俺の愛を受け入れろ〜俺様御曹司の溺愛


俺は鏑木蓮、鏑木建設会社の御曹司である。

親の脛をかじり、何も考えずに遊んでばかりいた。

親父の会社は継ぎたくないと、バイトの日々を送っていた。

そんな俺に喝を入れるかの出来事が起こった。

バイクで事故を起こし、意識不明の重体に陥った。

しかも俺はRHマイナスの血液型で、普段から親父に懇々と言われていた。

事故を起こして、輸血が必要な状態は避けなければいけないと……

俺は輸血が必要なくらいの重症だった。

しかもたまたまRHマイナスの輸血パックが足りないと言う事態に陥った。

俺の命もここまでかと思った矢先、輸血を申し出てくれた人物がいた。

俺の命の恩人、藤城美希だ。

俺は目が覚めたとき、俺の顔を覗き込んでいたのは東條だった。

「蓮様、大丈夫ですか」

「ここはあの世か?」

「いいえ、蓮様は助かりました」

そう答えてくれたのは親父の秘書である東條だった。

まだ、頭がぼーっとする。

身体中も痛くて堪らない。

自分の手を顔の前に持っていき、両手がある事を確認した。

足は全く感覚が無い。

もしや、俺の足は無いのか?

急に悍ましい思いが脳裏を掠めた。

「おい、俺の足はちゃんとあるか?」

「大丈夫です、ちゃんとついてますよ」

東條はニッコリ微笑んで答えてくれた。

そこへ病室のドアがノックされた。

「蓮、生きてるか?」

そう言って病室に入ってきたのは、俺の悪友、望月楓だ。

「楓、縁起でもない事言うなよ」

「でも良かったな、お前は強運の持ち主だな」

俺は強運の持ち主じゃない、輸血を申し出てくれた女性がいなかったら、俺は今、ここにはいない。

「蓮様、事故現場にいらした女性はどなたですか?お付き合いされていた方でしょうか」

「事故現場にいた女性?俺はあの時一人だったはずだが……」

俺は全く身に覚えがなかった。

「事故現場にいた女性が一緒に救急車に乗って頂いて、輸血を申し出てくださったんです」

「名前を聞いたか?」
「はい、藤城美希さんです、社長がご挨拶したいとの事で、お待ちいただく様にお願いしたんですが、すぐに病室を後にしてしまわれたんです」

「調べたか」

「はい、驚きの結果が出ました」

俺はどんな結果が出たのか興味深々だった。

「我が社の社員でした」

俺はその結果に驚き固まった。

そこへ鏑木建設会社社長が病室へやって来た。

「蓮、大丈夫か、いつまでもふらふらしているから自業自得だぞ」

「親父!」

「事故現場に居合わせて、お前に付き添い、輸血を申し出てくれた命の恩人は、我が社の経理部に勤務している藤城美希さんだ、我が社に十三年間勤務してくれている優秀な社員だ」

「俺が親父の息子だって知ってて助けてくれたのか」

「いや、伏せてある、恥ずかしくて言えない」

俺は怒りを露わにした。

「いいか、お前はこれから我が社の社員として働いて貰う、そして、社長を目指せ」

「俺は親父の会社は継がないと言っただろう」

親父は大きなため息をついた。

「お前は命の恩人にお礼もしないつもりか」

「退院したら、会って礼はする」

「ばかもん、バイトの身で親の脛かじって、遊び呆けて、バイクを乗り回して、事故起こしたなんてみっともなくて、彼女の前に今のままの状態で、姿を現すんじゃない」

俺は握り拳に力を入れて悔しさが強くなった。

「親父、自力で親父の会社に受かって見せる」

親父は俺を見て微笑んだ。

「そうか、やれるものならやってみろ」

この時、親父は俺に期待していたとは気づかなかった。

「おい、蓮、そんな大口叩いて大丈夫なのか」

「大丈夫だろ」

「お前の会社、難しいらしいぞ、命の恩人の女性、大卒でお前の会社合格して経理部で勤務だろ、親父さんも優秀な社員だって言ってたじゃないか、しかも大卒で十三年勤務って、三十五だぞ、独身なら絶対に嫌なタイプだな」

