異世界戦国で侍と恋に落ちたら、巫女になって、一緒に国盗りしちゃいました♪

門の所に行くと、オババ様の書いた買い物リストに目を通している伊月(いつき)さんがいた。

「お待たせしました。」

「お、おう」

伊月(いつき)さんは私に気づくと慌てて紙を丸めて(ふところ)の中にしまった。

―― ん? 何か(あせ)ってる?

オババ様は横でそれを見ながら不敵な笑みを浮かべている。
不思議な雰囲気に小首をかしげていると、伊月(いつき)さんが(きびす)をかえし、門の外へと歩き始めた。

「さぁ、行こうか。」

「あ、は、はい。オババ様、行ってきます。」

「ああ、行っておいで。」

オババ様はまだ不敵な笑みを浮かべつつ手をふって見送ってくれた。
前を歩く伊月(いつき)さんに小走りで追いついた。

「あの、オババ様、何かニヤニヤしてませんでした? 何か(たくら)んでいるような。」

「さあな。」

それ以上何も言わずに伊月(いつき)さんは黙々と歩く。

「あの、すみません、また急に私のお()り役を負わせてしまって。」

「いちいち謝る必要はない。」

「でも...。」

「別に嫌じゃない。オババ様も言ったが、時間はある。」

「じゃあ、ありがとうございます。実は結構楽しみなんです。城下を見るの。あの屋敷の敷地から出るのは、あの伊月(いつき)さんのお家に行った日以来なので。」

「...そうなのか。」

伊月(いつき)さんはいつも城下町に行くんですか。」

「時々めしを食いに行く。」

「ご飯を食べに?」

「そうだ。」

「今日も何か食べるのですか?」

「まだ決めておらぬ。行ってから決める。」

「ということは城下に行ったら色々なお店があって選べるってことですね。」

「まあな。」

「わー楽しそう!」

私は城下町がどんなところなのか想像して胸をふくらませた。

「そんなに(はら)が減っているのか。」

「あ、いえ、そういうわけでは。」

どうやら食い意地がはってると思われたらしくて恥ずかしくなるってうつむく。
まぁ実際食べるのは大好きだけれども。

「何が好きなのだ。」

「え?」

「食べ物だ。好きな食べ物があるのか。」

「そうですねー。結構何でも好きですよ。好き嫌いはない方です。ただ、あんまり辛いのは得意じゃないかも。ピリ辛くらいはいけますけど。」

「そうか…甘いものは好きか。」

「はい、大好きです。」

「そうか…魚は好きか。」

「はい、大好きです。」

「なら、蒲焼(かばや)きはどうだ。」

「大好きです!」

伊月(いつき)さんは私とほとんど目を合わせず前を見てスタスタ歩いている。
私にはまったく興味なさそうな話し方だけど一応私の好みを気にしてくれているんだな。

伊月(いつき)さんは何が好きなんですか?」

「私は何でも食べる。」

「そうなんですね。」

伊月(いつき)さんは沢山食べるイメージあるな。体も大きいし。
私は伊月(いつき)さんの横顔を見ながら食いっぷりがいいところを想像した。

「それはそうと、あそこが商人町の入り口だ。」

伊月(いつき)さんの指さした先には色とりどりのアーチ型の門があり、門の中をくぐると沢山のお店が並んでいた。

「わぁー。ジオラマみたいで可愛い街並み。結構人もたくさんいるのですね。」

人混みの中に入り自然と伊月(いつき)さんとの距離が近くなる。
伊月(いつき)さんの着物からヒノキのようなウッディなお(こう)の香りを感じた。

街を歩く人々は、人間ぽくない人もいる。
お面を被っていたり、髪の色が赤や、黄色や、紫だったり、しっぽがあったり。
現代日本よりもずいぶん多様性がありそう。

少し歩いた所で伊月(いつき)さんが一軒の店を指さした。

「ここで食べるが、いいか?」

お店の中から蒲焼(かばやき)の甘くて香ばしい匂いがする。

「はぁ、おいしそうな匂いですねぇ。」

匂いにうっとりした瞬間、

キュルキュルルルルー

私のお腹がいきおいよく音を発した。

「あ、す、すみません...。」

あまりの恥ずかしさにうつむくと

「ここで決まりだな。」

伊月(いつき)さんがフッと笑った。
あ、久しぶりの伊月(いつき)さんの微笑だ。
暖簾(のれん)をくぐる伊月(いつき)さんの横顔を思わず見つめてしまう。

―― この人が微笑むと、強面とのギャップがすごいからか、なんだかすごく嬉しい。

なんて思いながら私も伊月(いつき)さんに続いて店内に入る。

店内はけっこう忙しくて空いている席も少なく活気に満ち溢れている。

「いらっしゃいませ。」

前掛けをかけたお店の人がやって来て、伊月(いつき)さんと私を交互に見た。

「あのう、お二人でゆっくりおできになりますように、個室を用意いたしましょうか?」

「あ、いや、別に個室でなくてもいい。」

「まあまあそう照れずにぃ。」

「照れてなどは…」

「さあさあ、こちらへどうぞ、お嬢さんもどうぞ。」

お店の人は私たちがデートしていると思ったのか、半ば強引に個室を推してきた。

「あ、ありがとうございます。」

通された個室は小さい窓があって日当たりがよく、可愛らしい花が飾ってある。

「わぁ、素敵な部屋ですね。」

「お嬢さんに喜んでいただいて何よりです。」

お店の人は終始ニコニコしている。

「さぁさ、お茶をどうぞ。こちらがお品書きです。何かわからないことがあれば遠慮なくお聞き下さいね。」

お店の人がそそくさと出ていき、急に静かになった。

「何か、お店の方に誤解されちゃったみたいですね。」

「…そうだな。」

「なんか、伊月(いつき)さんに申し訳ないです。」

「別に那美(なみ)どのが申し訳がることはない。それよりも、そなたの方が嫌であろう。」

「え? 私ですか?」

「嫁入り前の娘がこのような男と噂をたてられては嫌であろうに。」

意外な事を言われてビックリする。

―― このような男ってどういう意味だろう。

「私は別に全然嫌じゃないですよ?」

「そ…そうか。」

「私は街の人に知っている人いないし。」

「…そうか。」

「あの、伊月(いつき)さんって恋人とかいるんですか?」

「は?」

伊月(いつき)さんは心底驚いたような表情を浮かべた。

「いる訳がないであろう。」

そんな全否定しなくても…と、一瞬思ったけど、そういえば伊月(いつき)さんって武将だよね。
ということは、結婚とかも政略結婚とかなのかな?
自由恋愛とか無理という意味で?

「そ、そなたはどうなのだ?」

「え? 何がです?」

「だ、だから、そなたには伴侶(はんりょ)がいたのか聞いたのだ。ここに来る前に。」

「ああ、いえ、そんなの人生でたった一度もいたことないですよ。残念ながら。」

「そうか…」

伊月(いつき)さんはフイっと顔をそむけ窓の外を見つめた。
私もそうだけど、伊月(いつき)さんもこういう話題は苦手そうだった。
私はずっと陰キャで、がり勉タイプだったから、恋愛経験がほぼゼロだ。

「そろそろ何を食べるか決めたか?」

「あ、はい。」

私はお店のイチオシと書いてある特製せいろ蒸しを注文する事にした。

―――

せいろ蒸しのお重を開けた瞬間、香ばしい匂いを孕んだ湯気が立ち上った。

「はぁぁぁ なんて美味しそう!!」

程よく蒸し上がったふかふかのご飯の上に、艶々の鰻と錦糸卵が乗っている。

「い、頂きます。 んーーーーーーー!!!!!!」

玄米のほどよい歯ごたえと、ふわふわの鰻の身が、甘く香ばしいたれで上手くまとめられている。

「お、おいしいー。んーほっぺが落ちそうーー!!」

―― あ。

食べることに夢中になっていたが、伊月(いつき)さんからの視線に気づき、目の前にいる人を見上げる。

―― え?

