外れスキルでSSSランク魔境を生き抜いたら、世界最強の錬金術師になっていた~快適拠点をつくって仲間と楽しい異世界ライフ~


 会議室を出て行くサレンは、陳情に来た人々の波に隠れてしまう。

「………………」

 なるほど、王様ってのは大変だ。


  *  *  *


 町役場の外に出ると、自分の顔がひどく熱くなっていることに気がついた。

 最初は、なんて馬鹿な奴だろうと思っていた。

 人間の少女に似た姿をしているとはいえ、頭には角が生えているのだ。

 それをソラは――。

「………………」 

 必要なのは甘い思いをすること。

 そのために他者を利用する。

 すべての生き物が、そうしているように。

 でも、ソラはそうじゃない。

 私はソラがくれた麦わら帽子を被り直した。

 そうして、薬指の赤い指輪を見つめる。

 日を浴びて、輝いている。

 これは、予想もしなかった結末だ。

 私が求めていたよりも、ずっと、ずっと――ソラという男は甘かった。

「サレンお姉ちゃん! ボール取って!」

 ソラの教えた遊びが、子供たちに広がっている。私はその丸いおもちゃを、子供たちに投げ返した。

「………………」

 甘い計算違いだ。

 それがいま、とても嬉しい。


 エルダーリッチと俺との距離は、とても近いようで、少しだけ遠い。

 いま俺は彼女と森の中にいる。魔法の特訓だ。

 彼女は俺の背中に身体を添わせて、俺の手首を握っている。

 背中に感じる温かさ、柔らかさが気にならない、と言うと嘘になってしまうけれど、ここは集中、集中だ。

「ふたつの魔法を同時に使うときは」

 エルダーリッチの細い指が、俺の手首を撫でた。

「体内の魔力の流れを意識しなくてはいけない。突き出た岩が、滝の流れを分かつように、使うべき魔力を割り振るんだ」

 耳元で囁く。吐息がくすぐったい。魔法薬の甘い残り香が漂う。俺はやっぱりそういうことを意識してしまうのだけれど、それで気もそぞろになっていては、彼女に失礼だ。俺は彼女の言葉通り、滝のような魔力の流れをイメージする。

 今回習得するのは、《門》と《サンダー》を同時に使う方法だ。

《門》は特定の離れた地点、二箇所を接続する魔法。今回は標的の近くに《門》の出口を発生させ、俺は目の前の入り口に向けて《サンダー》を放つ。

 つまり、標的の死角から攻撃をしかけるわけだ。

「しかし君は、いつも面白いことを思いつくな」

 そう、この組み合わせは俺のアイディアだった。

「良い感じだ、魔力の流れをうまくコントロールできている。今だ」

俺は《門》の出口を空中に出現させる――と同時に《サンダー》を、目の前の真っ暗な《門》の入り口に向けて放つ。背後の《門》からの眩い雷撃で、標的の木は真っ二つに引き裂かれ、メリメリと音を立てて倒れた。

