僕は深く絶望していた。
もうどうしようもない。僕を召喚した王国も、スキルも何もない、ただの無能勇者だとわかると掌を返したのだ。奴等は僕を保護する事もなく、不要という事で追い出したのだ。
「僕は何も悪くないっ! 悪くないのにっ! ううっ! どうしてだっ! イケメンに生まれたのがそんなに罪だっていうのかっ! 今までの人生で全ての運を使い果たしたって言うのかよ! うっ、ううっ、ううっ!」
僕は泣いていた。自然と涙が溢れてきたのだ。
「もういい! 僕は絶望したっ! この異世界での人生に絶望したんだっ! なんでこんなに苦労しなければならないっ! こ、これも全てはあのうすいかげととかいう、ただの脇役が紛れ込んで来たからなんだ! 全てはあのクソ女神と紛れ込んで来たモブ野郎のせいなんだ!」
僕はクソ女神とうすいに責任を押し付けていた。だが、そんな事をして、喚き散らしていても現実は何も変わらなかった。
僕がスキルも何もない、ただの無能勇者である事に何の変わりもないのだ。
だから、どうする事もできなかったのだ。
僕の目の前には大木があり、ロープが吊るされていた。僕がこれから何をしようとしているのか、なんてもう言うまでもない事だった。
「死のう……生きてても何も良い事がない……来世で僕は幸せな人生を送るんだ」
僕が自殺をする為、ロープに手をかけた、その時の事だった。
次元の狭間が再び割れたのだ。
「なっ!?」
僕はあのクソ女神が再び現れたのかと思った。だが、どうやら違うようだった。
あのクソ女神によく似ているが、褐色の肌をして、黒いローブを羽織っている。クソ女神が天使だとすれば、彼女はまるで悪魔のようであった。
「あらあら、まあまあ……随分とこの世界に絶望しているじゃない。勇者ハヤト。良い感じに心が闇に染まっているわ、今のあなたは」
彼女は僕に怪しく微笑んだ。
「き、君は一体……誰なんだ?」
「私の名はネメシス。女神よ。あなたを召喚した女神ラクシュミーが光の女神だとしたら、私は闇の女神。彼女が善に仕える女神なら、私は悪に仕える女神なの」
「ネメシス……闇の女神だと……」
そして、あのクソ女神。名前はラクシュミーとかいうのか。クソ女神のくせに大層な名前しやがって。
「そ、それで、その闇の女神が僕に何の用なんだ?」
「良い感じにあなたは世の中に絶望しているじゃない。こんな世の中、もうぶっ壊してやりたくならない? あなたを裏切った奴等に復讐をしてやりたいと思わない? 復讐できたら、すっごく気持ちよくなれると思わない?」
闇の女神ネメシスは僕を誘惑してきた。い、いけない、これはきっと、悪魔の誘いだ。絶対に罠がある。だが、僕はもう、その悪魔的な誘いを突っぱねる事ができる程の自制心を持ち合わせてはいなかったのである。
「い、一体僕に何をするつもりだ!? き、きっと良くない事だろう!?」
「人間の世界にとっては確かに良くない事だわ。けど、きっと今のあなたにとってはとても良い契約よ。あなたの魂と引き換えに、私はあなたに凄い力を授けるの。あなたが授かるはずだった、勇者の力以上の力を」
「ゆ、勇者以上の力だと!?」
「ええ。その力があれば、あなたは、その力をかすめ取られた、カゲトって奴に復讐をする事ができるの。さっくとぶっ殺しちゃう事も簡単な事だわ」
「な、なんだと。あの顔も覚えていない、影の薄い野郎をぶっ殺す事も簡単だって……」
「そう……あの女神ラクシュミーにだって、一発くらわしてやる事だって簡単よ。あなたを不幸のどん底に落としたあの女神の顔が苦痛で歪んでいるところ、見て見たくならない? ねぇ? どうなのよ? ねぇ? くっくっく」
小悪魔のように、ネメシスは笑う。悪趣味なな笑みを浮かべた。こいつはわかっている。とことんまで堕ちた僕が、その悪魔の取引を断れるはずがないという事を。
「ぼ、僕に力を授けてくれ! 闇の女神ネメシス!」
「あら? 良いの? 深く考えなくてもわかると思うけど、私の力は良いものではないわよ。善ではなく、悪。光ではなくて闇よ。だって私は闇の女神なんですもの」
「それでもいい! 僕は復讐したいんだ! あのクソ女神! うすい! そして僕を助けなかった王国の連中! 人類全てに復讐をしたいんだ! その為なら悪魔に魂くらい売ってみせるよ!」
僕は強く宣言する。
「あら……もう完全に開き直っているのね。今のあなたは心だけは既にこっち側の存在よ。闇に飲み込まれているわね。くっくっく。それじゃあ、そんなあなたを完全にこちら側の住人にしてあげる。闇の力よ、こいつに力を授けたまえ」
ネメシスの掌に闇の力が集まっていく。
「こ、これが闇の力」
「さあ、この力を飲み込む事によって、あなたは闇の世界の住人になるわ。くっくっく」
飲み込む、とネメシスは言っていたが、彼女は僕の心臓に闇の力を植え付けたのだった。
「な、なにっ! あ、あついっ! 心臓のあたりが……く、苦しい! う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
僕の絶叫が森に響く。身体の中が熱を帯びているようだった。
「ふふふっ、素敵ね……新しいあなたに身体が作り変えられているのよ。この変化が終わったら、あなたは完全にこっち側の存在。闇の世界の住人。闇勇者の誕生よ。くっくっく」
「すうぅーはぁー……」
僕は落ち着いた様子で深呼吸する。
「なんだか、生まれ変わった気分だ。今までの僕じゃなくなったような気分」
僕の体内から、闇の力が充実しているのを感じた。それに伴い、今までの僕とは異なった精神状態になった。今までの僕は無力で無能だった。だから、どことなく落ち着きのない感じではあったが、今は落ち着き払っている。
「そうよ。だってあなたは生まれ変わったんだもの。勇者ハヤト。いえ、闇勇者ハヤト」
「闇勇者か……そうか、僕は生まれ変わったんだものな」
「ねえ、闇勇者ハヤト。ステータスを見て見て。あなた、すっごく強くなってるはずよ」
「へぇ……そうなんだ。だったら見て見ようか……ステータスオープン」
僕は自身のステータスを確認する事にした。
======================================
日向勇人 16歳 男 レベル:50
職業:闇勇者
HP:500
MP:500
攻撃力:500
防御力:500
素早さ:500
魔法力:500
魔法耐性:500
運:500
装備:武器『ダークエクスカリバー』※闇属性 攻撃力+500 HP及びMPの吸収(ドレイン)効果保有
