「え、、、」
そこはピンクや紫、水色など可愛い色の可愛いハートの世界だった。
まさに女の子が夢に見たような世界だった。
私と同じくらいの年齢の子もいた。
みんな不思議そうに周りを見渡している。

どこを見ても『可愛い』
たくさんの『ハート』
ほんのり香る『甘い匂い』
ふわふわした『ピンクの雲』
そして、、、『天使』

私は死んだのか。
死んだらこんなとこに来るのか。
天国か地獄に行くと聞いた事があったけど地獄では無さそうだ。
でも天国だとしたら人が沢山いるし全体的に白っぽいと小さい頃読んだ本に書いてあったきがする。
そんなことをずっと考えていると後ろから話しかけられた。
「ねぇ君、まだ説明聞いてない?」

話しかけてきたのは天使だ。小さい時本で見たことあるような男の子の天使。
頭に輪っかが乗ってて羽が生えている。
説明??なんのことか分からないけどこの場所の事についてなのだろう。
「はい。まだ何も」
「そうか、じゃあ説明するね。あっ、その前に色々聞かせて」
「えっと、、、?」
困っていると天使に色々なことを聞かれた。
「まず名前は?」
「中井心乃です」
「ここのちゃんって漢字でどう書くの?」
天使が不思議そうに訪ねてきたので持っていたメモ帳に書いて天使に見せた。
すると「可愛い名前」と笑顔で天使が言った。
「じゃあ年齢は?」
「17歳で高校2年生です」
「高校生かぁ。青春思い出すなあ。」
この時ふと思った。
知らない男の天使にこんなに個人情報を教えていいのだろうか。
周りの女の子たちはどうしているんだろうと気になって見てみると私と同じように質問されてる人もいたし楽しそうに話してる人もいた。
みんな質問に答えていたし、天使も悪いことなんてしそうにないので言える範囲のことは答えることにした。
「えっと、ちょっと待ってね」
天使が白いスマホのようなタブレットのようなものを手に持ってなにかしている。
ほかの天使も手に同じものを持っていた。
「あっ、あったあった」
天使が私に画面を見せてきた。その画面には私のプロフィールと写真があった。
なんでこんなのが乗っているんだろう。
「心乃ちゃんこれだよね」
「はい。なんで私のプロフィール、、、」
「天使だけが使えるサイトなんだ。
あ、知らない天使に色々聞かれて怖かったよね。ごめん。もう分かるだろうけど僕、天使。君のこと担当するからよろしく」
「お願いします」
「まず、ここは選ばれた女の子たちが来る場所で君は選ばれたんだよ」
私が選ばれた。。。選ばれることしたような覚えないけど。まぁ深く考えずに天使の話を聞くことにした。
「それでね、心乃ちゃん好きな人いるでしょ?」
私の好きな人、、、匠くんだ。
「はい。」
「その子と1年以内に付き合いなさい」
「え??」
「一応言うと選ばれた女の子たちは1年後に死んじゃうんだ。」
その言葉を聞いた瞬間、絶望というか悲しいというかどんな感情なのか分からなくなった。
「私、死ぬの、、、?」
「うん。心乃ちゃんは病気持ちだよね。それが悪化して。」
「死にたく、ない」
「だから絶対好きな子と幸せな日々を過ごして欲しい。」
頭の整理が追いつかなかった。
「匠くんと付き合いたい、、、」
「へぇー、たくみくん?のこと好きなんだ」
「はい。同じクラスの」
「じゃあ絶対匠くんと付き合って」
絶対付き合って、なんて無理な話だ。
「無理無理。匠くんは高嶺の花です」
「死んだ後に後悔するから付き合いな」
天使は私の話をスルーした。

「絶対無理なんですよ。私は3軍で匠くんは1軍なんです」
「あれか。スクールカーストってやつか。」
「はい」
「今6月だけどカーストは最近決まった感じ?」
クラス替えがあってみんな友達を作り始めた。そして最近スクールカーストが決まったのだ。
「はい。5月くらいにだいたい」
「じゃあ4月に戻してあげる」
私は声もあげられないほど驚いた。
天使は時を戻すことが出来るのか。4月に戻すなんてほんとにできるのだろうか。
「別に3軍でも匠くんに近ずけると思うけど心乃ちゃんが近ずきにくいなら」
「ほんとにできるんですか!?お願いします」
「じゃあ4月1日に戻すね。いつでも天使って呼んでくれれば心乃ちゃんのとこ行くし、心乃ちゃんを連れてここに来ることもできるから。あと、忘れないでね。タイムリミットはあと1年だよ」