「大成功だな」

 エルダーリッチは満足げに言った。

「これは魔法を用いた戦法を大きく飛躍させるだろう。まったく大した弟子を持ってしまった」

 そう言って彼女は、俺の頭を撫でる。

「君と魔法の話をしていると、とても楽しいよ……君がもっと魔法について習熟したら、ぜひ共同研究をしたいものだ」

「それは、俺もちょっとワクワクするかも」

 研究、なんてガラじゃない気がするけれど、彼女と一緒に、いろんな発見をするのは楽しいだろう。俺が振り向くと、目を細めて涼しげな笑みを浮かべていた。

「君は筋が良いからな。そしてありがたいことに、私はアンデッド。そして君はスキル【永久機関】によって、不老の身体を持っている。そうなれば、研究は永遠に……」

 エルダーリッチの笑みが、少しだけ、くすんだ。

「いや……君がなにをするのかは、君が決めなさい」

 背中をとん、と叩かれた。ふたりで森を出て、街に向かう。

 エルダーリッチと俺との距離は、とても近いようで、少しだけ遠い。


  *  *  *


 街に入ると、エルダーリッチとわかれた。彼女は魔法工場に用があるとのことだ。俺は市長(最近まで町長と呼ばれていた)と会う約束がある。

 さびれた村からはじまり、ついに自治領として独立を果たした街は、もはや王都にも引けを取らない発展を遂げていた。

 区画整備された住宅地に、効率的な食糧の生産体制。もちろん娯楽だって充実している。最近は百貨店に映画館を併設した。

 映画の撮影と上映は、巨大映像記録水晶、通称シアター水晶によって可能になった。エルダーリッチの魔法に俺がひと工夫加えたのだ。これはカメラと映写機を兼ねたもので、水晶ひとつあたりにひとつ映画を入れることができる。

 最初はカメラを固定して劇を撮影したような単調なものだったが、それも今はどんどん進化している。俺もたまに、錬金術でVFXを手伝ったりする。その百貨店を通りかかったときに、左腕に抱き着いてきたのが、頭に角を生やした魔王のサレンだ。胸に抱えたポップコーンが、少し落ちた。

「ソラ、次の新しいエイガ、一緒に行こ」

 そして右腕にしがみつくのが、フウカ。

「そうですわお兄様、ぜひぜひ!」

 サレンとフウカは最近、足繫く映画館に通っている。

 しかし――。

「そう……だな……」

 そのラインナップが問題だった。


『ソラ――世界を救った男』

『錬金術師VSサメ』

『人魔の王ソラ ~その軌跡~』

『錬金王密着ドキュメンタリー〝けして振り向かない〟』

『ロード・オブ・ジ・アルケミスト』


 こっぱずかしいことに、俺を主役にした映画ばかりなのだ。もちろん演じているのは、よその町からやってきた劇団の役者なのだけれど、さすがにそれを堂々と見る勇気はない。

「また、今度、な!」

「つれないですわ、お兄様! 『ロード・オブ・ジ・アルケミスト』は脚本、演出とも非常に素晴らしく、わたくし、四回目を観終えたところですの! 主役の方はお兄様と比べてしまっては仕方のないことですけれど、他のエイガに比べるとお兄様度が高いのです! 特に終盤のダンスシーンは雄々しくも野性味あふれるお兄様の……」

 フウカは鼻息荒く、映画について語り始める。

「そ、そうか……」

「いっつもソラは一緒に映画観てくれないー」

 サレンがそんなことを言いながら、ポップコーンをひと粒差し出して来たので、ぱくんと食べた。すると、サレンが急に真っ赤になった。

「てわた、手渡すと、思ってて……」

 消え入りそうな声で、サレンが言った。

「あ、すまん! 悪かった!」

 なんとなく妹に接するみたいな感じで、サレンの手から直接食べてしまった。両手がふさがっているし――しかし距離感には気をつけないと。最近仲間たちとの距離が妙に詰まってきている気がしていて、俺もそれに飲まれているところがある。いかんいかん。

「ごめんな、これからはそんなことしないから」

「別に、いい……」

「サレン! ずるいですわ! お兄様、わたくしの手からもポップコーンを! あれ? なんということでしょう! わたくしは自分のポップコーンを食べてしまっていましたわ! 不覚!」

「フウカ、もうすぐ『錬金術師VSサメ』が始まる……」

「ああ、もうそんな時間でしたの! 『錬金術師VSサメ』は多少ストーリーに難がありますけれど、お兄様じきじきに協力なさった特殊効果が白眉ですわね! これはわたくしまだ二回目ですわ! それではお兄様、ごきげんよう!」

