歴史上、西大陸が表舞台に立つ事は何度かあった。
語り継がれたお伽噺「幻魔大戦物語」の舞台であり、千年前に起きた炎の厄災。イゴール・バスカヴィルが引き起こした魔力暴走によって作られた巨大クレーター。その他にも細かい物を含めれば戦争だ内戦だとそれなりの数はある。
その内、戦争や内戦と言った人が引き起こした出来事は全て帝国絡みであった。二千年前に創設された帝国は今の形とは異なり、きちんとした国家運営をしていたと魔族の生き残りは語る。
実際に今の帝国の様になったのは千年ほど前に遡る。当時の皇帝「リディール・アバランチカ」からと言われており、その後の歴代皇帝はどれもこれも恐怖政治を敷いていた。
しかし疑問も残る。
歴代皇帝の中には恐怖政治に耐えきれずクーデターを引き越したものも居たという。そして当時の皇帝を失脚させ圧制を敷いていた帝国を再建させようと、その力を振るった者も数年後には元の鞘に収まるかの如く恐怖政治、圧制へと戻っている。
この事は海上商業組合にも文献として残っている事実であり、この事を調査しようとして帝国へと潜入させた事もあった。しかし、誰一人としてソレらは戻ってくることは無かった。
この千年の間に合計十回、つまり百年に一度は同じようにクーデターが起こっては成功し、また同じ鞘に戻るを繰り返している。
「それじゃぁ、スティンツァ帝国の皇族はとっくの昔に血が途絶えてるのか?」
「文献によるとそうなります。初代皇帝のリディール・アバランチカの血筋は千年ほど前に途絶え、その後は別の血筋が支え、クーデターが起こるとまた違う血筋へと変わっています。現皇帝「マッド・ガルボ」は三十年前に起こったクーデターによって変わったばかりです」
「百年に一度起こるクーデターねぇ、どう思うよガズル」
黒いエルメア(注意:帝国軍服の事)を着た少年がメガネを掛け、ニット帽をすっぽりと頭に被っている少年に問う。
「俺に聞くなよアデル、そもそも俺だって帝国の内部事情については詳しくねぇんだ。ギズーお前はどうよ」
ガズルと呼ばれた少年が次に声を掛けたのは椅子にふんぞり返ってシフトパーソル(注意:銃火器の名称、シフトパーソルは片手銃を意味する)を整備している少年に尋ねた。
「俺だって知らん、こういうのは昔本の虫だったレイの方が詳しいだろ」
代わる代わる質問が飛び交い、最終的に行きついたのがこの少年。
英雄を意味する二つ名剣聖を持ち、彼等のリーダーである青髪の少年、名をレイ・フォワードと言う。まさかこのタイミングで話題を振られるとは思って居なかった彼はキョトンとして周囲を見渡した。
「なんでこっちに振るかな、僕だって分からないよ。でも確かに不思議だよね、圧制に耐え切れなくなってクーデターが起こって皇帝が変わっても、気が付けば同じような感じになるんでしょ? むしろその辺り詳しくは書いてないんですかクリスさん」
返答に困ったレイが正面に座る青年へと尋ねた。海上商業組合で情報を管理する七議席の一人であり、現帝国の打倒に燃える青年。名をクリス・バンエルロードディアと言う。