ほんとだよ?先生。
高校の通学電車で、
たまたま同じ時間に乗るように
なってからだと思うのね。
先生は知ってたのかな。
ナガレとシュウジロウが
塾の後に、
わたしの事を
わざわざ自転車を押して
送ってくれていた
って。
知ってたの?!最近知ったの?
なんだー、つまんない。
先生をもっと驚かせたかったー。
残念でしたーって?
もう!!
あのね、きっとその時、
塾の帰りから、
ナガレの事を優しいなあ
って、思ってたのかも。
最初は、後ろでやたら
うるさいレオに注意してくる
真面目な子だなって思うぐらい
だったと、思う。
でもね、
あー、先生だから言えるけれど
卒業する頃の塾終わりって
寒い時期で、
真っ暗だから
そんな中を3人
自転車を押しながら、
ナガレとシュウジロウが
ふざけあって送ってくれるの
嬉しかった。
やっぱり暗くて、
不安だったから。
でも、3人で歩くと
なんだか
寒い夜なのに
いつの間にか、
暖かくて優しいタオルに
包まれるみたいな
気持ちになるんだよね。
そうして帰る道は
冬の空に、
星が綺麗で、
楽しいような、
恥ずかしいみたいな。
あの、時
初めてだったんだよね。
男の子に送ってもらうの。
いろいろあって、あの時。
女の子って守ってもらうのが
なかったから。
あ、何?先生!
あのね、小説家希望の先生だから
正直な気持ち、
恥ずかしいけど教えたんだから。
可愛いなあ、とか止めてよね。
気持ち悪いよ先生。
うそ詩人みたい?
やめてー、照れる。
これ黒歴史になるー。
あ、
先生の頃も
同じだったのかなあ。
通学の電車って、
わたし達みたいに街まで
でるのに、
ラッシュだったでしょ?
だから、1人しか受験してない
高校に受かって
通うのも、ひとりで。
最初、嫌だったよ。
だって、動けないぐらい
なんだよ電車の中。
やっぱり心配で。
実際、チカン?みたいな
感じ、あったりしてね。
でも、ちょうどナガレが
同じ電車に乗ってるのが
わかって。
ちょっと安心した。
入学して何日かで、
何かあったら助けるからって、
ナガレが
気を使ってくれて、
電車で携帯の交換したから。
それからかな。
気が付いたら、
同じ車両で一緒になることが
多くなったのね。
でも、お互い
同じ沿線で通う学校の
通学友達とかも
出来てきて、遠巻きに
乗ってるなあーって、感じ。
ちょっと不思議だったなあ。
ほら塾の時って、
男子は基本、後ろでしょ?
男の子同士で話すのを、
見るのってなかったから。
送ってくれる時は、
やっぱり3人で話していたしね。
混んでる電車の人越しに、
通学友達と笑ってる、
ナガレを見るの新鮮で。
知ってた先生?
ナガレって、
すごく笑うと八重歯が
上片方だけあって、見えるの。
塾の時とか、
真面目な感じだったから
可愛いとこあるんだって、
端から見て思った。
え?何が、きっかけかって?
付き合うの?
うーん。
はっきりとは、あの時かも。
文化祭。
高校入って秋にあった、文化祭。
通学友達と話してたら、
電車でナガレが
わざわざやって来て、
わたしの学校の文化祭の券を
くれないかって、言われたの。
わたし達の学校、特殊学科ばかり
でしょ?
けっこう街の学校で有名なんだよ
文化祭が派手で。
だから、
こっちの友達にも券を頼まれた
もんね。
代わりに、
ナガレの男子校の学園祭の券、
通学友達分もらって。
皆んなで
初男子校に行って!
ドキドキしたなあ。
ナガレ達も通学友達を連れて、
こっちの学校に来てくれたり
したし。
それでね、
ナガレのクラスの出し物が、
手作りプラネタリウムだったのね。
手作りだから、定員2人なんだよ。笑っちゃうよね。
通学友達同士で、ペアで入って
その時に、
ナガレが
誰にでも学祭の券あげたり、
もらいに行ったり
しないからって、
言われて。
最初何言われてるか、
わからなかったよ。
サユちゃんだから
学校行きたかったし、
学祭、見に来て欲しかった。
って。
明後日からは、彼女になって
一緒に電車のって欲しい。
って。言われた。
電車で通ううちに、
ナガレって、好意、?
あるのかなって、思ってたから
ビックリはしなかったし、
いつの間にか
わたしも、惹かれていたから
ナチュラルに、
お願いしますって。
答えてたな。
でも頬ドキドキした。
ナガレが、
プラネタリウムの中で、
電車の時間と入口を決めて
毎日一緒に通学することに
なったんだよね。
おれ
高校入って1番最初にしたのが、
メガネからコンタクトに
変えたんだけどさ、
女子も同じなんだな、先生。
駅で最初に
サユを見つけた時は
後ろ姿だったからさ、
電車に乗って顔を見たら
メガネがなくって
マジ焦った。
だってさ
目がおっきくて
睫毛が長かったの全然
知らなかったからさ。
横顔とか、
可愛いかもなとか
思ってたけれど、あれ反則。
何日かは
後ろから見てたけど、
サユの方が
おれに気付いたんだ。
そしたらさ、
おれの目元を
指で指してサユ、
自分の目元も指さして
笑うんだよ。
だから思い切って、声かけた。
コンタクトに
お互い変えたタイミング?
一緒っての?
うれしくないか?先生。
なんだよ、単純だなって?
あるある?
一言よけいだよ、先生は。
ひとり同士で通学しているうちは
偶然に同じ
みたいな感じで、
電車の中で声かけた。
そのうち、おんなじ学園の野郎で
沿線一緒のが分かってくると、
先に乗ってる奴らに、おれが
合流ってなるからさ。
やっぱり始めだし、
野郎優先になるだろ?
あっち、サユも学校一緒の女子と
電車で合流する様になってたし。
あーでも、
サユの通学友達?あの女子は
おれがサユのこと、見てるの
気が付いてたなあ。
おれって、分かりやすいのかな?
シュウジロウにも即バレだし。
おれが、
学祭の券をもらいたいって、
電車でサユに寄った時にさ、
何か、
キタキターみたいな?
やたら騒いでたからさ。
ええ?よくアタックしたな?
先生、その言い方古っ。
実はさ、
こっちも大変だったんだよ。
一緒に通う学園の野郎達がさ、
サユのこと、
可愛いくないかって話し
始めててさ。
声掛けるとか言う奴、
出てきたんだよ。
なんか、サユは全然思って
なかったみたいだけれど。
色白いし、目、大きいし、
サユは気にしてた身長も
可愛いんだよ。
あー、これはヤバいなあって。
先に手を打っとかないとって
考えてたら、
学祭の券を口実に
話し掛けてた。
だから
戻った時なんか、
野郎達に 券を多めにもらって
くれって頼まれた
ぐらいだよ?
