「流星祭来てほしいって言っていたよ。橋本さんが」
「うん、行きたい!でも…楽しめるかなぁ。みんなともう会えないって思うと辛い」
「分かってる。だから詩が辛いなら無理しなくていいよ」
「ありがとう。蒼君とも…もう少しでさようならなんだよね」

 自然に落ちていく視線がアスファルトだけを映して詩の言葉を頭の中で反芻した。
出来ることならばこのままの生活を続けていきたいと思った。
 一生彼女に触れることが出来なくともいい。でもきっと詩にそれを伝えたら“そんなのダメだよ”と言うのだろう。簡単に想像が出来てしまうほどに俺は詩のことを沢山知っている。この一か月という短期間でも俺は詩の好きな食べ物も好きな漫画も、好きなアニメも、好きな色も…―知っている。

「十のかなえたい、やり残したリストのうち八つも叶えてくれてありがとう。本当に全部楽しかった」
「まだ数日あるのにそんなこと言うなよ」

 詩がそうだった、と明るく答えたとき前方から「詩?」と名前を呼ぶ声がした。

 俺と詩の足が止まった。
詩の名前を知る者など限られている。数メートル先で立ち尽くしている女性がもう一度「詩なの?」と言った。その声は震えていた。目玉が飛び出すのではと思うほど驚いた表情をした女性は小さく首を振っていた。

 詩を見て「誰?」と訊く前に詩が「おねえちゃん」と言った。
まずい、と思ったがもうどうすることもできない。
 詩の姉はゆっくりとこちらへ近づいてくる。詩は見たことのないほどに動揺していた。
そして声もなく涙を溢した。

「何で?どういうこと?詩だよね?」
 混乱している詩の姉は信じられないと何度も言い、でもそのたびに目の前にいるのは詩であるのは間違いないという確信をもって近づいてくる。

「なんでっ…?!詩は…―死んだんだよね」
「お姉ちゃん…」
 詩は顔を両手で覆った。そしてお互いの距離が二メートルほどになった時、詩の姉が詩に接触しようとした。俺は瞬間的にそれを制止していた。

「誰よ、あなたっ…!」
「俺は、詩の友人です。あの、詩さんは確かに亡くなっています。でも一か月だけこうして…この世に…」
「意味わからない、そんなことあるわけないじゃないっ…」
「でも、実際に詩は目の前にいる!それはお姉さんの目にもはっきり映っているはずです」

 詩の姉は詩にあまり似つかない顔を俺に向けた。その顔は苦痛に歪んでいる。