随分と涼しくなった。
山のイチョウがうっすら黄色に色づき始め、朝晩の空気が冷たい。
―― 尽世での生活にも結構慣れてきたな。
現代日本で生きてきた時は一人暮らしで、家族もいなくて、仕事と家との往復しかしていなかった。
ずっと孤独で、どこかモヤモヤしながら生きてきた。
でも、今は、仲間もいるし、やりがいのある仕事もあるし、恋人もできた。
尽世での充実ぶりがびっくりだ。
少し自分の意志と違うのは、帝の参与という役職を与えられて、色々と朝廷と文章をやりとりしていること。
帝の質問に答えたり、タカオ山周辺の情報を提供したり、現代日本の政治システムのことを教えたり。
紙に手書きするのは結構時間がかかる。
―― 少しだけテクノロジーが恋しい。
とはいえ、尽世でもテクノロジーの発達はある。
少し前に伊の国で開発された木版技術のおかげで、短時間にたくさんの印刷物が作れるようになった。
その技術もますます進んでいるらしく、最近では、新聞のような瓦版も町中で安く買えるようになった。
このブームにのっかって、小雪ちゃんを部長にする手習い所の漫画部は鬼武者を題材に漫画を出版して、ヒットを飛ばした。
漫画を読みたいがために字を習いに来る生徒も増えて、手習い所も忙しくなった。
小雪ちゃんたちの成功は女でも自立して働けるという、いいお手本になり始めている。
沢山お金を稼げるようになった小雪ちゃんと漫画部は、その一部を手習い所に寄付してくれた。
「こんなに寄付してくれるの?」
私は渡された金子を見てびっくりする。
「はい。それもこれも那美先生のお陰です。紙や墨を買うのに使って下さい。」
小雪ちゃんも漫画部の皆も生き生きして、まさしく青春って感じで眩しい。
「紙や墨を買うにしては多すぎるよ。じゃあ、このお金、手習い所に来たいけど、月謝を払えない子たちの奨学金にしてはどうかな。」
「奨学金?」
うん、と頷いて、私は奨学金のことを説明する。
「お金が全然なくても、孤児でも、ここで学べるってことですか?」
「そう。だって、誰がどんな才能を持ってるか分からないじゃない? 孤児でも、いつか、小雪ちゃんみたいに才能を発揮して自立する子が出てくるかも。 そういう子たちに機会を与えるためにお金を使うのはどうかな?」
「それ、やりたいです!」
私たちは話し合って、学生支援機構を立ち上げた。
小雪ちゃんが信頼している手習い所で算術が一番得意な里ちゃんという子にその運営を任せることになった。
「私、小さい時からずっと絵を描いていたのだけど、皆に馬鹿なことやめて嫁入り修行しろってずっと言われていたんです。」
小雪ちゃんは、今、15歳で、この辺りでは、このくらいの年にお嫁に出されるのが普通だ。
小雪ちゃんにも20歳も年上の男性から縁談の話しが来ていた。
小雪ちゃんのうちはお父さんが戦で亡くなって、お母さんが女手一つで小雪ちゃんをはじめ、6人の子供を育てていた。
だから、小雪ちゃんが、ずっと年上の財力のある人に嫁げば、家族の暮らしは多少良くなると思っていた。
「でも、どうしても嫌だったんです。あんなオヤジの元に嫁ぐのは。いかにもエロそうだし。ちょっとくさいし。キモイし。」
歯に衣着せぬ勢いで小雪ちゃんが縁談相手をディスる。
しかも私が教えてしまったエロとかキモイという言葉を使いながら。
―― しかし、エロくて、くさいのか。そんな人のお嫁に行かされそうになるなんて気の毒すぎる。
「私、もっと、中性的な人が好みなんです。スラっと背が高くて、色白で、見目麗しい、そう、光源氏のような…」
―― あ、小雪ちゃんが乙女モードに入った。小雪ちゃんはアイドル顔が好きそうだな。
でも、結果的に結婚しなくても、漫画を頑張った方がずっと暮らし向きは良くなり、お母さんも納得してくれて、縁談もすっぱり断った。