それだけ言われて天使はいなくなって視界がぼやけてきた。1度目を閉じて開けるとベットの上に寝ていた。
きっと夢だろう。あんな世界があるわけない。病気が悪化して死ぬわけない。
ためしに1度「天使」と呼んでみた。
「どーした?心乃ちゃん?」
ああ。夢じゃなかったんだ。
「あ、なんでもないです。ごめんなさい。ほんとに呼べるのか試してみたくて」
「あーそういう事ね。今日の日付見てみな」
そう言って天使は消えた。
日付を見てみると4月1日だった。
一軍になるんじゃなくて匠くんに少し意識してもらおう。少し近ずきたい。


学校について教室に入るとみんな友達を作ったり仲のいい子と話したりしていた。その中に匠くんがいた。誰かに話しかけようとしていた。
チャンスだ。匠くんは今1人で困っている。
話しかけないと。
「はじめまして、」
緊張しながらも頑張って話しかけた。
「はじめまして。よろしくね、俺、匠」
「あ。私、心乃だよ。よろしくね」
やった。話せた。匠くんはスポーツが得意だし頭もいいし面白いし優しいし、あと1ヶ月くらいしたら女子はみんなメロメロになる。
「じゃあみんな座ってー」
担任の声が聞こえてきた。
みんなが席に着くと担任は1度聞いたことがある話を始めた。
みんなは真面目に聞いているけど私は1度聞いたことがあってひまだったので匠くんを見てることにした。
真剣に話を聞いてる匠くん。ほんとにかっこいい。

家に帰ってから天使をよんだ。
「はーい今日はどうでした??」
天使がにやにやしながらこちらを見てきた。
「自分から話しかけれた!」
「すごいじゃん!」
天使がすごく驚いていた。
「明日も頑張って!」
「うん!あっ、あそこ行きたい」
「あそこ??」
「あのさ昨日行ったところ」
「あー!天使の国ね」
「うん!天使の国って言うんだー」
「そうだよ!行こ行こ」
そう言って天使が私の手を掴んだ。
天使の羽が動き始めて私と天使は宙に浮いた。
天使がこっちを向いて微笑んだ。その瞬間周りのものがなくなって白くなった。
1度瞬きをすると天使の国に来ていた。
昨日居た女の子たちもいたし、初めて来たような女の子たちもいた。
「よーし、着いたよ」
「すごい・・・」
こんなの漫画やアニメでしか見たこと無かった。
天使が飛んで私も飛んで気づいたら違うところにいるなんてありえないと思っていた。
でも自分で実際に見てみると本当だとわかる。現実で起きてることなんだと。
「心乃ちゃんこっちこっち」
天使が手招きをしている。あわてて天使のところに行くと大きい画面があった。
そこには・・
「匠くん?なんで写ってるの?」
「うん。匠くんだよ、最愛の」
天使がにやにやしている
「最愛って」
「だってそうでしょ?」
「うん」
認めてしまった。だって大好きだから。
ふと画面を見ると匠くんが料理をしていた。
また好きになる理由が増えた。
料理もできるって完璧すぎる。
「かっこいいね。料理もできるんだ。」
天使が感心したように言うので私は
「でしょ?私の大好きな人」
天使がふっと噴き出した。
「そうだね」
「なんかさ・・・」
言葉が出てこなかった。何故か口が止まってしまった。
「なんか??」
しばらく考えてから
「なんか天使の国来ると落ち着くんだ」
と言うことが出来た。天使の国に来ると妙に落ち着くのだ。
この綺麗な色なのか匂いなのか分からないけど心から落ち着く。
「落ち着くの?多分この天使の声じゃない??」
天使が冗談めかしてそういった。
でも天使の声が落ち着く気もした。そんなこと素直に言えるはずもなく「違うよ!色とかだよー」とこたえた。
天使はふーん、と笑っていた。
「あ、今日病院行くんだった」
急に思い出した。出来ればずっとここに居たいけど病院は絶対行かないといけない。
「えっ、そっかじゃあ帰ろ」
そう言って天使が私の手を掴んだ。
すると視界がだんだんぼやけてきて白くなって気づくと部屋に来ていた。
昨日のことを思い出した。昨日もだんだん視界がぼやけてきて気づいたら部屋にいた。
そんなことを考えていたら病院に行く時間になっていた。
急いで病院に向かった。
何とか間に合った。
名前を呼ばれて診察室に入った。
これは何度経験しても緊張している。
「こんにちは」
「こんにちは、変わったところはない?」
「はい。特に」
今日はどんなことをされるのか、悪化していないか気になって仕方なかったけど冷静を装う。
「じゃあ血液検査からだから腕ここに乗せておいて」
うっ。と心の中で声が漏れる。血液検査も小さい時からずっと経験してきた。なのにいつになっても慣れない。
全部の検査が終わって「前回と何も変わりありませんでした。また1週間後に来てください」
と医者から伝えられた。
よかった。と声がもれそうになった。
天使から病気が悪化して死ぬと言われてからいつ病気が悪化するのか不安で仕方ない。

