をかけて完成だ。
見た目は立派な濾過器に見える。
だけど、性能はどうだろう?
恐る恐る上から汚染水を流してみる。
するとすぐに桶の底に開けた穴から水がチョロチョロと流れ出てきた。
すぐに別の桶ですくってみると、透き通ったキレイな水が桶に溜まっていく。
「お、これは成功かな?」
見た目は綺麗な水。
匂いもしない。
うん。とりあえずは行けそう……か?
一応、自分に免疫力強化をかけて飲んでみた。
「……う」
その衝撃に、思わず桶を落としそうになってしまった。
「うまっ! なんだこれ!? メッチャまろやかだぞ!」
なんだろう。すごく舌触りが良くて、持ってきた飲料水よりも美味しい。
もしかして、付与魔法の効果が濾過した水に影響を与えてるとか?
水は第二属性の「水属性」だから、生命力強化で旨味が上がったのかもしれないし、新しい「合わせ付与」が発現した可能性もある。
「うん、これは新たな発見だな」
この効果はじっくり研究する必要がありそうだ。
とりあえず、この水を使ってコーヒーを作ってみようっと。
きっと、今までで最高に美味いコーヒーが出来るはずだ。
ゴソゴソとベッド(に見立てた地面にひいた毛布)から這い出し、テントの入り口を開けると、昨日と同じくカラッとした青空が出迎えてくれた。
街で買ったテントは現代の軍隊でも使われている「パップテント」に似た形のもので、入り口を開閉できるひさしが付いている。
一応、瘴気が降りることを警戒して夜間は締めておいたけど……瘴気特有の匂いはしないし降りてはいなさそうだな。
「う〜ん……気持ちいい朝だなぁ」
空に向かって大きく伸び。
つい院にいたときのクセで早起きしてしまったけど、昼くらいまで寝てても誰からも文句は言われないんだよな。
でも、生活習慣が崩れたら嫌だし早起きは続けるか。
焚き火に薪を添えて、炎の元になる燃えやすい乾いた植物などの燃料を添えてから火を付ける。
そこに鍋をかけて、飲料水を沸騰させる。
「朝と言ったら、やっぱりコーヒーだよね」
パルメザンの街で、挽いたコーヒーを買ってきたのだ。
ただ、ちょっと残念なのはこっちの世界のコーヒーはイマイチ味が薄いことだ。豆のせいなのか、水のせいなのかは分からないけれど。
のんびりとお湯が沸くのを待つ間、これからの予定を手帳にまとめてみることにした。
「……何よりまずは、土壌改良だよね」
種の付与魔法の効力を伸ばすために土にも付与魔法をかけてあげる必要がある。
それに、美味しい作物を育てるにはやっぱり土を作ってあげたほうが良いしね。
まぁ、やらなくても十分美味しかったけど、そこはこだわりだ。
「住居もしっかりとしたものが欲しいけど、ひとまずテント生活でもいいか。となると飲み水の確保と、敷地の確認ってところかな」
特に水はどうにかしたい。
街まで行けば確保はできるけれど、馬車で二日はかかる距離だ。農園に馬はいないので、行きは倍以上の時間がかかる。
どうにかして、ここで飲み水を確保できるようにしておきたい。
その次に敷地の確認だけど、これも意外と重要。
この区画に何があるのかはっきりわかっていないので、敷地を歩いて確認しておく必要がある。
できればモンスターがいそうな危険な場所には立ち入りたくないし、資源になりそうなものがあったら覚えておきたい。
などと手帳にペンで書いていると、お湯が湧いたのでコーヒーを煎れる。
相変わらず少しだけ味が薄いコーヒーだったが、場所が良いからかいつもより美味しく感じた。
「……よし、それじゃあ土壌改良といきますか」
合わせ付与の「範囲拡張」の効果を発動させ、昨日、テントの近くに作った畝の近くをガツガツと耕していく。
やっぱりテントの近くに畑があると何かと便利だし、ここを畑区画にしよう。
九つ分くらいの畝幅を耕して、そこに街で買ってきた「馬糞」と「苦土石灰」を混ぜて更に耕す。
そして最後に「免疫力強化」の付与魔法をかける。
これで瘴気に強い土壌ができて、作物が長持ちするはずだ。
ちなみに、馬糞は藁が入っているので、最高の肥料になるのだとか。
「お金に余裕ができたら馬を買うのも良いかもしれないな」
馬糞は肥料になるし、街に行くための足にもなる。
それに、馬って可愛いじゃない?