「私の絵を笑ったり、しかったりしないで、色々と指導して下さったことに本当に感謝しています。」
「指導だなんて。小雪ちゃんの才能だよ。」
「そんなことないです。那美先生が認めてくれなかったら、私、自分でこんな風に自分の好きなことでお金が稼げるって知りませんでした。」
「そういう風に言ってもらえたら、私もすごく嬉しい。」
「あと、那美先生にお願いがあるんですが。 あの、『すたんがん』っていう物のことです。」
小雪ちゃんは私に早くスタンガンの開発をしてほしいと言った。
このところ、私は照明器具の方に力を入れていたから、スタンガンの開発の進行具合はとてもゆっくりだった。
「どうしてスタンガンが欲しいの?」
話しを聞いていると、どうやら小雪ちゃんが縁談を断った相手がストーカーになりつつあるみたいだ。
「この前も帰り道をつけられて、怖かったんです。一人では出歩かないようにしているんですけど。」
やっぱり、女性を守る物が必要だな。
そんな事なら、私も急がなくちゃ。
私は小雪ちゃんの要請を受けて、スタンガンの開発を進めた。
―――
商品化できない問題点が二つあって、一つはスタンガンが悪用される可能性があることだ。
女性を守りたくて作ったのに、男性の手に渡り、女性を誘拐するのに使われたりしたら本末転倒だ。
これについてはオババ様に色々アドバイスをもらった。
「使用者が本当に危機を感じた時にしか発動しない仕組みにするといい。そうすれば、人を害そうとする者に悪用されることはない。」
「なるほど。本当に護身のためにしか発動しないのですね。」
オババ様はそうするための術を教えてくれたが、なかなか上手く行かなかった。
「その術式を毎日練習しろ。オヌシなら習得が早いぞ。」
もう一つの問題点は、威力がどのくらいか分からないことだ。
人体実験できないから、殺してしまうほどの威力があるかもしれない。
殺してしまわない程度だったとしても、どんな反応があるのか、後遺症が残るのか、未知の部分が多い。
これについては、伊月さんが意外なアイディアをくれた。
「人体実験か。できるぞ。」
「え?」
「内藤だ。」
「あ。内藤丈之助で?」
「ああ。これまで、さんざん女人をいたぶってきたのだ。少しは女人の護身のために貢献しても良かろう。」
「でも、もし、威力が強すぎて、死んでしまったら・・・。」
伊月さんは周りを見回して、グッと顔を寄せると、小声でささやいた。
「生田と黒田に私の暗殺を頼まれたことを、いきさつも含め詳細に手記させた。」
「え? よく書きましたね!」
「牢守の手腕だ。」
―― 拷問ってことかな。
「嫌な思いをさせるだろうから、そなたにはこういう事を話したくないのだが…。とにかく私たちの欲しい証拠はそろった。」
「じゃあ、内藤はもう、用無しってことですか。」
「ああ。」
内藤はどのみち死刑が決まっている死刑囚だ。だけど。
いくら内藤がひどいやつでも、私は人に痛みを与えるような自分があまり好きじゃない。
―― 寝つきが悪くなりそうだ。
でも、平八郎さんが山賊に殺されかけた時に伊月さんが言ったことが脳裏によぎった。
「ためらうな。お前のためじゃない。ここにいる全員の命のためだ。」
あの言葉がまだ胸の中に残って、ずっと響いている。
「ためらうな。私のためじゃない。小雪ちゃんたちや、かどわかされた女性たちのためだ。」
私は思わず声に出していた。
「ん? 覚悟が出来たか?」
伊月さんを見つめる。
この人もこういう覚悟を毎日して生きているんだ。
ここにいる守りたい全員の人たちのために自分の手を汚すことをためらわない。
ためらえば、守れないから。
それがどんなに苦しいことでも。
寝付きが悪くなるような事でも。
「覚悟ができました。」
