高級感溢れるるBARのカウンター席にて。
 野宮菊子、二十四歳はウエーブの掛かった長い黒髪を振り乱してグラスに入ったピンク色のシャンパンを、ぐいっと飲み干していた。
 店に入ってから、これで何杯目になるのか、数えるのも面倒なほど菊子は飲んでいる。
 グラスから唇を離すと赤い口紅の後がグラスに付いた。
「ふぅ。お代わり」
 菊子がそう言うと、菊子の目の前にいるラフな黒いスーツ姿の男、目黒雨が苦笑いした。
 雨は、菊子とは八歳上の三十二歳。
 若い見た目をしていて、何処か涼し気な顔をした中々の良い男だ。
 しかも、雨は強運の持ち主で、宝くじの高額当選を二回もしており、投資の仕事も上手く行っている。
ようするに金持ちだった。
 今夜、菊子は雨の奢りで、雨の行き付けだという、このBARへ来ている。
 菊子と雨は、菊子が二十歳の時、クラブでアルバイトをしていた時に出会った。
客としてやって来た雨と意気投合した菊子。
それから、菊子がクラブを辞めた後も飲み友達として二人の関係は、だらだらと続いている。
「菊子、俺の奢りだからって飲み過ぎだ」
 雨が言うと、菊子は、ふんっ、と鼻を鳴らし「別に良いじゃないですか。あなた、大金持ち何だから。失業した私にちょっとくらい美味しい思いをさせてくれるくらいが丁度いいわよ」
 菊子はつい先日、仕事をクビになったのだ。
 クビになる様な原因を菊子は思い当たらない。
 ちょっと生意気だったかも知れないが。
 とは菊子本人の意見。