「さぁ、わしの部下十五人すべてがネズミの駆除に回ったぞ! お前の部下は十二人! これでじゅうぶんじゃろう。ヘロインは残った三人の手駒で勝手に運び出しておけ、ヘロインの数量は確かに注文道りじゃ、わたしは先に実験体を見てくる!」

 李は、そう尾賀にまくしたてたかと思うと、次に富川を振り返った。「さぁ、実験体共はどこにおる!」と喚く声に、富川は尾賀から離れる口実になると考えて笑みを浮かべた。しかし彼が「案内しますよ」というよりも先に、藤村がさっと李の前に進み出た。

「俺が案内しましょう」

 ヘロインを運び出す間、お喋りな尾賀が黙っているはずがないと藤村は知っていた。一度会ったあと、電話でも散々うんざりさせられていたからだ。だから今日の取引では、尾賀の相手を富川に押し付けることを決めていた。取引の後まで、話に付き合わされるようで嫌だったからである。

 ちっ、藤村め。

 富川は嫌々ながらも、去っていく藤村と李を見送ると、尾賀に愛想笑いを浮かべた。彼は満足げな表情で、大学校舎へと入っていく李の後ろ姿を見据えている。

「腕はいいんだがね、あの短気な性格はどうにもならんね」

 肉体を強化された三人の男たちによって運び出され続けている、純白のヘロインを眺めた。途中李の喚き声が遠くから小さく聞こえたが、本人がいないだけでもずいぶん静かだと二人は思った。

 そういえば、常盤はどこにいるんだ。

 富川は、尾賀に聞えないように口の中で呟いた。人殺しを仲間に迎えるといっていた常盤は、まだ校舎から出て来ていなかった。午後十一時までにはスカウトした人間を連れてくる、と聞かされていたが、それらしい人影がやってくる気配もない。

 この瞬間を一番心待ちにしていた常盤の姿がないことに、富川は違和感を覚えた。


「ネズミを処分次第、他の部下にも運び出させるね」


 尾賀のそんな言葉が聞こえたとき、もしかしたら、という富川の心配事は吹き飛んだ。普通の犯罪者よりも危険そうな部下がいれば、どんな取引も安泰だろうと構える。

 富川は顎の辺りを手で撫でた。人質を任せている常盤は、考えてみれば数十分前に薬をやったばかりである。利口な常盤のことを考えると本部長の子に手を出していることは想像できず、スカウトした人間と、本部長の息子にくっついていた友人にちょっかいを出している可能性を思った。

「まぁ、大丈夫だろう」

 それから富川は、尾賀の長い話に付き合うことになった。