家に帰ってごはんを食べてお風呂に入ってから寝ようとしたのに寝れなかった。
病気のことが怖くて、匠くんの事考えてしまうからいつまでたっても寝れなかった。

気がついたら朝だった。
自分が寝たのか寝てないのか分からないまま学校に行った。
「心乃ちゃん?だよね、俺匠なんだけどさ昨日ありがと。話しかけてくれて嬉しかった」
匠くんから話しかけられた。
ドキドキしすぎて心臓が止まりそうになった。
「あっ、匠くん」
「てかさ、心乃って呼んでいい?」
「うん!全然呼び捨てで大丈夫」
「じゃあ心乃!これからもよろしくな」
「うん」
呼び捨て。心臓の音がうるさい。
匠くんが笑顔で自分の名前を呼んでくれた。
私も『匠』って呼べたらいいのに。口が動かない。

あれから1ヶ月くらいたった。
いつものように家で天使をよんだ。
天使と少し話してから天使が
「タイムリミット、あと11ヶ月だけどどう?」と質問してきた。
「前より匠くんと話せるようになった。でも告るのは」
「まぁあと11ヶ月あるからどんどん距離縮めて行ってね」
「うん!わかった」
「じゃあまた呼んでねー」
そう言って天使はいなくなった。
学校で匠くんに会うのを楽しみにしていたのに匠くんはいなかった。先生によると休みだそう。
明日匠くんが学校に来てノート見せてって頼まれるかも、と妄想してしまった。でもほんとに頼まれるかもしれない。
だから今日はきれいな字でノートを書くことにした。
私に頼むはずないけどもし頼まれたらって妄想するのが楽しかった。

家に帰ってから『可愛くなる方法』
とインターネットで調べた。
パックとか化粧とかがいいって出てきたけど
一応パックも化粧もしてる。まぁその中で自分に合う合わないがあるんだろう。
ほかのを見ても髪型や眉毛の事ばかりだった。
そんな中ひとつの言葉が私の目に止まった。
『ダイエット』
この言葉を見つけた時わかった。
私は1度もダイエットをしてこなかった。
小さい頃運動系の習い事をやっていたし、ダイエットなんて知らなかった。
今も体重は平均くらいだ。
「ダイエットしようかな」
つい独り言が出た。
「ふーん。愛しの匠くんのためですか?」
突然頭上から声がした。あわてて上をむくと天使がにやにやしていた。
「うわっ!びっくりしたー」
「ダイエット頑張ってねー」
「ずっと見てたの?」
「うん!」
天使があまりにも元気に言うのでつい笑ってしまった。
そういえば天使に聞きたいことがあるのを思い出した。
「あっ、聞きたいことあるんだけどさ」
「どーした?」
「死んだ後ってどこ行くの?」
「うーん。死に方によるけど心乃ちゃんの場合は病気だし天国かな」
「ほんとに天国とかあるんだ」
「え?天使の国行ったのに信じてないの?」
「別に信じてない訳じゃなくて、ね?」
天使も私も笑っていた。言葉に詰まってしまった。
「まぁダイエット?頑張って」
「うん頑張るから次会った時は痩せてるよ?」
「はいはい頑張って」
あまりにテキトーな返事に笑いが込み上げてきた。

1週間後、何とか1キロ痩せることができた。
周りの友達からも「痩せた?」
と聞かれることが多くなった。嬉しかった。
匠くんに話しかけられるかもしれない、と妄想した。
「天使ー!」
「はーいどーした?」
「なんか気づくことない??」
「あー?痩せた?」
「正解正解!!」
「すごいじゃん」
天使が感心したように言った。
「てかさ心乃ちゃん、病院」
「あー!そうだそうだ!行ってきます」
「行ってらっしゃい」