防具『暗黒の鎧』闇属性 防御力+500 聖属性以外の魔法攻撃の効果を半減する
資金:0G ※闇勇者となった僕に金など必要ない。欲しかったら奪うのみである。
スキル:『暗黒剣装備可能』※闇属性の剣を装備できるスキル 聖剣は装備不可である『暗黒防具装備可能』※闇属性の防具を装備可能※このスキルがないまま装備すると時間経過でHPを失う事がある
『攻撃力上昇大』『防御力上昇大』『素早さ上昇大』『暗黒闘気』※HP50%以下で発動。全ステータスが向上する。『自動LVUP』モンスターを倒さなくても、時間経過で自然とレベルが上がる。『属性ダメージ半減』※ただし聖属性を除く
『HP&MP自動回復(大)』時間経過でHP&MPを大回復する
『自動蘇生(1回)』※死に至るダメージでも一度だけ蘇生する
『魔獣使い』※聖獣などの一部の聖属性のモンスターを除いて使役する事ができる
技スキル:『暗黒鬼神剣』※使用SP100 敵全体に闇属性の超ダメージ
『ダークエクスカリバーEX』※『ダークエクスカリバー』を装備時のみに発動可能な技スキル。残全SPを消費する。その割合に応じて敵全体に闇属性の超ダメージ。大抵の場合『暗黒鬼神剣』を超えるダメージ。
魔法スキル:『ダークウェイブ』使用MP100 敵全体に闇属性の魔法ダメージ
アイテム:特になし※今の僕にアイテムは必要ない。なにせ、強力な装備とスキルが山程あるからね。ポーションやエーテルの類は余り必要としないんだ。
======================================
「な、なんて強さなんだ……これが新しく生まれ変わった僕の力なのか」
僕はそのあまりの強さに震えていた。かつての僕など、今の強さに比べたらカスみたいなものだった。
「そうよ。これが生まれ変わったあなたの強さ。もう、ゾクゾクしてくるでしょう? 自分より弱い奴を踏みにじって、力を見せつけたくて、ウズウズとしてきているでしょう? ふっふっふ」
女神ネメシスは笑う。
「あ、ああ……僕はこの力を試してみたい。有り余るこの力をぶつけてみたい」
「今ね、魔王軍がエルフの国を攻め込んでいるの。エルフは色々な魔法を使ってくるらしくて、魔王軍も手こずっているみたい。ねぇ、あの駄女神とカゲト、それから、王国の人間達に復讐するよりも前に。手ならしとしてエルフの国を蹂躙してみない?」
ネメシスが耳元で優しく語り掛けてくる。
「エルフの国か……良いだろう。新しい僕の力で、奴等を蹂躙してやろう」
「そうそう……それに、王国はともかく、そのカゲトって男は釣れるかもしれないし……ねっ?」
ネメシスは僕にウィンクをしてきた。
こうして僕はエルフの国へと向かう事になった。もう、僕は昔の僕ではない。もう、元の道には戻れない。例えこの世界を滅ぼす事になったとしてもだ。
エルフの国を舞台に、血と騒乱の予感がしたのであった。
俺達は一旦、酒場に戻った。
カランカラン。
「いらっしゃい……ん? あんたはこの前の」
酒場にはマスターがいた。
「お前はあの時の坊主か」
酒場なのだから、マスターは当然のようにいるとして、俺を小馬鹿にしてきた冒険者の連中、三人組もまたその場に居合わせていたのである。
「へっ。なんだ。お前もリッチが恐ろしくて逃げ帰ってきたクチか」
「というか、なんだよ! その女! 影薄そうな顔して、生意気に女連れてやがって!」
ひがまれた。俺がひがむのではなく、ひがまれるのは人生初だ。
「どうしたんだ? 坊主……北の墓地の方には行ってきたのか?」
マスターに聞かれる。
「ああ。行ってきたよ」
「リッチはどうだった? 恐ろしい化け物だっただろう? 怖くなって逃げ帰ってきたのか? それとも、もしかしたら倒して帰ってきたのか?」
「一応、倒してきました」
「嘘言ってるんじゃねぇ! お前なんかにリッチが倒せるわけねぇだろう!」
「そうだ! そうだ! お前みたいにガキにリッチが倒せるわけがねぇ!」
冒険者達はよってたかって否定してきた。
俺はリッチからドロップした装飾品である『ダークリング』を見せる。
「まさか、それはリッチからドロップされると言われているレアアイテム『ダークリング』か」
「ほ、本当にあのリッチを倒したのか!?」
冒険者達は驚いていた。
「だから、倒したって言ってるだろ」
俺は呆れたような口調で言う。だが、信じられないのも無理はない。それに、決して俺一人の力で倒せたわけではないのだ。ここにいる剣聖エステルの力がなければとても倒せる相手ではなかった。
「ふっ……まさか本当に倒したのか。大した奴だ」
マスターは呆れたような口調で言ってきた。
――と、その時の事であった。一人の男が酒場に入ってくる。酒場の常連客だろうか。
「……た、大変だ!」
「どうしたんだよ?」
「魔王軍だよ。魔王軍! エルフの国を攻めていた」
「ん? なんだよ。魔王軍がエルフの国を攻めていたのは随分前の事だっただろう?」
「魔王軍がエルフの国と抗争をしていたんですか?」
俺は酒場のマスターに尋ねた。
「なんだ? お前。そんな事も知らないのか」
マスターに呆れられる。この世界では割と常識的な事だったのかもしれない。だが、最近この世界に召喚された俺は何の事なのかさっぱりわからない事が殆どだ。
「すみません、知らないんです」
「魔王軍とエルフの国は今から三カ月前から抗争状態にあるんだよ。だけど、エルフもそんなに弱い種族ではない。奴等は弓矢も魔法も使えるんだ。魔王軍もエルフの国を攻めあぐねているみたいなんだ。だから、戦争の状況は膠着状態になっている。だけど、そんな事は誰もが知っている事なんだよ」
「へー……」
魔王軍とエルフの国が抗争状態にあるそうだ。この世界は魔王軍による脅威に脅かされている。それを何とかする為に、異世界から勇者が召喚されてきたのだ。だから、魔王軍により脅かされている何らかの国があったとしても不思議ではない。
「だから、落ち着けよ、何があったんだよ?」
「エ、エルフの国がやばいんだ。魔王軍に攻め落とされそうになっているんだ」
「な、なんだって!? 嘘だろ! そんな情報聞いてないぞ! 戦況は五分五分じゃないのかっ! 劣勢になったって話すらこっちは聞いてないぞ!」
「ああ……なんだかわからないが。ここにきて急激に戦況が悪化したのだ。魔王軍が新戦力でも投入したのかもしれねぇ。それにより、エルフ軍が苦戦し始めたんだ」
「そ、そんな事があったのか……エルフの国が攻め落とされたら、ボチボチこの国もやばいかもな」
「……エルフの国とはどこにあるんです?」
俺は聞いた。