そういう癒やしもスローライフには必要だよね。
「土はこれでよし……っと」
土壌が出来たので買ってきた種を植える。
作付けするのは夏野菜たち。
キュウリ、トウモロコシ、レタス、ジャガイモ。
それにナス、エダマメ、トマト。
こっちの世界にもジャガイモやトマトがあるのにはちょっと驚いたけど、食べられるのは素直に嬉しい。
一部の種や種芋には「生命力強化」と「免疫力強化」だけをかけてじっくり育てることにした。
全部に「俊敏力強化」をかけて全部手早く作ってもいいけど、こういうのはじっくり育てて楽しまないとね。
何事もやりこみ要素は重要だ。
一通り植えてから川で汲んできた水を撒く。それから、畝の周りをぐるっとロープで囲って畑区画が一目でわかるようにした。
作業が終わった頃には、すっかり太陽が高く登っていた。
「そろそろお昼休みにするか」
作業したいときに作業をはじめて、休みたい時に休む。
うん、これぞスローライフの醍醐味。
テントに戻って、昨日作った大根の煮物と干し肉、パンに安物ワインを付けてお昼ごはんを取ることにした。
一日寝かせても煮物は美味かった。パンとワインが進む進む。
「さて、畑も一段落したし、次は……飲水の確保だな」
手帳を取り出して、やることを確認する。
敷地確認は飲み水問題が終わってから取り掛かることにしよう。
「……でも、どうやって確保すればいいんだろう? 川の水は飲めないしな」
桶に汲んできた赤紫色の水を見る。
ちょっと美味しそうな感じだけど、飲んだらやばいよね。
ぱっと見、瘴気濃度は低そうなので免疫力強化の付与魔法を自分にかければ大丈夫かもしれないけど、腹を下しそうだ。
川の水がだめとなると、考えられるのは井戸を掘る方法や雨水から得る方法、それに植物から得る方法になるけど──。
「どれも無理だよね」
まず、僕に井戸を掘る技術なんて無いから井戸案は却下。
雨水はこの天気じゃ確保できるのがいつになるかわからないのでそれもダメ。
最後に植物から水分を集めるのは……そもそも植物が無いから不可能。
となると。
「……お手製の簡易濾過器でも作ってみるかな?」
実は、ベランダ菜園をやっていたときに「良い野菜を美味しく食べるには、良い水が必要だ」と考えて、濾過器を作ったことがある。
ネットショップを使えば高性能の濾過器を買うことができるけど、意外と良い値段がしたのでチャレンジしてみたのだ。
おかげで少ない睡眠時間を更に削ることになったけど。
簡易的な濾過器なので瘴気の毒素を全て無くすことはできないだろうけど、装置に付与魔法をかければなんとかなるだろう。
「何事もとりあえずやってみる精神だ」
早速、街で買ってきた小さい桶に小さい穴を開けて、上から小石、砂、炭、布などをギュッと密度を高くして押し込める。
焚き火で出来た炭を砕いて押し詰め、それから細かい砂と、砂の浮き上がりを抑えるための布、小石の順番で入れる。
そこに耐性を高めるための「持久力強化」と、瘴気対策の「免疫力強化」、それに早く水が出てくるように「俊敏力強化」の付与をかけて完成だ。
見た目は立派な濾過器に見える。
だけど、性能はどうだろう?
恐る恐る上から汚染水を流してみる。
するとすぐに桶の底に開けた穴から水がチョロチョロと流れ出てきた。
すぐに別の桶ですくってみると、透き通ったキレイな水が桶に溜まっていく。
「お、これは成功かな?」
見た目は綺麗な水。
匂いもしない。
うん。とりあえずは行けそう……か?
一応、自分に免疫力強化をかけて飲んでみた。
「……う」
その衝撃に、思わず桶を落としそうになってしまった。
「うまっ! なんだこれ!? メッチャまろやかだぞ!」
なんだろう。すごく舌触りが良くて、持ってきた飲料水よりも美味しい。
もしかして、付与魔法の効果が濾過した水に影響を与えてるとか?
水は第二属性の「水属性」だから、生命力強化で旨味が上がったのかもしれないし、新しい「合わせ付与」が発現した可能性もある。
「うん、これは新たな発見だな」
この効果はじっくり研究する必要がありそうだ。
とりあえず、この水を使ってコーヒーを作ってみようっと。
きっと、今までで最高に美味いコーヒーが出来るはずだ。