数日が経ち、今や平常心で銀狐と過ごせている。
今日もいつものように、ほうきで落ち葉を集めていると後ろから声がした。
「陽香、私がやる。」
「いえ、昨日もやって頂いたのに今日も任せては無礼にもほどがあります。」
「いいから。もし嫌であらば私に接吻をすることだな。」
「そんなことをして貴方様に何の利益があしましょう。」
銀狐は少し顔を赤らめる陽香の姿を見逃さなかった。
「はは!やはりいじり甲斐があるものだな。」
そう言って私の手からほうきを取り上げる。
「あっ!ちょっと。」
「これは神使からの命だ。断ることは断じて許さぬ。」
そう言われてしまえば陽香は身動きがとれない。そうして罪悪感が溜まっていく。けれど、明日は神楽の舞を踊らねばならない。なら、休ませていただこうと考えられるため、罪悪感も薄れていく。
「そういえば、ずっと人の形をされていますが、何故狐にお戻りにならないのですか?」
「先祖は狐だが、神使となり人の形となった。それからというもの、赤子は狐の形をし、5歳ほどで人の形となり、人の寿命(とき)を生きて死ぬ。」
永久を生きるのかと思っていたが違ったようだ。神使であろうと天に還るということか。
「なら何故、あの日狐の姿を?」
「あれは、山にいるときは狐のほうが何かと都合がいいからだ。」
「なるほど。」
「銀狐様は御年何歳になられましたか?」
「18だ。」
思った以上に若い。鋭い目つきや貫禄があるからかもしれないがまだ二十歳になっていないとは。
「それより、銀狐と名乗ったのはいいが、何とも格好悪いし、私のことを知っている人間もいるだろうから違う呼び名のほうがいいな。」
そんなに有名人…有名狐だったのか。無知は罪、今更ながら知らなかったことへの羞恥心が高まる。
「陽香。」
「はい。」
「名を付けてくれ。」
そんなことを急に言われても…。銀色に…氷のような…。白金……。
「……氷白(ひはく)…はどうでしょう。」
「うむ。それにしよう。」
良かった。嫌ではないようでほっとする。
「私も聞いてもいいか?」
「はい。」
「お前はこの神社を独りで守っているのか?」
「はい。両親は幼い頃に病死したので。」
「親から死際に何か言われなかったか?」
「あの頃は両親がいなくなって心身ともに辟易していましたから、覚えておりません。」
小さい頃の記憶は両親が亡くなってずっと独りで泣いていることぐらいだ。そこに湊と奥さんが来て陽香をここまで育ててくれた。実の親のように可愛がってくれたことを今でも忘れない。
「そうか…。それともう1つ。その腕の怪我は何だ?」
今は巫女装束を着ているため見えていないが、夕飯の支度をしているときに見えたのかもしれない。
前に菜月に棒で殴られた跡だろう。特に気にしてもいなかったし、バレていないと思っていたので少し驚いた。
「…転けて痣ができただけです。すぐ治りますよ。」
明るく微笑む。そんな陽香を痛々しく見つめる。
「……何かあったら私に言え。」
「お気遣い有り難とうございます。」
そう言って家の中へと戻っていった。