まあ、
通学電車、
満員で大変だったけど
そんな感じでさ、
楽しかったな。
先生って、確か
高校、男子校だよな?
どこもこんな感じだろ?
え、マジ?
中学も男子校のエスカレーター?
それ、凄いなあ。
あはは!
女の子はトイレいかないとか?
そーゆー事言う奴いたの?
お尻に毛なんかないとか?
がー、ヤバ!いつの時代?!
だから
女子が来る学祭とか大変だ?
わかる、わかる。
だってさ、そもそも女子呼ぶ
前提で出し物決めるよな?!
女子ウケするスイーツとかさ、
男が作るんだよ?
あとさ、
教室でフォトスポットとか
必死で飾ったりとか。
なんていっても
おれ達のクラスなんか、
プラネタリウムだよ?
しかも
ペアでしか入れない。
毎年1年生のどっかは、
やるんだって聞いてたんだよ、
ペアで入る企画の。
なら自分達がやろうぜって
ノリな。
でなきゃ、
彼女なんて出来ないって、
男子校だとさ。
一応、バイトは禁止って
なってたし、学園は。
それで、
自分んとこのクラスは
プラネタリウムだけど、
手動で中に入ってる
人で動かすやつね。
だって嫌じゃない?
外でクラスの奴らに
中で話してるの聞かれるって。
すごい?だろ?
もうね、
伝統みたいな感じだって、
学園のペア企画は、
告るの前提、みたいな?
好きですって、言ったか?
ば、先生!!やめろよ!
そんな直球言えないって!
好きってゆーか、
可愛いなー、
付き合いたいな、とか
彼女になってくれないかなとか、
、、んなもんだよ。
好きかあ、、
後から?
付き合いはじめて、
思うようになった気がするよ。
実際な。
好きとか、言うの
やっぱり、なんか
照れるな。
ユカの前に、
アイスクリームフロートが来た
と同時に外が賑やかになる。
例の男、
ヴィゴ=タケル肥後がやって
来たのだ。
その証拠に、
『おつかー。ヴィゴ同窓会参上!
よし、チェックOK!あ☆
生配信してもノープロ?NG?』
『わ!ヴィゴだあ!待って待っ
て!メイク直させてよー!』
『配信はどう?ちょっと中に、
聞いた方がいいよ~。』
受付係の2人が浮き足だって
対応する雰囲気が
2階まで流れてくる。
下の受付での会話に
聞き耳を立てていた
わたしとユカは、
思わず顔を見合わせた。
「やっぱ、配信するんだ。
よくやるねぇ。サユどうする」
アイスクリームフロートの器を
手に持って、窓を見ながら
ユカがスプーンを動かす。
ステンドシールの窓から外を
見下ろすと、
ショッピングモールで見た、
肥後タケルと、
取り巻き同学年達が受付で
自撮り棒を振り回していた。
わたしは
運ばれたチャイラテを、
飲みながら、
「ちょっと様子見するね。」
ユカに答えつつも、
しっかり視線は下の様子を
捉えておく。
受付での答え次第では、
せっかくの同窓会を諦めようか
と顔に出ていたのだろう。
ユカは、呆れた顔をして、
「解った。なんだか、良いのか
悪いのかだよ。半端に有名人っ
て、けっこう厄介じゃん!」
苦笑する、わたしの前で、
ブーイングポーズをした。
『部屋を分けることにした。
撮ってOK部屋でならいいよって
皆んな言ってるから、それで』
『リョーカイ!じゃ!いざ
参りますかっ!同窓会編!!』
電話をしていた受付係が、
中に来ている参加者に聞いた
様だった。
どうやら、
店内総生配信は避けられた
みたいで、胸を撫で下ろす。
「アイツら入って少ししたら、
あたしらも入っろっか?
もちろん、NG部屋だよ!」
せっかく久しぶりに頼んだと
喜んでいた
アイスフロートを、
急いでユカが
口に放り込むと
「ありがとうね、ユカ。」
わたしも
あまり味がしない
チャイラテを飲み干す。
早々に伝票を手に、
ユカと会計を終わらせて
わたし達は隣の店に移った。
『いらっしゃいませ!!、
今日は同窓会で貸し切りです!
お好きな場所へどうぞ!!』
居酒屋の引戸が開くと
下の受付で居た様に、
案内も顔を見たことがある
同窓生が
スタッフの代わりに
わたし達を出迎える。
「ちょっと待って!サユ。
あたしが先に中の様子見る。」
示された場所に行くと、
貸し切りになっている座敷は、
4つの部屋に分けられていた。
部屋の入口には急作りか、
A4コピー用紙にマジックで、
『配信OK部屋』
『NG』
と記されて、
テープで張り付けられている。
「ということは、、」
1つだけがOK部屋というわけだ。
宣言通り、
先にユカが入って覗くと、
「あ、ここ良いよサユ!入ろ!」
残る3つのうち、まだ人が少ない部屋をユカはサユに選んできた。
きっとユカは、
この店を知っているのだろう。
そう思ったのは、
部屋の作りを見てからだった。
部屋を見渡す。
ナガレの顔は見えない。
どこかホッとして、
わたしは中へと進んだ。
テーブルは堀コタツになって
足が下ろせる様だ。
わたし達の後から徐々に増える
参加者が、
声を掛けて右往左往し始める。
『こっちー!』
『おー、久しぶりだなあ!』
『うそ、誰?!わからん。』
波の様に声が一際大きく
響くのは
わたし達隣のOK部屋だろう。
気が付けば
4つに部屋は別れていても、
2つの部屋は中を
行き来出来るように、
壁にドアより大きめの
開口部分があった。
『秋の祭は、、』
『神輿頭が代替わりして、、』
隣からの内容で、
なんとなく
ユカがこの部屋を選んだ理由を
わたしは察する。
きっと、OK部屋の方も
中で通通になる開口部分がある
のだろう。
『イエーイ☆ヴィゴ凱旋!!』
『おお!生ヴィゴ!マジ配信?