そこには、今までにないくらい優しい目をして微笑んでいる伊月(いつき)さんがいる。

「あ、えっと、つい、美味しくって、夢中で食べちゃってました。」

少し照れ隠しでいうと、伊月(いつき)さんも、ハッとした顔をして、

「好みの味で何よりだ。」

と言って、自分の蒲焼(かばやき)を食べ始めた。

―― 前も思ったけど…

伊月(いつき)さんの所作(しょさ)はとても綺麗だ。
背筋がピンと伸びてて、食器の持ち方も箸の使い方もとても丁寧な印象だ。

―― 体が大きいから、ガツガツ食べるイメージだったけど、意外。

ガツガツ食べていたのは私の方だ。恥ずかしすぎる。
私も少し所作(しょさ)を気にしながら食べてみた。
―― 悪寒(おかん)がする。

那美(なみ)どの? どうかしたか?」

(うなぎ)を堪能しおわり、食後のお茶を飲んでいたころ、私は不思議な感覚に襲われていた。

「このお店に変な雰囲気の人が座っている気配がするんです。」

伊月(いつき)さんが少しだけ個室の障子(しょうじ)を開けると、「ここから見えるか?」と聞いた。
私は恐る恐る隙間を覗き込む。

―― あ、あの人だ。

私ははっきりと感じた。黒い気が渦巻いている。

「あそこに座ってて、今、注文した人です。」

伊月(いつき)さんも障子(しょうじ)の隙間からその男の人を確認する。
店内なのに笠をかぶったまま取らずに注文している。

「あの者は…」

伊月(いつき)さんは私に席に戻るように促して、個室の障子を閉める。

「大丈夫だ。心配はない。きっと妖術使いか何かだ。」

私は知らないうちに震えてしまっていたらしい。
伊月(いつき)さんの大きな手がトントンと背中を叩いてくれて、私は落ち着きを取り戻した。

「すみません。取り乱してしまって。こんな感覚、初めてで。」

「邪悪な気の流れを感知できるのも、多分そなたのカムナリキのなせる技であろう。」

「これが、カムナリキの?」

「ああ。きっと経験を積めばその感覚にも慣れていくだろう。とにかく悪い感じのするものには近づかぬことだ。」

「…はい。」

今までオババ様の屋敷内にいたから分からなかったけど、オババ様の土地は相当に安全地帯だったんだな。

「勘定を済ませて来る。」

「あの、私、自分で払います!」

オババ様からもらったお小遣いの入った財布を取り出そうとする。
でもそんな私を無視して、伊月(いつき)さんはサッサと個室を出て行った。

―――

伊月(いつき)は勘定を払いながら、那美(なみ)が不思議な雰囲気の男と言った者を遠目に観察した。
その男の二本差しの(さや)には不思議な彫り物がある。

―― やはりな。軒猿のあつめた情報と一致する。

「店主、(かわや)はどこだ?」

「離れのあの小屋に。」

「ちょっと(かわや)を借りるぞ。」

「へい。」

伊月(いつき)(かわや)に行くふりをして店を出て、角を曲がり細い路地に入る。
薄暗いところに、ある男がいるのを見つける。

清十郎(せいじゅうろう)。」

「は。」

「先日魔獣を操っていた者と思われる男がいる。特徴は覚えてるな? 今はそこの鰻屋(うなぎや)にいる。追え。」

御意(ぎょい)。」

清十郎(せいじゅうろう)と呼ばれた小柄な男はサッとその場を立ち去った。


―――

個室の障子(しょうじ)が開いて、伊月(いつき)さんが顔をのぞかせた。

「あ、伊月(いつき)さん!私もお勘定を・・・」

「そんなことは良い。さぁ、行こう。オババ様から頼まれた買い物をせねば。」

サッサと(きびす)を返して歩き出した伊月(いつき)さんの背中を慌てて追う。

「ま、待って下さい。」

―― あ。

あの笠の男の人の席に近づくにつれて、嫌な感じの気が濃く感じられる。

―― どうしよう、また体が震えだしちゃった。

こんなにも脆弱(ぜいじゃく)な自分が嫌になる。
治安が悪いこの世界では私のような世間知らずの女では色々と危険もありそうだ。
治安が良かった現代日本ですら殺されそうになった。
オババ様の優しさで守ってもらっているから日頃は感じなかったけど、自分がこんなにも弱い存在だなんて。
自立するなんていつの話だろう。
一人で街を歩くことすらもままならないのに。

―― ん?

ふと、伊月(いつき)さんが歩みを止め、私の横に立った。
そして、その瞬間、伊月(いつき)さんが私の体に手を回し、肩を抱いた。

―― え? え?

「何も案ずることはない。」

伊月(いつき)さんがいつもの低音ボイスで私の耳元でささやく。
不意に心臓がドキドキし始め、頭の中が真っ白になり、恐怖が飛んで行った。
自然に早歩きになり、そのまま一緒に歩いて店を出た。

店から少し離れたところで、伊月(いつき)さんはパッと私から手を離した。

「すまぬ。あまりに(おび)えていたようだったので、あの場から早く去らねばと思ったのだ。」

「い、いえ。あ、ありがとうございます。」

―― ドキドキしてる場合じゃなくて!
―― 私、伊月(いつき)さんに気を使わせてしまったんだ。

「あのっ。」

「ん?」

「私、こんな弱い自分に嫌気がさしてたんです。この世のこと何も知らなくて、皆に助けられないと生きていけないし、自立するって言ったのにどうしたら良いのかわからないし、お金も何も持ってなくて…。」

那美(なみ)どののような状況に(おちい)れば、誰もが不安に思うはずだ。」

「そうやって、伊月(いつき)さんやオババ様たちが優しくしてくれるから、私、すごく甘えてるなって...。ご飯もすぐ遠慮せずに食べちゃうし。」

「ハハハ!」

―― ん? 今、声を上げて笑った? 初めてだ。

「甘えていて良いではないか。」

「え?」

「誰しも何かしらの辛い思いをした事がある。そして辛いことは甘えられる人がいるから乗り越えられる。その経験を乗り越えた時に他の人に優しさを返せばよい。今のオババ様がそなたにしているように。」

伊月(いつき)さん…。」

那美(なみ)どのは、まだここへ来て7日も経たぬではないか。きっといつか自立の道は見えてくるさ。」

伊月(いつき)さんがそう言ってくれると、本当に頑張れる気がした。
命を助けてもらっただけじゃなく、心も救われてる。

伊月(いつき)さんには、何てお礼を言っていいかわかりません。」

「礼などされる覚えがないな。」

伊月(いつき)さんは、こんなひ弱な私にも勇気をくれる強くてかっこいい人だ。
一歩前を歩く伊月(いつき)さんの大きな背中が眩しく見えて思わず目を細めた。


―――

鰻屋(うなぎや)を出た私は那美(なみ)どのをいざなって、街へと繰り出した。
オババ様に頼まれたものがたくさんあるので幾つかの店に立ち寄った。
その度に那美(なみ)どのは、目をキラキラ輝かせて、童子のようにはしゃいでいる。

―― 何というか…調子が狂うな。

今日は一日中、調子が狂いっ放しだった。
差し入れを持って行けば、思いもかけず涙を見せられ、那美(なみ)どののしおらしい一面が見えたかと思えば、うなぎ屋の前では盛大に腹の虫を鳴らすし。

―― そもそも、何事にも警戒心がなく、何を考えておるかがそのまま顔に出ておる。

那美(なみ)どののコロコロ変わる表情には驚かされる。
美味しい美味しいと、(めし)をシマリスのように頬張っていたかと思えば、獣魔使いの放つ気に当てられ震えだすし。

―― まったく、目が離せぬ..…。

小間物屋から反物屋へと、オババ様の指定の店に寄る途中で、那美(なみ)どのが気になるような店があったらそこにも寄った。

「この町には可愛いものがたくさんありますね。」

「この城下の職人は手先が器用なことで有名だ。特に貝や(うるし)を使った物が特産だ。ほら、そこにも立ち寄ったらどうだ。」

那美(なみ)どのの目線の先にあった店に促してみる。
その店先にはいかにも女人の好きそうな可愛らしい髪飾りが並べられている。
那美(なみ)どのは店先に並べられた髪飾りを手に取っている。

「わぁ。なんかこの石、すごくキラキラしていますね。」

―― こういう色が好きなのか。

(ほほ)を桃色に染め嬉々としている那美(なみ)どのを見ていると落ち着かない気分になってくる。

―― 那美(なみ)どのは可愛いな。

と、思ってしまった。

―― わ、私は何を考えている!

「あ、すみません。退屈でしょう? 次のお店へ行きましょうか?」

「いや構わぬ。店の中を見て回ったらどうだ?」

店の中を覗くと、所狭しと彩り鮮やかな、装飾品と反物が並んでいる。

「でも、ここ、伊月(いつき)さんが興味がありそうなお店ではないですよね?」

「私はそなたに城下を見せるために来たのだから構わぬ。」

「でも...」

「私はここで次に買わなければいけない頼まれ物を確認しているので、ゆっくり見て回るといい。」

私はそう言うとさっさと店の軒下に陣取って、(ふところ)からオババ様が渡した紙を取り出し、読み始めた。

那美(なみ)どのは私が引く気がないと悟ったらしく、「では、遠慮なく見させてもらってもいいですか」と言い、礼を言うと、店の中へと入っていった。

―― はぁ、どうすればいいのだ。

正直、買い物もあまりしたことなければ、ましてや女と街をブラついたことなど一度もない。
二つの慣れないことを同時にやってのけるのはなかなかに大変だった。
オババ様が買ってきて欲しい物を書くと言って書き連ねた長い紙には、実は買うものだけではないことが色々と書いてある。

例えば、
『一つ.女は買い物が好きなのだ。何も買わずとも色々見て回るだけで楽しいのだからオヌシは邪魔をせず十分に見させてあげること。』

『一つ.女は歩くのが遅い。歩幅を小さくし、ゆっくり歩いてやれ。』

『一つ. 那美(なみ)は強いカムナリキの持ち主ゆえ、悪気(あっき)に当てられやすいかもしれぬ。そのような時は肩をさすり、落ち着かせること。』

さっき悪気(あっき)に当てられて怯える那美どのを見て動揺してしまい、「肩をさする」のではなく、思いきり「肩を抱いて」しまった。

―― しくじった。

後悔の念とともに、あの時の那美(なみ)どのの反応を思い出す。

一瞬、肩をビクッと震わせ、固まっていた。
きっと嫌だったに違いない。

オババ様の忠告はまだ続く。

『一つ.女は甘味が好きだ。歩き回って疲れたら甘味処に寄って休憩しろ。』

『一つ.荷物は全部オヌシが持つこと。』

―― なんなんだこれは。

紙をガシガシと丸め、また(ふところ)に入れる。

―― まるで女を喜ばせるための指南書(しなんしょ)のようなものではないか!