私は色々な強度の試作品を伊月さんに見せた。
「スタンガンの使用実験をお願いします。」
こうやって、内藤で実験したことで、沢山データが集まり、スタンガンの出力調整が上手くできた。
オババ様から習った術式も、毎日練習していたら、2週間もしないうちにできるようになった。
この練習でカムナリキを相当に消耗したけど、夕凪ちゃんが差し入れてくれたおにぎりと、伊月さんに以前教わった滋養強壮の薬で何とか乗り越えた。
―――
「商品化できたよ!」
私は小雪ちゃんに一番にスタンガンをあげた。
「ありがとうございます!」
小雪ちゃんは、うっすら涙を浮かべている。
最近、縁談を断った男のストーキングがひどくなってきているみたいだった。
「いくらスタンガンを持っていても、それは心配だな。絶対一人で出歩いちゃダメだよ!」
「はい。」
私は手習い所に通う全ての生徒にスタンガンを無料提供した。
使い方を教えて、いつも肌身離さず持っているように言った。
スタンガンは娘さんたちのためにと、武家と商家の親がよく買ってくれて、また収入が増えた。
同時進行で開発した照明器具はずっと簡単に商品化できて、それも売れ行きが好調だった。
まだまだ高価な代物で、庶民には行き届かないけど、こっそり、外国へと照明器具を輸出してくれる人がいた。
伊月さんと阿枳さんだ。
タマチ帝国の人たちに売るよりも何倍もの値段で、外国の貴族たちが買ってくれたみたいだった。
そして、また収入が増えた。
―――
こうろぎたちの声が聞こえ始めた秋晴れの朝、内藤が処刑されたことが知らされた。
城下町でも瓦版が飛び交った。
字を読める人が読めない人に内容を教えたりしていた。
「かどわかし事件の張本人、翼竜を操る魔獣使い、内藤丈之助、斬首に処せられる。首は五手河原にて、さらし首。共舘将軍の調査の賜物。」
ひと段落、というか、自分の中で何かの踏ん切りがついた、という気がした。
山のイチョウがうっすら黄色に色づき始め、朝晩の空気が冷たい。
―― 尽世での生活にも結構慣れてきたな。
現代日本で生きてきた時は一人暮らしで、家族もいなくて、仕事と家との往復しかしていなかった。
ずっと孤独で、どこかモヤモヤしながら生きてきた。
でも、今は、仲間もいるし、やりがいのある仕事もあるし、恋人もできた。
尽世での充実ぶりがびっくりだ。
少し自分の意志と違うのは、帝の参与という役職を与えられて、色々と朝廷と文章をやりとりしていること。
帝の質問に答えたり、タカオ山周辺の情報を提供したり、現代日本の政治システムのことを教えたり。
紙に手書きするのは結構時間がかかる。
―― 少しだけテクノロジーが恋しい。
とはいえ、尽世でもテクノロジーの発達はある。
少し前に伊の国で開発された木版技術のおかげで、短時間にたくさんの印刷物が作れるようになった。
その技術もますます進んでいるらしく、最近では、新聞のような瓦版も町中で安く買えるようになった。
このブームにのっかって、小雪ちゃんを部長にする手習い所の漫画部は鬼武者を題材に漫画を出版して、ヒットを飛ばした。
漫画を読みたいがために字を習いに来る生徒も増えて、手習い所も忙しくなった。
小雪ちゃんたちの成功は女でも自立して働けるという、いいお手本になり始めている。
沢山お金を稼げるようになった小雪ちゃんと漫画部は、その一部を手習い所に寄付してくれた。
「こんなに寄付してくれるの?」
私は渡された金子を見てびっくりする。
「はい。それもこれも那美先生のお陰です。紙や墨を買うのに使って下さい。」
小雪ちゃんも漫画部の皆も生き生きして、まさしく青春って感じで眩しい。
「紙や墨を買うにしては多すぎるよ。じゃあ、このお金、手習い所に来たいけど、月謝を払えない子たちの奨学金にしてはどうかな。」
「奨学金?」
