俺の愛を受け入れろ〜俺様御曹司の溺愛

「社長、もう起きて支度しないと迎えが来ます」

「いいよ、待たせておけば」

「東條さんに私が怒られます」

「美希が怒られるんじゃ駄目だ、起きるか」

彼は支度を始めて、私の作った朝食を初めて口にした。

「すっげ?うまい、美希は俺の性欲だけじゃなく食欲も満たすんだな」

性欲を満たすって、まだ最後まで行ってないのにキスして、抱きしめて、私の身体に触れただけでそれ以上は進まない。

私は恋愛経験が少ない、最後まで行ったのは一度だけ、しかも最初で最後の恋と思っていた、でもふられた、「美希とは身体の相性悪いな、満足出来ない」と言われて……

それから恋に臆病になった。
また満足出来ないとふられるかもと、脳裏を掠める。今、彼は好きって言ってくれる、この先付き合いが進み、最後まで行ったら嫌われるかもしれないと思ってしまう。

「美希、どうした?」

「どうもしません、支度してきます」

迎えが来て二人で会社に向かった。

会社に到着すると、早速仕事が待っていた。
パソコンを開き、東條さんが説明を始めた。そこへ社長が来て、「藤城には俺が教える」と二人の間に割って入ってきた。

「承知いたしました、御用があればお呼びください」

そう言って東條さんは秘書室を後にした。

「社長、これから桂木社長と会食になっていますが、そろそろ出発しないと遅れます」

「そうか、美希も一緒に行こう」

そう言って東條さんを呼んだ。

「桂木社長との会食に藤城も連れて行くから、あとよろしく」

「社長お待ちください、藤城さんには会社に残ってやっていただく仕事が山積みです、私が指導いたしますので藤城さんは残ってください」

「藤城の山積みの仕事はお前がやればいいだろう」

「藤城さんは我が社の社員です、仕事は熟していただかないと、他の社員に示しがつきません」

彼は東條さんに言われて返す言葉がないのか暫く黙っていたが、次の瞬間とんでもない事を口にした。

「東條、お前が残って藤城に指導するのは許可出来ない、藤城が社に残らなければならないのなら桂木社長との会食はキャンセルする、俺が藤城の仕事を指導する」

「失礼を承知で言わせていただきます、それは私への信頼がないと言うことですか?」

「そうではない、藤城が他の男と二人きりなんて我慢出来ないだけだ」

「私のことは信じて頂けてないと言うことでしょうか」

気まずい空気が社長室に流れた。
どうしよう、私が口を挟むことが出来る状況ではないよ?

彼は口を開いた。

「俺の気持ちの問題だ、嫌なものは嫌なんだ」

「子供みたいな事を言わないでください、冷静になってください」

彼はふっと息を吐き、とんでもないことを口にした。

「俺は冷静だ、もし俺の言うことが通らないのなら、藤城は退職させる」

えっ何を言い出すの?私辞めさせられちゃうの?
どう言うこと?もう何がなんだかわからない。
そして彼の口から出た次の言葉は想像を遥かに越えた事だった。

「藤城を俺の妻として迎える、それなら会食やパーティーに同席出来るな」

「はい、しかし、結婚は一人では出来ません、藤城さんの返事はちゃんといただいておりますでしょうか」

「まだだ」

「では藤城さんから良いご返事をいただいてからになります、きちんと手続きが済んでから発表の段取りになります。社長になると言うことは大変な事です、わがままは通りません」

初めて見た、彼が反論出来ないところ……
なんか可哀想になって私はとんでもないことを口走った。

「私、社長のプロポーズお受けします」

私はなんてことを言ってしまったのだろう。

そして鏑木建設社長鏑木蓮の結婚報告会見が決まった。
どうしよう、今更だが私が蓮さんと結婚なんて……
しかも結婚会見って、しかもテレビ中継なんて。

今まで結婚会見をテレビで見ていた私が、テレビに出るなんて、あ?っ大変なことを言ってしまったと後悔した。

「蓮さん、あのう、私留守番してます」

「なんで?主役いない会見なんて聞いたことないぞ」

「主役は蓮さんじゃないですか」

「皆、鏑木建設社長夫人を見にくるんだぞ」

「どうしよう」

「どうもしなくていいから、俺の隣にいればいい質問には全て俺が答える、大丈夫だ心配するな」

彼はいつも冷静で頼もしい、彼に着いていけば私は幸せになれると確信した。

テレビ中継が入り、会見が始まった、質問は全て彼が答えてくれた。

このテレビ中継を、私の元彼が見ていた。
これから始まる思いもよらぬ出来事を、私は知らずにいた。



私は会社を退職し、そして鏑木蓮と結婚した。
今までと違うことは一緒に出社していたが、私は彼を見送り、家事を熟す、そして夕食の支度をして彼の帰りを待つ生活に変わった。

