日本神話や神道において、人間が住む世界を現世(うつしよ)と呼ぶのに対し、神々が住む世界は幽世(かくりよ)と呼ばれ、永久の神域とされている。
人間は、異界である幽世に自由に踏み入ることはできないが、神々は別だ。
人と変わらない姿形でありながら、人知でははかり知れない絶対的能力を持つ、超自然的存在の彼らは、人知れず往来している。


ここ、神御座(かみおわ)町は、その名の通り『神が御座す町』として、古の時代から知られる街だ。
人口千五百人ほど。
四方を山に囲まれた小さな街だが、肥沃な土地に恵まれ、農作物がよく実る。
これは、空間的に隣接する幽世で、神々が常に人々の生活を見守り、福を授けてくれるためと信じられていた。


地神を祀る神社では、八百万の神に感謝を捧げる数多くの信仰儀式を、祭りとして催している。
祭りは『祀り』。
神に祈ること、交信すること。
異界の神をもてなし、共に楽しむ行事として、住民たちの間にも深く浸透している。
神御座町の住民たちは、時に人間を騒がせることもある神を崇拝し、畏怖しながら、悠久の時を共生してきた。



――これはそんな、神と人が共に暮らす街に生まれた一人の少女の、不運で悲劇的で幸せな嫁入りのお話。