「ねぇお兄ちゃん。奈々美ちゃん、いつ来てくれるかな」
「どうだろうな。新しい生活で忙しいんだろう。記憶のこともあるし、多分大変なんじゃないか?」
「……そうだよね」
「……もしかして、このまま奈々美が来ないんじゃないかって心配してんの?」
「そんなこと……うん。実はちょっと思ってた」
奈々美が退院してから二週間が経過した。
奈々美から一度電話が来たきり、数回メッセージを送ってはいるものの返事は来ていない。
美優も寂しがっていて、俺も何かあったんじゃ?と気が気じゃなかった。
最初にこの病室で出会った時は、こんなに大切な存在になるなんて思っていなくて。
所詮美優が入院してる間だけの関係だって思ってたから、退院してからもこうやって自分から連絡していることに自分が一番驚いていた。
奈々美は、不思議なやつだ。
長い黒髪と、大きな目。綺麗なその瞳に、初めて会った時から吸い込まれてしまいそうだと思ったことを覚えている。
いつも柔らかな笑顔を浮かべていて、楽しそうに美優と喋る姿からはまさか記憶喪失になっているなんて微塵も感じさせなかった。