うん、と頷いて、私は奨学金のことを説明する。
「お金が全然なくても、孤児でも、ここで学べるってことですか?」
「そう。だって、誰がどんな才能を持ってるか分からないじゃない? 孤児でも、いつか、小雪ちゃんみたいに才能を発揮して自立する子が出てくるかも。 そういう子たちに機会を与えるためにお金を使うのはどうかな?」
「それ、やりたいです!」
私たちは話し合って、学生支援機構を立ち上げた。
小雪ちゃんが信頼している手習い所で算術が一番得意な里ちゃんという子にその運営を任せることになった。
「私、小さい時からずっと絵を描いていたのだけど、皆に馬鹿なことやめて嫁入り修行しろってずっと言われていたんです。」
小雪ちゃんは、今、15歳で、この辺りでは、このくらいの年にお嫁に出されるのが普通だ。
小雪ちゃんにも20歳も年上の男性から縁談の話しが来ていた。
小雪ちゃんのうちはお父さんが戦で亡くなって、お母さんが女手一つで小雪ちゃんをはじめ、6人の子供を育てていた。
だから、小雪ちゃんが、ずっと年上の財力のある人に嫁げば、家族の暮らしは多少良くなると思っていた。
「でも、どうしても嫌だったんです。あんなオヤジの元に嫁ぐのは。いかにもエロそうだし。ちょっとくさいし。キモイし。」
歯に衣着せぬ勢いで小雪ちゃんが縁談相手をディスる。
しかも私が教えてしまったエロとかキモイという言葉を使いながら。
―― しかし、エロくて、くさいのか。そんな人のお嫁に行かされそうになるなんて気の毒すぎる。
「私、もっと、中性的な人が好みなんです。スラっと背が高くて、色白で、見目麗しい、そう、光源氏のような…」
―― あ、小雪ちゃんが乙女モードに入った。小雪ちゃんはアイドル顔が好きそうだな。
でも、結果的に結婚しなくても、漫画を頑張った方がずっと暮らし向きは良くなり、お母さんも納得してくれて、縁談もすっぱり断った。
「私の絵を笑ったり、しかったりしないで、色々と指導して下さったことに本当に感謝しています。」
「指導だなんて。小雪ちゃんの才能だよ。」
「そんなことないです。那美先生が認めてくれなかったら、私、自分でこんな風に自分の好きなことでお金が稼げるって知りませんでした。」
「そういう風に言ってもらえたら、私もすごく嬉しい。」
「あと、那美先生にお願いがあるんですが。 あの、『すたんがん』っていう物のことです。」
小雪ちゃんは私に早くスタンガンの開発をしてほしいと言った。
このところ、私は照明器具の方に力を入れていたから、スタンガンの開発の進行具合はとてもゆっくりだった。
「どうしてスタンガンが欲しいの?」
話しを聞いていると、どうやら小雪ちゃんが縁談を断った相手がストーカーになりつつあるみたいだ。
「この前も帰り道をつけられて、怖かったんです。一人では出歩かないようにしているんですけど。」
やっぱり、女性を守る物が必要だな。
そんな事なら、私も急がなくちゃ。
私は小雪ちゃんの要請を受けて、スタンガンの開発を進めた。
―――
商品化できない問題点が二つあって、一つはスタンガンが悪用される可能性があることだ。
女性を守りたくて作ったのに、男性の手に渡り、女性を誘拐するのに使われたりしたら本末転倒だ。
これについてはオババ様に色々アドバイスをもらった。
「使用者が本当に危機を感じた時にしか発動しない仕組みにするといい。そうすれば、人を害そうとする者に悪用されることはない。」
「なるほど。本当に護身のためにしか発動しないのですね。」
オババ様はそうするための術を教えてくれたが、なかなか上手く行かなかった。
「その術式を毎日練習しろ。オヌシなら習得が早いぞ。」
もう一つの問題点は、威力がどのくらいか分からないことだ。
人体実験できないから、殺してしまうほどの威力があるかもしれない。