映ってるか?おー、世界に俺
顔、出ちゃってる?!』
繋がっていないはずの
OK部屋なのに、
声だけは良く聞こえるから、
すぐに想像できる。
あの部屋の隣なんて座れば
映らないと分けても、
どうなるか。
なし崩しで、、
とも成りかねない。
ユカには感謝しかない。
「ここの部屋なら1番落ち着いて
話し出来るよ、サユ!ほら!」
そんな気を使えるユカに
勧められるたのは、
何人かがチラホラ堀コタツに
座っているテーブル。
「隣、いいですか?」
とりあえず声を掛けて、
そのまま
元男子であろう横に、
座って足を入れた。
丁度この場所なら、
開口部分からも背を向ける
形になる。
「どうぞ~。あ、もしかして
竹花?久しぶりだあ~。」
反対隣に男の子同士で並ぶ
相手と話をしていた顔が
わたしを見て声を出す。
「え、あ、鳥嶋くん?わ、
あんまり変わらないねぇ。」
「そう?竹花は、、ちょっと
雰囲気変わった?街組だよね。」
その顔は見知った男子で、
小学校時代に転校してきた
『鳥嶋シュン』だった。
「あー、鳥嶋!!元気!って、
この間、自治会であったわ!」
「鳥嶋くんとユカって、ご近所?」
シュンだと認めたユカが
ニュータウンの同じ自治班だと
教えてくれる。
今日ユカが連れてくれた新居の
同じ区画にシュンの新居も
あるらしい。
「竹花は未婚?バツ付き?」
都会からの転校生
シュンは、
男子よりも女子友達の方が
早く出来たタイプ。
どこか女子っぽいノリが、
わたしにも気安かった。
遠慮ない言い方が、
相変わらずのシュンだ。
「なに、いきなり。ほら
ごらん、名前の通り。」
まるで昨日まで
中学にいた様になって、
わたしは腰の名札を
シュンに示す。
「名札見えにくいから。それに
旧姓だからって、未婚とは限ら
ないし最近は。ほら、こいつ
みたいにしてくれると助かる」
シュンは名札に視線を
投げると、
テーブル向かいの元女子に
いきなり声を掛ける。
「竹花さーん、久しぶり。
はい、鳥嶋の言う通り、バツ
イチの沢田でーす。」
同時に向かいの女子が
片手を上げて胸元の名札を
見せてくる。
旧姓には( ✕ )とあった。
「すごい、割りきってる。」
思わず声にして感心する。
この雰囲気も同窓会っぽい。
「最近バツイチとか普通でしょ」
そんな、わたしに
彼女は手を振ってニマリと笑った。
「ほら、あいつなんか名札見て」
今度は後ろのテーブルに
座る男子にシュンが指さす。
胸元の名札にある(✕✕)の記し。
「なるほど。」
少し楽しくなってきた。
「ほんと!サユ!ほらあれ!」
シュンとのやり取りを聞いた
ユカが示した先にいる
元男子の胸元を見れば、、
『ナオミ→ナオヤ』になっている。
「ん、?んーー。」
戸惑うわたしを他所に、
ユカは
キャーキャーと、
そのまま『ナオミ→ナオヤ』の
名札を付けた男子に向かって
行った。
きっと本人に事情を聞くのだろう。
わたしは、
それらを見てから
徐に腰の名札を胸元にと
付け替えることにする。
「ちなみに僕は、シュンのまま」
今更名札をつけ直す現金な
わたしの隣で、
シュンが 変わらない風に
笑顔をみせた。
ふと
彼が中学時代に呼ばれた
あだ名を思い出す。
たしか
『ニューハーフ』だ。
わたしの表情を見て、
シュンは
とこか面白そうに口の端を
上げた。
「さっき言われた。そこの、
ナオヤ(ナオミ)の話ついで
にね。てっきり、お前の方が、
女になってると思ってたって。」
どうして、そうなるかなぁと、
シュンは冗談顔で言うけれど。
「鳥嶋くんは、、話し方のせい
かな。本当は漢男だもんね。」
都会から引っ越してきたからか、
地元の同級生と比べると
物腰も柔らかく、
整った顔立ちの
シュンへ
何かやっかみもあったのだろう。
子どもっぽい揶揄が
当時はかなりあった。
中学時代から、
ジェントルタイプだった
シュンは
サラリとした態度で、
少々の揶揄も
気にしていなかった風。
「家柄いい、お坊ちゃんなだけ
あって、レディファーストなと
ころとギャップがあったよね。」
そんな事を昔話がてら、
シュンへわたしが伝えている内
にも、
どんどん部屋には
同級生達が集まっていて、、
とたんに
同窓会開始の時間になると
聞こえてきたのは、
『41期生のみなさーん、注目!
飲み物を注文すると思いますが
最初の乾杯もあるので、とりあ
えずビールを配りまーす。』
『幹事』と書かれたタスキを
掛けて、
拡声器代わりに紙を丸めた
元男子の叫けび声だ。
『車の人はウーロンでお願い
しまーす。代行頼むなら、メモ
に名前書いてくださーい。』
下の受付で見た2人が、
ビールと
手早くバインダーを回している。
「はいはーい!どんどん回して!」
ユカも
1番端になる自負達の列に
ビールを渡しつつ、
わたしとシュンの分のビールを
手にして戻ってくる。
「ねぇサユ!ナオミ、男になって
たよ!しかも結婚してるって!
奥さんだよ!すごくない?!↑」
しかもただでさえ
賑やかなユカのテンションが、
MAX状態ときていた。
「騒がしなあ、それにナオミじゃ
ないだろ、ナオヤだよ。」
クリーム色の泡が
こぼれそうなジョッキを
受け取るシュンが、
興奮するユカに
つっこむ。
「鳥嶋は、相変わらず細かい!
それに中学の時から女々しい!」
すかさずシュンへ
遣り返すユカの言葉に、
わたしは思わず大笑いをして、
シュンは
白い目をユカに投げていた。
その間にも
4つの部屋の真ん中では、
会の進行は進む。
『ビール!!行き渡った?!
今回は居酒屋での気兼ねない
同窓飲み会です!食べ物は
前もって頼んでいる大皿料理!
飲み放題2時間!!
店は我らが41期生1組の飯田くん
が店長!しかも!ご好意で、
豪華なデザートもついて
おりまーす!楽しんで下さい。
じゃあ乾杯の音頭を、えー、
ヴィゴ!ここは、我らがヴィゴ
にお願いしまーーす!拍手!』
しかも口上を述べる
幹事タスキの係が、
ジョッキと丸めた紙を持って、
OK部屋から
ヴィゴを連れてきた。
「う。静かにしとこう。」
慌てて、大笑いの口を閉じて、
背後に座る人の影に潜める。
けれども
壁や柱で影になるのか、
ヴィゴの姿は見えないと分かると、
わたしは安堵して
隣のユカに、目で合図した。
『それでは皆様!☆ビールを
高く掲げて!!
ヒィア☆ヴィ~~からの~!
レッツ!乾っ杯ぃ~!Ye~s☆!』
相変わらずのラップで
乾杯の音頭を
恥ずかしげもなく
金髪揺らすヴィゴが口にしたのを
きっかけに、
集まった全員が
ビールやウーロン茶を掲げた。
『『『『乾杯ー!!』』』
そして唱和すると、
次は隣や向かいのジョッキを
傾けて、
久しぶりの再開に
互いの音を鳴らし合う。
「さすがに、あの音頭、どう?
