「ああ、心配をかけたが、マンションに戻っていたよ」
「良かった、ちゃんと話し合えよ」
「色々とありがとうな」
そしてスマホを切った。
「望月に怒られたよ、美希を泣かしたら、俺がもらうと脅された」
「いやです、蓮さんの側がいいです」
「美希」
「麗子さんにも会わないでください、麗子さんは蓮さんを恋愛対象として見ています、ずっと私の側にいてください、私、ヤキモチ焼きなんです」
「ずっと我慢していたのか?」
美希は頷いた。
「バカだな、これからは嫌な事は嫌ってはっきり言ってくれ、変な気を回すな、
わかったか」
「はい」
「今村不動産のお嬢さんには、ちゃんと俺の気持ちを伝えるよ」
俺と美希は唇を重ねた。
舌が絡み合い、熱い永いキスを朝まで求め合った。
「蓮さん、大好きです」
「美希、俺もお前を愛している、これから先、お前と共に生きる」
俺は美希に誓った。
次の日俺は麗子の元へ向かった。
「蓮様、麗子に会いに来てくれたんですか」
「いや、もう相談にも乗れないし、食事も出来ないと伝えに来た」
「どう言う事ですか」
「俺は美希と結婚した、もうすぐ父親になる、美希が嫌だと言う事はしないと誓った
だから、お前とはもう会えない」
「蓮様とは兄弟同然の付き合いをしてきました、可愛い妹を切り離すのですか」
「お前が俺を恋愛対象として見ている限り、悪いが、会う事は出来ない、
お互い自分の会社を継いで行く立場だ、お前もその気になれ」
「蓮様、わかりました、でも私は諦めませんよ」
「麗子、いい男見つけろ」
俺は麗子の元を去った。
それから、平穏な日々が流れ、美希は臨月を迎えた。
「蓮さん、大丈夫でしょうか、すごく不安です」
「大丈夫だ、俺と美希の子供だ、あっという間に出てくるよ」
「散歩に行くか」
美希は嬉しそうに頷いた。
季節は春を迎えようとしていた。
「もうすぐ、桜の季節ですね、その頃この子は産まれてきますね」
「そうだな、名前を考えないとな」
「男の子なら蓮也、女の子ならさくらはどうですか」
「いいな、美希に似た可愛い女の子がいいな」
「私は蓮さんに似た男の子がいいです」
俺と美希は日が暮れるまで、子供の名前の話をしていた。
ある日、望月が久しぶりに連絡して来た。
「蓮、元気か」
「望月、どうした」
「俺、結婚することになった」
俺は驚きすぎて言葉が出てこなかった。
「おい、聞いてるか」
「ああ、聞いてる、相手は誰だ」
「今村不動産のお嬢さんだよ」
俺はまたまた固まった、まさか麗子?
「今村不動産のお嬢さんって今村麗子か」
「ああ、そうだ」
「詳しく説明しろ」
「今度な、今麗子と一緒だから、またゆっくりと」
「わかった、また連絡くれ」
その後望月は連絡をくれた。
俺を諦めない麗子に諦めさせようと、四苦八苦してくれた結果、お互いに惹かれあい愛し合うようになったとの事だった。
望月にはいつも助けられている。
大学時代から、そうだった。
俺が御曹司と言う事で、近づいてくる女は数しれず、その度に俺の目を覚まさせてくれたのが望月だった。
俺は美希に望月の結婚の話をした。
「望月さんと麗子さんが結婚ですか、なんか信じられないお話ですね」
「俺を諦めさせようとしてくれたらしい」
「望月さんは悪友ではなく、親友ですね」
「ああ、そうだな」
それから、しばらくして美希に陣痛が始まった。
病院へ向かい、産まれてくる俺と美希の子供の誕生を祈った。
永い夜が開けて、朝になっても産声が聞こえてこない。
美希と赤ん坊は頑張っているんだから、俺も頑張らないといけないと自分に言い聞かせた。
そんな時、病院の廊下に元気な産声が響いた。
「おめでとうございます、元気な男の子です」
美希は男の子を産んだ。
病室へ向かうと、美希はぐったりしており、大変さを物語る。
「美希、頑張ったな」
「蓮さん、男の子でしたね」
「ああ、跡取りの心配はないな」
美希はニッコリ微笑んだ。
「名前は蓮也だな」
俺は元気で、伸び伸びすくすく育って欲しいと願った。
「美希、これからもよろしく頼むな」
「はい、よろしくお願いします」
その時、看護師さんが蓮也を病室へ連れて来てくれた。
大きなあくびをして、大物になる予感がした。
俺は望月と待ち合わせをして麗子との経緯を聞いた。
「よっ、元気か、麗子お嬢様との事聞かせろ」
「その前に美希ちゃんと蓮也は元気か?」
望月はいつも美希の事を気にかけていてくれる。
「ああ、二人とも元気だよ、美希は一生懸命蓮也を見てくれているよ」
「そうか、美希ちゃんを泣かせたりしてないだろうな」