殺してしまわない程度だったとしても、どんな反応があるのか、後遺症が残るのか、未知の部分が多い。
これについては、伊月さんが意外なアイディアをくれた。
「人体実験か。できるぞ。」
「え?」
「内藤だ。」
「あ。内藤丈之助で?」
「ああ。これまで、さんざん女人をいたぶってきたのだ。少しは女人の護身のために貢献しても良かろう。」
「でも、もし、威力が強すぎて、死んでしまったら・・・。」
伊月さんは周りを見回して、グッと顔を寄せると、小声でささやいた。
「生田と黒田に私の暗殺を頼まれたことを、いきさつも含め詳細に手記させた。」
「え? よく書きましたね!」
「牢守の手腕だ。」
―― 拷問ってことかな。
「嫌な思いをさせるだろうから、そなたにはこういう事を話したくないのだが…。とにかく私たちの欲しい証拠はそろった。」
「じゃあ、内藤はもう、用無しってことですか。」
「ああ。」
内藤はどのみち死刑が決まっている死刑囚だ。だけど。
いくら内藤がひどいやつでも、私は人に痛みを与えるような自分があまり好きじゃない。
―― 寝つきが悪くなりそうだ。
でも、平八郎さんが山賊に殺されかけた時に伊月さんが言ったことが脳裏によぎった。
「ためらうな。お前のためじゃない。ここにいる全員の命のためだ。」
あの言葉がまだ胸の中に残って、ずっと響いている。
「ためらうな。私のためじゃない。小雪ちゃんたちや、かどわかされた女性たちのためだ。」
私は思わず声に出していた。
「ん? 覚悟が出来たか?」
伊月さんを見つめる。
この人もこういう覚悟を毎日して生きているんだ。
ここにいる守りたい全員の人たちのために自分の手を汚すことをためらわない。
ためらえば、守れないから。
それがどんなに苦しいことでも。
寝付きが悪くなるような事でも。
「覚悟ができました。」
私は色々な強度の試作品を伊月さんに見せた。
「スタンガンの使用実験をお願いします。」
こうやって、内藤で実験したことで、沢山データが集まり、スタンガンの出力調整が上手くできた。
オババ様から習った術式も、毎日練習していたら、2週間もしないうちにできるようになった。
この練習でカムナリキを相当に消耗したけど、夕凪ちゃんが差し入れてくれたおにぎりと、伊月さんに以前教わった滋養強壮の薬で何とか乗り越えた。
―――
「商品化できたよ!」
私は小雪ちゃんに一番にスタンガンをあげた。
「ありがとうございます!」
小雪ちゃんは、うっすら涙を浮かべている。
最近、縁談を断った男のストーキングがひどくなってきているみたいだった。
「いくらスタンガンを持っていても、それは心配だな。絶対一人で出歩いちゃダメだよ!」
「はい。」
私は手習い所に通う全ての生徒にスタンガンを無料提供した。
使い方を教えて、いつも肌身離さず持っているように言った。
スタンガンは娘さんたちのためにと、武家と商家の親がよく買ってくれて、また収入が増えた。
同時進行で開発した照明器具はずっと簡単に商品化できて、それも売れ行きが好調だった。
まだまだ高価な代物で、庶民には行き届かないけど、こっそり、外国へと照明器具を輸出してくれる人がいた。
伊月さんと阿枳さんだ。
タマチ帝国の人たちに売るよりも何倍もの値段で、外国の貴族たちが買ってくれたみたいだった。
そして、また収入が増えた。
―――
こうろぎたちの声が聞こえ始めた秋晴れの朝、内藤が処刑されたことが知らされた。
城下町でも瓦版が飛び交った。
字を読める人が読めない人に内容を教えたりしていた。
「かどわかし事件の張本人、翼竜を操る魔獣使い、内藤丈之助、斬首に処せられる。首は五手河原にて、さらし首。共舘将軍の調査の賜物。」
ひと段落、というか、自分の中で何かの踏ん切りがついた、という気がした。