彼は無理矢理事を進めようとしたため、うまく行かず大きなため息をついた。
私は涙が溢れて止まらなかった。
それから彼は私を抱こうとはしなかった。
一週間に一度食事をしてちょっと会話を交わすだけで終わる。
これでも付き合ってると言えるの?
私はある決心を固めた。
彼に連絡を取り、二人の関係をはっきりさせたかった。
彼と二人で、ゆっくりと歩いた。
「私達このまま付き合っていて大丈夫なの?」
彼は黙っていた。
「劉?」
「ごめん、美希とは身体の相性悪いから満足出来ないから、もう終わりにしよう」
彼はこの言葉を残して私の元から去っていったのである。
「今日これから出かけるぞ、早く支度しろ」
「どちらにいかれるのですか?」
「俺と美希の結婚指輪を買いに行く」
そう言って彼は私の左手の薬指に触れた。
「指輪はめたら一生俺のものだぞ」
彼は私の左手の薬指にキスをした。
私は、この幸せがずっと続くと信じて疑わなかった。
ある日、買い物に出かけた先で元彼に会った。
十年ぶりの再会である。
「美希、久しぶり、十年ぶりかな」
声をかけてきたのは、元彼の飛鷹 劉だった。
劉は十年経っても相変わらずかっこいい、当時のことが走馬灯のように甦る。
「時間あるならちょっとお茶しない?」
お茶くらいならいいよね。
「うん、ちょっとなら」
劉は私の左手の薬指の指輪に気づき
「結婚したの?」
「うん」
私も劉の左手を確認すると指輪はしていなかった
「劉は結婚は?」
「美希と別れてから誰とも付き合ってない、美希と別れて後悔したよ」
思いがけない言葉に動揺を隠せない、私と別れて後悔したなんて……
「美希、もう一度やり直せないかな、俺たち」
「何を言ってるの?もう遅いよ、私結婚しちゃったし」
「ご主人、鏑木建設社長だろ」
「なんで知ってるの?」
「テレビ中継見てびっくりしたよ、美希すげえ綺麗だったから、十年経ってるとは思えなかった、あいつと別れて、やり直そう」
「そんな気ないから」
私はその場をあとにした。
お茶なんてしちゃって後悔した、でもこの時はっきりわかった、鏑木蓮を愛していると……
ちょっと後ろめたい、彼にちゃんと話した方がいいよね、迷った挙句彼に話すことにした。
「お話あるんですが……」
「何?」
「昼間、以前お付き合いをしていた男性と偶然会って、お茶しました。やり直そうと言われたのでちゃんとお断りしました」
彼は私の話を聞き終わると、深呼吸をして私に尋ねた。
「なんでお茶した?」
「久しぶりだったので、ただそれだけです」
「やり直そうって言われたんだ、美希が結婚してることは話したのか」
「はい」
「もう、お茶したりするな いいな」
「ごめんなさい」
彼は私を強く抱きしめた、そして耳もとで囁いた
「美希、前の男のこと、まだ好きか」
私は大きく首を横に振った、彼は私の頬を両手で
挟み、キスをした、優しいキスだった。元彼のことはこれで終わったかに思えた。
しかし、劉は私を待ち伏せて、詰め寄ってきた。
「美希を忘れられない、俺にもう一度チャンスをくれないか」
「ごめんなさい、私離婚する気持ちないから」
そう言ってその場から離れようとすると、いきなり腕をつかまれて引き寄せられた。
そこに彼が割って入り込み、私を自分の方へ引き寄せた。
彼は劉の胸ぐらをつかみ「人の妻に手を出すんじゃねえ」と殴りかかりそうになった。
「わかった、わかったよ、あんたが鏑木建設社長か、もう手出ししないよ」
「美希、捨てられないようにな」
すると彼は劉に対して一言投げつけた。
「美希は捨てねえし、別れる気もねえ、美希に二度と近づくな」
彼は私の手をつかみその場から離れた。
マンションに着くと、彼は何も言わず黙っていた
「ごめんなさい、今日お仕事はどうされたのですか?」
「嫌な予感がして戻ってきた、待ち伏せなんて卑怯な手を使いやがって」
彼は私を抱き寄せてキスをした、そのまま私を抱きかかえてベッドに押し倒した。
首筋に彼の唇が触れると身体が熱ってくるのを感じた、胸のボタンを外し、私の上着を脱がす、キャミソールから胸の膨らみが露わになり、彼の唇が押し当てられた。
彼の呼吸が荒くなり、彼の手が私の太腿から股へと滑り込んだ。
思わず「駄目」と叫んだ、しかし彼は私の言葉を聞かず身体を押しつけてくる。
「蓮さん、それ以上は・・・」
「まだあいつに惚れてるのか」
「違います」
「美希、俺はお前を愛してる」
