「よし、じゃあこのクラスの文化祭実行委員は瀬名と綿世で決定だな。二人とも、軽く抱負でも言ってくれ」
 その予定が崩れ始めたのは、一限目のホームルームのことだった。
 言い訳をするならば〝まさか選ばれるとは思っていなかった〟であり、今日は私の命日のはずだった。
 突然教壇の前に立たされ、何を喋ったらいいかなんてこの数分で考えられるはずもなく、ただただ運が悪いとしか思うほかない。
 容赦ない無理難題を、担任はニカっと笑って任せてくる。
 高校二年、二か月後に迫った文化祭の委員に、まさか自分がこうして抜擢されてしまうなんて予想もしておらず、未だ無数の視線が突きつけられるこの現状でごくりと唾を飲む。
「がんばりまーす」
 緊張で視線を泳がせていれば、隣からなんとも気怠そうな声が飛び出してくる。
「おい瀬名。もっとやる気を見せろ、やる気を」
「正当な選ばれ方じゃないからなぁ。先生の独断と偏見によって決めたでしょこれ」
「人聞きの悪い言い方をするな」
 二人のやり取りにくすくすと笑いが起こる。選ばれることのなかったクラスメイトは、先程とは打って変わって気の緩んだ表情を浮かべている。 
 私もきっと、選ばれることがなければこんな顔をしていたのかもしれない。
「はい、綿世さんの番」
「えっ」
 緊張と不安の中、瀬名くんから挨拶の順番が渡される。
 分散していた視線は、集中的に私へと注がれ、心臓がどくどくといやな音を立てる。
「……あ、が、がんばります」
 あまりの声の小ささに何人かが耳をこちらに向けたのが見えた。自分でも、声量の出なさは自覚している。けれどもこういう場面では、普段よりも声が喉に張り付くみたいに出ない。
 がんばります、じゃないでしょ、私。
 なに無責任な発言をしているのだろうと、どこかで俯瞰している私がいる。
「うん、頑張ってな二人とも」
 担任の助け舟が合図となり、不揃いな拍手が送られる。ぱちぱち、と響く中で「ちっさ」とからかわれるような声が交じっていたのが聞こえ、思わず顔を上履きへと落とす。
 こういうシーンが苦手だ。人前で言葉を発するということが、私にとっては苦痛でしかない。だから、これからこの場面が何度か繰り返されるなんて正直考えたくないというのが本音。