あれから六年後の夏。
「由美奈ー、準備できた?」

「…え、ちょっと待って。てか、紗羅のそのドレスちょっと地味すぎない?」
「…そうかなぁ」
 私たちは、今から結婚する。同性愛が認められた今、私たちは式を上げる準備をしていた。
 六年前の夏、お互いに心が壊れかけていた私たちを救ったのは、紛れもない、私たち自身だった。なんの遠慮もいらない、全てを曝け出せる人は私にとって由美奈ちゃんだけだった。
 もうあのときみたいに手首を切ることはない。お気に入りにしていたカッターも、卒業すると共に処分した。もう自分を傷つけるのはやめよう、と由美奈と約束したから。
 由美奈も、写真を投稿するのはやめたらしい。アカウントも削除したそうだ。だから、私たちは今、ここで幸せになることができている。
「沙羅ー準備できたよ…って、ドレス変えたの?ちょっと派手すぎない?」
「え〜?由美奈が地味すぎだって言ったじゃん。」
「あれは、沙羅らしくて似合ってるって意味だったんだけど。」
「…そんなの分かんないよ!」
 聞こえないくらいの声で、「由美奈かわいい」と呟くと、由美奈に聞こえてしまって抱きしめられる。
「…私たち、結婚できるんだね。」
「うん。」
「沙羅ー大好きだよ」
「……私も」
 結婚式には、母を呼ぶことにした。学生時代、友達はいなかった私に呼べる人はいなかった。しかし、由美奈は唯ちゃんを招待することにしたらしい。唯ちゃんと言い合いになったままの関係を取り戻したいのだとか。
 でも、私は知っている。唯ちゃんが今でも由美奈のことを大切に思っていることを。あの言い合いの後、唯ちゃんは私に耳打ちしてきた。「由美奈、めっちゃいいやつだから絶対傷つけんな」と。正直、めちゃくちゃ怖くて震えそうになったけど、それくらい由美奈への思いは大きかったのだと思う。それと、唯ちゃんはいずれ私たちが今のような関係になることをなんとなく察していたのかもしれないと思う。根拠はないけど、きっとそうだとわかっていたような雰囲気が、唯ちゃんからはあったのだ。
 由美奈と出会った六年前、私の人生は一変した。自分のことを肯定できたし、母とも話し合って、一緒に食事をする時間も増えた。すべては、由美奈のおかげなのだ。
 これからの未来は、眩しすぎるほどに、明るい。
「沙羅、行こっか」
 式場に向かおうとする由美奈の手首を掴んで、そっと唇を重ね合った。