「私だって、佐藤君みたいな人は遠慮します!」
私は、無邪気に否定した。
その時、佐藤君のやりとりを聞いてて、何かに気付いたように、マネージャーさんは目を大きくした。
「あなたも、”佐藤”さんって言うの?」
「えっ?」
私は、マネージャーさんの方を向いた。
あなた”も”って、事は……
「そういえばマネージャーも、”佐藤さん”だったよね。」
佐藤君が、私とマネージャーさんを取り持つように、言った。
「そうなの?……」
私は、恐る恐る尋ねた。
「佐藤茅乃です。よろしくね。あなたは佐藤何さん?」
「あっ、佐藤香恋です。よろしく。」
マネージャーさんに向かって、私は頭を下げた。
「あともう一人、佐藤がいたな。」
佐藤君が、後ろを振り返る。
「あっ、そうだよね。」
マネージャーさんも、後ろを振り返った。
「もう一人?」
私は、二人の視線の先を見た。
この後私は、奇跡を嫌でも見せ付けられる。
「ああ、佐藤!」
佐藤君に、同じ苗字で呼ばれた彼は……
あの、綺麗なシュートを放った人だった。
そう。
私が目が離せなかったのは、間違いなくこの人だ。
「何?佐藤。」
その人は、ワクワクしながらこっちにやってきた。
「たいした事じゃないんだけど。」
「え~なんだよ、それ。」
「もう一人、”佐藤さん”が現れたんだよ。」
「もう一人?嘘だろう?勘弁してって感じだよな。誰?誰?」
迷惑だよなって言葉に、何だか萎縮してしまう。
そうだよね。
いくら多い名字とは言え、こんなに”佐藤さん”が集まったら、呼び方にも困るよ。
「ここ。」
佐藤君は、そんな私を他所に、指さしてきた。
「えっ……」
あの人は、目の前で縮こまっている私を、見つめた。
「ごめん……目の前にいたんだ。」
「すみません……」
「別に、謝る必要ないって!」
顔を上げた先には、キラキラと笑っている、あの人がいた。
「佐藤香恋さんよ。」
マネージャーさんが私を紹介すると、あの人はボールを回しながら、自己紹介してくれた。
「佐藤奏太です。よろしく。」
佐藤……奏太………
それは、私が一番知りたかった名前だった。
「こ、こちらこそ。」
頭を下げた私は、偶然聞き出せた彼の名前を、ずっと心の中で繰り返していた。
「ところで名前が”カレン”っていう事は、性格も可憐なの?」
「えっ……」
ポカーンとする私に、佐藤君がフォローしてくれた。
「あ、全然違う。性格も違けりゃ、漢字も違う。」
「ちょっと佐藤君?」
それ、フォローになってないじゃん。
って、言おうとした時だ。
「はい。」
二人の佐藤君がこちらを向いた。
「あ……同じクラスの佐藤君。」
なんて、ややこしいんだと思いながらも、佐藤君を指さす。
「ああ……」
佐藤君がうなづくと、みんなで笑い合った。
そして、あの人が口を開いた。
「佐藤さんは……」
すると、私とマネージャーがあの人の方を向いた。
「マネージャーじゃなくて、こっちの佐藤さん……」
あの人は、私の方を指さした。
「あ、そうか。」
マネージャーさんの恥ずかしそうに笑う顔も、お人形さんみたいだった。
しかも、あの人に話しかけられるなんて。
そんな時、同じクラスの佐藤君が、とんでもない事を言いだした。
「ええい、まどろっこしい。苗字じゃなくて名前で呼ぼうぜ。」
私は佐藤君の方を、急に振り向いた。
えっ?
私、同じ部活でもないのに、名前で呼び合うの?
そんな私を他所に、マネージャーさんは楽しそうに、手を挙げた。
「そうよね、私は茅乃って読んで。」
マネージャーが賛成すると、今度は同じクラスの佐藤君が、手を挙げた。
「俺、海渡。」
「俺は奏太ね。」
あの人も、自分を指さしている。
こういう場合、私も手を挙げて言った方がいいのかな。
「私は、」
自分の名前を言おうとした時だ。
「香恋でしょ。」
三人が、声を揃えて言ってくれた。
こうして私達4人は、同じ”佐藤さん”と言う奇跡と一緒に出会い、友達になった。
これが、後の人生を決定づけるものだとは、知らずに。