「ここから西にずっと行った森の中にある……そんな事聞いてどうするつもりなんだ? まさか、行くつもりなのか? やめておけ。魔王軍はマジでやばいんだ。命が惜しくはないのか?」
「行かざるを得ないんですよ。なにせ——」
このおっさんに言ってもわからないだろう。なぜなら、世界を救う勇者はいないんだ。その事を誰よりも俺は知っている。だから俺が行かなければこの世界がやばくなるのは間違いなかった。
「行くつもりなのですね。エルフの国へ。どこまでもお供します。カゲト様」
「君がいてくれたら心強いよ。エステル」
こうして俺達は危機に陥っているというエルフの国へ向かう事にしたのだ。
【タイトル】
第23話【闇勇者SIDE】魔王軍四天王の配下に加わる
【公開状態】
下書き
【作成日時】
2022-09-29 03:41:41(+09:00)
【更新日時】
2022-09-29 06:11:06(+09:00)
【文字数】
1,866文字
【本文(134行)】
エルフの国と魔王軍との交戦の地。魔王軍の陣営での出来事だった。
そこには魔王軍四天王の一角である魔族アスタロトがいた。アスタロトは見目麗しい少女ではあるが、高い魔力を秘める死霊術士(ネクロマンサー)であり、普通の人間では到底太刀打ちできないような、恐ろしい相手なのである。
彼女は小難しい顔をして、戦況を書き示した地図と睨めっこしている。
「アスタロト様」
「なんだ?」
テント内に一人の魔族兵が入ってきた。
「アスタロト様に面会をしたい者がいるのですが……」
「誰だ?」
「そ、その……闇の女神ネメシス様とおっしゃっていますが」
「あの女神か……良いだろう。通せ」
「はっ!」
「やっほー……アスタロトちゃん!」
「貴様か……何の用だ?」
闇の世界の住人である二人には多少の面識があった。
「遊びにきちゃった」
「帰れ」
「なんだよー、もう。つれないなー」
ネメシスは拗ねた。
「っていうのは冗談で、本題はここから」
「本題?」
「じゃじゃーん、入って来て」
やっとの事、闇の勇者として新たな生を受けた僕が姿を現す。
「誰だ? 人間か?」
「人間だけど、精神はもう魔族みたいなものだよ。彼は闇勇者のハヤト君」
「……闇勇者ハヤトだと」
「うんうん。話は聞いているよ。アスタロトちゃんが率いている魔王軍、どうやらエルフ国の攻略に苦戦してみるらしいじゃないの」
「それを言われると、その通りだ。お前の言う通り、我々の軍はエルフ国の攻略に苦戦している」
「そこで、彼の出番ってわけ。彼、すっごく強いのよ。私のお墨付き。彼をアスタロトちゃんの配下にしてエルフ国の攻略戦をすれば、きっと戦況は大きく好転していく事になるよ」
「ほう……その男、そんなに強いのか」
『強い』。男としてそう言われるのがこんなに嬉しい事だとは思わなかった。僕はこの世界に来てからというもの、散々馬鹿にされて、コケにされてきたのだからな。
「どうどう? この男、配下にしてみない? きっと戦力になるよ」
「そうか……断る理由は思いつかないな。我が軍は新しい戦力を欲している。だが、元を言えば彼は人間だろう? 裏切る不安はないのか?」
「それはないかなぁ……だって彼は人間を恨んでいるんだもの。憎しみを募らせているの。確かに種族としては人間かもしれないけど、今の彼の心は我々、闇の住人のものと何一つとして変わらないよ」
「そうか、戦力としても期待できる。裏切る心配もない。だったら、是非我が魔王軍で力を振るってくれ」
アスタロトは僕に手を差し伸べてきた。だが、僕の視線は別のところにあった。アスタロトは露出の高い、えっちな恰好をしていた。そして彼女は爆乳なのだ。ぷるん、と巨大な乳が揺れるのが見れた。
「ど、どこを見ている?」
「それは勿論、おっぱいを」
僕は躊躇うまでもなく言った。
「普通、そこは誤魔化して言うのではないか? 全く、正直な男だな」
アスタロトは呆れていた。
「魔王軍四天王アスタロト。僕はあなたの配下になっても構わない。だが、一つだけ条件がある」
「条件? なんだ? 言ってみろ」
「僕が然るべき戦果を上げたら、相応の褒美が欲しい」
「褒美? なんだ? 言ってみろ? 金か、地位か、それとも名誉か?」
「エルフの国を攻め落とす上で、重要な働きをしたと判断できたら。僕にそのおっぱいを揉ませて欲しい。勿論、生で。その後も勿論、ベッドで。ぐふふっ」
僕は厭らしい笑みを浮かべた。
「なんだ、そんな事か。良いだろう。それでやる気が出るならお安い御用だ」
意外な程、あっさりとアスタロトは僕の要求を飲んだ。この魔族。やはり見た目通りのビッチのようだ。
「随分とあっさり身体を差し出すんだね」
ネメシスは呆れていた。
「そりゃあもう。ずっと苦戦していたエルフ国を身体を差し出すくらいで攻略できるなら安いもんさ」
アスタロトは笑う。
「じゃあ、交渉成立ですね」
僕は笑う。
「我が軍での君の活躍、期待しているよ。闇勇者ハヤト」
僕達は握手をした。こうして僕は正式に魔王軍の配下に加わったのだ。
「アスタロト様!」
魔族兵が駆け込んで来た。随分慌てた様子だった。
「なんだ? どうした?」
「報告があります。エルフ国の軍団が我が魔王軍をはねのけ、防衛から一転して攻勢に転じてきました」
「なんだと……早速出番だぞ。闇勇者」
「ふふっ。僕の出番というわけですね。エルフの連中に見せてやりますよ」
エルフに直接的な恨みはない。だが、僕がこの世界でハーレムを築き、最高にハッピーになる為の礎となって貰おう。その為の尊い犠牲だ。
僕はにやりと笑みを浮かべた。
「僕の本当の力を」
僕はエルフの軍隊に力を行使する事を決めた。
【タイトル】
第24話 魔族兵との交戦 上
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2022-09-29 23:35:21(+09:00)
【公開日時】
2022-10-07 12:00:22(+09:00)
【更新日時】
2022-10-07 12:00:22(+09:00)
【文字数】
1,292文字
【本文(91行)】
俺達はエルフの国を目指した。エルフの国はここから西に行った所にあるらしい。俺達は馬車を乗り継ぎ、エルフの国の付近にまでたどり着いた。
「……エルフ国は魔王軍と交戦中だ。これ以上、先には行けそうにねぇよ」
馬車の主は俺達にそう告げた。
「どこがエルフの国なのですか?」
俺は聞いた。目の前には広大な緑の森が広がっているだけだ。