 ふたりはそのまま、また百貨店へと戻っていった。年齢は桁レベルでわからないけれど、背丈の似たふたりだから、気が合うのかもしれない。


 そのとき、街の人たちからおおっと声が上がった。

 振り向くと、警備服に身を包んだリュカとフェリスだ。リュカはスキップしながらこちらに来た。

「ソラ! 見てみて、今日は大漁よ!」

 ふたりの後ろには、巨大な魔物――トロールがいた。俺がサレンから継承したスキル【百鬼夜行】によって、使役しているものだ。

【百鬼夜行】は、知性が低い魔物にも円滑に意思疎通ができる力を与える。さらに、自分より弱い魔物に対する命令は絶対。人と魔物がともに暮らす自治領を築く上で、これほど有用なスキルはないだろう。自分より弱いという条件があるとはいえ、リュカやフェリスより強い魔物は、外の世界ではまだ見たことがない。

 トロールは背中に巨大な檻を背負っていて、中には五人の男たちが詰め込まれていた。

「追っていた窃盗団を捕まえた」

 フェリスは、持っていた乗馬鞭をグッと曲げてみせた。

「ソラの縄張りを荒らした外敵だ。いまから全員、氷漬けにする」

 檻の中で、男たちが震えあがる。

「ダメよ、泥棒だって、ソラが治める民であることには違いないんだから。寛大な心が必要よ」

「お前は甘すぎる」

 リュカとフェリスの仲の良さは相変わらず。

「しかし、窃盗団なんてのが出始めたのか」

 多くの人々がこの街に流入してきている以上、その中にはこういった良からぬことを企む輩が入ってくるのは避けられないだろう。

 しかし、そのわりにこの街が平和なのは、リュカとフェリスの率いる衛兵隊が、あまりに迅速にことを片付けるからに違いない。統率に長けたリュカと、武勇に優れるフェリスに、兵士たちを鍛えてもらったのは正解だった。