肥後タケルは、調子のっちゃっ
てるんじゃない?よねぇ?」
さっきバツイチ名札を見せてきた
『沢田マアヤ』が
ビールジョッキを傾けた
と同時に、
辛辣な感想を向かいに座る
ユカに投げてくる。
そんな
マアヤにユカも同調しつつも、
「だよねー!
でも子どもに、
ヴィゴのサイン頼まれている
んだよねー。あの調子だと
後でもらいに行くの、
ほんとっに!萎えるわー。」
派手にヴィゴを払う様に
手を振って、
鞄から昼間に買った色紙を
マアヤに見せる。
「実は、あたしもぉ。田中さん、
早目に行かない?みんな、色紙
持ってるよ、きっと。ほら。」
マアヤが、
ちゃっかり隠していたのか
色紙を出して、
指差す方を見れば、
なるほど。
向こうの部屋に向かって早くも
色紙やノートを持つ列が
出来はじめていた。
ふと
列のある壁に張られていた
青いポスターに
わたしは視線を止める。
「ねぇ、水族館って無くなるの?
鳥嶋くんは、知ってた?」
ポスターには懐かしい
動物園の名前と、
『さよなら思い出の水族館』の
文字が走っていたからだ。
「そう。動物園の中にあるやつ。
動物園自体経営が難しいとかで
水族館を閉めるんだって。
さみしいな。この辺りでも、
少ないデートスポットだから。」
シュンが直ぐ様電話を差し出して
検索をしたニュースを
見せてくれた。
「わかるー。動物園は、
おこちゃまの天国だけれど、
水族館はデートの定番だった
もんねー。1度は行くみたいな」
ローカルニュースには
水族館の閉館の内容と一緒に、
10年以上前の
海から撮った潜水艇の写真が
掲載されている。
本物の潜水艇を使って
海の中を覗ける窓は
小さな水族館でウリだった。
「なくなるのね、残念。」
「竹花もした?水族館デート。」
そう聞くには、
シュンも地元デートしたのだろう。
「地元デートしたよねー。」
「あたしは別れた旦那とだわ。」
運ばれた大皿から
フライドポテトを摘まんで、
マアヤが嫌そうな声で
ユカに応える。
「それで潜水艇で海酔いするの
よね。ジンクスあったけ。」
つい懐かしくなって
わたしは口から『海酔い』ワード
を出してしまった。
「それそれ!潜水艇でデートした
ら絶対に別れるってやつー!」
「あー、だからか。どーりで
うちのところは離婚したわ。」
「沢田はとこは関係ないよね。」
続くユカの『ジンクス』話に、
マアヤとシュンが笑ったことで
とくに
深く聞かれる事もなかった。
「ジンクスね。」
わたしは、
はじめて
ナガレとデートをした日の
苦い経験を思い出して、
ボンヤリと 大皿から
わたし達が好きだった、
鳥の唐揚げを
自分の小皿に入れる。
結局
たかがジンクスと笑い、
されどジンクスだった
のかもしれないと、
溜め息をつく。
付き合うことになって、、
一緒に通学を始めた
最初の週末にね、
電車を降りる直前に
ナガレが
竹花さん、デートしよっかって、
誘ってきたんだよ。
言われた時は
あんまり突然だったから
デートってピンって
来なかったのね。
だからナガレが
すごく優しい声で、
日曜は、おめかししておいでって
塾でなんか見たことない
照れた顔をして
言ってきたのを
自分の頭が理解したら、
ホントに漫画みたいに
顔がボン!!って、
すごく
真っ赤になるのが分かったの。
だから、
うんって頷くしか
出来なくて。
だって
先生、初めてのデートだよ?
先生は人生初デートって、
覚えてる?
どこに行ったの?
やーん!一緒だ!!
やっぱりそうなるんだ。
そうだよね。
うん、動物園の水族館。
先生もおんなじなんだね。
もう
ここら辺の学生は全員だよ。
マスト過ぎてウケる。
え、じゃあ
あの潜水艇って何時からあるの?
本当?!昭和の初め、、
万博の展示してたやつなんだ。
ふーん。
じゃあ、
イルカショーはもっと後だよね
始まったのってね。
ほんとにね
水族館だけだと行かないよ、
あそこ。
デートは
夕方のイルカショー目当て
だったもん。やっぱり。
だってね
水族館っていうけれど、
魚屋さんとかの
ちょっと大きい水槽ぐらいのが
壁に埋め込まれて
並んでるだけなんだもん。
ちょっと地味だよね。
唯一、
潜水艇のまあるい窓から見る
岬の海の中が、
ちょっと感動するぐらいでね。
あ、
先生の時から『ジンクス』って、
あったの?
あれ、『海酔い』と関係する
と思わない?
体験者は語るだよ。
潜水艇からね、
波が揺れるのをずっと
見ていたら酔うの。
それもカメラのレンズごしだった
からよけいにかも。
最悪。
あれね、
初めてのデートの前の日は
絶対寝てないとダメだよ。
当たり前?
だって、ドキドキして
眠れなかったんだよ!
わたしの学校、宿題課題おおいし。
悲しいけれど
忘れたくても忘れない。
わたしね、
潜水艇で酔って、
気分悪くなったんだよね。
先生、視線が痛いよ、、
おさっしの通りです。
わたし、リバースしたのね。
初デートでだよ。
ナガレが後ろから
心配そうにしてたけれど。
わたし、
あんまり緊張しすぎて
知恵熱出していたのかも。
あんまり調子良くなかった
のかな。
余裕なくて
自分じゃ分からなかったから。
戻すとか、
本当に子どもみたいで、
嫌になる。
え、だから潜水艇には直ぐ
トイレがあるの?
わたしだけじゃないんだ。
でも、ナガレ、幻滅したと思う。
繋ごうとしてくれた
手を払っちゃって。
わたし、最悪。
それまでは
本当に楽しかったんだよね。
動物園なんて、
2つ駅の先程度で近くだから
幼稚園から知ってる場所
でしょ?
ナガレだってそう。
先生も?ふふ地元あるあるかあ。
きっと
小学校が隣だっただけで
わたし達、小さい時から
同じ場所で遠足とかで
知らずに
出会っていたと思うんだよね。
なんだか不思議。
それで
キリンに葉っぱあげたり
ロバに乗ったりなんて
子供の時から散々していて、
水族館だって
何回もイルカのジャンプを
見てるのにだよね。
なのに、
夕方のイルカショーって
初めてだったし、
あの潜水艇に
イルミネーションが
灯るなんて知らなかったなあ。
先生も?あはは!
みんなカレカノ出来て
初めて夕方の水族館に行くんだ?
それで
えー、同じこと思ったの?
夕方の水族館は大人の階段?
そうだよね。
空がピンクのグラデーションに
なる中を、
金色の玉をね、
COOちゃんが
水の中から揺らすと、
水飛沫で虹が出来るの!