憤慨(ふんがい)しつつも、この後は甘味処に行こうと決めた。

今日は、なぜだか、(かす)んだ春の空も(まぶ)しく見えた。

―――

―― 城下をブラブラするのすごく楽しかったな。

私は商人街のはずれにある茶屋で、柏餅(かしわもち)を頬張りながら今日一日を振り返った。
隣では、伊月(いつき)さんが、相変わらず綺麗な所作(しょさ)でお茶を飲んでいる。
伊月(いつき)さんは、きっと女性と出歩くことが多いのだろう。
私に合わせて歩みを遅くしてくれたり、疲れた頃にこうやって甘味処に連れて行って休憩させてくれたり。
文句も言わずに私の見たいものは全部見せてくれて、荷物も全部持ってくれて、完璧なエスコートだったな。

―― 女性慣れしてるっていうか...。

私はお団子を頬張り始めた伊月(いつき)さんの横顔を思わずじっと見る。
ぱっと見は大きいし、強面だけど、よく見るとイケメンなんだよね。

―― やっぱ女の人はほっとかないよねぇ

と、なぜか残念にな気持ちになる。

「な、那美(なみ)どの、そのように見られては少し食べづらい。」

「あ、すみません。つい見ちゃって。」

「この団子が欲しいのか?」

「あ、いえ、そういうわけでは…」

「ほら、分けてやる。」

伊月(いつき)さんは有無を言わさずお団子一本を私のお皿においてくれた。
やっぱり、伊月(いつき)さんって私のこと食いしん坊だと思ってるよね。

「ありがとうございます。」

でも実際に食いしん坊だから素直にもらっちゃう。

「いただきます。うわぁ。もちもちだ。美味しいー。」

現代日本のスイーツに比べたら亜国(あこく)の甘味は随分と甘さ控えめだ。
でも、優しいほんのりとした自然の甘みが心を癒す感じがする。

那美(なみ)どのは何でも美味そうに食うな。」

そう言うと、伊月(いつき)さんはまたふっと笑った。

―― うん、笑うとなおさらイケメンだ。

「オババ様にも、夕凪(ゆうなぎ)ちゃんにも、伊月(いつき)さんにも食いしん坊だって思われてますね、私。」

「食うことは生きることだ。」

「あ、それ、オババ様も言ってました。」

「そうか。オババ様の口癖が移ったのかもしれぬ。」

「あの、前から気になってたんですが、伊月(いつき)さんとオババ様ってどういう関係なんですか?」

―― この二人の接点がサッパリわからない。

「私とオババ様か? まあ、私はあの人に幼き頃、育てられたようなものだ。」

「え? そうなんですか。意外です。」

伊月(いつき)さんはもともと()の国の出身なのだそうだ。
オババ様の占めるタカオ山も()の国と()の国の国境にある。

「元服まで5年ほどあの屋敷に住んでいて、飯炊から、武術の稽古まで、それは鍛えられた。」

「うふふ。それは何か想像できます。」

―― 幼い頃の伊月(いつき)さんってどんな感じだったのかな。
―― オババ様の水晶で見せてもらったりできないかな。

その時、何処からともなくゴーン、ゴーン、と鐘の音が聞こえた。

「この音は何ですか?」

暮鐘(ぼしょう)だ。この鐘が鳴ったら日の入りが近い印だ。そろそろ帰ろうか。」

「はい。あのう、伊月(いつき)さん、今日は本当に楽しかったです。城下町のいろんなところを見られて、勉強にもなりました。次は一人でも来れそうです。」

「そうか、それは良かったな。」

じゃあ行くぞ、と伊月(いつき)さんが歩き出して、私もそれに続いた。

―― このまま日が暮れなければいいのに。

何故かこの一日が終わるのが口惜しい。

まだ日が沈んでいないのに、うっすらと月が二つ見える。

「月が綺麗。」

思わずつぶやくと、伊月(いつき)さんが、歩みを止め、月を見上げた。

「ああ、綺麗だな。」

綺麗だけど、どこか切なかった。
普通、(あるじ)くらいの上位武士ともなれば、一人でふらっと町に行かれたりはしない。
必ず自分の居場所は留守のものに知らせておき、いつ城からの徴集(ちょうしゅう)があってもいいようにしておく。
そして外出する時は、大抵、従者が護衛している。
荷物持ちもこの従者がする。
(あるじ)の場合、いつもはこの役目を、源次郎(げんじろう)か、私、清十郎(せいじゅうろう)にお任せになるのだが、今日は、一人で行くと仰せになられたそうだ。
荷物も自分で持つと背中にからわれたらしい。

(あるじ)流石(さすが)に一人ではいけません。」

源次郎(げんじろう)反駁(はんばく)して、

「では清十郎(せいじゅうろう)を呼べ。」

ということになったらしい。

「お呼びですか?」

「オババ様の所へ出かけ、その後、城下で飯を食うだけだが、今日は、そなたは雲隠れしていろ。」

「は。」

(あるじ)が雲隠れという時は、誰にも姿を見せずに、付かず、離れずの距離で護衛をしろという意味だ。
敵に一人でいると見せかけ、油断を誘い、(おとり)になったりする時にそうなさる。

こういう時には源次郎(げんじろう)ではなく必ず私にお呼びがかかる。
私が(しのび)だからだ。

―― しかし、オババ様の所へ行く道のりにも、城下にも、そうそう敵などおるまいに?

私は小首を傾げた。

(あるじ)は最近、春が来ておられる。」

不意に源次郎(げんじろう)がコソコソと(ささや)いた。

「は?」

「オババ様の所へ身を寄せている娘で、那美(なみ)様という。」

「その娘に会いに行かれるというのか?」

ウンウン、と源次郎(げんじろう)がうなずく。

「この前、薄桃色の(ふみ)が届き、その返事を書くように申し立てたのだが、(ふみ)は性に合わぬので直接会いに行くと。」

「う、薄桃色だと? 直接会いに?!」

(あるじ)が薄桃色の(ふみ)を読む姿がどうしても思い浮かばない。

「そなたに雲隠れしろと仰るのも、きっとあのデレデレ顔を見られぬように、だ。」

「あ、(あるじ)がデレデレだと? あり得ぬ。」

「いーや、俺は見た。あんな顔をする(あるじ)は初めて見た。」

そこに(あるじ)の声がした。

「おい、清十郎(せいじゅうろう)。行くぞ。」

「は、只今、参ります。」

源次郎(げんじろう)は留守を頼んだぞ。」

「は、承知。」

「行って参る。」

「お気をつけて。」

オババ様の所でも、遠巻きから見守ってはいたが、なるほどデレデレだ。
普段は口を一文字かへの字にして、微笑むことなどないのに、フッと力が抜けるように笑みを漏らすことが何度もあった。
さらにコロコロ変わる女の表情に、主はタジタジである。
どんな(いくさ)の時もあんなアタフタとなさることはないのに。

―― しかし、那美(なみ)様といったか? 不思議な方だ。

別に(あるじ)は全く女と話さないというわけでもない。
城に行けば、自然と武家の娘や、国主(こくしゅ)の親戚の姫君たちとも会われる。
だが、たいていの城の女は(あるじ)をさげすんでおられる。
鬼武者(おにむしゃ)と呼ばれ、敵や魔獣を殺すこと夜叉(やしゃ)のごとし、と(うわさ)を立てられているので(まあ、その(うわさ)もまんざら嘘ではないが)、身分のある女たちはたいてい野蛮な獣をみるような目で(あるじ)を見る。
身分が高くない女たちはたいてい(あるじ)を見て怖がって、震えて、会話もせずにどこかに行ってしまう。

―― しかし那美(なみ)様は違うな。

身分や家柄や素性や見た目など一切気にせずに、(あるじ)の人柄だけを見ておられる気がする。

そのうち、城下に行くと、(あるじ)は、先日の戦場(いくさば)で見かけたある男を、追跡するようにと命じられた。

―― やはり、源次郎(げんじろう)の思い違いではないのか? (あるじ)は何か大切な仕事をされている。

―― きっと那美(なみ)様と一緒に行動しているのも敵を(あざむ)くためか...

しかしその直後に、頬を赤らめながら那美(なみ)様の肩を抱いて、少しぎこちない様子で鰻屋(うなぎ)を出てきた(あるじ)を見て

―― いや、仕事もあるが、やはりそれなりにお楽しみなのでは…

という考えに変わった。

兎にも角にも、雲のように隠れて、(あるじ)の命令通りに、この男の尾行に専念しよう。
夕凪(ゆうなぎ)ちゃん、おはよう!」

「おはよう、那美(なみ)ちゃん。」

今日もまた、台所で夕凪(ゆうなぎ)ちゃんと挨拶をかわし、尽世(つくよ)での一日が始まる。

「あれ? 那美(なみ)ちゃん、新しい着物?」

「うん。伊月(いつき)さんがくれたの。」

先日伊月(いつき)さんがくれた、大きな風呂敷包(ふろしきづつ)みの中には沢山のものが入っていた。
主に衣食住の衣に関するものがメインで、新しい世界でゼロから新生活を始めた私にはとても助かるものばかりだ。
春から夏にかけて着られる単衣(ひとえ)の着物、真夏用の()の着物、冬用のマフラー、羽織などが入っていた。

「すごく似合ってるよ、その色。」

「えへへ。ありがとう。」

たすき掛けをして、ご飯の準備をしようとしていると、夕凪(ゆうなぎ)ちゃんがニヤニヤと不敵な笑顔を称えつつ私を見てるのに気づく。

「な、何?」

「いやー、那美(なみ)ちゃんと伊月(いつき)さんって、いい感じだね。」

「え? いい感じって?」

「とぼけないで。昨日、逢瀬(おうせ)だったんでしょ?どうだったの?」

―― 逢瀬(おうせ)って、デートみたいな?

