勇者アキラは、謁見の間に通されるなり、こう言った。
「あいつは……ソラは化け物です……」
ダストン男爵の軍は壊滅。勇者たちはというと、手を出すことすらできなかった。
国王はため息をついた。
「脅威は、まさかあのスライムではなく、彼奴そのものだったとはな……」
追放したことが悔やまれる。まさか悪魔の森の王となり、魔物を従えるほどの力を身につけようとは。
ただの錬金術師を、甘く見ていた。
「こうなれば国軍を送り込んで、力押しで攻め落とすしか……」
「それは難しいことかと……」
グルーエルが重々しく言った。
「ダストン男爵の兵はなかなか優秀だそうですが、すべて撃退されました。それも“一兵たりとも失わずに”にです」
「あの錬金術師は、手加減をしたと……」
国王の言葉に、勇者アキラが頭を下げる。
「仰るとおりです。それに、あのスライムも出てきませんでした。あいつが本気を出せば……」
「もはや人の手に負える相手ではなくなっているということか……」
肩を落とす国王に、グルーエルが報告を続けた。
「錬金術師は、その力をもって次々と勢力を広げているとのこと。ダストン男爵の領地など、もはやかけらも残っておりませぬ」
「実質的な新興国ではないか!」
まさか自国の領地に新しい国が生まれるとは。おおきな反乱もなく、そして――軍にも止められない。
国王は、玉座の下に置かれている赤い宝石に目をやった。
「これさえ使いこなせれば、あんな錬金術師になど、遅れをとらぬというに!」
いらだたしげに、錫杖で宝石を突こうとした国王を、グルーエルが止める。
「おやめください陛下。〈魔力核〉を刺激しては、なにが起こるかわかりませぬ」
「……最高の王宮魔術師、貴様の手にも負えぬとはな、グルーエル」
「はっ、お恥ずかしながら」
グルーエルはそれでも、顔を上げたままだった。それは原因が自分の非力ではなく〈魔力核〉が、あまりに多くの謎を秘めているからに他ならない。そう考えているからだ。
「魔王から奪い取った〈魔力核〉……それが秘めている無限の魔力を引き出すには、遺憾ではありますが、我々の技術ではまだ至らぬことかと。現に〈魔力核〉の調査をしていた魔術師六名が負傷しています」
「魔女ナナにやらせてみてはどうだ?」
国王の言葉に、ナナはびくりと肩を震わせた。負傷という言葉に敏感になっているのだ。
しかし、それもグルーエルは否定した。
「彼女は自らの強大な魔力を振るうことはできますが、魔術研究となると専門外です」
魔女ナナは、ほっと胸を撫で下ろす。