「ソラ、私が三人捕まえたの! フェリスはふたり!」

 リュカの笑顔の後ろで、フェリスがムッとした顔をする。

「私が足元を凍らせたから、捕まえられたんだろう。すべて私の手柄だと言っても過言ではない」

「なによ! 私だって炎を使って……」

「危うく宝石店が火事になるところだった」

「それならフェリスも氷で時計壊してたじゃない!」

「なんというか、いろいろとお手柔らかに、な」

 俺はふたりの頭に手を置いて、ぽんぽんと叩いた。

「………………」

 急にふたりが静かになってしまう。あれ、また距離感間違えたか? 気をつけないとと思っているのに、ついつい。俺は、

「ふたりとも、ご苦労さま!」

 とひとこと残して、その場を後にした。トロールが遠吠えを上げるのが、背後から聞こえた。

 角を曲がったところには、もうずいぶんと大きくなった保育園がある。人口の増加に伴って、当然子供も増えるわけだ。

「あ~ソラだ~」

 俺に気づいたホエルは、真正面から抱き着いてくる。フワフワしているように見えて、しっかり園長先生をやっているのだけれど、抱き癖は変わらない。

「みゅ!」

 俺の相棒、ミラクルスライムのミュウも、子供たちの世話に一役買っているらしい。

「ね~ソラ~」

 抱き着いてきたかと思ったら、ホエルは次に俺の膝裏に手を回して、抱き上げた。

「また~たかいたかいする~?」

「あー! ソラ様、お姫様になってるー!」

 突然のお姫様抱っこに、子供たちがはやし立てる。

「たかいたかいは、勘弁してください。あと、降ろしてください」

「え~」

「ボクモ! ソラ! ダッコスル!」

 小さなミュウがぽいんぽいんと跳ねる。

「……大きくなったらな」

「オオキク、ナル! ン~~~!」

 ミュウは大きく息を吸い込んで、体をプゥッと風船のように膨らませた。器用なものだが、上に乗ろうものなら、割れてしまいそうだ。

 ようやくホエルに地面に降ろしてもらうと、保育園の経営状況について、少しばかり話をした。

「う~ん、もう少し~、先生が~、多いと嬉しいな~」

「わかった、市長と相談してみるよ」

「ソラはえらいね~」

 ホエルに頭を撫でられる。毎度のことだけれど、非常に照れくさい。

「ソラ、エライ!」

「ありがとよ」

 保育園から出て、役所まではすぐ近くだ。市長は執務室にいた。机の上には、書類が山のように積まれている。

「これはこれは、ソラどの。もうそんな時間でしたかな」

 ふう、と市長は袖でひたいを拭った。

「いやあ、人口増加が止まりませんな。また新しい住宅街を造る必要が出てきそうですわい。またお手すきの際にご相談したいですじゃ、えー、それと……」

 市長は書類を机の隅にまとめて、地図を広げる。

「民の流入とは別に、町ごと傘下に入りたいというところが、いくつか出てきておりましてな。たとえばここ」

 節くれだった指が羽ペンをつまみ、地図に丸をつける。

「エルンメルタという、機織りで有名な町ですじゃ。行商人が積んどる絨毯は、たいていエルンメルタ産ですな。あとはここ、グリオーブ。良質な石材が採れることで有名ですじゃ」

「興味深いですね」

 機織りの技術というのは、錬金術に取り入れられそうだ。俺は《分解》と《構築》で衣服を造ることがあるけれど、機織りの原則を理解すればもっと高度なことができるかもしれない。

 そして石材。この街の近くで採れる石材もそれなりに優れているのだが、俺としてはもう少しいろんな種類を知りたい。“悪魔の森”でもミスリルなどの鉱石は採れるが、あれらはエルダーリッチいわく、気軽に加工できるような代物ではないらしい。それこそ【錬金術】のスキルでもないかぎりは。

 なんにせよ、いろんな特色を取り入れられるという点において、傘下の町ができるのは良いことだ――と、ここでドアがノックされた。

「失敬」

 エルダーリッチだった。

「ソラ、それに市長。転移水晶の量産は、軌道に乗りそうだよ」

「おお、それは素晴らしいですじゃ!」

 転移水晶。俺がグルーエルという魔術師に、悪魔の森へと送り込まれた魔法アイテムだ。あまり良い思い出はないけれど、これを量産できれば、魔法《門》が使えない普通の人でも、瞬時に長距離を移動できる。

「これで行商が、より活発になりますな!」

「ええ、」

 《門》と違って、移動する場所は一か所に限定されるけれども、それでも便利になるには違いない。交易や伝令に限らず、応用の幅は広い。万が一、身に危険が迫った際の緊急避難にも使えることを考えれば、この街を拠点とする冒険者ひとりひとりが、持っていてもいいだろう。

「グルーエルとやらの残した記録を読むと、これまでは転移水晶ひとつ作るのに二、三年かかったそうだね」

 エルダーリッチは、来客用のソファに腰を下ろし、足を組んだ。

「ヴァージニア・エル=ポワレの研究を継承した連中が、あれというのは情けないものだ」

 彼女の本名だ。グルーエルは彼女が残したメモを元に、魔術研究を進めていた。

「連中の稚拙なやり方ゆえというのはあるが、確かに座標を含めた術式の立体刻印は面倒だ。だが私の手にかかれば……というか、これはソラのアイディア勝ちだな」

 そう言って、俺に微笑みかける。

「アジ・ダハーカの【破壊光線】を、水晶の加工に転用するという発想はさすがだ」

 悪魔の森の大迷宮で俺たちに立ちはだかった、邪龍アジ・ダハーカ。あれはエルダーリッチの創った人工の魔物だった。つまりあいつが使った技は、エルダーリッチが技術として持っているわけだ。

「君の言うところの、れーざー彫刻か。実用化は難しいものではなかったよ」

 土産物屋にたまに置いてある、ガラスの中に模様が入っているアレだ。

「何百年も魔法研究を続けてきたが、発想力において、私はまだまだだな」

エルダーリッチは、涼しげな顔をしてそんなことを言っているけれど、俺のちょっとしたアイディアをすぐに魔法で実現するのは、グルーエルみたいな連中には真似できないことだと思う。