「さあな……エルフの国は侵略されにくいように、天然の森で守られてるんだ。この森の中にあるっていう事はわかってるけど、それ以上の事は部外者にはわからねぇよ」
「……そうですか」
地道に探す以外になさそうだった。
「それじゃあ、気を付けて行ってくれよ」
馬車が走っていく。俺達は馬車の運賃を支払った。
資金:3000G→2500G ※運賃は500Gだった。
※ここに来るまでにポーションを10個補充。1→11個へ。それに伴い、ポーションの在庫が11個。ポーション10個×1個50G=500G。
資金:2500G→2000G
「……さてと、どうするか? エステル。この広い森を闇雲に探してエルフの国に辿り着くか」
「それは大変危険ですし、非効率だと思います。エルフを見つけて、道案内をして貰った方が効率的かと」
「そんな簡単に見るかるかねー、エルフが」
「確かに普段だったら見つからないかもしれません。ですが今、エルフ国は魔王軍と交戦中です。外で出歩いているエルフも普段より多い事でしょう」
「そうだな。森の中を闇雲に探すよりは、そっちの方が効率的そうだな」
俺達の方針は決まった。まずはエルフ国を案内してくれるエルフを見つける事を第一の目標としたのだ。
◇
「くっ……」
エルフの少女が膝をついた。流れるような長い金髪をし、色白の肌をしたいかにもエルフと言った感じの少女だ。
「へっ……手こずらせやがってよ、エルフの野郎共」
魔族兵達がエルフの少女を囲んでいた。
「こっちの兵が何人死んだと思ってんだよ……ちょこざいな魔法と弓矢とだで攪乱してきやがって」
「隊長、こいつ、どうしますか?」
魔族兵もまた、人間の軍隊と同じように、上下関係があった。最上位が魔王であり、その下に四天王、その下に大隊長があり、隊長があり、一般兵がある、といった具合に。
「決まってるだろうが」
隊長をしている魔族兵が舌なめずりをする。
「せっかく捕らえた雌の得物だ。これから楽しむ以外に何があるっていうだ?」
「で、ですよね」
部下である魔族兵達も舌なめずりをする。戦争という特異な状況は人を高揚させ、野蛮にさせる。人ではなく、彼らは魔族なのだから余計にそうだ。他種族を蹂躙する事に何の罪悪感も感じていないのだ。
エルフの少女に魔の手が伸びようとしていた。
――と、その時の事であった。
「待て!」
「だ、誰だ!? てめぇは!」
「人がお楽しみのところを、邪魔しやがって! ただじゃ済まさねぇぞ!」
魔族兵達は激昂する。
俺とエステルが魔族兵の前に姿を現す。
「もう大丈夫ですよ」
エステルがエルフの少女に優しく声をかける。
「あ、ありがとうございます」
「やっちまえ! 野郎共!」
「「「おおっ!」」」
魔族兵達が襲い掛かっている。
こうして、俺達と魔族兵達との闘いが始まったのだ。
【タイトル】
第25話 魔族兵との交戦 下
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2022-10-01 04:50:45(+09:00)
【公開日時】
2022-10-08 12:00:37(+09:00)
【更新日時】
2022-10-08 12:00:37(+09:00)
【文字数】
2,626文字
【本文(170行)】
「行っちまうぜ! おらあああああああああああああああああああああ!」
魔族兵の群れが俺達に襲い掛かってくる。
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
叫び声と共に、エステルが魔族兵を斬り伏せる。
俺は解析(アナライズ)を使用して、魔族兵の特徴を解析する。やはり戦闘においては敵の事を知るのは重要な事だ。
======================================
魔族兵。魔族の兵士達。平均LV10。HP30。弱点聖属性。※魔族兵によって弱点が異なるところがあるが、防御面がさほど強くない為、大して弱点属性が影響する割合は低い
近接戦闘を得意とするタイプと、魔法を使用する遠距離タイプがいる。
雑兵故に魔王軍の中では大して強くはないが、数だけは多いのでその点は注意しなければならない。
======================================
よし。今の俺のLVは確か15だ。だから、こいつ等相手には普通に勝てるはずだ。だが、解説文にあるように、数が多いのが要注意だった。やはり雑魚でも数が多いとだるいものだ。
「はあっ!」
俺もまたエステル同様に、魔族兵を斬り伏せる。
「く、くそっ! こいつ等! 人間のくせに強いぞっ!」
「構う事はない! 数だ! 数で押しつぶすんだ! こっちは数がいるんだからよ!
持久戦に持ち込めば次第にあいつ等も疲労してくるだろうよ!」
魔族兵は予想通り、数で押しつぶす戦略を取るようだった。やはり数が多いというのはそれだけで脅威である。余程LV差が離れているならともかく……。
やはりここは単体攻撃で倒していくのは効率が悪い。全体攻撃で倒さなければならない。俺は最近LV15を超えたという事もあり、全体攻撃の技スキルを修得した。そう『気合斬り』だ。だが、この技には一つ弱点があった。まだこのLVで覚えられる全体攻撃の技スキルという事で、チャージタイムが必要なのだ。
「エステル、頼みがある」
「な、なんでしょうか!?」
魔族兵と交戦しつつ、エステルが聞いてくる。
「時間を稼いでくれ」
俺は頼んだ。そもそもの話として、エルテルは俺よりもLVが高く、全体攻撃の技スキルをいくつも習得している。だからエステルに任せればいい、というのは勿論あた。だが、せっかく習得したのだから一回くらい使ってみたいと思うのも普通の事だろう。
それに全体攻撃と言っても、魔族兵が1000人いたとして、1000人にあたるという事でもないはずだ。せいぜい20~30人程度だろう。
物凄く強力な魔法スキルとかだったら、1000人全体を攻撃する事だって可能なのかもしれないが……。
一度で倒し切れるというわけでもなければ、彼女のSP消費の節約にだってなる。
「わ、わかりました!」
俺は新規に習得した技スキル『気合斬り』を発動される。自身の周囲に強力な力場が発生しているのを感じる。時間と共に、自分の力が高まっているのを感じる。これは力を溜めているという事なのだ。だが、油断はならない。チャージタイム中に攻撃されると、この溜めが中断されてしまう。
「く、くそっ! てめぇ! 何をするんだっ!」
異変を察した魔族兵が妨害しようとする。
「させません!」
キィン!