キャミソールの胸の部分に彼の手がかかり、胸に触れた。
「イヤ」
私は溢れる涙を堪えながら叫んだ。
彼は我に返って私から離れた、そして部屋を出て行った。
堪えていた涙が一気に溢れ出し止まらない、どうしよう、彼を拒絶してしまった。
嫌だったわけではない、これ以上進んで、もし彼に満足出来ないと嫌われたら、もう彼なしでは生きていけないと強く感じた。
部屋を出ると彼の姿はなかった。
私は嫌われたと思った、涙が溢れてきた。
その時ドアが開いて彼が戻って来た。
「蓮さん、ごめんなさい、私……」
「美希、ごめんな、嫌がることはしないって約束したのに、俺はあいつに嫉妬した、あいつはいいのになんで俺は駄目なのかって……そんなの決まってるよな、俺は美希に嫌われてるんだよな」
「違います、違うんです」
私はこれ以上何も言えなかった。
「飯食おうぜ、コンビニで買って来たから、今日はこれで済ますぞ」
「わざわざ買いに行ってくれたんですか」
私は彼に申し訳ない気持ちで、涙が溢れて止まらなかった。
いつもなら彼は私を抱きしめてくれるのだが、今日は抱きしめて貰えなかった。
私は彼に嫌われたと思い込んだのである。
夜寝る時も、いつもなら腕枕をしてくれるのに、今日は私に背を向けて眠ってしまった。
俺は美希の元彼に嫉妬した。
美希が気軽にお茶したことも嫌だった。
俺は美希が何かに悩んでいることには気づいていたが、それが何なのかわからずにいた。
毎回俺はなぜ避けられるのか、あと一歩が進むことが出来ない。
今日は美希を抱きしめる気持ちになれなかった。
いつもなら腕枕をして美希を朝まで抱きしめると、気持ちが落ち着くのだ。
美希を抱きたい気持ちが溢れて俺は理性を抑えるのに必死だった。
美希はあいつのことは、もう愛していないと言った。
でもそれならなぜあいつと一緒の時間を過ごしたんだ。
まだ気持ちが残っているからじゃないのか。
それに俺は拒否されてる、本当はあいつを愛しているのか。
そんな気持ちが醜い嫉妬に変わり、俺はいつもの自分を保っている事が出来なかった。
美希の顔を見たら、嫌がる彼女を無理矢理襲ってしまいそうだった。
美希の気持ちは置き去りにして、俺の欲求だけを満足させるために抱きたかった。
それは絶対に避けなければならないことだと、自分に言い聞かせ、美希に背を向けて眠りについた。
いや、一睡も出来ずに朝を迎えた。
朝、彼はこんな提案をした。
「しばらく、買い物は休みの日に一緒に行こう、また待ち伏せされたらと思うと、心配で仕事が手につかないからな」
「わかりました」
二人で買い物なんて初めてだから、すごく嬉しかった。
そして休みの日、彼と一緒に買い物に出かけた。
いつも行く商店街へ彼を連れて行った、彼は初めて訪れる商店街に驚きを隠せない。
「美希、いつも買い物は商店街か」
「そうです、安いし、鮮度もいいし、商店街の皆さん優しいんです」
そこへ商店街の八百屋のご主人が声をかけて来た。
「美希ちゃん、今日はご主人と一緒かい、羨ましいねえ」
「はい」
彼が八百屋のご主人に挨拶をしてくれた。
「いつも美希がお世話になっております、鏑木と申します」
「えっ鏑木建設の御子息かい」
「あっ はい、でも今は社長を任されています」
「そうかい」
「親父さんは元気かね、よくこの商店街に足を運んでくれたんだが、最近ご無沙汰だから心配してたんだよ」
「入院したんで、自分が社長を就任しました」
「そうだったのか、実はビル建築でこの商店街は立ち退きを迫られている、直接社長さんに会えたのも何かの縁かもしれない、この商店街が立ち退きしないで済むようにならないかね」
「約束は出来ませんが、皆さんのご意向に沿うように検討させていただきます」
彼はそう言って商店街をあとにした。
マンションに戻ると、早速東條さんに電話で指示を出していた。
食事が終わると、彼はしばらく自分の部屋から出てこなかった。
深夜零時を回っていた、私は彼の部屋に様子を見に行った。
「蓮さん、まだお仕事終わりませんか」
「あ?っ、先に寝てくれ」
「わかりました」
彼は朝になってもベッドにはこなかった、部屋に入ると、彼はイスで眠っていた。
彼の寝顔をしばらく見ていた。
彼が目を覚まし、私に気づくと、目を逸らした。
やっぱり私は嫌われたと確信した。
しかし、彼がわざとベッドには行かず、イスで寝ていた事など知る術はなかった。