 こういう気持ちは、すぐに素直に伝えた方がいい。

「エルダーリッチ、君だからできたんだよ」

「弟子に褒められるのは、なんだか気恥ずかしいね」

 彼女は髪をかき上げて、彼女はソファから立ち上がる。そして市長の地図を見た。

「傘下に入りたいって、町がいくつか出てきているらしい」

 俺が地図の赤い丸を指さすと、彼女は頷いた。

「君が国王を倒したことによって、王国の影響力が薄れてきているのだろう。圧政から解放された民が、それぞれ独立した動きを始めているということだ」

 その言葉に、市長が深く頷く。

「あれから、この街を通る人たちの顔も、ずいぶんと明るくなったものですじゃ。ソラ様には感謝しかありませんわい」

「みんなの力あってのことですよ。人々の生活も、自治領の独立も」

 そこで、市長がぽんと手を叩いた。

「そうじゃった! ソラ様をお呼びした件をすっかり忘れておりましたわい。まさに、その自治領の件ですじゃ」

 市長はよっこらしょと、イスから立ち上がる。

「詳しくは会議室でお話ししますじゃ。みなさまにもご連絡しますわい」

 そうして、会議室に全員集合、ということになった。

 映画を観終えたフウカとサレン。

「やはり『錬金術師VSサメ』は素晴らしいエイガですわお兄様! 特撮技術を純粋に楽しむアトラクション的作品を毛嫌いするのは、人生の損失ですわ!」

「うん、面白かったよ。ソラ、今度一緒に観よ」

 警察署から普段着に着替えてきたリュカとフェリス。

「まさかほんとに氷漬けにしようとするだなんて! 死んじゃったらどうするのよ!」

「その辺に埋めておけばいい。ソラの法を破った連中に、慈悲など必要ない」

 保育園でひと仕事終えたホエルとミュウ。

「あれから旅芸人さんが来てね~子供たちに劇を見せてくれたんだよ~」

「みゅ! オモシロカッタ!」

 みんなを見て微笑むエルダーリッチ。

「相変わらず君たちは賑やかだな」

 ここにいる面々がその気になれば、国ひとつが滅ぶだなんて、誰も思わないだろう。

 そうしてみんな、席に着く。

「で、本日の議題なのじゃが、ずばり!」

 市長は、手元の黒板をひっくり返す。

「実はまだ、自治領の中心となるこの街、つまり首都の名前がまだ決まっておりませんですじゃ!」

 黒板には大きく『首都名決定臨時特別会議!』と書かれていた。

「これまでは『東の村』などと呼ばれておったのじゃが、もはやそんなわけにはいきますまい。案のあるお方は、どんどん出していただきたいですじゃ」

 フェリスがスッと手を挙げた。

「ソラの巣」

「安直! ていうか俺の所有物でもない!」

 リュカは人さし指をつんつんさせる。

「ソラとリュカの巣」

フウカも負けじと手を挙げる。

「偉大なるお兄様の広大かつ絢爛たる巣、ですわ!」

 ミュウも跳ねる。

「ヤサシクテツヨイソラノス!」

 そしてホエル。

「みんなの巣~でいいんじゃないかな~」

「まず巣から離れようか」

 ネーミングに関して、悪魔の森勢は、ちょっとあてになりそうにない。

となると、外の世界に詳しいのはサレンとエルダーリッチだ。サレンは小さな声でぶつぶつと呟いている。

「ソランダルスセイム……ソラドリングバーグ……ソランデンブルク……」

 いろいろと絞り出そうとしているらしい。

「というか、俺の名前からもいちど離れて……」

 そこで、エルダーリッチがさらりと言った。

「ソラリオン、というのはどうだろう」

 なんだかその一言で、ぴっと場が引き締まったような感じがした。

「なるほど……確かに良い響きですじゃ……」

「でもさ……」

 俺は中指で頬を掻く。