あと
イルミネーションが反射する
から、
潜水艇の窓から見る海には
ホタルが飛んで見えて
夢みたいでね、
ずっと覗いてた。
まるで
全然知らない世界みたいで、
もしも
地元デート、
していなかったら一生知らない
ままだったなあってね。
先生、
その時に一緒にいた人と、
その後どうなったの?
ジンクスは絶対だった、、
そうなんだ。
わたしは、
潜水艇で海酔いして、
リバースした後
水族館の外にあるベンチで
ナガレに寄りかかっていたのね。
それで、
体調悪かったなら言ってくれれば
良かったのにって
ナガレに慰められて、
どうして言えなかったのか
なあって
海から吹く夕凪の風に
あたりながら
ごめんなさい早瀬くん。
って
謝ってたけれど、
ナガレの顔見れなくて。
初デート無くなってしまうの
嫌だったから
だって、
隣で交差させた長いナガレの足を
見ながら
考えてたんだよ。
女の子っぽくって買った
白いフレアスカート。
せっかく
可愛いって言われたのになあって、
夕日が海に落ちていくのを
不機嫌なナガレと
2人で見てたんだよね。
結局、
ナガレも呆れたんだと思う。
だって初デートで、
海酔いするとか無しだもん。
何、先生?微妙だなあって?
なんで先生が
今謝るの?
へんなの、先生。
「早瀬、すまね!ちょっと
見て来てくれないか?、その、
マコが、居たら俺まずいから」
向かいに座っていた祭山頭の
虎治ダイゴが
申し訳なさそうに手を合わせて、
頼みこんできた。
虎治の事情は、
おれ達地元組の、
暗黙の了解だから仕方ない。
「わかったよ、向こう見てくれば
いいんだろ。まったく、、」
いいながらも、
おれは正直なところ、
4つの部屋を公然と見て回われる
口実を
手に入れれたラッキーさに
内心浮かれながらも、
しぶしぶという態度で
色紙も片手に、
掘りコタツから立ち上がる。
「おい、それ。色紙、ヴィゴに
早瀬も貰うつもりなのか?」
どうやら、
しっかりと色紙を見つけたらしい
ダイゴが、今度はおれを
睨んでくる。
かつて、
おれ達中学時代に
ヤンキー道を地元で極めた
『ダイゴの睨み』は伊達じゃない。
「悪い?うちのショップに飾るっ
て言われて頼まれたからさ。」
それも、長い地元付き合いで
すっかり慣れてしまった
おれ。
怖面のオーラを、
どこ吹く風という顔で応える。
「ついでに、コレも頼む、、」
ちゃっかり自分も色紙か。
それよりも、
「わかったよ。虎治も難儀だな。
奥さんとの約束とはいえさ。」
「俺が悪い。それに、未だに
会ったら、どんな顔すりゃいい
のか分からんのよ。笑うか?」
本当に難儀な男、ダイゴに、
周りを囲む仲間達も苦笑する。
「別に、笑わないって。行って
くるから、そこで潜っておけ。」
そう呟いて
色紙をユラユラさせながら
お目当ての姿を探して、
何気なく1つ1つの部屋に
視線を流す。
そんな おれの肩が
後ろから叩かれて、、
「!サ、」
期待を持って、振り替えったが、
「シュウジロウ、、か。
お前、てっきり 一緒に来るん
だと思ってた、
って、えらく着替えたんだな。」
立っていたのは
思っていた相手じゃなく、
さっきまで家の玄関に居た男。
しかも、
さっきはGパンにTシャツだった
はずが、
何故かスリムなスーツ?だ。
まあ、
自分も下ろしたてのシャツ
だけれどさ。
「一応、久しぶりの同窓会だ
からな。ナガレは、色紙か?」
シュウジロウはニヤニヤして、
おれの持つ2枚の色紙を示した。
「虎治に頼まれたのと、店に飾る
やつ用に持たされた。シュウジ
ロウは何処に座ってるんだ?」
「OK部屋の続き部屋。ナガレは
NG部屋の、、地元組の部屋か」
入口から
おれが出てきた部屋の中を
見やって
シュウジロウは肩眉を上げると、
中の地元組達に
片手で挨拶をして、
「ちーっす!例の水族館の件、
通りそうっすよ!また明後日。」
地元有志で閉館になる水族館で
『サヨナライベント』を企画
している事らしき内容を
口にした。
そう言えば
役所でセカンドワークだとか
言っていたなと思う。
「後で、シュウジロウの処に
飲みに行くよ。さっき、あんま
り話せなかったからさ。」
あの水族館は、
この辺りの学生ならば
1度はお世話になる
デートスポットだったから、
虎治ダイゴが筆頭になって話が
進んでいる。
きっとダイゴも、
行ったんだろうなイルカショー。
「まあな。でもオレ、いろいろ
席変わるつもりだぜ?いいか?」
シュウジロウは
今度は
わざとらしく肩を竦めて
両手を上げるポーズだ。
中学の頃から
どこか捉え処無いシュウジロウ
らしい調子ともいえるか。
「探すって。じゃ後で飲も。」
気が付いたら、
やたら部屋の外に列が出来ている。
色紙や、ノートを
手にしているという事は、
皆んな同じ考えか。
昔、
塾に通っていた時みたいに、
シュウジロウと
2人で目配せをした時、
突然聞こえたのは
『アロハロハ~☆ここで、OK部屋
から生配信だぜぃ。まじぃ?店
にマイクあんのぉ?カラオケ用
ね。OK、OK。
じゃあ、同窓生へのぉ、ヴィゴ
インタビュータイムで~す☆』
ヴィゴこと肥後タケルの
マイクからの声だった。
『けっこうねぇ、ヴィゴ同級生's
には有名人いるんだよん。ま、
ナンバーワンは、おれヴィゴ
だぜ?で、ジャーーン!☆
細胞学で世紀の大発見で受賞
した大学研究室でイケメンが
いるってバズった助教授☆
天才の浜名くんでぇす!拍手』
『うそ!浜名くん?!』
聞こえた内容に、
さっきまでヴィゴには
興味なさそうだった元女子から
とたんに黄色い声が上がる。
『う、相変わらずカッコいい、』
一気にOK部屋への人口が
増えて、
おれとシュウジロウは
勢いに弾かれ流された。
「ああゆう同い年いると、
オレ達みたいな一般は肩身せま
いよな。まじ、名札に仕事とか
役職とか書く欄なくて良かった
わ。 浜名にはサインもらお。」
シュウジロウは、
乱れたスーツを直した指で
名札を弾きながら、
胸ポケットの手帳を出した。
「名札に仕事って、まるで
婚カツパーティーだな。え、
シュウジロウ、本当に浜名に
貰うのか?なら店に浜名の飾
るかな。色紙1枚しかないか」
一瞬、
シュウジロウが
やたらスリムなスーツ姿なせいか
本当に婚カツパーティーに出る
意気込みに錯覚をした、
おれは
何故か浜名の名前を
畳み掛けていた。
「ヴィゴと浜名なら、浜名かも。
あいつ助教っていっても、
ほとんど浜名の実績らしい。
あっちに居た時に、上京組で
飲んだ時愚痴ってたからな。
その内にきっと有名なるぞ。」
「本当かよ。なら浜名一択か。」
「マイク離れたら、行ってくる。
じゃあ、ナガレ後でな。虎治とこ
にも後で行くからさ。じゃ。」
シュウジロウは、
おれが並ぶ列から外れて
声が聞こえるOK部屋にと消えた。
「ダイゴにな。」
虎治ダイゴ。
喧嘩番長だったダイゴが、
その名を周辺学校に轟かせていた
懐かしい中学時代。
そんなダイゴの
当時の彼女、田村マコは
いわゆる女子で頭を張っていて、
高校に上がれば、
レディースの総長になると
言われていた美女。
後に別れた2人。
言っても、
一方的に振られたのはダイゴで、
彼氏から降りても、
ダイゴは田村マコを
変わらず
好きだった。
未だに好き過ぎて、
後に彼女になった現嫁に、
田村マコに半径5メーターは
接近禁止令を出されている始末だ。
「それでも、
今日だけは人の事は言えない。」
おれは、
列を進みながら、
横に張っている
『サヨナラ思い出の水族館』と
走り書きされた
青いポスターを
見つめていた。
ダイゴの事を、おれは
笑えないんだよ。
え?サユとの初めてのデートは、
絶対水族館に行ったんだろって?
