道に転がる牛の死骸に乗っていた生物が、大きな耳を反応させてエル達を振り返った。
大きさは猫程で、顔は蝙蝠だが小さな丸い眼球が三つあり、腹だけが膨れた骨と皮だけの黒い身体は、固い皮膚に覆われて、蜥蜴のような尾を持っていた。エルはもう一度、転がっている死体の残骸は偽物なのだと、自分に言い聞かせた。
現場の小さな怪物に目を止めたホテルマンは、特に驚きもせず、しばし冷静に観察して「なるほど」と呟いた。
「恐らく吸血獣でしょう。東側で被害が拡大していると噂で聞きました」
「僕には、小さな悪魔に見えるけどね」
半ば腐りかけた死体に群がる生物を見据えたまま、スウェンが苦い顔で答えた。
「どっちにしろ、ここでは人間が餌になってんだ。喰われないよう先に進むしかないだろ」
ログが言って銃を手に取ると、セイジが素早くライフルを組み立てて「援護する」と告げつ。
スウェンが空を見て方角を定め、それから地理的状況を確認した。
「塔の奥に傾斜の高い階段が見える。地図通りであれば、恐らく丘を超えて山に入れるルートのはずだ。出来るだけ離れないよう皆でここを突破しよう。えっと――」
スウェンは、そこでホテルマンを振り返った。
「――君、その」
「ホテルマンとお呼びください、親切なお客様」
「え、なんかそれ嫌だ……――まぁ、呼び方はいいや。とりあえず吸血獣とやらについて、君が他に知っている事を教えて欲しい」
「血と肉を主食とし、群れで行動しているという事ですかねぇ。前足の機能はあまり発達していないようで、爪はほとんどないとか。噛まれた場合のウィルス感染等は認められていません」
「成程、上出来だ」
牛の死骸の上にいた吸血獣が、のそりと立ち上がった。前足は非常に短く、ぴんと立てた耳は猫科動物のように長かった。
大きさは猫程で、顔は蝙蝠だが小さな丸い眼球が三つあり、腹だけが膨れた骨と皮だけの黒い身体は、固い皮膚に覆われて、蜥蜴のような尾を持っていた。エルはもう一度、転がっている死体の残骸は偽物なのだと、自分に言い聞かせた。
現場の小さな怪物に目を止めたホテルマンは、特に驚きもせず、しばし冷静に観察して「なるほど」と呟いた。
「恐らく吸血獣でしょう。東側で被害が拡大していると噂で聞きました」
「僕には、小さな悪魔に見えるけどね」
半ば腐りかけた死体に群がる生物を見据えたまま、スウェンが苦い顔で答えた。
「どっちにしろ、ここでは人間が餌になってんだ。喰われないよう先に進むしかないだろ」
ログが言って銃を手に取ると、セイジが素早くライフルを組み立てて「援護する」と告げつ。
スウェンが空を見て方角を定め、それから地理的状況を確認した。
「塔の奥に傾斜の高い階段が見える。地図通りであれば、恐らく丘を超えて山に入れるルートのはずだ。出来るだけ離れないよう皆でここを突破しよう。えっと――」
スウェンは、そこでホテルマンを振り返った。
「――君、その」
「ホテルマンとお呼びください、親切なお客様」
「え、なんかそれ嫌だ……――まぁ、呼び方はいいや。とりあえず吸血獣とやらについて、君が他に知っている事を教えて欲しい」
「血と肉を主食とし、群れで行動しているという事ですかねぇ。前足の機能はあまり発達していないようで、爪はほとんどないとか。噛まれた場合のウィルス感染等は認められていません」
「成程、上出来だ」
牛の死骸の上にいた吸血獣が、のそりと立ち上がった。前足は非常に短く、ぴんと立てた耳は猫科動物のように長かった。