六月二十三日木曜日、午後四時四十分。

 高知県警本部刑事部捜査一課で、七人の捜査員たちによるチームが編成された。組織犯罪対策課の毅梨を筆頭に、薬物取締に多く携わっていた内田、捜査一課前線に立つ澤部(さわべ)、現場で活躍する阿利宮(ありみや)班長を含んだメンバー四人の捜査員が金島の元へ向かった。

 金島が最前線に立っていた頃の主力メンバーが揃う光景に、何事かと捜査員たちが目で追う。捜査員の中で一番若い内田も、垂れた瞳を鋭く光らせていた。片手にノートパソコンを持ち、堂々とした足取りで本部長の執務室へと向かう姿は気迫がある。

 捜査二課の者が、そんな内田を見て「本気モードの内田だ」と珍しそうに述べ、息を呑んで見送った。彼が仕事に対して真剣に向きあう姿は、金島が二年前担当した連続強盗事件以来である。


 昼を過ぎた頃、毅梨たちは事前に金島の口から、茉莉海市で起こっている事件を聞かされていた。彼らには、藤村組を麻薬および向精神取締法で押さえ、後に詐欺事件でも再逮捕するという筋書きが与えられていた。本来ヘロインが白鴎学園にあり、情報操作によって他の犯罪組織と共になかったことになることは承知の上だった。


「我々は合図と共に、藤村組をおさえる」

 執務室で、金島は再度集まった一同にそう告げた。

 茉莉海市一帯は現在、国家特殊機動部隊の管轄内となっている。介入許可はすでに降りていが、ナンバー1の「待機命令」は解かれてはいない。金島は彼の指示通りチームを編成し、連絡を待っている状況だった。

 毅梨たちは、それぞれ神妙な面持ちでソファに腰かけていた。一見すると同じ真剣面をした内田だが、腹を立てた顔であることを一同は知っていた。これまで特殊機関の人間によって、パソコンの中をハッキングされていたからである。

 プライドとプライバシーの双方で、内田の怒りは収まらなかった。事件の話を聞かされたあと、もう知らされたからいいだろう、とばかりにデスク画面に堂々と、向こうから情報が送られ張り付けられていっていることに対しても、彼の苛立ちは止まらない。

「……なんかさっきから、俺のデスクトップが掲示板みたくなってんですけど?」

 テーブルのノートソパソコンを見据えていた内田は、トップ画面のファイルを片づけたはずの場所に、また資料が添付されていることに気付いて忌々しげに言った。

 隣にいた毅梨が「どれどれ」と覗きこむと、内田が操作してもいないパソコンの矢印ボタンが勝手に移動し、そのファイルを開き始める。

「うわ、内田さんのパソコンがハッキングされてるの、初めて見た」

 内田より三年先輩の三十代捜査員、阿利宮が立ち上がって後ろからパソコン画面を確認した。一課で一番礼儀正しい捜査員の一人で、聞き込みを得意としている男である。内田と組まされるのは実に二年ぶりだが、頭脳派と行動派、双方のバランスが整ったコンビとして有名だった。