「そ、そんなことないよ。伊月(いつき)さんは、オババ様に私のお()り役を押し付けられちゃっただけだよ。」

「またまたぁー、色々聞きたいなー。」

夕凪(ゆうなぎ)ちゃんは本当に恋バナが大好きらしい。
私は適当にごまかしつつ、朝食の準備を始める。
夕凪(ゆうなぎ)ちゃんも私をからかいつつ、手際よくみそ汁の具を切り始めた。

「おぃ、腹が減ったぞー」

そのうちに、寝ぐせのついた、ぼさぼさ頭のままオババ様が起きてきて、ご飯の催促をする。
毎日私の一日はこうやって始まる。
朝ごはんが終わって、片付けをしたら、私はカムナリキをコントロールする修行を始める。

修行を始めて1週間がたった。

「お、オババ様、見て下さい!  雷石(らいせき)が光らなくなりました!」

「おぉーやっとダダ漏れカムナリキの栓を閉めたな!」

最近ようやく、自分や人の中に流れる気というか、そんなものが分かるようになってきた。
それに(ともな)い自分のカムナリキの流れや色や温度まで感じられるようになった。

「なんか、不思議な感覚。」

「じゃあ、今日からは別の修行を始めなければな。」

「次はどんな修行ですか?」

「カムナリキを攻撃に使うことだ。」

「攻撃?」

不穏な響きに少し戸惑う。

()の国と()の国の最近の治安の悪化は見ていて心が痛む。魔獣はよく出るし、若い女が(かどわ)かされる事件も多いと聞く。」

「そ、そうなんですね。」

「生きていく力をつけるには、自衛の術を持たねばならん。そして、攻撃は最高の防御じゃ!」

「た、確かに。」

私は現代日本で通り魔に殺されそうになった。
もしあの時、自分に戦う力があったら、あれほどの恐怖心を感じずに済んだかもしれない。

「やります。教えて下さい!」

うむ、と言ってオババ様が吉太郎(よしたろう)を呼び出した。
吉太郎(よしたろう)はオババ様の眷属(けんぞく)のうちの一人で、鳩の神使(しんし)だ。

「オババ様の言いつけだからお前の修行に付き合うが、俺は忙しいのだぞ!」

吉太郎(よしたろう)はなかなか誇り高い鳩で、タカオ山に住む他の鳩達をまとめ、タカオ山の見回りという役目をしっかり果たしているそうだ。

吉太郎(よしたろう)、いつも修行に付き合ってくれてありがとう。また後で鳩せんべい焼くから。」

「まぁ、そういうことなら仕方ないの。」

吉太郎(よしたろう)が納得してくれて、早速オババ様が実演を始める。

吉太郎(よしたろう)、息を止めておれ。」

オババ様はそう言うと、水石(すいせき)で出来た勾玉(まがたま)の首飾りをすっとなでる。

「わっ!」

その瞬間に空中に水の(かたまり)が出来て、吉太郎(よしたろう)の体を包み込む。

「げぇー。。い、息が!」

吉太郎(よしたろう)は息が出来ず、体も身動きが出来ずにもがいている。

オババ様がパチンと指を鳴らすと、水の(かたまり)は一瞬で霧散した。

「わー凄い!!!」

私は思わずパチパチと拍手する。

「ゲホ、ゲホゲホ。拍手しておる場合か。俺は死ぬところだったぞ。」

吉太郎(よしたろう)が抗議の声を上げる。

「息を止めておれと言ったであろうが。」

「俺は水鳥ではないのだー。」

吉太郎(よしたろう)が羽をばたつかせている。

那美(なみ)、オヌシはあの数珠(じゅず)を使ってやるのだ。」

「はい。」

「今までダダ漏れだったカムナリキがようやく体内に溜まりはじめておる。その抑制しているカムナリキをしっかり丹田に溜め込んで、石を媒体にし、一瞬で放出させる。そうする事で相手を攻撃できる。」

「やってみます。」

私は吉太郎(よしたろう)をチラリと見た。

「力加減を間違えれば殺してしまうので気をつけろ。」

オババ様がそういうと、吉太郎(よしたろう)の顔がサッと青ざめた。

「お、俺はお前の実験台にはならんからなー!」

吉太郎(よしたろう)はそそくさと飛んで逃げて行った。

「ちと、からかいすぎたかのー」と言いつつも、ゲラゲラ笑うオババ様。

「まぁ、この岩を相手にでも練習せい。」

オババ様は近くにあった大きな山岩を指さした。私の背丈ほど大きい。

「はい!」

私も自分のカムナリキを数珠(じゅず)に繋がれた雷石(らいせき)に注ぎ込み、それを岩にめがけて放出した。

その瞬間、

ドカーン!!

と物凄い音がして、数珠(じゅず)から稲妻が走り、岩に当たった。

バキバキ!!と物凄い音がしたと思ったら、岩にヒビが入っていく。

―― え?

そして、ガラガラ、と岩が細かく砕けながら地に落ちていった。
あっけに取られる一方で、それを見たオババ様はケラケラと笑っている。

「攻撃は最高の防御と言ったが、人を殺さぬ程度にしなければなぁ!」

オババ様は愉快そうに言った。

―――

修行でカムナリキを使い果たし、ヘロヘロになり、タカオ大社の本殿まで歩いた。
鳥居をくぐり、社務所に入る。

夕凪(ゆうなぎ)ちゃーーん、お腹すいたぁー。」

那美(なみ)ちゃんお疲れ様ー。おにぎりあるよ。」

夕凪(ゆうなぎ)ちゃんが作ってくれてたおにぎりをつまむ。

「お豆たくさん入ってるぅ。美味しいー!」

夕凪(ゆうなぎ)ちゃんは私が修行してる間はこの神社の本殿横にある小さな社務所で、参拝に来る氏子(うじこ)さんの対応をしている。
御朱印(ごしゅいん)を描いたり、おみくじを売ったり、祈祷の予約を受け付けたり、忙しい時もあれば暇な時もある。

「さっき凄い音が聞こえたけど、何だったの?」

「あ、それ、私の修行のせい。岩をこっぱみじんに壊しちゃった。」

「え?」

「カムナリキの丁度いい放出量が分かんなくて。」

「それで岩を砕いたんだ。怖ー! 那美(なみ)ちゃん怪力だね。」

「自分でもびっくりした。最初に吉太郎(よしたろう)で試さなくて良かった。」

この時、この言葉を聞いて吉太郎(よしたろぷ)が身をふるわせていたことは後になって知った。
おにぎりをつまんでカムナリキを回復させていると、氏子(うじこ)さんが一人やってきて、何やら真剣にお参りしている。

「あの人、ほぼ毎日来るね。」

「うん、オババ様いわく、突然いなくなったお姉さんが見つかるように願ってるんだって。」

そういえば、最近、若い女の人がかどわかされる事件が多いって聞いた。

「オババ様や、龍神様はそういう、いなくなった人たち、見つけてくれるの?」

「ううん。人探しは龍神様の管轄外だよ。」

夕凪(ゆうなぎ)ちゃんは懸命に祈る氏子(うじこ)さんの様子を憐れそうに見た。

「龍神は水の神様だから、稲作とか水の生き物とか、そういうのが管轄。」

現代日本では、急にいなくなった私を探してくれてる人はいるのかな。
私はふと思ったけど、家族も親しいと言える友人もいなかったしな、と諦めに満ちた思いを抱いた。

「あのう、すみません。」

さっきまで熱心に祈っていた氏子(うじこ)さんが、社務所にいる私達に声をかけた。

「これ、オババ様にお渡しできますか?」

氏子(うじこ)さんは私に重みのある袋を手渡した。

「うちで作っている小豆です。いつも、オババ様が悩みを聞いてくれているお礼です。気持ちばかりですが。」

「わかりました。ありがとうございます。渡しておきますね。きっと喜びます。」

氏子(うじこ)さんはお辞儀をして帰って行った。
こんな感じで、オババ様には色々な貢物が毎日のように届けられる。
こういう小さい贈り物もあれば、米俵が何俵も届くこともある。

たいてい昼過ぎ、日が傾くころには社務所を閉めて、
掃除をしたり、お散歩したりして夕方まで思い思いの時間をのんびり過ごす。
日が暮れ始めると、お風呂の準備をしたり、夕飯の準備をしたりして、夜にはもうすることもなく、さっさと寝る。
私がここで暮らし始めて、そんな平和な毎日が続いていた。
でも、この平和な暮らしも、ちょとした事件がきっかけで、変容を遂げることになる。

「オババ様、行ってきます!」

「気をつけて行ってこいよ。」

「はい。」

「迷ったり、何かあったら、この八咫烏(やたがらす)の笛を吹くのだぞ?」

オババ様は小ぶりの横笛を私に渡す。
この笛を吹くとオババ様が小さい時から面倒を見ている八咫烏(やたがらす)さんが助けに来てくれるそうだ。

「ふふふ。大丈夫ですよ。オババ様、ちょっと過保護ですよ。」

「オヌシは方向音痴に加えて警戒心がかけらもないからな。」

「反論はできないです。でも警戒を怠らないように頑張ります!」

「うむ。ではお遣いを済ませたらすぐに帰るように。」

「はい!」

私はオババ様が描いてくれた地図を手に、前に伊月(いつき)さんが案内してくれた道を歩き始めた。
今日は、オババ様から頼まれた物を買いに、亜国(あこく)の城下町へ行く。
異世界での初めてのお遣いだ。

ここに来て、1カ月半が過ぎた。
オババ様の屋敷内での家事は結構慣れてきて、料理も、洗濯も、掃除も、ある程度そつなくこなせるようになってきた。
機械がないから家事をするだけで結構時間がかかる。