「ただいまー」
「おかえり、どうだった?」
天使は笑顔で迎えてくれた。
「特になんも、」
「そっかよかったよかった」

あれから1ヶ月くらいたった。
いつものように家で天使をよんだ。
天使と少し話してから天使が
「タイムリミット、あと11ヶ月だけどどう?」と質問してきた。
「前より匠くんと話せるようになった。でも告るのは」
「まぁあと11ヶ月あるからどんどん距離縮めて行ってね」
「うん!わかった」
「じゃあまた呼んでねー」
そう言って天使はいなくなった。
学校で匠くんに会うのを楽しみにしていたのに匠くんはいなかった。先生によると休みだそう。
明日匠くんが学校に来てノート見せてって頼まれるかも、と妄想してしまった。でもほんとに頼まれるかもしれない。
だから今日はきれいな字でノートを書くことにした。
私に頼むはずないけどもし頼まれたらって妄想するのが楽しかった。

家に帰ってから『可愛くなる方法』
とインターネットで調べた。
パックとか化粧とかがいいって出てきたけど
一応パックも化粧もしてる。まぁその中で自分に合う合わないがあるんだろう。
ほかのを見ても髪型や眉毛の事ばかりだった。
そんな中ひとつの言葉が私の目に止まった。
『ダイエット』
この言葉を見つけた時わかった。
私は1度もダイエットをしてこなかった。
小さい頃運動系の習い事をやっていたし、ダイエットなんて知らなかった。
今も体重は平均くらいだ。
「ダイエットしようかな」
つい独り言が出た。
「ふーん。愛しの匠くんのためですか?」
突然頭上から声がした。あわてて上をむくと天使がにやにやしていた。
「うわっ!びっくりしたー」
「ダイエット頑張ってねー」
「ずっと見てたの?」
「うん!」
天使があまりにも元気に言うのでつい笑ってしまった。
そういえば天使に聞きたいことがあるのを思い出した。
「あっ、聞きたいことあるんだけどさ」
「どーした?」
「死んだ後ってどこ行くの?」
「うーん。死に方によるけど心乃ちゃんの場合は病気だし天国かな」
「ほんとに天国とかあるんだ」
「え?天使の国行ったのに信じてないの?」
「別に信じてない訳じゃなくて、ね?」
天使も私も笑っていた。言葉に詰まってしまった。
「まぁダイエット?頑張って」
「うん頑張るから次会った時は痩せてるよ?」
「はいはい頑張って」
あまりにテキトーな返事に笑いが込み上げてきた。

1週間後、何とか1キロ痩せることができた。
周りの友達からも「痩せた?」
と聞かれることが多くなった。嬉しかった。
匠くんに話しかけられるかもしれない、と妄想した。
「天使ー!」
「はーいどーした?」
「なんか気づくことない??」
「あー?痩せた?」
「正解正解!!」
「すごいじゃん」
天使が感心したように言った。
「てかさ心乃ちゃん、病院」
「あー!そうだそうだ!行ってきます」
「行ってらっしゃい」

「ただいまー」
「おかえり、どうだった?」
天使は笑顔で迎えてくれた。
「特になんも、」
「そっかよかったよかった」

10ヶ月
今日も病院に向かって歩いていた。
その時・・・
「あれってさ心乃じゃね?」
「ほんとだ」
「学校休んでいつも呑気に歩いてんの?」
「やば」
最悪だ。
いつも呑気に歩いてるって私の事なんも知らないくせに。
まあ遅刻して学校に行けばいいけど遅刻して注目されてしまうのが嫌だからいつも病院で大きい検査がある時は休んでいる。
みんなが学校に向かいながらこっちをちらちら見てくる。
どうせ「ずるい」とか「キモイ」とかの悪口を言っているんだろう。
でも病気のことはバレたくないから言うわけに行かない。
急いで病院に行って検査を受けた。
血液検査で異常が見つかってで一日だけ入院することになった。
入院は小さい時に1回したことがあったし、血液検査の異常なんてしょっちゅうだからそこまで緊張しなかった。
でもその時はお母さんがいたから。
今はお母さんもお父さんもいない。
でも天使がいる。
いつもお母さん、お父さんのように
家に帰ったら「おかえり」、学校に行く時に「気をつけて行ってらっしゃい」、
病院から帰ってきたら「大丈夫だった?」
と必ず聞いてくれる。