甲高い音が響く。エステルが妨害を未然に防いでくれたのだ。
「ちっ! こいつ! 俺達の邪魔をしやがって!」
魔族兵が吐き捨てる。
……よし。十分な時間を稼げた。俺は溜めた力を解放する。
「『気合斬り』!」
俺は技スキル『気合斬り』を発動した。強烈な剣圧が波のように、魔族兵に襲い掛かった。
「な、なに!?」
「「「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」」
多くの魔族兵が倒れていく。チャージタイムという欠点があるとはいえ、流石は全体攻撃の技スキルだ。一体一体、単体攻撃で倒していくよりは余程効率が良い。一網打尽とはこの事だ。
「く、くそっ! 旗色が悪くなった! 撤退だ!」
魔族兵の群れは撤退しようとしている。戦局が不利になったと判断したのだろう。
「待ちなさい! 逃がしません!」
「待て……エステル。彼女の手当をするのが先だ」
俺は追おうとしているエステルを制した。傷ついたエルフの少女がいる。彼女を放っておく事などできない。
魔族兵は無理に追うまでもなかった。
こうして俺達は魔族兵を倒し、エルフの少女を助ける事に成功したのである。
※先ほどの戦闘で経験値(EXP)を得てカゲトとエステルのLVが上がりました。
======================================
※LVが上昇。LVの倍数が5を超えた為、新規に技スキルを修得しました。
臼井影人 16歳 男 レベル:20(NEW)
職業:無職
HP:100(NEW)※以下、パラメーターは更新されています
MP:100
SP:100
攻撃力:100
防御力:100
素早さ:100
魔法力:100
魔法耐性:100
運:100
資金:2000G
装備:勇者の剣 ※LVに応じて攻撃力が上昇する。具体的にはLV×10 ※ 攻撃力+5 銅の防具 ※防御力+5
装飾品:『ダークリング』※闇属性のダメージを半減する
資金:2000G→4000G(NEW)
技スキル:一刀両断【敵単体に大ダメージを与える剣技】※使用SP10
回し斬り【自身の周辺にいる複数体のモンスターにダメージを与える件技】※使用SP20
気合斬り【敵全体に大ダメージを与える。ただし、発動までにチャージタイムが必要。チャージタイム中にダメージを食らうと中断されるというデメリットも存在する】※使用SP30
勇者の闘志【味方全体の全ステータスを一定時間(五分程度)引き上げる。支援系の技スキルである】(NEW)
※使用SP50
アイテム:
ポーション※回復力小のポーション。一回限りの使い切り。消耗品。11個→1個消費して残数10個※ エルフの少女に使用した為減少(NEW)
======================================
======================================
エステル・リンドブルグ 16歳 女 レベル:32(NEW)
職業:『剣聖』 ※LV上昇に伴いステータスが上昇しました
HP:310
MP:260
SP:310
攻撃力:310
防御力:310
素早さ:310
魔法力:260
魔法耐性:260
運:310
======================================
【タイトル】
第26話 エルフ国に案内して貰う
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2022-10-01 06:01:48(+09:00)
【公開日時】
2022-10-09 12:00:24(+09:00)
【更新日時】
2022-10-09 12:00:24(+09:00)
【文字数】
1,732文字
【本文(91行)】
「うっ……ううっ……」
エルフの少女は呻いていた。俺達は傷ついているエルフの少女にポーションを一個使用した。
【※エルフの少女にポーションを使用した為、ポーションの所持数が11個→10個になります】
「……はっ……あ、あなた達は一体……私は魔族兵と闘っていたのでは」
回復したエルフの少女は、意識を取り戻したようであった。だが、若干、記憶が混濁しているようだった。状況を飲み込めていないようだ。
「安心してください。魔族兵は私達が倒しました」
エステルがエルフの少女に優しく語り掛ける。
「そうですか……私はあなた達に助けられたのですね。ありがとうございます。私の名はセシリアと申します」
エルフの少女はそう名乗った。彼女の名はセシリアと言うらしい。
「俺の名はカゲト、それから彼女はエステルだ」
俺達も名乗り返した。
「魔王軍とエルフ国が交戦しているのは聞いている……それに、旗色が悪くなっているという話も。俺達は君達の力になりたいんだ」
「あ、あなたはもしかして、異世界より召喚されたと言われる、あの伝説の勇者様なのですか?」
セシリアは輝いた目で俺にそう聞いてくる。
「違う……俺は勇者ではない。だけど、異世界から召喚されたというのは本当の事だ。俺達を君達の国、エルフの国に案内して欲しい。エルフ王に会って、直接話をつけたいんだ」
加勢をする上で、やはり上の者に話を通しておく事は大事な事であった。そうでないと味方だと思っていたエルフ側から攻撃される事もあるだろうし、協力をして貰う事もできない。
「話はわかりました……私に出来るのはエルフ国への案内だけですが、それで良いのでしたら」
「そうか……ありがとう。助かるよ」
「いえ。あなた達は私の命の恩人ですから。そのくらい、お安い御用です」
彼女は笑顔でそう答えた。
「本来であれば、エルフ国に部外者を連れて行くのは禁忌ではありますが、あなた達は特別です。案内します」
彼女は俺達にそう約束をしてくれた。こうして俺達はエルフの少女セシリアに導かれ、エルフ国へと向かう事になったのだ。
◇
「一つ、聞いていいか?」
「は、はい。何でしょうか?」
「人間界における風の噂では、エルフ国と魔王軍の戦況は拮抗状態にあったはずだ。それが何で、急にその態勢が崩れたんだ? 魔王軍が新戦力の投入でもしてきたのか?」
「それが……」
セシリアは表情を曇らせる。何やら、深い事情があるらしい。
「エルフ国と魔王軍との抗争は順調とはいえませんでしたが、おっしゃるようにある程度の拮抗状態にありました。エルフにはこの森による地の利と弓矢や魔法による攻撃もあります。むしろ拮抗状態はこちらの都合の良い方向に流れ始めていた節すらありました。——ですが」
どうやら何かあったようだ。
「恐ろしい人間が魔王軍に加勢したと聞きました。私は直接、その人間を見たわけではありませんが。その人間が魔王軍に加勢した事で、エルフ国と魔王軍の拮抗状態は崩れていったのです。そして私が所属していた部隊も壊滅状態になり、私以外の仲間はもう——」
セシリアは表情を歪ませる。辛い出来事や悲しい出来事があった事を容易に察する事が出来た。