修行の方は、なかなか上手くいかない。
やっとカムナリキの放出を抑えられるようになって、雷石(らいせき)を完全に光らなくできるようになった。
今は、カムナリキの放出する量を調整をする練習をしているのだけど、なかなか上手くいかない。
すぐにマックスダダ漏れ状態になってしまい、ちょっとした雷を起こしてしまって、色んな物を破壊してしまう。
人を殺さないレベルでのカムナリキの放出って難しい。

私がここに来たころには、あんなに咲きほこっていた桜の花も散ってしまい、山の木々は緑豊かになっていく。

―― すっかり晩春だな。こっちの世界には梅雨があるのかな。

私は無事に商人街に着いた。
陽気がいいからか、前に来たときよりも随分とにぎわっている。

以前伊月(いつき)さんと一緒に来た鰻屋(うなぎや)さんを通り過ぎて、オババ様の言いつけのお店に立ち寄る。
オババ様のお遣いだというと、皆よくしてくれて、スムーズにお買い物も(はかど)る。

この()の国で流通しているお金は(とみ)()という単位で呼ばれている。
(とみ)の10分の1が1()という実に分かりやすいシステムだった。
オババ様は、お使い用のお金とは別に100(とみ)を私にくれた。

「これはオヌシの好きなものを買うための物じゃ。」と言っていたけど、正直、これと言って欲しいものはなかった。
着物も伊月(いつき)さんとオババ様がくれた物で十分だし、オババ様のうちでは食べ物には困らないし。
どうせお金を使うなら、オババ様や夕凪(ゆうなぎ)ちゃんや吉太郎(よしたろう)にお団子でも買いたいな。

お遣いを終えて、他にもどこか立ち寄ろうか、うちに帰ろうか迷っていたら、一つの露天商が目に止まる。

「あ、珍しいフルーツだ。」

こっちに来てから見たことなかったキウイやリーチなどの南国っぽいフルーツが積んである。

近くにいた人が、
「あれはこの辺では手に入りにくい果物だよ。行商が来たときにしか手に入らないよ。」
と教えてくれた。

―― オババ様と夕凪(ゆうなぎ)ちゃんへのお土産にしよう。

そう思って露天商の前に出来た小さな列に並ぶ。
看板には果物3つで2(とみ)って書いてある。
なかなかお手頃だ。

―― て、あれ?

私の前で買い物している子供連れの女の人と露天商のやりとりに疑問を持った。

「あのう、おつり間違ってますよ?」

私は思わず、露天商の人に声をかける。

「ここに、3つで2(とみ)って書いてあるじゃないですか? この人、10個買ったので6(とみ)6部()、多くても6(とみ)()じゃないですか?」

「へ?」

女の人が私をまじまじと見ている。

「この人は10富をあげたのでおつりは3(とみ)()か4()ですよね?」

ここまでいうと女の人は、ハッとした顔になって、露天商をにらみつけた。

「あんた、お釣りを誤魔化したのかい? 7()しかもらってないよ。」

―― すごいボッタクリだな。

「何言ってるんだ、お釣りは合ってるよ。そんな変な女の言ってる事、信じるのか?」

露天商が反論する。

―― え?

私はその訳のわからない反論に一瞬びっくりした。

「いやいやいや、普通に計算すればわかるじゃないですか。お釣りは3(とみ)()ですよ。」

それでも引き下がらない私に、露天商の男は怒りを(あらわ)にした。

「女の分際でギャーギャーうるせえよ。」

―― え?

次の瞬間、男は私の胸ぐらを掴んだ。

―― 何それ?

「女相手なら何してもいいって思ってるんですか?」

私も頭に血が上って言い返す。

「何だと?」

男は、私の胸ぐらを摘んだ手に力を込め、そのまま思いっきり突き飛ばした。
私はドサっと尻もちをついた。

「きゃっ!」

地面に倒れ込む私にむかって男は勢いを緩めず私に近づいてきた。
そして、足をあげた。

―― け、蹴られる!

予想される痛みに身構えて目をつむった。
けれど、痛みは来なかった。
ドサッ

「ゲホッ、うっぅぅ。いて、いててて!!! 」

でも次の瞬間、痛みを訴えたのは露天商の男の方だった。

―― え?

恐る恐る目を開けると男は私と同様、地面に倒れ込んでいた。
そしてその男の前に立っていたのは見知った人だった。

―― い、伊月(いつき)さん…。

そして、伊月(いつき)さんは倒れ込んだ男の胸ぐらを掴んだ。

「な、何をする! は、離せ!」

伊月(いつき)さんは騒ぐ男と対照的に終始無言だ。
そしてその男の胸ぐらを掴んだままその男の体を片手で立たせる。
そして、地に立たせるだけでなく、そのまま持ち上げた。

「えっ…」

露天商は伊月(いつき)さんよりも一回り小柄だけど、それでも普通の体格の男の人だ。

「あ、足が浮いてる…。」

伊月(いつき)さんは片手でその露天商を宙ぶらりんにしている。
ふと気づけば野次馬が集まっていて周りの人たちがどっと歓声を上げる。

「すげーお侍さん! 力持ちだなー!」

「そのままやっちまえー!」

露天商は足をジタバタしながら

「お、下ろしてくれ!」

と悲痛の声を上げる。

「あい、分かった。」

と言って、伊月(いつき)さんは勢いよく手を離した。
その瞬間にその男の体は3メートルくらい飛ばされて、強く地面に叩きつけられた。

「いててて!」

町の人たちがわっと拍手喝采をし始める。
伊月(いつき)さんはあっけに取られる私に無言で歩み寄り、腕を取って私を立たせた。

ど、どうしよう。すごく怒ってる。
顔が怖い!!

「ご、ごめんなさい。私…」

「話は後だ。」

伊月(いつき)さんは有無を言わせず、私の手を引いて歩き始めた。
町の人はまだ地面に転がってる商人に罵声を浴びせている。

「ざまぁ見やがれ、ボッタクリ商人め。」

「お前の所からは金輪際(こんりんざい)何も買うもんか。」

「さっさと店を(たた)んじまえ!」

伊月(いつき)さんは振り返らずにズンズン歩いて人だかりを抜ける。

「あ、あの、お侍さん!」

そこに、さっきの子供連れの女性が来た。

「その方は私を助けて下さったんです。どうお礼を言っていいかわかりません。」

伊月(いつき)さんが立ち止まってその人を見る。

「お、お願いです。奥様をしからないであげて下さいまし。この通りです。」

女性は伊月(いつき)さんに頭を深々と下げた。

「お...おく...」

伊月(いつき)月さんは一瞬びっくりした。

「…しかるつもりはない」

といって伊月(いつき)さんはまた歩き始めた。
歩きながら、不意に「源次郎(げんじろう)」と言う

―― え? 源次郎(げんじろう)さん?

びっくりして見回すと、人混みから源次郎(げんじろう)さんが出て小走りで追いかけてきた。

「酒を買って来い。稲荷小川に行く。」

「は。」

私は、わけがわからないまま、伊月(いつき)さんが手を引くままに付いていく。
商人町の裏手にある人気のない通りに来ると伊月さんは立ち止まり、私の背中に手を回した。

―― な、なに?

その瞬間、視界がぐっと高くなる。

「えっ」

伊月(いつき)さんから横抱きにされたのだと気付く。

「あ、あのっ」

「大人しく捕まっていろ」

私は体のバランスを取ろうと、思わず伊月(いつき)さんにしがみつく。
伊月(いつき)さんはそのまま歩き始めた。

「あの、自分で歩けます。」

「嘘をつけ。」

―― 伊月(いつき)さんには見抜かれてた

さっき地面に突き飛ばされた時に、左の足首をねじっていた。
本当のことを言うと、ここまで歩くのも結構痛かった。
伊月(いつき)さんの表情は今も険しいけど、ずっと気遣ってくれているのがわかる。
きっと私が後先を考えず、無茶をして、こんなことになっちゃって、呆れられてるはずだ。

「ご迷惑かけて、すみません。」

伊月(いつき)さんにはいつも助けてもらってばかりだ。
こんな自分が不甲斐ない。

「迷惑ではない。」

「でも...」

私は何と言っていいかわからず、そのまま口をつぐんだ。
伊月(いつき)さんはいつもそうだ。
私が何と言っても有無を言わさず助けてくれる。

伊月(いつき)さんは小川の流れる場所まで来ると、私を岩の上に座らせた。
小川の水を手ぬぐいに浸し、土だらけの私の手の平を洗ってくれる。

「うっ。」

地面に叩きつけられた時に両手をついて、手の平は擦り傷だらけになっていた。
そこに源次郎(げんじろう)さんがやって来て、買った酒瓶を伊月(いつき)さんに手渡した。
伊月(いつき)さんは手ぬぐいに酒を染み込ませ私の傷口を拭いてくれる。

―― 消毒してくれてるんだ。

傷口に染みる痛みとともに、胸が苦しくなる。

―― 悔しい。

源次郎(げんじろう)、私は那美(なみ)どのを送ってから帰る。そなたは先にオババ様の所へ那美(なみ)どのの荷物を届け、屋敷に戻れ。」

「承知。」

源次郎(げんじろう)さん、す、すみません。」

「これしきのこと、いっこうに構いませんよ。」

源次郎(げんじろう)さんは私にアイドルスマイルを見せて、背中に背負っていた私の荷物を預かってくれた。

「では。」

源次郎(げんじろう)さんは颯爽とその場を去って行った。
伊月(いつき)さんはまだ無言で、小川に手ぬぐいを浸している。
そして、よく冷えた手ぬぐいを私の左の足首に巻き付けた。

「うっ。」

伊月(いつき)さんには全部お見通しなんだ。
捻った足首はさっきよりもちょっと痛みが増している気がする。

「二日間は安静だ。今夜辺り腫れるぞ。」

伊月(いつき)さんは短くそう言うと立ち上がり酒瓶を腰に下げた。

伊月(いつき)さん、私、何てお詫びしていいか...。自分では何もできないくせに向こう見ずなことしちゃって。私...。」

泣きそうになるのをグッとこらえる。
自分でしでかしたことで泣くなんてダメだ。
そう言い聞かせて、唇をキュッと結んだ。

その時、伊月(いつき)さんが、とても悲しそうな顔をした。
そして、そっと私の右の頬に触れた。

―― え?