そんなのさ
当たり前だろ、先生!
だいたいさ、この辺で
それっぽいとこは、、
あっこしか無いし。
なんだよ、先生。
高校入ったばっかりの
金無しの子供が行ける
デートなんて、
動物園だけだって?
残念でした!おれ、
下の海でマリンクラブの手伝い
してたからね。
ヨットとかスキューバの受付の
バイト代あるんだよ。
マジマジ。
うん、学園はバイト禁止だよ?
ほら、知り合いの手伝いだから
セーフな。
それに、
家ん田んぼからも動物園に
エサ藁の寄付してるからさ、
年1でタダ券貰えるんだよ。
まさにラッキーアイテムと、
地元裏技スキル発動ってやつ。
そーゆー先生こそ、
ビンボー学生の水族館デート
したんだよな?
知ってた?
おれもマリンクラブの友達に
教えてもらったんだけれどさ、
対岸の街にさ遊園地あるだろ?
覚えてる?
あそこさ、
アニバーサリー月のイベントで
夕方1ヶ月だけ週末に花火が
上がるんだよ。本当だって!
で、
水族館の防波堤が、
バッチリ花火、
観覧できるんだって。
遊園地だとさ、
凄い混んでる中で見上げるのを、
地元の漁師とか
船ある家なんかだとさ、
海から見れるんだよ。
凄くない?
それが
こっちの防波堤からも
十分綺麗に見れるし、
しかもさ、誰も人も居ない。
水族館の影になるから
こっちの陸のやつは、
あんまり知らない穴場だよ。
な?いー場所だろ?
何?そのイヤらしい顔、先生。
花火見越して、
サユを誘ったのかって?
そりゃそうでしょ。
デート、なんか他にないかと
思ってマリンクラブん先輩とか
聞いたんだから。
いや、そりゃ付き合って
1週間ぐらいじゃ、
そんな出来ないけれどさ。
まあ、その時かな
バイトで仲良くなった
同じ中学ん野郎から、
サユのことを教えてもらって
気が付いたってゆーか。
おれさ、
テニス部のサボリ組じゃん?
バイトん友達が真面目に部活
してたタイプでさ、
放課後に毎日テニス部の
スケッチしてた美術部のことを
言われたんだよな。
おれ、
集会の時にしかサユを
知らないって思ってたけれど
違ったんだよ。
思い出したらさ
部活サボリで帰る時に、
いつもスケッチしながら
前髪とか髪をやたら気にしてる
女の子いるなって、
見ながら通り過ぎてたのが、
サユだったわけ。
あれさ、
当時テニス部の部長してた
肥後の事、気にして
髪を直してたんだなって
気が付いてさ。
なんか
自分の為にお洒落?して
デートして欲しくなった、
みたいな?
うわ!キモ!おれ、キモ!
だから結構考えて
花火だって時間気にしてたんだよ
たださ、
ほら潜水艇で、
先生知ってる?イルミネーション
してるの。あ、そ。
知ってんだ。つまらん。
光る海の中を見てたサユが、
魚の群れに向かって、
レオのとこで取る魚って、
あんな感じなのかなって言った
んだよ。
先生、
その時のおれのこと、
サユはまだ早瀬くん呼びで、
おれだって、竹花さんだぞ?
だいたいさ!先生が塾で
おれは早瀬くんで、
レオは、レオくんでさ、
サユはサユちゃんだったろ?
だからレオが
調子乗ってサユの事、
サユちゃんって呼んでたんだよ。
だからサユがレオくんって
言うことになるんだよ!
先生、
責任とってくれよな!
デートで他の男の名前呼びとかな!
なーんてな。
いや、あの時は軽くショック
受けてライフ削られたー。
お陰で、
サユが海酔いしてるのに
気が付かなくって。
サユ、体調、悪くしたんだよ。
だから
さんざん考えてた花火を、
防波堤でサユと見れなくって
手を繋ぐのも、
名前呼びしてもらう
タイミングも逃したし、
なんかクソレオにムカついて
後からオヤジと海釣りに
船借りて出て、
バカほどアジを釣り巻くったん
だよ。
あ、それで大量のアジを
うちのオヤジとサユの家に
持って行ってさ、
オヤジにサユを紹介して、
サユんとこの親に挨拶したな。
意外と律儀だなって?
おれ、長男で妹いる兄貴だよ?
いろいろね、
ケジメはちゃんとするんだよ
おれは、
誰かさんとは違ってね。
もちろん、レオだよ先生。
本当に、レオ、先生とこ顔出して
ないんだな。
あいつといい、シュウジロウも。
うん?
それから後で花火を見に行ったか?
そういわれたら、、
後にも先にも、
あれっきりだな。
先生は、
初めてのデートで行った
あの水族館ってさ
その後に行った?
行かない?
だよな。
何なんだろな。
考えたらさ、
直に車の免許取ると
もっと別に良いところに
車で遠出できるからかな。
はは。
ま、初カノとの場所に
次の彼女と行くってもだよな?