自分の泊まる部屋に入って天使をよんだ。
「あれ?ここどこ?」
「なんか入院することになって」
「え、大丈夫なの?」
「検査の結果待ちで」
血液検査で異常があった事は言えない。
「あー。なにかあったら僕に言ってね」
「うんありがとう」
やっぱり天使は親のようだ。
優しい瞳はお母さんを思い出す。
優しい声はお父さんを思い出す。
天使と一緒にいると安心感でいっぱいだ。
「あ、心乃ちゃん学校に電話しないと」
天使に言われて思い出した。そうだ。
学校に休むことを伝えないといけない。
「あー、そうだ、電話するね」
「うん」
プルルル
「もしもし」
「もしもし、その声は心乃か?」
「はいそうです。えと、明日学校休みます」
「おー、大丈夫か?入院か?」
「はい。いつもすみません。」
「謝ることじゃないぞ、事情はしってるからな、体のことを1番にな」
「ありがとうございます。失礼します」
電話をきったあと、ふぅとため息が出てしまった。
1年生の時から私の病気のせいで先生は気を使ってくれている。
それを考えると同時に不安な気持ちでいっぱいになった。
先生は私が入院で休むとみんなに伝えるのか。
もしそうだったら最悪だ。
『あいつ病気持ちだ』『移されたら最悪』
と悪口を言われるに違いない。
小学生の時、入院して学校を休んで久しぶりに学校に行ったら私の周りには誰もいなかった。
誰も私のところに来てくれなかった。
自分から話しかけたけど「病気うつるからやめてー」「こっちくんなー」とみんな離れていってしまった。
だから絶対病気のことはバレたくない。
先生にちゃんと伝えればよかった。
『みんなに病気のことは言わないで』
と言っておけばよかった。
でも今まで先生は病気のことをみんなにばらさないでいてくれている。
だからきっと大丈夫。
そう信じ込んだ。

病院の夜はすごく怖かった。
幽霊が出るんじゃないかと怖くて寝れない。
「天使〜」
「どーした?寝ないのー?」
「幽霊出そうでさ」
「怖いの?」
天使がからかうように言ってきた。
「だってー」
「えー?天使も幽霊も一緒だよ」
「一緒じゃないよー」
「はいはい 僕がここにいるから」
「ありがとう」
いえいえと天使が微笑んだ。
天使が横にいてくれるとすごく安心する。
すぐに眠りについてしまった。

夢の中で病気が悪化して死ぬ夢を見た。
怖くて怖くて起きてしまった。
起きた時、心臓がいつもの10倍くらいの速さで動いていた。
夜中に申し訳ないとは思ったけど天使をよんだ。
「天使〜」
「どした?え、なんで泣いてるの?大丈夫??」
自分では泣いていることに気づかなかった。
天使に言われて初めて気づいた。
触ってみると目の下が濡れていた。
「怖い夢見て、夜中にごめんね」
「全然大丈夫、」
そう言って天使は私を抱きしめた。
天使はすごく暖かかった。
背中をさすられ、ボロボロと涙が溢れ出した。
耳元で「大丈夫。大丈夫。絶対そばにいるからね」
と囁かれ、さらに涙が溢れた。
声、体温、抱きしめ方、手、天使の全てが優しい。優しすぎる。
「ふふっ、相当怖かったんだね。大丈夫だよ〜。」
「死んじゃう夢見て」
「あー、喋らないで大丈夫。呼吸整えて後で話聞くから今は落ち着こ」
また涙が溢れ出す。

しばらくしてから落ち着いてきた。
「もう大丈夫??話聞かせてくれる?」
「うん。病気で死んじゃう夢見たの。」
「意外だなー、ふふっ、」
「なにが?」
「心乃ちゃん辛いことがあっても誰にも言えないタイプかと思ってた。」
天使が笑いながら言うので首を傾げる。
「え、なんで?私、強くないよ」
「ううん。強いよ。病院から帰ってきてどうだったか聞いた時、必ず特に何もって言うけどちょっとつらそうな顔してるし、
今日だって結果待ちで入院って言ってたけど血液検査で引っかかったんだよね。僕は知ってたよ」
「え、」
バレていたんだ。絶対誰にもバレたくなった。特に天使には。
病気が悪化してる自分を見せたくなかった。
「なんで知ってるの?」
「聞いてたんだ。病院の先生との会話。」
まさか聞かれているとは思わなかった。
「だからさ、心乃ちゃんは誰にも言えないで辛そうだと思った。僕にできることあったら言ってね。」
「ありがと」
「怖いこと、不安なこと、嫌なこと、全部僕に言ってくれたらなにか役に立てるから」
こんなに安心感でいっぱいになったのは多分初めてだ。
退院して1週間くらいたった。
血液検査で異常が確認されたのは私の体重が減ったことが原因だったらしい。
ダイエットしたことが病院の先生にバレてからかわれた。
でも病院の先生とは小さい頃から一緒にいるから恥ずかしいという気持ちは1ミリもなかった。