びっくりして伊月(いつき)さんの顔を見上げる。

「そのような顔をするな。陰鬱(いんうつ)な顔はそなたには似合わん。」

さっきまで泣きそうになっていたのに、途端に自分の顔が上気したのが分かった。
耳まで熱くなって、かたまってしまう。
伊月(いつき)さんはそのまま優しい手付きで、私の乱れた髪をそっと右耳にかけてくれる。
不意に心臓が高鳴りだす。

「あ、あのっ。」

あたふたしている私を他所に伊月(いつき)さんは私に背中を向けた。

「乗れ」

「え?」

「その足では歩けぬ。オババ様の所まで送って行く。乗れ。」

「で、でも…」

私は恥ずかしくてテンパっている。

「また、さっきの抱き方がいいのか?」

伊月(いつき)さんは振り返って私を見下ろす。

「い、いえ、じゃあ、おんぶで。」

テンパっている私を見て伊月(いつき)さんはどこか満足そうに微笑む。

―― なんだか、その笑顔、ずるい。

「では早くしろ。」

「し、失礼します。」

私はおずおずと伊月(いつき)さんの背中に体を預けた。
伊月(いつき)さんはそのままさっさと歩き出す。

「あの、重くないですか。」

「重くない。」

気まずくて何か話そうとするも、すぐに会話が終了してしまう。

―― あんまり話したくないのかな

暫く黙っていようと努力する。

―― おんぶなんて初めてだな

伊月(いつき)さんの背中はとても落ち着くし、とても安心する。

―― 人の背中ってこんなにもあったかいんだな
―― 子供がお父さんやお母さんにおんぶしてもらいたがるの、分かるなぁ。

私はあまりの心地よさに、ついに脱力モードになってしまい、無意識に頬を伊月(いつき)さんの背中に預けてしまっていた。

「はぁ、伊月(いつき)さんの背中って、大きくてかっこいいな。」

「な…何を急に。」

―― あ。思わず心の声が漏れてしまった。

「全く…そういうことを簡単に言うものでは無い。」

―― 不謹慎と思われたかな。

「すいません。つい…。」

「そなたは(まこと)に能天気な女だ。」

「う…。呆れてますか?」

「ああ、呆れている。」

「やっぱり...。」

ガックリ項垂れる私に伊月(いつき)さんはいつになく優しく言った。

「だがその那美(なみ)どのの能天気さに救われる者がいるのは事実だ。」

―― 能天気って2回言われた。

「そうでしょうか。私は伊月(いつき)さんに救われてばっかりです...。」

「私が救ったのではなく、那美(なみ)どのの生命力が強いのだ。それに、前も言ったが、人に甘えることは悪い事ではない。」

―― オババ様もそうだけど、伊月(いつき)さんって、面倒見がいいよね...
―― 思わず甘えちゃいそうになる。でも...

「私、やっぱりちゃんと強くなって、自立して、伊月(いつき)さんやオババ様に恩返ししたいです。と、いうか恩返ししますから!」

恩返し宣言をした私を、フッと伊月(いつき)さんが笑ったのが後ろ姿からも分かった。

「そなたの恩返しとやらを楽しみにしておく。」
伊月(いつき)はいつものように城下町でお昼を済ませて帰路につこうとしていた。
そこにちょっとした人だかりが出来ているのを見つける。
通り過ぎようとすると、聞き慣れた声がした。

「普通に計算すればわかるじゃないですか。お釣りは3(とみ)()ですよ。」

「女の分際でギャーギャーうるせえよ。」

―― ん? 那美(なみ)どのの声!?

人よりも頭一つ高い伊月(いつき)は人だかりに近づき、事の次第を覗き込む。
その瞬間、那美(なみ)の体が地に叩きつけられたのが見えた。

「きゃっ。」

次の瞬間、考える間もなく伊月(いつき)の体は怒りの衝動に動かされていた。
那美(なみ)足蹴(あしげ)にしようとする男のみぞおちを打つと、男の体は突き飛ばされ、地に落ちた。
それでも怒りがおさまらず、男の胸ぐらを掴む。

「な、何をする! は、離せ!」

持ち上げた男の体を宙ぶらりんにしながら、殺意を向けた。

「すげーお侍さん! 力持ちだなー!」

「そのままやっちまえー!」

町の人たちの歓声が響き、ふと我に返った。

―― これ以上はいかん。この男はただの商人だ。

あれだけ普段から市中では目立たぬように心がけているのに、こんなに衝動的に行動してしまった自分に戸惑った。

必死に殺意を抑えていると

「お、下ろしてくれ!」

と、男が悲痛の声を上げる。

「あい、分かった。」

―― この辺が落としどころだな

伊月(いつき)は男の体を離して、まだ地面に張り付いている那美(なみ)を起こした。
怒りに任せて行動してしまった自分に戸惑いながら、那美(なみ)にどう声をかけていいかもわからず、とにかく無言で歩き出す。

―― 足を痛めたか

那美(なみ)が左足を(かば)いながら歩いているのにすぐに気づく。
すぐに抱きかかえてやりたい気持ちが湧き上がるが、町の人たちの野次を聞いて我慢する。

―― 人前では、那美(なみ)どのに迷惑をかける

「あ、あの、お侍さん!」

そこに、見知らぬ子供連れの女が来た。
女は伊月(いつき)が怖いのか、震えている。

「そ、その方は私を助けて下さったんです。どうお礼を言っていいかわかりません。お、お願いです。奥様をしからないであげて下さいまし。この通りです。」

「お...おく...」

―― 嫁と思われたのか

その瞬間、自分の顔がブワッと熱くなったのが分かった。

―― そうか、那美(なみ)どのは、この人を助けてあんなことになったのか。

「…しかるつもりはない。」

伊月(いつき)はまた歩き出す。
本当はしかりたかった。
あんな無茶をして、足を怪我して、擦り傷を作っているのに、
自分がたまたま通りかからなかったら、どんな酷い目に合っていたか。
想像するだけで、またあの男への殺意が湧いてきた。

源次郎(げんじろう)、酒を買ってこい。稲荷小川に行く。」

―― 那美(なみ)どのが他に怪我をしていないか心配だ。

伊月(いつき)は今すぐに那美(なみ)を抱きしめ、隅々(すみずみ)見分(けんぶん)して、無事を確認したい衝動に駆られている。
今まで感じたことのない感情の波に自分でも戸惑いを隠せず、那美(なみ)を直視することができない。

ようやく人気(ひとけ)のない路地に来て、那美(なみ)を抱きしめたい衝動の代わりに抱き上げた。

「あ、あのっ…。」

「大人しく捕まっていろ。」

有無を言わさずそのまま歩き始めた。

―― これだけ心配させられたのだ。このくらい我慢してもらう。

自分でもわけがわからない言い訳をしている。
那美(なみ)は体のバランスを取ろうと、伊月(いつき)の肩にしがみつく。
那美(なみ)の柔らかな重みを感じることで、伊月(いつき)は多少落ち着きを取り戻した。

「あの、自分で歩けます。」

「嘘をつけ。」

那美(なみ)はすぐに大人しくなった。

―― 例え怪我をしてなくともしばらく離したくはないな。

そんなことをふと思い、その自分の思考に戸惑った。

―― なぜ私はこんなことを思うのだ

悶々と考え事をしている伊月(いつき)那美(なみ)は怒っているとうけ取ったらしい。

「ご迷惑かけて、すみません。」

と、しきりに、すまなそうにしている。
迷惑ではないと那美(なみ)に言ったのは伊月(いつき)の本音だった。
迷惑どころか、なぜかこの人の危機を救うのはいつも自分でありたいと思った。

―― そういう気持ちを自分には上手く表現できぬ。

伊月(いつき)は悔しさを覚えた。

「その足では歩けぬ。オババ様の所まで送って行く故、乗れ。」

「で、でも…」

伊月(いつき)那美(なみ)に背中に乗るように言うと、恥ずかしがってあたふたとしている。
その姿がなぜかいじらしくて、もうちょっと意地悪なことをしてみたくなった。

「また、さっきの抱き方の方がいいのか?」

伊月(いつき)は振り返って那美(なみ)を見下ろす。

「い、いえ、じゃあ、おんぶで。」

顔を真っ赤にして、おずおずと背に乗るという那美(なみ)を見て、伊月(いつき)のいたずら心が満たされる。

半ば強引に那美(なみ)を背負うと、不思議な感情に襲われた。
那美(なみ)の体のあたたかさと、柔らかさがダイレクトに背中に伝わって来た。
伊月(いつき)は一瞬その感覚に圧倒され、頭の中が真っ白になる。

―― なんなのだ、この温かさと、柔らかさは!

