握りしめた拳が、酷く痛んだ。

夏だった。耳障りな蝉の音は、丁度この時期の夕刻に降りしきる雨のようだ。
荒い息を零しながら、口の中に溜まった唾を飲み下す。
暑い。腕を覆うシャツが汗を吸って肌に貼り付くのが不快だ。

「どうして、」

心の底から沸き起こる憎悪が、怒りが、思考を染めていく。
拳をさらに握りしめると、爪が手のひらを傷つけたのか血が一筋手首を伝った。

「どうして――お母さんとお父さんを殺した!」
「それは」

椅子に縛り付けられ、身動きが取れない男が。殴られ続け、無残に顔を腫らしたその男が。
――両親を殺した、実の兄が。

「お前だって、わかってるんじゃないのか?」

血を流し、腫れて、満足に動かせないはずの顔でなお。
そうとわかるほどに、不気味なほど美しく微笑んだ。