恐ろしい人間が魔王軍に加勢したのか。何だか嫌な予感がした。この時の俺にはまだわからなかったが、後にこの嫌な予感は的中する事になる。
迷宮のような森を抜ける。長い時間、俺達は歩いた。
「ここがエルフの国です」
「何もないじゃないか」
今まで通り、同じような森が続いているだけである。
「視覚を妨害する結界が張られているのです。特別な魔法を使うか、マジックアイテムがないと視認できるようになりません。今、結界を無効化します」
セシリアは魔法石を取り出した。輝かしい石。彼女が先ほど言っていたように、結界を無効化するマジックアイテムなのだろう。
セシリアは呪文を唱えた。聞き取れない呪文。その呪文により、魔法石は輝かしい光を放った。
すると、目線の先には木々の中で暮らす、エルフの人々の姿が見えるではないか。
「……あれがエルフの国か」
「そうです。王城はこちらになります。案内しますのでついてきてください」
俺達がエルフの国に入国すると程なくして、再び結界が張られる。
こうして俺達はエルフの国に入る事ができたのだ。
【タイトル】
第27話【闇勇者SIDE】エルフ軍を撃退し、調子に乗る
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2022-10-02 04:48:15(+09:00)
【公開日時】
2022-10-10 12:00:10(+09:00)
【更新日時】
2022-10-10 12:00:10(+09:00)
【文字数】
2,589文字
【本文(160行)】
「アスタロト様! エ、エルフ軍が! 今まで守勢に出ていたエルフ軍が攻勢にでてきましたぞ! わ、我々はどうすれば」
報告に来た魔族兵が大慌てをしていた。ふっ……ださい奴だよ、そんな事で大慌てするなんてさ。これだから力を持たない雑魚は。余裕がなくて僕は嫌いなんだ。
「うろたえるな。これから、この闇勇者ハヤトが我々に実力を見せてくれるそうだ。今回のエルフ軍の攻勢はその実力を見せる場としてこれ以上ない、恰好の舞台となるであろう」
「は、はぁ……そうですか」
魔王軍の四天王であるアスタロトにそう言われて、魔族兵は一応の落ち着きを取り戻した。
「なにも心配する必要はないですよ。サクッとやっちまいますよ。サクッと。安全なところで、遠くから離れて見ていてください。くっくっく」
僕は魔王軍の陣営を抜け出し、エルフ軍の迎撃へと向かった。
◇
「エルフ軍だ! エルフ軍が来るぞ!」
「くう! 森に籠城し、我々が消耗してきたタイミングで攻勢に転じてくるとは、なんと卑怯な連中だ!」
魔族兵は負け惜しみを言ってきた。
「我がエルフ国を侵略しに来た魔王軍に卑怯だのと言われる筋合いはないっ!」
「ぐあっ!」
エルフ兵が魔王軍を斬り伏せた。魔族兵が短い悲鳴を上げて、絶命する。
「魔導士部隊! 魔法を放て!」
エルフ軍の隊長らしきエルフが命令する。後衛には魔法を使用する為、エルフ軍の魔道士部隊が控えている。前衛を戦士系の職業が護り、後衛を魔法系の職業が務める。実にオーソドックスな陣形であった。
「「「『火炎魔法(フレイム)」」」」
「「「グ、グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」」」
複数の魔導士により放たれた、紅蓮の炎に魔族兵の群れは焼かれていった。
「まだだ! 続いていけっ! 魔導士部隊っ!」
エルフ軍の隊長に命じられるままに、魔導士部隊は魔法攻撃を連発する。
「「「『氷結魔法(アイスフロスト)』!」」」
極寒の冷気が魔族兵の群れを襲う。
ピキィ! ピキィ! ピキィ!
悲鳴を上げる事すらなかった。極寒の冷気により、一瞬にしてその身が凍り付き、固まるのだ。その結果、多くの魔族兵の氷の彫刻が出来上がった。
「く、くそ! このままじゃ俺達は全滅だ」
「どいていろ、雑魚ども」
前線に僕が姿を現す。
「誰だ! てめぇは!」
「確か、アスタロト様の傘下に加わった新入りだろ。新入りの上に、人間風情がでかい口きいてるんじゃねぇ! ぐ、ぐわっ!」
僕は裏拳をかまし、黙らせた。勿論、死なないように手加減はしたさ。これでも一応は味方なんでね。
「雑魚は黙っていろ、殺されたいのか?」
「くっ……ううっ……こ、こいつ、強ええぞ……」
僕に凄まれると、魔族兵達は押し黙ったのだ。
「大人しくそこで見ていろ。お前達なんて、今の僕にとっては邪魔でしかないんだからな」
僕は単身でエルフ軍を相手にするのであった。
◇
「もはや、魔王軍、我がエルフ軍にとって恐れるに足らず! ……ん?」
エルフ軍の隊長が俺の前で歩みを止める。他の魔族兵が後退していく中、僕だけが進行してきたので、不思議に思ったのだろう。
「き、貴様! なぜ一人でそんなところにいる! それに貴様は人間か! なぜ魔王軍につくのだ!」
隊長は僕に剣を向けてきた。
「人間? ……そんなものはとうに捨てたよ。今では僕は完全に魔王軍の手の者さ」
「……そうか。だったらこちらとしても手加減をするつもりはない。しかし、一人でこの大軍を相手にするのは勇敢ではなく、蛮勇というものであろう! 我々、エルフ軍を舐めているのか!」
「クックック……蛮勇かどうか、試してみればいいだけの事だろ?」
「覚悟は決まっているようだな。弓兵隊、一歩前へ」
エルフ軍の後衛には、魔導士部隊の他にも、弓兵隊がいた。弓矢による物理攻撃を仕掛けてくる部隊だ。稀にだが、魔法攻撃があまり効かない相手もいる為、その場合は弓兵隊がいると何かと都合がいいのである。
「射(う)て!」
隊長の命令の元、僕に大量の矢が注がれていく。
だが、その程度の攻撃、僕に僅か程のダメージも与えられなかったのだ。余りに防御力が違いすぎて、鎧に弾かれていく。
「なっ!?」
隊長は絶句するが、すぐに思考を切り替えたようだ。的確に次の指示を出す。
「魔導士部隊、こいつに魔法攻撃を放て!」
「「「「『火炎魔法(フレイム)』!」」」」
大勢のエルフの魔導士達が僕に向かって火炎魔法を放ってくる。紅蓮の炎が僕に襲い掛かってきた。
「やったか!?」
隊長がフラグみたいな事を言ってくる。しかし、炎が治まった後には殆ど無傷の僕が姿を表す。僕の魔法防御力の高さと比較して、火炎魔法の威力が弱すぎたのだ。
「な、なんだと! こいつは化け物かっ!」
「ふっ……弱すぎるんだよ。くっくっく。そんな程度の魔法が僕に効くわけないだろ」
僕は今までにない程の充実感を覚えていた。絶対的強者として弱者をいたぶる高揚感が全身を支配する。これ程気持ちいい事はない。
「……さて、それじゃあ、今度は僕の番といかして貰おうか」
僕は闇勇者としての力を行使する。
「『ダークウェイブ』」
僕は魔法を発動させた。圧倒的な闇の波が多くのエルフ兵達を飲み込んでいく。
「「「ぐわああああああああああああああああああああああああああああああああ!
