その後も私はいくつかの検査をし、後はもう帰るだけだと思いながら待合室でジュースを飲んでいたが、再び呼び出しされた。もうこの大学病院の閉院時間も迫ってきているらしく、周りにはほとんど人が居なかった。父は数分前に会社から電話がかかってきたと言い、席を外したままだ。まだ外で電話をしていたので、私は父の携帯にメッセージだけ送り診察室に入った。
「あれ、お父さんは?」
私が一人だと気がついた先生に、父が電話中であることを伝えると、先生は頷いて私に席に座るよう言った。
「桔梗ちゃんはバスケ部なんだっけ?」
「はい。一応」
緊張をほぐすためか、先生は優しく話しかけてきてくれた。少しパーマのかかった彼の黒髪は、ワックスをつけているのかつやつやしていた。背は高そうだが、やっぱり涼の方が高いだろう。涼、今頃何してんのかな。後で電話してみようか。呑気にそんなことを考えていた私だったが、結局、電話なんてできなかった。
「運動が好きなんだね」
「そうですね。得意ではないですけど」
私がそう言うと、先生は笑った。
「でもレギュラーなんでしょ?さっきお父さんが言ってたよ」
一体何を話していたのやら、と呆れていると先生がボールペンをいじりながら続けた。
「いやあ、僕も学生時代バスケ部でね」
「センター、ですか?」
先生の体を見ながら私がそう聞くと、先生もにやりとした。
「ご名答」
それと同時に病室の扉がノックされた。先生が、はい、と言うと父が入ってきた。
「すみません、仕事の連絡が急に」
「いえいえ、構いませんよ。桔梗ちゃんとちょっとバスケの話をしてただけですから」
先生はそう言いながら父にも椅子をすすめた。父が一息つくと、先生は私の顔を見て、それから父の方を見た。視界の端で、父が頷くのが見えた。先生は視線をゆっくりと父から私に移し、小さく息を吸った。そして、私が白血病であることを告げた。
父が運転する車の助手席で、私は窓の外を眺めていた。追い越していく街頭を一本一本目で追っていた私に、父が言う。
「腹は、減ってないか?」
「そんなに」
「寝てて、いいからな」
「うん」
しばらくの沈黙が続いた後、私は窓を見つめたまま、ずっと気になっていたことを父に聞いた。
「どうしてさ、あんなに慌てて私を病院に連れてきたの?」
「あれ、お父さんは?」
私が一人だと気がついた先生に、父が電話中であることを伝えると、先生は頷いて私に席に座るよう言った。
「桔梗ちゃんはバスケ部なんだっけ?」
「はい。一応」
緊張をほぐすためか、先生は優しく話しかけてきてくれた。少しパーマのかかった彼の黒髪は、ワックスをつけているのかつやつやしていた。背は高そうだが、やっぱり涼の方が高いだろう。涼、今頃何してんのかな。後で電話してみようか。呑気にそんなことを考えていた私だったが、結局、電話なんてできなかった。
「運動が好きなんだね」
「そうですね。得意ではないですけど」
私がそう言うと、先生は笑った。
「でもレギュラーなんでしょ?さっきお父さんが言ってたよ」
一体何を話していたのやら、と呆れていると先生がボールペンをいじりながら続けた。
「いやあ、僕も学生時代バスケ部でね」
「センター、ですか?」
先生の体を見ながら私がそう聞くと、先生もにやりとした。
「ご名答」
それと同時に病室の扉がノックされた。先生が、はい、と言うと父が入ってきた。
「すみません、仕事の連絡が急に」
「いえいえ、構いませんよ。桔梗ちゃんとちょっとバスケの話をしてただけですから」
先生はそう言いながら父にも椅子をすすめた。父が一息つくと、先生は私の顔を見て、それから父の方を見た。視界の端で、父が頷くのが見えた。先生は視線をゆっくりと父から私に移し、小さく息を吸った。そして、私が白血病であることを告げた。
父が運転する車の助手席で、私は窓の外を眺めていた。追い越していく街頭を一本一本目で追っていた私に、父が言う。
「腹は、減ってないか?」
「そんなに」
「寝てて、いいからな」
「うん」
しばらくの沈黙が続いた後、私は窓を見つめたまま、ずっと気になっていたことを父に聞いた。
「どうしてさ、あんなに慌てて私を病院に連れてきたの?」