もう体重を減らしたらダメだと言われた。
この体重を維持できるようにしようと思ったけど運動したら痩せてしまう気がした。
「ねえ、大丈夫?」
「え、うん。」
天使が心配そうに私の顔を覗いてきた。
慌てて答えたけれど意味がよく分からなかった。
急に大丈夫か聞かれてもなんのことか分からない。
「心乃ちゃん学校でも僕のこと呼んでね?学校でなにかあったら困るから」
「うん。ありがと、」
「周りに人がいて呼びにくい時は我慢しないで人のいないとこ行ってよぶんだよ?」
「うん」
天使が不安そうな顔で見てくる。
その顔が可愛くて面白くてつい笑ってしまった。
天使は「なに笑ってるの!」と焦っていたけれどその顔もすごく可愛くて愛おしい。

明日から学校に行く。
この間会った子たちに悪口を言われる。
もしその子たちが私が休んでる間に悪い噂を広めていたらどうしようと考えると不安で押しつぶされそうだ。
もし匠くんに嫌われてたらと言う想像をしてしまった。
もう匠くんと話すことは出来なくなるのか。
そればかり考えてなかなか寝付けなかった。
すると「寝て明日の朝考えよ?このままずっと考えてたら寝れないよ」
と聞こえてきた。天使の声だ。
落ち着く声。
優しい言葉。
「寝れないよ、もし嫌われてたら、私終わりだよ」
「終わりじゃないよ。まだあと9ヶ月もある」
「・・・う、ん」
「だから余計な心配ばっかりしてないで寝よ?」
「うん。寝る。だから私が寝るまでここにいてほしい」
ひどくわがままなお願いだと自分でも思った。でも天使にならなんでも頼めるし、弱い自分も見せれる。
そんな気がした。
「うん、僕隣で寝るから安心してね」
「ありがと。」
そう言ったけど寝れなかった。
やっぱり不安で寝れなかった。
すると私が寝てないことに気づいた天使が私の背中をとんとん、と優しく叩いてくれた。
子供の頃よくお母さんに『とんとんしてー』
と頼んでいた。
天使の優しい手が私の背中に触れる。
小さい子みたいに扱われて少し恥ずかしかったけれど安心感に包まれて眠りについた。

朝起きても天使は隣にいてくれていた。
「おはよぉー、昨日ちゃんと寝れた?」
「おはよー、ちゃんと寝れたよ、おかげさまで」
「なら良かった」
天使が安心した顔をした。
その顔が可愛くて愛おしい。

身支度を終えて学校に行く時間になった。
ふぅ、とため息を着くと
「大丈夫だよ、いつでも僕のことよんでいいから」
「ありがとう。行ってきます!」
「行ってらっしゃい、あっ、でも空の上でついて行く!」

学校に着くと案の定ひそひそ話が聞こえた。
何人かの女子が「先生が言ってたんだけど入院してたの?大丈夫?」
と心配してくれた。
私は「大丈夫だよ、」
と言ってからその続きの言葉が出てこなかった。
心配してくれてありがとう、なんて言ってもなにか違うし元気だよ、と言ってもズル休みだと思われる。
「ならよかったー。私たち心乃ちゃん大きい病気なのかなって怖かったんだ。だよね?」
「そうそう。めっちゃ怖かったの」
2人の女子がそういった後、周りの女子が頷いた。
「そーだったんだ、そこまで大きい病気ではないから大丈夫。ありがと。」
私がそういうと女子は「じゃあまたね」と手を振って自分の席に戻って行った。
私の事を嫌いになっていない人がいることに驚いた。
みんな私の事なんか嫌いだと思っていた。
「心乃、大丈夫?入院したって聞いて」
匠くんだ。
匠くんに声をかけられた。
周りはみんな『病気うつるかも』と私の近くに来てくれない人もいるのに匠くんは私のところに来てくれた。
「あ、匠くん。大丈夫。大した事じゃなかったから」
すると匠くんがほっとしたような顔をして
「よかった」
と言った。