!」」」
「な、なんだと……い、一瞬で。あれほど大勢いた我がエルフ軍が……」
僕の魔法の一撃で、エルフ軍は半ば壊滅状態になった。
「ふっ……手応えがないなぁ……まだやるつもり? 逃げるなら追わないよ。君達程度、僕はいつだって殺せるんだからね。くっくっく」
「くっ! 仕方ない! 撤退だ! 撤退!」
エルフ軍の隊長は残った僅かな戦力を引き下げ、自国へ帰っていたのであった。
「気持ちいい、最高に気持ちいいよっ! 弱者を絶対的な力でなじる快感! 優越感! 実に最高じゃないか!」
僕は誰もいなくなった戦場で一人、余韻に浸っていた。
勝利の余韻ではない。これはもはや勝負ではなかったのだ。ただの虐殺である。
虐殺の余韻に僕は浸っていたのだ。
「この力さえあれば、僕はこの世界に復讐を果たせる。果たせるんだよ!」
僕の覇道を阻む者はいないように思えた。しかし、僕は思わぬ再会を果たすのだ。
そう、僕が勇者として本来貰うはずだったチートスキルを手違いで貰ってしまった。
あの『うすいかげと』とかいう、ただのモブキャラと。それとそいつに従える剣聖エステルと。
思ってもいない再会を果たす事となる。
【タイトル】
第28話 エルフ城へ
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2022-10-03 05:24:53(+09:00)
【公開日時】
2022-10-11 12:00:45(+09:00)
【更新日時】
2022-10-11 12:00:45(+09:00)
【文字数】
1,887文字
【本文(138行)】
「セシリア様。ご無事でしたか。良かったです」
エルフ城にいる門番に呼び止められた。
「……そちらの方々は?」
門番は怪訝そうな視線を送ってくる。無理もない。エルフは基本的には排他的な種族だ。ここに来るまでもそのような視線を送られてきた。やはり人間である俺を連れて歩いてきたセシリアに違和感を覚えざるを得ないのであろう。
「私の命を救ってくれた恩人達です。独断ではありますが、ここまで連れてきました」
「そうですか……そうでしたら構わないのですが。とはいえ、国王陛下のご意向には従わなければなりません、お二人にエルフ国の滞在が許可されなければ……」
門番は口を閉ざす。
俺達はエルフ国から叩き出されるという事であろう。
「わかっております。とりあえずはエルフ王とお会いして、面会の許可を頂いてきます」
セシリアは俺達を見やる。
「お二人とも、しばらくここでお待ちください。まずは私一人でエルフ王に会ってきますので」
「わかりました……じゃあ、ここでお待ちしています」
「……はい。では行ってきます」
こうしてセシリアは俺達を置いてエルフ城へ入っていったのだ。
◇
「暇ですね……」
「そうだな……」
俺達は手持ち無沙汰だった。とにかく暇だったのだ。どうにか、この暇な時間を潰したかった。
「なぁ、エステル」
「はい、なんでしょうか?」
「あっちむいてほいをしよう」
「『あっちむいてほい』? そ、それは一体?」
「俺達の世界にある娯楽だよ……っていうか、この世界はじゃんけんとかあるのか?」
「じゃんけん?」
やはり異世界には『じゃんけん』自体が存在していないらしい。まずその説明から必要だった。とはいえ至極単純なので簡単に理解できるとは思うが……。
「えー、と。この拳を握りしめるのが『グー』で、開いたのが『パー』ハサミに見立てた手が『チョキ』っていうんだ」
「へぇ……『グー』と『パー』と『チョキ』ですか」
「それで、『グー』は『チョキ』に勝って、『チョキ』は『パー』に勝つ、それで『パー』は『グー』に勝つ、っていう三すくみの関係になるんだ。『グー』は石だからハサミの『チョキ』に勝つ。『チョキ』はハサミだから、紙の『パー』に勝てるんだ。それで『パー』は紙で包み込めるから石である『グー』に勝てるみたいなイメージだな」
「なんでしょうか? その紙なのに石に勝てるとは……道理がなっていないように感じるのですが」
石がハサミに勝てる
「いいんだ、ただのイメージだから。要するにそういう方式で成り立っていると理解だけしてくれればいい」
「はぁ……そうですか。それで、その『じゃんけん』で勝った方と負けた方は何をするんですか?」
「勝った方は左右上下を指さすんだ」
「指を指す? それで負けた方は?」
「こうやって首を左右上下に振り向かせるんだ」
「首を振り向かせる?」
「そうそう。それで勝った方の指と同じ方を向いたら負け。もし違ってたらまた最初の『じゃんけん』に戻るんだ」
「それで、その勝負で負けたらどうなるのです?」
「別に何にもならない」
罰ゲームを賭ける事もあるにはあるのだが、そういう取り決めがなければ別に何にもならない。
「何にもならない。だったら何の為にやるのですか?」
「ただの暇つぶしだよ。今みたいな状況にはうってつけたんだ。単に勝ったら嬉しいし、負けたら悔しい。それだけの事なんだよ」
「はぁ……」
「とにかくやってみよう。『じゃんけん』『ぽん』!」
「その『ポン』とは?」
「タイミングをはかる為のかけごえだよ」
「はぁ……掛け声ですか」
「もう一度行くぞ。『じゃんけん』」
「「『ぽん』」」
俺達は『じゃんけん』をした。
俺が『グー』を出し、エステルの『チョキ』に勝った。
「あっちむいて、ほいっ!」
くいっ。
俺の指の方をエステルが向いた。
俺が勝ちだった。
「よし、俺の勝ちだ」
「負けました」
「それじゃあ、次に行くぞ。『じゃんけん』『ぽん』!」
こうして俺達はあっちむいてほいをして時間を潰していた。
――そして、しばらくして、セシリアが戻ってきたのである。
「何をしているのです?」
セシリアは怪訝そうにこちらを見てきた。
「その……俺の生まれ故郷の遊びをだな。ただの暇つぶしだ」
「そうですか……暇つぶしを」
「それよりも、どうだったんだ? エルフ王には会えそうなのか?」
最悪、合う事すら叶わずに門前払いという可能性もあり得る事であった。
「安心してください。面会の許可は得られました。エルフ王はあなた達と会う事を望んでいます」
「……そうか。それは良かった」
「それでは向かいましょうか。我らの王。エルフ王がお二人をお待ちです」
こうして、俺達はエルフ王と面会する事になったのだ。
【タイトル】
第29話 エルフ王と王女と面会する
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2022-10-04 05:27:48(+09:00)
【公開日時】
2022-10-12 12:00:30(+09:00)
【更新日時】
2022-10-12 12:00:30(+09:00)
【文字数】
3,004文字
【本文(137行)】
「エルフ王。件(くだん)の人間二人をお連れしてきました」
王室には、エルフ王がいた。若々しい。人間で言えば20代~30代くらいには見えた。だが、本来の年齢で言えば遥かに高齢なのだろう。エルフは長寿の種族である事くらい、俺でも知っている事だった。彼らの月日の経過は人間のそれよりもずっと穏やかなのだ。
