元の世界に帰ってきた俺たちは、事の顛末をネコ族のみんなに伝えた。最初は半信半疑だったネコ族たちも、俺がアランの様子を包み隠すことなく正直に伝えると、思いのほかすんなりと納得していた。やっぱりあのじいさん、生前もあんな感じだったのか。
シュリも、アランから託された言葉を、ミッケに伝えた。
「そうか、じいさんはそんニャことを」
「……おう。お互いに補いあってけってよ」
「言われるまでもニャい。お前を止められるのは、ワガハイしかいニャいからニャ」
「いちいち一言うるせえニャあ。オマエに文句言えるのも、オレしかいねえだろ」
いがみ合っているようにも見えるが、彼らは彼らで、見た目以上に多くのものを得た。まだ短い付き合いだが、そんな風に思える。
問題は、ヴァージニアだ。こちらに帰ってきてから、ずっとふさぎ込んでいる。俺は彼女に、それとなく尋ねてみる。
「ヴァージニア、まだ気にしてるのか」
彼女は膝をかかえたまま、少しだけ顔を上げる。
「……謝れなかった。私は、ダメだな、こういうのは、苦手なんだ。ちゃんと言わなきゃ、伝わらないのに」
これは重症だ。ちゃんと別れを告げられなかったことを、ずっと悔やんでいるらしい。困りものだ。大迷宮にこもり始めたころも、こんな感じだったのだろうか。だとすれば、その時と今では、大きく違う点がひとつある。ヴァージニアはもう、孤独ではないということだ。
俺はヴァージニアの隣に腰掛けると、今にも消えてなくなりそうなその肩を抱いた。
「そりゃあ、言わなきゃ伝わらないこともあるだろうけどさ。言わなくても伝わる関係だって、あるよ。慰めにはならないかもしれないけど、伝わってるよ、きっと」
我ながら無責任なことを言ったかもしれない。だけど、責任なんて取りようがニャいんだから仕方ニャい。たぶんアランなら、そう言う。だが少なくとも、ヴァージニアの気持ちは、アランに伝わっていた。俺はそう確信している。
だいたい、言いたいことを全部伝えて、満足に別れを迎えるなんて、できるほうが珍しいんだ。彼女もきっと、それをわかっているはずだ。誰よりも頭がいい、偏屈な大魔術師なんだから。そんなことを考えていると。
「…………」
「アラン⁉」
俺たちはふたりして仰天した。目の前に、あの老ネコが立っているではないか。見間違うはずもない、剣神アラン本人だ。
「いや、そんなはずはない……たしかに俺たちの目の前で消えていった。それになにより、あの空間はアランの領域だったからこそ、アランは実体を保てていたわけで……」