背中が解けるかと思った。
よこしまな考えが湧き出てくる。
何とか理性を保とうとすると、自然とさらに口数が減ってしまう。
この不思議な感情の処理に困っている所に追い打ちをかけるように、那美(なみ)は頬を伊月(いつき)の背中に擦り寄せて、安心しきったようにしている。
伊月(いつき)の胸の奥が鷲掴(わしづか)みにされたように苦しくなる。

「はぁ、伊月(いつき)さんの背中って、大きくてかっこいいな。」

「な…何を急に。」

那美(なみ)は自分に安心しきっていて、そういう言葉が男にどういう感情を引き起こさせるか全く考えてなさそうだった。
だが同時に那美(なみ)の純粋さに心を洗われる気もした。
よこしまな事を考えていた自分が恥ずかしくなる。

―― 那美(なみ)どのの天真爛漫さには癒やされるな

と言いたかったが、

「そなたは誠に能天気な女だ。だがその能天気さに救われる者がいるのは事実だ。」

という言葉になってしまう。

源次郎(げんじろう)のように明るい微笑みを向けられない、優しい言葉をかけられない自分が痛ましかった。

―― くそ。

そんな伊月(いつき)のトゲのある話し方にも那美(なみ)(ひる)まず、「いつか恩返ししますから!」と健気(けなげ)さを全開にしている。

―― 全く、那美(なみ)どのには(かな)わぬな。

伊月(いつき)はまたこの天真爛漫さと能天気さに癒やされていた。
私は行商人と言い争った一件で、突き飛ばされ、()りむき傷や、左足首の捻挫(ねんざ)やら、マイナーな怪我をしていて、伊月(いつき)さんとオババ様から療養を命じられていた。

「もうー、那美(なみ)ちゃんが伊月(いつき)さんにおんぶされて帰ってきたのにはびっくりだったよー。」

夕凪(ゆうなぎ)ちゃんが、朝ごはんを頬張りながら言う。

「皆に迷惑をかけちゃったね。今朝の朝ごはんのお手伝いもあんまりできなかったし。」

「え? 那美(なみ)ちゃんがそんなにしおらしいの変だよ。」

「そ、そこまで言う?」

「そんなことよりも、やっぱり伊月(いつき)さんといい感じだったじゃないー!」

「そんなんじゃないってば!」

「今朝も飛脚便(ひきゃくびん)が来て、伊月(いつき)さんから何か届いてたよ。」

「え?」

夕凪(ゆうなぎ)ちゃんが、包みを指さす。

「私に?」

「そうだよ。朝一で届いてたよ。ねえ、開けてみなよー。」

「うん。」

包みの中には伊月(いつき)さん特製の薬草ミックスが入っていて、文も添えられている。
薬草を()て、布にしみこませ、湿布(しっぷ)として、ねん挫した所に使うように書いてあった。
最後に『早く治ることを願う』と書いてある。
ふと、昨日の伊月(いつき)さんの(たくま)しくて、温かくて、大きな背中を思い出した。

―― 優しいな。伊月(いつき)さん。

「なんだ、恋文(こいぶみ)じゃないの?」

夕凪(ゆうなぎ)ちゃんが私の顔を(のぞ)き込む。

「だから、そんなんじゃないって!」

そうやってわいわい言いながら夕凪(ゆうなぎ)ちゃんと朝ごはんを食べていると、壮大に寝癖のついた髪のままオババ様が起きてきた。

「飯をくれー」

「はーい。」

こうやってまた、一日が始まった。

「足はどうじゃ?」

オババ様が私の怪我を心配してくれる。

伊月(いつき)さんの見立て通り、昨日の夜は()れて、歩くのも辛かったです。でも寝て起きたら、だいぶ()れも痛みもひいていました。」

「そうか、そうか。まぁオヌシのカムナリキの流れを見るに、回復は早そうだな。いつものようによく食べてよく寝れば問題ないはずじゃ。とにかく、今日、明日は安静にしておくことだ。」

昨日、無茶をした私のことをオババ様は(しか)らなかった。
むしろ、商人に雷を落として殺さなかったことを喜んだ。

―― 私ってばどんなキャラだと思われてるの!?

那美(なみ)ちゃんって安静にしてろって言って、本当に安静にしてると思います?」

夕凪(ゆうなぎ)ちゃんがオババ様に突っ込みを入れる。

「が、頑張るよ。」

「うむ、よし、那美(なみ)を大人しくさせるため、良いものをやろう。」

オババ様は何か思い立ったように部屋を出て、また戻ってきた。

「ほれ、これでも読んでいろ。」

「わぁー。」

オババ様が私に渡してくれたのは御伽草子(おとぎぞうし)だった。

「嬉しいー! 読みます!」

―― これがあれば安静も苦痛じゃないかも。

私はこの日、ずっと社務所に()もって、御伽草子《おとぎぞうし》を読みつつ、時々氏子(うじこ)さんが来たら対応していた。
御伽草子(おとぎぞうし)はこの尽世(つくよ)に伝わる色んな伝説を集めたものだった。
特に面白かったのは「月落(つきお)ち」という伝説だった。
数百年に一度くらい、尽世(つくよ)にある2つの月が満月のまま完全に重なり合って一つになるらしく、
御伽草子(おとぎぞうし)の中ではその現象を月落(つきお)ちと呼んでいる。

―― 月食みたいなものだよね。

そして、この月落(つきお)ちの時に、何かしらの奇跡が起こるという伝説がある。
例えば、尽世(つくよ)の北の果てに大穴が空いたのもこの月落(つきお)ちの夜だったそうだ。

―― これって、オババ様が怒りであけたっていう穴...

現在はその場所には巨大な滝と滝つぼがあり、観光地になっているみたいだ。

―― 行ってみたいな。

夢中になって物語を読んでいると、「すみません。」と声をかけられた。

「あ、あなたは!」

それは、昨日、行商人にお釣りをごまかされていた子連れの女性だった。

「やっと見つけました。色々と人に聞きまわって、ようやく。まさかここの巫女様とは思いませんでした。」

「わざわざ訪ねてきて下さったんですか?」

「はい。改めて、お礼を言いたくて。」

女性はお(せん)さんと名乗った。

「てっきりあのお(さむらい)様の奥様かと思っていました。すみません。」

「いえ、それは全然いいですよ。」

「あのうお口に合うかわかりませんが。」

(せん)さんは私に手作りのお煎餅(せんべい)をくれた。

「良かったら、向こうでお茶でも飲みませんか。」

私はお(せん)さんと一緒に神殿(しんでん)横にある長椅子に座り、お茶をすすった。
(せん)さんの旦那さんは、()の国で農業をしていたのだけど、下級武士に取り立てられ、家族で()の国に引っ越してきたそうだ。

「旦那は読み書きが少しばかりできるのと、腕っぷしを買われて、何とか足軽の下っ端に加えて貰えたんです。でも、私の方は読み書きもさっぱりでして。」

―― だから、看板に『果物3つで2(とみ)』って書いてあったのがわからなかったのか。

城下町に行けば、貨幣経済(かへいけいざい)も少しは浸透(しんとう)しているけど、未だに物々交換(ぶつぶつこうかん)をしている人たちも沢山見かける。
まして今まで農村で生きてきた人なのだから、読み書きも計算も特に必要なかったのだろう。

「女は商人の子でもない限り、算術なんて必要ないと思っていました。そして、武士の子でもない限り、読み書きも必要ないと思っていました。」

―― 多分この人の感覚が、この()の国や、()の国では当たり前なのだろう。

まだ二カ月弱しかここにいないけど、すぐにわかる。
ここは、すごい男尊女卑社会で、女性の自立なんて夢のまた夢だ。

「でも、()の国に来て、旦那の収入が米から扶持(ふち)になり、やりくりが大変でした。旦那は私の金遣いが荒いって、いつも責めるんです。でも、私は贅沢なんてこれっぽっちもしていないんです。それで、昨日あなたがお釣りのことを言ってくれて、気づいたんです。今までもぼったくられていたんじゃないかって。」

(せん)さんはとても悔しそうに言った。
きっと今までも頑張ってやりくりしてきたのだろう。
それなのに、旦那さんにも責められて。

「あなたが男相手にもひるまずに言い返したのを見て、私は胸がスカっとしたんですよ。」

「そ、それは・・・」

―― 私もこの世界の男尊女卑がこんなにもひどいとは思ってなかったから。

「あんなにも簡単に暴力を振るわれるって思ってなくって。」

「しかも、商人の男も顔負けの算術でした。」

―― 普通に足し算と引き算だけなのだけど…。

「最初はあなたの言ってることを疑ったんです。女が計算できるわけないって。」

「ああ、だから、あの商人も私が間違ってるって言い張って、それで押し通せると思ったんですね。」

「きっとそうです。誰も女の言ってることなんて信じません。」

―― 改めてとんでもない世界に飛ばされちゃったな。

「だから、今日はあなたにどうしてもお願いしたくて。」

「へ? お願い?」

「はい。」

(せん)さんはスッと立ち上がり、私の目の前で、いきなり土下座(どげざ)をした。

「え? な、何ですか? お(せん)さん、やめて下さい。」

「お願いします。私と、私の知り合いの奥さん(がた)に、読み書きと算術を教えて下さい。お金は払います。」

「え?」

(せん)さんは土下座(どげざ)したまま、つづけた。

「昨日あったことを近所の奥さん連中にも話したんです。皆、同じような悩みを抱えていて。だからといって、誰も女に読み書きを教えようなんて人いません。どうか、お願いです。」