足がなくて、
そんなに自由な金ねー学生だから
こそ行く
地元の場所かもな。
あー、そう分かってたらさ
なんだか もったいなかったな。
初めてのデートで行った
きりに見れる景色だったんだよ。
防波堤からの花火は。
水族館が閉館になりゃ、
防波堤には
二度と上がれないんだからさ。
乾杯の音頭から20分もしない内に
2時間制の同窓飲み会は、
誰ともなく
席替えが
早くも始まっていたわけで。
「竹花って、どっちかというと、
静か清楚女子だと思ってたけど
全然コミュ力パワー系だったん
だ。上京して垢抜けたしね。」
そんな中
シュンとわたしは
未だに隣同士、
2杯目のハイボールをピッチ良く
飲んでいる。
「そうかな?でも仕事柄かな。
図々しくなったのかもね。」
目立ちたくない気持ちから、
周りを気にしつつ
わたしは、
ユカとマアヤが
ヴィゴにサインを貰いへ
行った後も、
気兼ねないシュンと
昔話に花を咲かせていた。
「竹花って今何してるの?」
聞かれて初めて、
わたしは
横に置いていた鞄から
名刺を出してシュンに渡す。
「凄いじゃん!!こんなハイ
ブランドでディレクターって。
あれだよね、ブランド戦略とか
シーズンで自国展開を考える。」
シュンは
わたしの名刺をマジマジと
見てから、
今度は自分のジャケットから
シュン自身の名刺を
差し出しつつも称賛してきた。
「わ、鳥嶋くん よく知ってる。
ほとんど皆んな、アパレル部員
の上の役職ぐらいに思うのに。」
「名刺で相手のグラウンドを
推し量るのは、大切だからね。」
シュンの名刺から、
彼の役職名に気が付いた
わたしは、
思わず
シュンのジャケットを掴んだ。
「って、鳥嶋くん!取締役って、
凄いね。ボトルウォーターの
会社ってのは意外だけれども。」
「これが本当の水商売ってね。
今は其所の会社の取締してる
だけだよ。ほとんど人脈開発
を仕事に企業を渡り歩くって
感じかな?外部役員なんて。」
どうりで、
掴んだ服地の感触が良かったわけ
だと腑に落ちる。
「人脈開発?取締役って、
そんな感じなんだ。
ふつうの外資系会社員じゃ
想像できないんだけれど。」
「要するにパーティーに出るのが
1番の仕事だよ。社交戦略。」
結構凄い事をシレッと暴露して、
何ってことない素振りのまま
シュンは
グラスの中身を空にした。
「・・・人を覚えるの確かに
得意だったね。鳥嶋くん。」
どこか飄々とした態度のシュンを
引いた視線で見て、
わたしは態とらしく
シュンの名刺を指さす。
隣の部屋からは、
ますます
賑やかな声がマイクで聞こえる。
『アロハロハ~☆ここで、
OK部屋から生配信だぜぃ。
まじぃ?店マイクあんのぉ?
カラオケ用ね。OK、OK。』
カラオケだって、
なんて
歌わないよねとか言い合い、
シュンと2人で
名刺を
それぞれに直していると、
「あ!いたいた!!鳥嶋!
久しぶり!俺の事覚えてる?」
マアヤが不在で空いた席に、
突然1人の元男子が
座った途端、
シュンに
ぐいっと名刺を出してきた。
「覚えてるよ田原くん。卒業式
ぶりだよね。ああ、僕も。」
急な割り込みに関わらず、
シュンは出された名刺を
手にして、
自分のポケットからも
さっき
わたしに出した同じモノを
相手に渡した。
「田原くんは、オフィス設置の
自動販売機のメーカーだね。」
田原ケイジ。
同じ小学校で、身長が低い者同士
いつも2列になると
わたしの隣にいた男子だ。
「さすが!言いたい事がすでに
わかってるって感じ?聞いた
ところによると鳥嶋、今会社の
トップ役職なんだって?
ちょっとオフィスに用立て
なんかしてくれないかなあ。」
「同級生のよしみで?会って今?
わかった検討するよ。前向き
にね。同級生のよしみだ。」
「よ!鳥嶋役員!!ありがとー」
あまりに
明け透けとしていて、
ケンジは
こんな性格だっただろうかと
怪訝に思っていたら、
漸く
わたしに気が付いたらしい。
「えっと、竹花だよね?
あー、そうか!凄いよな!
海外ブランドで働いてるんだ?」
目を丸くするケイジに、
自分から名刺を渡しておく。
そんな
ケイジとのやり取りを始めると
シュンが徐に席を外した。
見ると指で『C』を作っている。
懐かしい
中学で流行ったトイレサイン。
ケイジもそれを
笑いながら了解する。
「悪いけれど、うちは無理よ。」
シュンが消えたところで、
わたしはケンジに先制攻撃した。
「えー!竹花、何か変わったな。
こんなに手厳しい感じだっけ」
ケンジに言われるのは心外だ。
「田原くん、もしかして同窓会で
全員に営業かけてるの?」
「まさか!そんな効率悪い事、
するわけないだろ?ちゃんと
リサーチ済み。竹花のことも
事前に調べてるんだって。」
ケンジは
両手を胸の前で振って
慌てて見せるポーズだ。
「なに、それ。」
「出来る営業は、アポ前に
SNSリサーチしてんだよ。
便利な時代だろ?会社の方針で
企業アカで、アップしてるとこ
から個人サーチすんだよ。」
得意げに机に出されたのは
プリントアウトされた表。
ちょっとゾッとする。
「呆れる。リストしてるの!」
「おう!!鳥嶋はOK。竹花は
また、そのうち会社に直でな」
わたしの非難の声を
完全に取り違えたまま、
田原ケンジは
ボールペンでリストに
意気揚々と
シュンの横に◎チェックを
入れた。
「いや、こないでよ。」
「さ、有名人は人だかりが
引いてからだな。肥後と、」
ケンジのやつ、
全然人の話を聞いていない。
小学校1年から中学まで、
結構な頻度で隣にいた相手が、
営業モンスターになっていて
わたしは絶句しかない。
「まだいたんだ、田原くん。」
戻ってきたシュンが、
わたしの様子を察したのだろう。
すこし毒っぽい声を出して、
ケンジのリストを
チラ見する。
「すぐ次の島に飛ぶって。あら、
マイク回ってくるみたいだな。
俺は~歌わないから、じゃ!」
さすがに
その視線の意味は分かったのか
ケンジはポケットにリストを
しまって、
わたし達の前から
いそいそと後ろの列に移動した。
「竹花も営業された?」
「された。鳥嶋くん、いいの?