「そうかな」

俺はこの時藤城美希に会いたくなった。

事故現場で身も知らずの俺に付き添い、輸血を申し出てくれた優しい心の持ち主なんじゃないかとすごく興味が湧いた。

程なくして俺は退院し、猛勉強を始めた。

でもその前にどうしても藤城美希の顔を見たかった。

親父の会社の受付で藤城美希を呼び出した。

「経理部の藤城美希さんとお会いしたいんですが……」

「失礼ですが、お名前をお願いします」

「望月楓です」

この時本名名乗る訳に行かず、望月の名前を拝借した。

「少々お待ち下さい」

「受付ですが、経理の藤城美希さんにお客様です、望月楓様とおっしゃる男性の方ですが」

「ただいま降りて参りますので」

俺は顔を見せるわけに行かず、ビルの外で隠れていた。

受付で何やら話をして、ビルの自動ドアが開き一人の女性が現れた。

俺は思っていた印象とは真逆の彼女の姿に呆然と立ち尽くした。

優秀な社員、大卒のエリート、三十五の独身。

全然違う、望月は三十五まで独身なら、嫌なタイプだと言っていたが、とんでもない。

優しい表情、三十五とは思えない可愛らしさ、控えめな雰囲気。

俺は一目で心惹かれた。

絶対に話してみたいと、強い欲求が俺を本気にさせた。

俺は望月の名を借り、思い切って彼女の前に姿を現した。

「失礼ですが、藤城美希さんですよね」

彼女は振り向くと俺の顔を見て、軽く会釈をした。

「あのう、大変失礼ですが、どちらの望月さんでしょうか」

「あ、すみません、人違いでした」

「いえ、大丈夫ですよ」

俺はじっと彼女を見つめた。

彼女は恥ずかしそうに俯いた。

「あのう、この会社に藤城美希は私一人ですが、似た名前の方ならいますので、お呼びしましょうか」

そう言ってビルへ俺を誘導しようとした。

俺は慌てて「大丈夫です、俺の勘違いでした、失礼します」と言ってその場を後にした。

彼女はいつまでも俺の後ろ姿を見送ってくれていた。

その彼女の姿がずっと脳裏から離れなかった。


俺は望月を呼び出した。

「彼女に会った」

「えっ、親父さんの言いつけ破ったのか」

「いや、お前の名前を借りた」

「はあ?どう言う事だ」

望月はムッとした表情になった。

「お前の名前で彼女を呼び出した」

「親父さんの会社まで行ったのか」

「ああ」

「それで会えたのか」

「会えた、俺、彼女に惚れた、結婚する」

望月は絶句した。

「おい、話が飛躍しすぎだろう、彼女はお前を俺だと思ってるんだよな」

「そこまで、印象づけていないよ」

「わからないぜ、望月さんって今頃うっとりして、俺の名前を連呼してるかもよ」

俺は望月の胸ぐらを掴み、拳を上げた。

「冗談だよ、怒るなよ」

「彼女のことで冗談は俺には通用しない」

「わかった、わかった、それで一目惚れか」

「ああ、そうだ、まず優しい笑顔、それから三十五とは思えない可愛らしさ、控えめな雰囲気、目の前にいて、抱きしめたくなった」

俺は興奮して声が上擦った。

「蓮、落ち着け、そんなに愛らしいなら彼氏いるだろう、人妻かもしれない、指輪を確認したか?」

「いや、そこまで気が回らなかった」

そうだよな、俺がこれほど入れ込んでるなら、他の男が放っておくはずがないな。

でも、俺の気持ちの燃え上がる炎はますます勢いを増していった。

まず親父の会社の採用試験を受けた。