こちらを見つめるクラスメイトたちの瞳には、「国際と付く進学校から来たのだから英語のレベルも高いだろう」という好奇心が浮かんでいる。雪弥はそれを感じながら、現地英語ではない、出来るだけ教科書に沿ったような英語を心掛けて口にした。

『――悲しみはときに残酷だ。懺悔の言葉も間に合うことなく、私はそれに打ちのめされる。ああ、愛しい人。あなたはどうして逝ってしまわれたのだ。私一人だけを、この世界に残して』

 しん、と教室が静まり返った。

 あまりにも静かすぎて、開いた窓から、運動場を走り回る少年たちの賑わいが聞こえてきた。どっと騒がしくなった隣の教室から「先生、この俺がその問題を解いてみせますよ!」と自信満々の声が上がり、「西田君うるさいッ」と女子生徒が毛嫌いするように一喝する声まで聞こえてきた。

 前列席で「委員長」と呼ばれていた男子生徒が、目を見開いたままゆっくりと眼鏡を押し上げる。他の生徒も、まさかという顔でぽかんと口を開けていた。

 しばし生徒達が黙っている様子を、女教師が不思議そうに見やった後、「素晴らしいわ、本田君、ありがとう」と拍手をしたところで、彼らは金縛りが解けたようにさわがしくなった。

「さっ、次はその和訳を、川島(かわしま)君にやってもらいましょうか」
「ええッ、俺っすか!?」

 前列の男子生徒が困ったように頭をかき、どっと笑いが起こった。

 先程のしばしの沈黙の間は「もしやへたを打ったか」と緊張したものの、結局なんでもなかったらしいと察した雪弥は、小さく息をついて席に座り直した。取り越し苦労だったようだ、と心の中で呟いて緊張を解く。


 そのとき、不意に前席の修一がこちらを振り返った。雪弥は「どうしたの」と言いかけて、思わず言葉を詰まらせて後ろへと身をひいた。

 
 修一が、好奇心と尊敬できらきらと瞳を輝かせていたのだ。これまでそんな瞳で見つめられたことがなかった雪弥は、気圧されるように身をそらせていた。真っ直ぐに向けられる無垢な輝きに耐えきれず、口許が引き攣る。

 今すぐ逃げ出したい衝動を堪えて、雪弥は先に声を掛けた。

「えっと、何かな? 比嘉君……?」

 どうしてそんなにきらきらしているの、とは言えずに、雪弥は言葉を濁らせる。すると、修一が気にした様子もなくけらけらと笑った。

「修一でいいって。やっぱお前、頭良いのなぁ。めっちゃ格好良かったぜ!」
「そ、そうなんだ……あの、別にすごい事ではないから。ほら、授業中だから前を見よう――ね?」
「おう、邪魔して悪かったな!」

 ニカッと笑って、修一が前に視線を戻していった。

 雪弥は内心ほっとしたが、別方向からの強い視線に、思わず作り笑いが再びピキリと引き攣った。横目にこちらを睨みつけていた暁也に気付き、ぎこちなく顔を向けて、仏頂面を更に顰めた彼を見つめ返す。

「あの、何かな金島く――」
「暁也だ」

 暁也が無愛想に口を挟んだ。女教師が別の生徒を指名して新しい英文を読ませ始めたタイミングで、一度黒板へと視線を戻したものの、彼はすぐこちらへと視線を滑らせる。

 何か聞きたいことでもあるんだろうか、と雪弥が頬をかいたとき、暁也は表情の読めない鋭い瞳でこう続けた。

「お前、外国にいたことがあるのか」
「え? なんで?」