千鶴子の歌謡日記

 ――そうなの、それじゃどうしてもだめなんですか?女のわたしがこう言っているのに。ああ、あなたは嘘をおつきになった、ジュリアン。その事の重大さがあなたにはわかりますか?あなたは、わたしを欺いただけではありません。あなたは自分自身までも欺いたのですよ。ああ、その決定的な言葉が、どれほどあなたの後悔を招くことか。それは血の滴るような罪に違いないのです。明らかに罪ですよ。ああ、もう懺悔しても遅いわ。あなたは、あなたのつくった罪悪から逃れることはできないのよ。品行方正な人間を装うドン・ファンめ!あなたはわたしの純な心を傷つけた。やっぱり、あなたは罪びと、極悪人、そうでないとしたらわたしは救われない。だって、あなたにわたしを拒絶する権利はないのだから…
 
 電車を降りる
 そして 木枯らしの風の吹くぷらっとふぉーむで
 乗り換え電車を待つ
 誰あれも乗っていない電車の箱が
 ぱんたぐらふをぱーくさせてやってくる
 体の重心が前後にふらふらと
 酩酊した独楽のようにたゆたう
 ああ 電車のへっどらいとに照らし出され
 銀色に輝くれえるの上の
 さびしさを悠久に変えるワーム通路
 あと一歩 あと一歩
 踏み込めばそこを通れるぱすぽーと
 そう あと一歩――
 
 電車は目の前を通り過ぎ
 ぶれえきを軋ませて止まる
 れえるの上に見えた別世界を消し去って
 また 寂しさがこみあげてくる。
 涙をくみ上げるぽんぷの軋み
 嗚咽がのど元を通り過ぎるべるの音
 この電車に乗って行っても
 到底 わたしの寂しさは消えない
 どこまで乗って行こうとも
 どこまで行って降りようとも
 影のような寂しさは消えない
 ああ さみしさよ
 わたしの背に疫病神のように付きまとい
 わたしの命を啄木鳥のように啄む寂しさよ
 わたしの命は 逆さにならない砂時計の
 砂のように 刻々と流れてゆく
 それでもなお わたしはひたすらに
 淋しさのない国を牧水のように求める
 でも それを求めることは
 寂しさを必要とする
 寂しさよ いつもわたしの外にあってほしい
 何故なら わたしはそれに耐えられないから
 そして わたしの目の前にいておくれ
 せめて わたしのからだの外にいておくれ
 どうしても去ることが難しいのなら
 ああ 寂しさよ 後生だから
 わたしを死に向けないで
 わたしを殺さないで