いいように営業かけられて。」
タブレットから
飲み物のメニュー画面を
開きながら
シュンは答える。
「いいんだよ。どうせ何台かは
要るものだから。助け合い。」
「なんだか鳥嶋くんは心配ね。」
「そう?本当は腹黒って、竹花は
知ってるよね。それにさっき
トイレ出たところで、保険の
営業もされたよ。あれは元
3組の古藤さん。覚えてる?」
タブレットを見せられたついでに
わたしも梅酒ボタンを、
押そうとして
わたしはシュンの言葉に
慌てた。
「なんとなく、って、保険?」
「そ。今更だよ。だって僕、毎月
保険で30万払ってるからね。
なんだか皆んな?来るんだよ。
同学の女の子達がね。」
「鳥嶋くん、、、カモだね。」
「ネギしょってる?ってね。」
冗談で気分を変えた
わたしも、
飲み物オーダーを
し終わったタブレットを
戻そうとした
時、
手のタブレットが
フイに軽くなって、
後ろから取り上げられる。
「なに?ずっと2人でツルんで
んの?ちょっと混ぜてくれよ。」
振り替えると、
取り上げたタブレットから
梅酒をオーダーする
シュウジロウの姿があって、
「今度は、橘シュウジロウか。」
シュンがタブレットを
見たまま、
わたしの隣で呟いた。
高校時代に
たまたま通学電車で
会ったきりのシュウジロだ。
そんな風に思っていたら、
突然
空いている
わたしの隣のユカ席に
シュウジロウは
ドカリと座ってきた。
「橘って、
竹花と仲良かったんだ?」
突然
わたしを挟む男子同士に
なったシュンが、
シュウジロウに話しかけると、
シュウジロウが
タブレットを
わたしの奥に戻して答える。
「高校受験の塾からかな。
一緒だった仲だよ。竹花も
久しぶり。あれ以来だよな。
相変わらず元気そうだな。」
塾でなら、いざしらず。
わたしとナガレが、
電車に並んで乗る姿を見れば、
自ずと
付き合っているだろうと
予想出来るはずなのに
あの時、
シュウジロウは何も
わたし達に
聞いては来なかった。
シュウジロウが言う
『あれ以来』というのは、
あの時の事だと思う。
徐に思い返している
わたしを余所に、
シュンとシュウジロウは
わたしを挟みながらの会話。
「橘、えらく洒落てる。でも
ネクタイ、疲れないか?」
「同窓会だっていうからさ。
けっこうカジュアルだな皆んな」
そう言いながら、
シュウジロウは
わたしの目の前で、
ネクタイに片手を掛けて
無造作に喉元を
寛げると、
「居酒屋飲みなら、無礼講か。」
わたしに向かって
肩肘を机に預けた。
「橘くんって、相変わらずね。」
シュンと
軽口を叩き合うような返事と、
わたしには
久しぶりの挨拶を続ける
シュウジロウ。
シュウジロウとは、
塾で話をするようになった
けれど、
もともとは小学校どころか
幼稚園からの同級生になる。
どこか子供の頃から
キザな雰囲気を出していた
から、
わたしとはタイプが違うと
気後れしていたのもある。
ユカに言わせれば、
カッコつけ過ぎてキョドっている
らしいけれど。
「あーーー!あたしの席なくな
い?!誰が座ってるのー!」
3人で横並びして
話始めた時、
色紙を振り回して、
ユカとマアヤが戻ってきた。
「橘じゃん!あんた
街組だったよね?あれから、
どうしてたんだよー!」
ユカはシュウジロウの首に、
後ろから羽交い締めみたいに
腕を掛けた。
幼稚園から一緒なのは、
ユカも同じなのだ。
「ぐ!、都会の荒波にもまれて
都落ちしてきたんだよ!苦し!」
「なにそれ?てことは、戻り?」
ユカはシュウジロウに締めていた
腕をほどいて、
手でシュウジロウを追いやる。
自分の席を開けさせたのだ。
「半年前から役所勤務してる。」
仕方なくシュウジロウは
周りこんで、
シュンの向かいの席に移動した。
わたしの向かいに座る、
マアヤの隣だ。
「あー。なるほどね。じゃ、
ここは一発、歌、歌っときな」
だからか隣に移ってきた
シュウジロウに
丁度戻りで
回ってきたマイクを、
マアヤが否応なしに
シュウジロウに押し付けた。
「マジか?!いきなり?!」
「丁度、マイク回ってきたわけ。
助かったわー、橘様々よ。」
マアヤから
無理やり渡されるマイクに、
シュウジロウは
あたふたとしている。
「へぇ、橘くんが歌うの
見るとか、初めてだよね。」
わたしは珍しいシュウジロウの
焦り顔を見ながら、
奥に直された
タブレットをもう一度出して、
曲を入れるスタンバイ。
タブレットからは
メニューだけでなく、
ネットカラオケのオーダーも
出来るのだと、
話している間に
シュンから教えてもらったのだ。
「これって、もうスナックの
ノリだよねぇ。観念したら?」
「何する?ノリイイのいく?」
意地悪い顔を態とらしくする
シュンが、
シュウジロウに
わたしの手の中にある
タブレットを示す。
マアヤがマイクの後から
回されてきた、
ヘッドレスタンバリンやらも
机に広げてきた。
「ハイ!サユとマアヤっちは!
鈴!鳥嶋は、マラカスだね!」
「マラカス、、わかった。」
項垂れるシュンを余所に
ユカは、
鳴らすとタンバリンが
光る仕組みを気に入ったのか、
「よし!!橘!歌うのだ!それ」
叫びながら
シュウジロウに
『たーちばな!たーちばな!』と
エールを送り始めた。
気が付いたら、
騒いでいるのが注目を集めて
しまったのか
部屋の全員からコールが起きる。
「な!なら、竹花!曲入れて!」
満更でない顔を浮かべた、
シュウジロウが選曲したのは
わたし達学年には馴染みの曲。
体育祭の応援曲だ。
紅白に別れて応援合戦をする
体育祭は、
前半紅組と後半白組のクラスに
別れて点数を競い合う。
だから同学年の半分になる
後半の白組は、
この曲で応援の演舞を
踊れてしまう。
わたしが
シュウジロウに指定された曲を
入れて、
前奏が流れた途端に、
『『『おー、あの歌かよ?!』』
『『懐かしい!!』』
あちらこちらから、
感嘆の声が上がって、
あっという間に
シュウジロウの歌声の元、
揃っての演舞を始めて、
もうお祭り騒ぎだ!!
わたし達は
踊りを引っ張るボーカル=
シュウジロウの賑やかしに、
各々
ハンドベルやマラカスを
存分に鳴らして
大いに拍子を取った。
今日が店まるまる貸し切りで
良かったと思える程、
部屋の中は
振り付けを踊る同級生と、
それ写真にしたり、
拍子を取る組とで
揺れに揺れる。
もちろん、
シュウジロウの歌が終わると、
お返しとばかりに
前半紅組の応援歌が流れて、
また演舞大会になった。
「あー、懐かしい!最初は
スナックカラオケかって話して
たのになぁ。な、竹花さん。」
隣のシュンの言葉に
わたしは頷きながら、
自分が初めて
『スナックデビュー』した日を
思い出した。