彼は社長就任後とても忙しい、しかし必ず抱きしめてキスをしてくれる。
でもまだそこまで、私の心配は消えていないのである。

「美希、仕事続けたかった?」

「いきなりどうしたんですか」

「俺は美希と結婚したかったから、すごく幸せだが、美希はどうなのかなって思って」

今日の彼はいつもと違い、なんか弱気だ、でもまたそれが魅力的に写っている。

「正直不思議です、今、蓮さんの妻でいることが……私のどこを好きになってくれたのか、いまだに信じられません」

「美希は可愛いいし、優しいし、俺の方が年下なのに美希を放っておけない、守ってあげたいって思ってるよ」

「なんか擽ったいです、そう言えば聞きたかったことがあって、社長就任の日が初めてじゃないって言ってましたけど、前に私達会っていますか」

彼は三年前の私達の出会いを話し始めた。

「美希、血液型RHマイナスだよな」

「そうです、だから輸血が必要になると大変なんですよね」

「三年前輸血したの覚えてる?」

彼に言われて記憶を辿って見た、確かに輸血した覚えがある。
あの時たまたま居合わせたのがRHマイナスの私で輸血を申し出たのである。

あの日私は友達と買い物をして帰るところだった。

大通りに出てタクシーを拾おうとした時、目の前をオートバイが横滑りして、道路の植え込みに突っ込んだ。

バイクに乗っていた男性は投げ出され、頭を強く打ちつけた。

私は思わずきゃあ?っと声を上げて、顔を覆った。

辺りは騒然となり、私はその男性の元に駆け寄った。

「大丈夫ですか」
男性は顔をしかめて返事をしなかった。

すぐに救急車がやって来た。

男性は救急車に運び込まれた。

「一緒に乗ってください」

えっ?私?関係ないんだけど、救急隊員に言われるまま救急車に乗り込んだ。

男性は苦しそうな表情を見せていた。

私は思わず男性の手を握った。

そうすると、少しだけ苦しそうな表情が和らいだように見えた。

病院へ到着すると、男性は処置室へ運ばれた。

「ご家族の方はここでお待ちください」

「あのう、違うんですけど……」

「あっ、失礼致しました、でもその場にいらした方ですよね、少しお待ち頂けますか」

「はい」

それから人の動きが慌ただしくなり、騒ついてきた。

「輸血パックが足りません」

「RHマイナスですか」

私はこの時役に立てると思った。

実は私の血液型はRHマイナスで、すごく苦労した経験があった。

「あのう、私、RHマイナスです、私の血を使ってください」

そして私は男性に輸血した。

病室で休んでいると、白髪混じりの初老の男性が挨拶にやってきた。

「はじめまして、この度は坊ちゃんを助けて頂きありがとうございました、後ほど旦那様が到着されますので、しばらくお待ち頂けますでしょうか」

「あのう、お互い様ですから、お気になさらないでください」

「ありがとうございます、でももうしばらくお待ちいただけますようお願いします」

私は待たずに帰ろうと思った。

「失礼ですが、お名前を教えて頂いてもよろしいでしょうか」

「藤城美希です」

「では後ほど」

そう言って初老の男性は病室を後にした。

私は男性が坊っちゃんと呼ばれていることに、あまり関わりたくないと思い、病室を後にしたのである。

「あの時輸血が必要だったのが俺」

「えっ」

「あの時美希が居なかったら俺は今ここにいなかった」

「お互い様です、RHマイナスの人は大変ですから」

「はじめはお礼を言いたくて探した、びっくりしたよ、親父の会社の社員だったから。
あの頃俺は親父に反発ばかりして、会社は絶対継がないって言ってたんだ、だから二十三歳になってもバイトの生活だった。
そんな時バイクで事故起こして、俺の人生終わったって思った」

私は彼の話に耳を傾けていた。

「目が覚めたとき、あの世かと思ったよ、でも生きてるってわかって、輸血のこと聞いてめっちゃ美希に感謝した。

美希を探し当てた時親父に言われた、今の状態で名乗り出るんじゃないって、それから勉強してこの会社の採用試験受けた。

でも落ちまくってやっと受かって、総務にいたの気づかなかった?」

「そうだったんですか、全然気づきませんでした」


また彼は話を始めた。



「あの頃俺美希のストーカーだったな」

「えっ」

「どんな人なんだろう?彼氏いるのかな?何に興味あるんだろうと考えていたら、毎日美希のことばかり考えていた。