部屋に入る前に兄の部屋の前で足を止める。
 手が上がって扉を叩く一歩手前で、僕はやっぱり手を下げた。

 言ってどうする?
 鼻で笑われて、うるさがられるだけだろう。

 お風呂上りに母親が、まだ話し足りないのか話しかけてくるけどスルーして部屋にこもってたら夜中の12時になる。
 眠れない。
 課金を我慢しているゲームがあったな、この先地獄に落ちる可能性があるから課金しようかなって思ってしまった。

 この勢いで、みんな高額商品買いこんでたりして。

 やっぱり課金せず、矢口の配信チャンネルにスマホを繋げる。
 編集が終わったのか新しいのが上がっていて、今日の出来事を淡々と説明する矢口の姿がそこにあった。動画は教室で誰も座っていない遠藤くんの席を主に、思い出すのも嫌な金属音を受けてみんなが崩れる様子を映していた。

【死んだはずの遠藤くんが教室に居る話】
 そんなタイトルがぴったりで上手にまとめてあったけど、コメントは『ドッキリ?』とか『ふざけすぎww』とか僕ら以外の人には悪ふざけと思われていた。
 遠藤くんの姿が映らないのが切ない話だ。

 僕は矢口のチャンネルをリンクして数ヵ月ぶりに兄にLINEを送った。
 前に送った時は機嫌が悪く、僕側の壁を強く叩かれて悲しい気持ちになったので、あれ以来LINEは使ってなかった。

 そしてベッドから起き上がり、僕は兄の部屋の前に立つ。
 鍵がかかっているので中には入れない。
 寝ているかもしれない。

 でも聞いてほしかった。