家に帰って天使と話す。
そんな日々が毎日続いた。
天使と話す時間がどんどん長くなっていく。



今日も天使と話していた。
会話の途中で天使が
「そういえばあと6ヶ月だね」
と呟いた。
今までだいたい1ヶ月たったら教えてくれていたのに。
「え、もうそんなに?1ヶ月たったら教えてよー」
「あ、僕も忘れちゃうんだよね。時間経つの早いから」
ふふっと天使が噴き出した。
その後もいつものように話していつものように天使と2人で暮らした。

ただ、病気が悪化していた。
病院に行く回数がどんどん増えて学校も休んで勉強についていけない。
家で勉強について行こうと頑張ってもなかなかついていけない。
「天使ー」
「どーした?」
「勉強ついていけないの」
すると天使が優しい声で
「僕もさ勉強苦手だから教えるとかできないかもー」
と笑った。
「えー?まぁ自分で勉強してみる」
「頑張って!」

その後勉強は何となくついていけるようになった。
でも学校で勉強していたからどんどんスクールカーストが下がって行く。
体育も病気のせいで見学だから私には取り柄がない。
天使に出会う前の5月よりずっとずっとスクールカーストが下がった。
一軍になりたいとかは思わないけど三軍くらいにはなりたかった。
今の私は軍も何も無いただのぼっちだ。
匠くんとの距離もどんどん離れていく。
匠くんはいつも友達に囲まれてずっと笑っている。
匠くんと話せない日が続いていく。
今日も匠くんと話せなかった、と落ちこんで学校から帰っていると急に心臓が痛くなった。
急いで「天使」と声を上げた。
「どーした?」
答えようとしたけど苦しくてしゃがみこんでしまった。
「え、大丈夫!?」
気がつくと過呼吸になっていた。このまま死にそうで怖かった。
「えっと、まず深呼吸しよ。大丈夫だから落ち着こ」
天使はすぐに状況を理解して対応してくれた。
天使が私の隣に腰を下ろして背中をさすってくれた。
苦しくて息が止まりそうだったけど天使の声に合わせて深呼吸をしていくうちにだんだん楽になってきた。
「落ち着いた?」
「うん。ありがと。天使がいなかったら私多分死んでた、ほんとありがとう。」
天使は命の恩人だ。
天使がいてくれてほんとによかった。
前を向くと天使が不安そうな顔でこちらを覗いていた。
「とりあえず家帰ろっか、」
「うん」

家に帰ると天使が
「急に苦しくなったの?」
と質問してきた。
「心臓が痛くなってきて焦って苦しくなった。」
すると天使は頷いて
「そっか、怖かったよね。苦しかったよね。病院行く??」
病院と言う言葉にドキッとする。
子供みたいで情けないけど病院が怖い。
どんな検査をされてまた病気が見つかるかもしれない。
だから行きたくない。
「今日は大丈夫。明日病院行くことになってるからその時言う」
「そっか、明日病院の先生にちゃんと言うんだよ、」
うん、と返事をすることは出来なかった。
また入院することになるかもしれない。
それだけは避けたかった。

「そういえば心乃ちゃん悩み事あるでしょ」
寝ようとしてベットに横になった時、天使に話しかけられた。
特に悩み事なんかない、と言おうとした時スクールカーストのことが頭に浮かんできた。
大した悩みじゃないし言わないでおこうと思って天使の方を見ると優しい瞳でこちらを見つめていた。
その瞳に嘘はつけない。
「悩みって言うか、スクールカーストが気になるかな」
すると天使は頷いて
「そっかー。僕はスクールカーストとか関係ないと思うけどな。心乃ちゃんは何がやなの?」
「みんな私の扱いが酷いし、軍に属してないやつが話しかけんな、みたいな感じで対応されるの」
みんな私が話しかけても素っ気ない対応をするか無視するか、それが辛かった。
「それは辛いね。心乃ちゃんのことをそんなふうに扱う人は心乃ちゃんが話しかけるべき人じゃないと思う。」
話しかけるべき人じゃない、なんて言われてもクラスメイトだし話しかけなければ誰とも話せなくなる。
すると天使が続けてこう言った。

「心乃ちゃんにとっては学校の人全員に嫌われたら人生終わり、みたいな感じかもしれないけどね、学校はほんとに狭いんだよ。
世界はほんとに広い。
僕は天使の国に住んでるから他の人よりたくさんの世界を見てる。
学校の人に嫌われたとしても世界にはたくさん心乃ちゃんの味方がいる。
少なくとも僕はその1人だよ。」