だから彼の本来の年齢が100歳だろうが、200歳だろうが、驚くまでの事もない。
「……そうか。その二人が君が報告していた、人間二人組か」
「その通りです。エルフ王。私は彼等に命を助けられました。それほど長い時間を過ごしているわけではありませんが、恐らくは信用できる人達だと思います」
「私がエルフの王だ。まずは礼を言わせて貰おう。我等がエルフの民。セシリアの命を救ってくれた事、誠に感謝する」
エルフ王は俺達に頭を下げる。
「エルフ王。教えてください。一体、何があったのですか? エルフ軍と魔王軍との戦争は拮抗状態にあると聞き及んでいます。それどころか、最近はエルフ軍の方が優勢に転じかけていたそうではないですか? それなのに、なぜ急に大勢が悪化したのです?」
「君の言う通りだ。我々エルフ軍の戦況は決して悪くはなかった。むしろ、こちらの方が優勢だったというのもその通りだ。戦況が急激に悪化したのには明確な理由がある。あくまでも前線から生き残ってきたエルフ兵の話を聞いただけに過ぎないが、魔王軍は今までにいなかった新戦力を投入してきたようなのだ」
「新戦力?」
「ああ……その新戦力——どうやら人間の男のようだ。その男一人が戦線に投下された事で、我がエルフ軍の戦況は大幅に悪化してしまったのだ」
人間の男。その時、俺は何となくだが嫌な予感がした。だが、この嫌な予感の正体が何なのか、この時の俺はまだ理解していなかったのだ。
「そうですか……たった一人の人間によって、そんなにも戦況が一変してしまうなんて……」
一体、どんな奴なんだ。一人で戦況を左右できるんだ。よっぽどの力を持っているに違いない。
「エルフ王。どうか、俺達に協力させてください」
「……しかし。部外者である君達を危険に晒すわけには。これは私達、エルフの問題だ。君達にそこまでして貰う義理はないのだよ。ここにいるセシリアの命を助けて貰っただけでも、こちらとしては十分だ」
「……しかし」
「良いではないですか。お父様。私達、エルフ軍の戦況は決して良くありません。猫の手でも借りたい状況です。力を貸してくれるとおっしゃっているのでしたら、例え人間の力だとしても、借りたらどうでしょうか?」
一人のエルフの少女が姿を表す。流れるような金髪をした絶世の美少女。気品を感じる立ち振る舞い。エルフ王を父呼ばわりしているのだから、容易に彼女が王女である事を察する事が出来た。
「レティシア……う、うむ……しかしだな。やはりエルフ国の問題は我がエルフ国だけで解決するのが筋であってだな。部外者の力を借りるのは……我々の面目が」
エルフ王は言葉を濁らせる。やはり自分の肉親相手だと何かと勝手が違うのだろう。
「お父様。それはあくまでも問題が我々の力で何とかなる場合だけの話でしょう。今、我々が置かれている状況はその範疇を超えています。その場合、面目だとかなんだとか言っている場合ではない。違いますか?」
「……そ、それはだな。た、確かにお前の言う通りだがな……」
「私は思うのです。もしや、そこにいる彼は伝説に聞き及んだ、異世界より召喚された勇者様なのかもしれません。この混沌とした世界を救うべく、異世界より召喚された伝説の勇者様」
「ち、違う……俺は勇者なんかじゃない」
だが、俺だけは少なくとも知っていた。世界を救う伝説の勇者がいない事を……。あいつ。日向勇人ではこの世界を救えない事を俺だけは知っていた。だから、俺があいつの代わりにこのエルフの国に来たのだ。
「勇者じゃなくても、なんでもいいです。私の名はレティシアと申します」
エルフの王女、レティシアに手を握られる。確かに伝わってくる温かみ。気恥ずかしくなってくる。
「むっ!?」
俺が照れているのを見て、エステルが眉を潜めた。だが、状況が状況だけに何か言い出す事もなかった。
「あなた様のお名前を教えて頂けないでしょうか?」
「俺の名はカゲト。そして彼女がエステルだ」
「カゲト様とエステル様ですね。ご存じだとは思いますが、我がエルフ軍の戦況は芳しくありません。どうか我々にお力を貸して頂けはしないでしょうか?」
「も、勿論です。お、俺達はその為に来たのですから」
や、やばい。俺は女の子と手もまともに繋いだ事がないんだ。だからこう、手を握られるだけでも心拍数が上がってくる。平静ではいられなくなってきた。
「本当ですか? それは実に嬉しい事です。勿論、タダ働きなんてさせるつもりはありません。魔王軍を退け、このエルフ国に平穏が訪れた暁には望むものは何でも差し上げましょう」
「望むもの?」
「カゲト様。あなたは何をお望みでしょうか?」
あの勇者ハヤトだったら、こんな時、何を望むだろうか……。間違いないだろう。この美麗なエルフ姫の肉体を要求したに違いない。だが、俺がそんな事を望むわけがなかった。陰キャにはそんな要求、ハードルが高すぎる。
「い、今は望みなんて考えられない……後で考えるよ。無事にこのエルフ国にその平穏が訪れた後に……」
「そうですか……でしたらその時にまた、お伺いしますね」
彼女は微笑んで語り掛けてくる。
「うむ……。確かにレティシアの言っている通りだな。我がエルフ軍の状況は決して良くない。だからカゲト殿とエステル殿のお力を借りられるというのなら、借りて置いた方が得策だ。どうかよろしく頼めるか。本来ならば他国に援軍を頼まなければならないかもしれないが……もはや我々には使者を送っている時間的余裕はないのだ」
エルフ王はそう言って頭を下げてくる。
こうして俺達はエルフ軍と協力し、魔王軍と立ち向かっていく事になったのだ。
「それでは改めまして、よろしくお願いしますね。カゲト様。エステル様」
レティシアは俺達に頭を下げる。
――と、その時の事であった。
「た、大変です! エルフ王!」
一人のエルフ兵が王室に飛び込んでくる。
「どうしたのだ!? そんなに慌てて」
「そ、それが、緊急事態なのです!」
『緊急事態』。嫌な予感がした。一同に緊張が走る。
「魔王軍が我がエルフ国に攻め入ろうとしているのです!」
「なんだと!」
エルフ王の表情が一変した。明らかな動揺が見てとれる。
「我がエルフ軍には防衛隊がいるのだぞ。それに森による護りだってある……それなのに、こんな短期間で突破されるものなのか?」
「わ、わかりません……どんな手品を使ったのか。皆目見当も……ただひとつだけ言える事は、我がエルフ国に危機が差し迫っているという事だけなのです」
俺達が動こうとした時だった。
「待って下さい。カゲト様。私もご一緒します」
「……エルフの王女様が。危険です」
大体、そもそも彼女は闘えるのか。
「見くびらないでください。これでも、私は魔法が多少使えるんです。きっとお二人の役に立てると思います。それにエルフ国の危機を指を咥えて見ているなんて事、とてもできません」
「わかった……だったら一緒に行こうか」
こうして俺達は魔王軍を迎え撃つべく、エルフ国を出たのであった。
そしてそこで俺達は思わぬ人物と再会を果たす事になる。