彼の頭の中には、上に立つ者としての策略や陰謀といった思考はないのではないか、という噂がある。青年のナンバーを知らなかった女性がケーキをお裾分けした際、数日後に訪れた彼が「これ美味しかったから、食べてみて」といって彼女が務めている部屋にメンバー分のケーキを置いていった。誰が持ってきたのかもわからないケーキを美味しく頂いた後、差し入れ人がナンバー4だと知って騒然となった話は有名だった。
上位ナンバーが、下ランクの者と通常に接すること事態異例である。しかし、彼に限ってはそんな事がしょっちゅう起こった。
そのため、一見すると普通の青年にしか見えない彼が、ナンバー4だという事すら初対面の人間は信じない。現場を見て知った者だけが、事実に困惑と恐怖を感じて黙り込むのである。
ナンバー4は、これまで一度も仕事を失敗した事がなかった。所属する班やナンバーによって仕事内容は変わってくるが、ほとんどは警察や政府といった表の機関が対応できない黒い仕事が大半である。武器を持って、相手を力づくで抑え込むことが多い。
それを、青年は命令一つで簡単にやってのけた。正式にナンバーを与えられる事になったとき彼は十七歳だったが、すでに暗殺の仕事を数え切れないほどこなしていた。
全てたった一人で現場に乗り込むという異例のものだったが、仕事を終わらせる事に数分とかからなかった。冷酷で残酷なほど俊敏に人の命を奪い、彼は現場を地獄絵図のように血で染め上げた。
どこまでも平凡で、エージェントから一番程遠いと呼ばれていた青年だった。それと同時に、一桁ナンバーで最も残酷な殺人兵器であり、歴代の中で最も殺しと破壊を楽しむエージェントも彼だと称されていた。
どちらが本当の彼なのかと噂立ち、恐れられたその異名は「碧眼の殺戮者」とされ、「ペテン師」「道化」という言葉が常に後ろからついてまわった。初対面である場合、彼が一桁エージェントであると信じられない者が続出している事もその所以である。
国家特殊機動部隊技術研究課に、新たに配属された二人の新人も「ペテン」や「道化」にでもあったような心境だった。あんなのがナンバー4なのかと、二十分前に鼻で笑ったばかりである。その新人たちは、今となってはただ「有り得ない」という表情を浮かべるばかりで、言葉もなく身体を強張らせていた。
「あ、電話入れるのを忘れてた」
不意に恐ろしい音の連射が止み、思い出したように青年が独り言をもらした。
間が抜けそうなほどのんきな口調である。澄んだ高いアルトの声が、静まり返った室内に響き渡った。
※※※
ナンバー4と呼ばれる青年の名は、蒼緋蔵雪弥といった。今年で二十四になるとは思えないほど童顔な青年である。とても温厚でおっとりとしており、エージェントの中では珍しくのんびり屋だった。
国家特殊機動部隊には、暗殺部隊を除いて本当の名と家族がある。彼らは同僚にも本名は明かしておらず、与えられたナンバーの他、仲間内では自分でつけたニックネームを使用しているが、その中で唯一とくにこだわる事もなく「雪弥です」と名乗る異例のエージェントは彼一人だった。
ナンバー三十番から上の者は、数字の高さによって権力のある職と肩書きを持っているが、異例のエージェント雪弥は、とことん権力に興味を示さなかった。
外で彼を見かけた際、「普通のサラリーマンをしています」と語っているところを目撃した仲間たちが震え上がった、という話は、ここでは有名である。
上位ナンバーが、下ランクの者と通常に接すること事態異例である。しかし、彼に限ってはそんな事がしょっちゅう起こった。
そのため、一見すると普通の青年にしか見えない彼が、ナンバー4だという事すら初対面の人間は信じない。現場を見て知った者だけが、事実に困惑と恐怖を感じて黙り込むのである。
ナンバー4は、これまで一度も仕事を失敗した事がなかった。所属する班やナンバーによって仕事内容は変わってくるが、ほとんどは警察や政府といった表の機関が対応できない黒い仕事が大半である。武器を持って、相手を力づくで抑え込むことが多い。
それを、青年は命令一つで簡単にやってのけた。正式にナンバーを与えられる事になったとき彼は十七歳だったが、すでに暗殺の仕事を数え切れないほどこなしていた。
全てたった一人で現場に乗り込むという異例のものだったが、仕事を終わらせる事に数分とかからなかった。冷酷で残酷なほど俊敏に人の命を奪い、彼は現場を地獄絵図のように血で染め上げた。
どこまでも平凡で、エージェントから一番程遠いと呼ばれていた青年だった。それと同時に、一桁ナンバーで最も残酷な殺人兵器であり、歴代の中で最も殺しと破壊を楽しむエージェントも彼だと称されていた。
どちらが本当の彼なのかと噂立ち、恐れられたその異名は「碧眼の殺戮者」とされ、「ペテン師」「道化」という言葉が常に後ろからついてまわった。初対面である場合、彼が一桁エージェントであると信じられない者が続出している事もその所以である。
国家特殊機動部隊技術研究課に、新たに配属された二人の新人も「ペテン」や「道化」にでもあったような心境だった。あんなのがナンバー4なのかと、二十分前に鼻で笑ったばかりである。その新人たちは、今となってはただ「有り得ない」という表情を浮かべるばかりで、言葉もなく身体を強張らせていた。
「あ、電話入れるのを忘れてた」
不意に恐ろしい音の連射が止み、思い出したように青年が独り言をもらした。
間が抜けそうなほどのんきな口調である。澄んだ高いアルトの声が、静まり返った室内に響き渡った。
※※※
ナンバー4と呼ばれる青年の名は、蒼緋蔵雪弥といった。今年で二十四になるとは思えないほど童顔な青年である。とても温厚でおっとりとしており、エージェントの中では珍しくのんびり屋だった。
国家特殊機動部隊には、暗殺部隊を除いて本当の名と家族がある。彼らは同僚にも本名は明かしておらず、与えられたナンバーの他、仲間内では自分でつけたニックネームを使用しているが、その中で唯一とくにこだわる事もなく「雪弥です」と名乗る異例のエージェントは彼一人だった。
ナンバー三十番から上の者は、数字の高さによって権力のある職と肩書きを持っているが、異例のエージェント雪弥は、とことん権力に興味を示さなかった。
外で彼を見かけた際、「普通のサラリーマンをしています」と語っているところを目撃した仲間たちが震え上がった、という話は、ここでは有名である。