そして、また、地に頭をすりつけるように必死に土下座(どげざ)している。

「あの、わかりました。教えますから、どうか頭を上げて下さい。」

「いいんですか?」

(せん)さんはパアっと笑顔を浮かべて、頭を上げた。

「はい。私で良ければ教えます。あの、でも、一応オババ様に許可を得たいんですがいいですか?」

「もちろんです。オババ様に私たちからもお願いします。」

オババ様は二つ返事で了承してくれて、タカオ山のふもと近くに、使ってない小屋があるのでそこを学校にすることを提案してくれた。

「これからは女も知識を蓄えた方が生きやすいであろう。ただし、カムナリキの修行は欠かさぬこと。」

「オババ様、ありがとうございます!」

「でもまずは足を完治させることじゃ。」

「はい!」

こうして、私は、足が完治したら、学校を開設する準備を始めることになった。

―― あ、良かった。無事に着いた。

今日は、オババ様のお遣いで、一人で外出していた。
行先は、以前オババ様と一緒に来たことのある伊月(いつき)さんの屋敷だ。
足もすっかり良くなって、山道も難なく歩けるようになった。
門を叩くと、すぐに源次郎(げんじろう)さんが出てきた。

那美(なみ)様! もうお加減はよろしいので?」

私は源次郎(げんじろう)さんに頭を下げる。

「その(せつ)は本当にありがとうございました。おかげさまで、すっかり良くなりました。」

「それはようございました。どうぞ、どうぞ、中へ。」

源次郎(げんじろう)さんはとても丁寧に対応してくれる。

(あるじ)は今、庭の方で剣術の稽古をしていますので、呼んで参ります。」

「あの、オババ様のお遣いで、届け物をしに来ただけなので、すぐに帰ります。」

「お急ぎですか?」

「いえ、急ぎではないですけど、邪魔をしたくないんです。」

「え?そ、そんな、邪魔なんてことはありません!」

源次郎(げんじろう)さんは思いもかけず、力を込めて言った。

「そ、そうですか? でも、剣術のお稽古を中断してほしくないので…。じゃあ、終わるまで待っててもいいですか? 」

「もちろんです。もう稽古を始めて一刻(いっこく)ほどです。どのみちもう終わる頃です。」

源次郎(げんじろう)さんは私を客間に通すと、お茶を淹れると言って部屋を出ていった。

―― あ。かわいい。

この前にはなかったけど、今日は、かわいいお花が活けられている。
客間の障子は開け放たれていて、縁側から中庭が見える。
天気の良さにつられて縁側に出てみると、庭の奥の方に伊月(いつき)さんが見えた。

伊月(いつき)さんは一人真剣に木刀で素振りを繰り返している。
声をかけられるような雰囲気ではなく、私は思わずその場に(たたず)んだ。

―― わぁ、何てきれいな所作(しょさ)だろう

流れるような動きと、力強い動きが入り混じった、どこか、はかなく美しい動きだ。
伊月(いつき)さんは着物の半身を脱いでいて、隆々(りゅうりゅう)たる筋肉が見える。
そして、二の腕には傷の跡があるのが見える。

―― 痛そうな跡だな・・・(いくさ)でついたのかな…。

次の瞬間、朝日が伊月(いつき)さんの背中にあたり汗がキラキラと輝いた。

―― か、かっこいい….

いつしか目が離せなくなって、なぜが胸の奥がうずいた。

―― ど、どうしたんだろう、私。何でこんなに…ドキドキするの?

自分の心臓の音をうるさく感じた時、伊月(いつき)さんは素振りをやめ、こちらを向いた。

那美(なみ)どの…。」

「あ、お、おはようございます。」

慌てて頭を下げる

「そこでつったって何をしている?」

―― み、見惚(みと)れてたなんて言えないし!

「えっと、随分集中されれてたので、声をかけたら悪いかなと思って…」

伊月(いつき)さんは刀を置いて手拭いで汗をふきつつ、こちらに向かって歩き始めた。

「あの、この前はありがとうございました。お薬まで送って下さって。」

私は、自分の耳が熱くなってるのを感じて思わずうつむいた。

「一人で来たのか?」

「は、はい。」

「もう足はいいのか?」

「はい、伊月(いつき)さんのお陰です。湿布(しっぷ)もよく効きました。今日はお礼を言いたくて…。」

ずんずんと歩きながら伊月(いつき)さんが近づいてくる。

「道中、大丈夫であったか?」

伊月(いつき)さんの筋肉質な体が目の前に迫ってきて、目のやり場に困った。

「はい。オババ様が、迷ったら八咫烏(やたがらす)さんを呼べって、この笛を持たされたんですが、使いませんでした。」

私は、帯に刺した八咫烏(やたがらす)ささんを呼べるという笛を握った。

「それは何よりだ。八咫烏(やたがらす)さはなかなか癖の強い奴だからな。」

―― そうなんだ。

言いながら、伊月(いつき)さんはまだ私の方へ近づいてくる。

―― な、何でこんなに近いの???

伊月(いつき)さんがやっと立ち止まる。
うつむいていたせいで、伊月(いつき)さんのシックスパックが目の前にせまる。

―― が、眼福ありがとうございます! でも、ドキドキする!

「あ、あのっ。」

いたたまれなくなり、顔を上げると、今度は伊月(いつき)さんの顔が近くにあった。

「あ...」

「しー。少しじっとしていろ。」

伊月(いつき)さんの重低音ボイスが耳をくすぐる。

―― なに?

伊月(いつき)さんはそのまま私の髪の毛に手を伸ばした。

「葉っぱがついていた。」

―― え?

伊月(いつき)さんはつまんだ葉っぱを一枚ぽいっと庭に落とした。

「汗を流してくる。しばし待っていてくれるか?」

「は、はい。」

伊月(いつき)さんは何事もなかったかのようにさっさと奥の部屋へと入って行った。

―― し、心臓に悪いよ!!!

自分だけドキドキしてしまって恥ずかしい。
客間に戻ると、源次郎(げんじろう)さんがお茶を淹れて来てくれた。

(あるじ)の剣術の様子ご覧になりましたか?」

「はい。すごい迫力でした。」

―― そして美しい体でした…っていうのは言えない!

「そうでございましょう。(あるじ)はこの亜国(あこく)で一番腕が立ちます。」

源次郎(げんじろう)さんは自分のことのように得意げに言った。

「この前、助けてもらった時も、伊月(いつき)さんの強さを目の当たりにしてビックリしました。」

「そうでございましょう!(あるじ)は強いのですよ。町の人もびっくりしていましたね。」

―― 伊月(いつき)さんのこと、とても慕ってるんだな。

「ただ、あの風貌(ふうぼう)怪力(かいりき)ですから、女子供(おんなこども)からは怖がられております。」

「でも、あんなに優しいのに。」

「そうなんですよ。那美(なみ)様だけですよ、(あるじ)の優しさをわかって下さるのは!」

私は源次郎(げんじろう)さんとこんなに話す機会がなかったけど、仲がいい主従(しゅじゅう)なんだなと思い、心が、ほっこりする。

「おーぃ、源次郎(げんじろう)どの、おるか?」

そこに庭の方からひょっこり顔を出した人がいた。
私と目が合うと、一瞬びっくりした顔をしていたが、すぐに破顔して

「もしや、那美(なみ)様ですか?」

と、言って、客間に入ってきた。

(ほり)様、また裏口からおいでですか?今、お茶をお淹れします。」

「お、源次郎(げんじろう)どの、かたじけない。」

(ほり)と言われた人は私の前に座ると頭を下げた。

堀正次(ほりまさつぐ)と申します。共舘(ともだて)様にお使えする将の一人です。正次(まさつぐ)とお呼び下さい。」

正次(まさつぐ)さん、初めまして。那美(なみ)と言います。」

那美(なみ)様のことは存じております。殿(との)が貴方様を見つけなさった時に私も戦場(いくさば)におりました。」

「そうなんですね。あの、色々ご迷惑おかけしたみたいで、すみません。それから、助けて頂いて、ありがとうございます。」

私も感謝の気持ちを込めて、頭を下げる。

「いやいや、すっかりお元気になられてなりよりです。殿(との)の看病が効きましたな。」

―― やっぱり、伊月(いつき)さんが看病してくれたんだ。

(ほり)、また来ていたのか。」

そこへ着替えてサッパリした雰囲気の伊月(いつき)さんが入ってきた。

殿(との)那美(なみ)様は、(うわさ)(たが)わず、天女のような方でございますな!」

―― 天女って、それはない。

私は(ほり)さんの見え透いたお世辞に苦笑いするも、源次郎(げんじろう)さんは

(ほり)様、那美(なみ)様に懸想(けそう)されては困りますよ。」

と、話に乗っている。

「あのう、オババ様のお使いで、タカオ山で摘んだ薬草を持ってきました。」

私は、持ってきた葛籠(つづら)伊月(いつき)さんに差し出した。

「すごい量だな。これを一人で持って来たのか。」

伊月(いつき)さんは、びっくりしたみたいに言った。

「このくらい大丈夫ですよ。それから、これも…」

私は、持ってきた重箱を開けた。
それは先日氏子(うじこ)さんにもらった小豆で作ったおはぎだ。
オババ様が伊月(いつき)さんは甘い物も好きだというので夕凪(ゆうなぎ)ちゃんに作り方を教えてもらって一緒に作って持ってきた。

「今朝、おはぎを作ったんです。良かったら皆さんで一緒に食べませんか?」

「おーこれは美味そうだ!」

正次(まさつぐ)さんも源次郎(げんじろう)さんも甘い物が好きらしく、おはぎをつまみながら皆でお茶会となった。