「ないよ」
望月はニッコリ微笑んで、俺を見た。
「お前はどうなんだ、奥さんと上手くいってるか」
そこで望月は大きなため息をついた。
「麗子はお嬢さん育ちだから、金がいくらあっても足りない」
俺はやっぱりと思いながらニヤッと笑った。
「蓮、やっぱりみたいな顔するなよ」
「いやいや、悪い悪い、まっ、想像通り過ぎて笑うしかないって感じだ」
「全く、美希ちゃんと交換しろ」
「バカ言ってるんじゃねえ、そんな事出来るか」
「冗談だよ、冗談」
「それで、よく麗子お嬢さん、いや奥さんはお前に靡いたな?」
「おい、俺の実力舐めんなよ」
「悪い悪い、それで」
望月は麗子との馴れ初めを語り始めた。
「お前と麗子の事を聞いて、美希ちゃんが心配になった、だから初めは蓮を諦めるように麗子を説得しようと思って近づいた」
俺は望月の話を黙って聞いていた。
「麗子を呼び出して、初めて会った時、なんてわがままなお嬢さんだとビックリした、
俺の周りには居ないタイプだったよ」
「そりゃそうだ、超がつくほどのお嬢さんだからな、この世の中、自分の言う事は全部通ると思っているからな」
「全くだよ、麗子に蓮を諦めろって言ったんだ、そしたら、なんで私が諦めないといけませんの?って言いやがった」
「あいつの辞書に諦めるって言葉はないからな」
それから望月と麗子は何回か会うことになった。
「なんですの、私は蓮様一筋で生きてきたんです、今更相手を変えるなんて出来ません」
この時望月は美希を諦めた事を、麗子のように頑張ったら、美希を手に入れる事が出来たのか考えた。
いや、それはない、美希は蓮を愛しているんだからと思うようにしてきた。
なら、蓮も美希を愛しているんだから、麗子も蓮を諦めるのが人の道に外れない事だと無理矢理思い込んだのである。
「麗子、俺を好きになれ」
そして望月は麗子にキスをした。
麗子は自分の周りの全ての人が、自分を怒ったり、麗子が考えている事と違う事を言ったりしない事に苛立ちを覚えていた。
望月の俺様目線の言動は新鮮だった。
自分の周りにいないタイプだったのである。
麗子は望月に惹かれていった。
そして、結婚への道を歩み始めたのである。
しかし、この結婚は望月の美希を諦めるための手段に過ぎなかった。
この時まだ、望月の美希への炎は燻り続け、消えてはいなかったのである。
ある日、望月は蓮のマンションへ向かっていた。
蓮と話した後、どうしても美希に会いたくなったのだ。
「美希ちゃん、元気?」
「望月さん、お久しぶりです、その節はいろいろとありがとうございました、いつも助けて頂いて感謝しています」
「大丈夫、大丈夫、俺は美希ちゃんの影のナイトだから」
美希は望月の言葉にちょっと頬を赤らめて恥ずかしそうに俯いた。
その姿に、望月は美希を引き寄せ抱きしめたい衝動に駆られた。
だめだ、俺の美希ちゃんへの気持ちは封印すると決めたじゃないか。
望月はグッと堪えて美希と距離を取った。
「麗子さんはお元気ですか」
「ああ、わがままで困っているよ」
美希はニッコリ微笑んだ。
「望月さんに甘えているんですよ」
「じゃあ、美希ちゃんも蓮にわがまま言うのか」
「えっ?」
「蓮に甘えているだろう?」
美希の顔色が変わった、望月はそのことを見逃さなかった。
「蓮に言えない心配事があるんなら聞くよ」
その時、蓮也が大きな声で泣き始めた。
「蓮也、どうした?男は泣いたらだめだぞ」
望月は蓮也を抱き上げてあやし始めた。
蓮也はピタッと泣き止んだ。
「凄いですね、望月さんは子供が好きなんですね」
「いや、弟達の面倒をよく見ていたからな、蓮だって自分の子供なんだからあやしてくれるだろう?」
美希はちょっと表情が曇った。
「蓮はあやしてくれないのか」
「蓮さんが抱っこすると余計に泣いちゃって、すぐ私に渡しちゃうんです」
「あいつは一人っ子だから苦労知らないからな、あっ、お互いに苦労するな」
「望月さんといると安心します」
美希はニッコリ微笑んで望月を見つめた。
しばらくの間沈黙になり、望月も美希を見つめた。
「そんな事言われると奪いたくなる」
二人は見つめ合った。
その時、望月が抱っこしていた蓮也が、泣き出した。
望月はハッと我にかえった。
「やべえ、蓮也に怒られた」
望月はあははと笑い、望月の言葉に美希もふふっと笑った。
「美希ちゃん、蓮を愛しているか」
「はい、愛しています」
「即答かよ」
「望月さんも麗子さんを愛していますよね」
「俺は……」
望月が言葉を探していると、蓮也が泣き出した。