そうか。私が思っているより世界は広いんだ。
でも世界にたくさんの私の味方なんているはずない。
そう考えているとそれにきずいた天使が

「味方って言ったけど言い方変えたら
心乃ちゃんと友達でいたいって思ってくれる人かな。
多分心乃ちゃんのクラスメイトの中には別に嫌いじゃないけどみんな心乃ちゃんと話さないから自分も離れよって思ってる人もいると思うよ。
でも周りに流されて心乃ちゃんから離れていく人は味方とは言えないね。
周りが心乃ちゃんのこと嫌いになっても心乃ちゃんと一緒にいたいって思ってくれる人が味方だよ。」

全身に刺激が走って動けなかった。
口を開こうとしても動かない。
体が重かった。
しばらくしてから少しづつ体が動くようになった。
「そんな考え方、私したこと無かった。
ほんとにありがと。元気出た。」
気づいたら口を開いてお礼を言っていた。
天使はなんて素敵なことを言うのだろう。
色んな世界を見てきた天使は私とは全く違う世界の見方をしているのだ。
「だから、スクールカーストなんかに悩まないで」
「うん。」

その後から学校に行って1人になっても気にならなくなった。
それは天使のおかげだ。
世界には味方がいると教えてくれた天使のおかげだ。
やっぱり時間が過ぎるのは早い。
もうあと3ヶ月しかない。
匠くんと付き合えない。
そんなことを考えながら授業を受けていると
「心乃ちゃん!ねえ、僕だよ!天使!」
と、小さい声で天使が話しかけてきた。
「何?授業中だよ」
私も小声で返事をした。
「なんか暗そうな顔してたからさ、何かあったのかなって」
心配そうな顔の天使がやっぱり愛おしい。
でも授業中に悩み相談はいくらなんでもおかしい。
「うん、後で話すから今はちょっと待って」
すると天使が残念そうな顔をして「はーい」
と返事をした。

授業が終わって昼休み。
私はいつも誰も来ない空き教室で朝自分が作ったお弁当を食べている。
みんな友達と机を合わせて喋りながら食べているけど私にそんな友達はいない。
「天使〜」
「はい!うわ〜!今日作ってたお弁当だ!美味しそー」
天使が目を輝かせている。
「そんなすごいもんじゃないから」
そう答えたが本当は少し嬉しかった。
誰かに自分で作った料理を『美味しそう』
なんて言われたのは初めてだ。
「ひと口だけちょーだい!」
あまりにも愛おしい笑顔で言うのでひと口だけあげることにした。
「え、美味しすぎる!今まで食べてきたものの中で1番かも!」
嬉しい。
素直に嬉しかった。
褒められたことなんか1度もなかった。
天使がお世辞で言ってたとしてもほんとに嬉しかった。
「ほんと!?嬉しー!」
思わずそういうと天使から予想外の答えが返ってきた。
「お、意外と素直じゃん」
自分でもこんなに喜んだのは初めてだとわかったけどそんなに素直に見えていないのか。
「あっ、そうでもないか、心乃ちゃん結構素直だ。よく考えると。」
天使は何を言っているんだろう。
自分も分からなくなった。私は素直なのか素直じゃないのか。
でも自分的には素直じゃない方だと思う。
小さい頃お母さんとお父さんに怒られても素直に謝れなかった。
「素直だと思う。心乃ちゃん。」
天使が少し考えながらそう言った。
「え、なんで?」
「だってさちゃんとありがとうって言えるじゃん。素直じゃない子はありがとうって言うのが恥ずかしいっていうか」
「私、ありがとうなんて天使に言ったっけ?」
全く覚えていない。天使に助けられた時後で話聞くからと言われその場でありがとうを言えなかったりしたと思う。
「心乃ちゃんが苦しくなった時とかスクールカーストの話した時とかありがとうって言ってたよ」
自分では覚えていないけど多分心が動いていたから流れるように口にしたのだろう。
「だから、心乃ちゃんは素直だと思う。素直って素敵な事だよ!
あっ、もう一口ちょーだい!」
頭の整理が追いつかなかったけどとりあえずもう一口天使にお弁当をあげた。

すると廊下から声がしてきた。
「てかさ病気だからって体育休んだりすんのうざくね?」
「それな、しかもブスだし勉強できないし」
「ほんとそれー」

これは私の悪口だ。
会話を聞いただけでわかる。
匠くんのグループの声。
どんどんこちらに近ずいてくる。
私と天使がいる教室の前を通った時
「え、心乃だ」
「おっ、噂をすれば」
と笑いながら話していた。
どんどん声が遠くなってった。
匠くんが私の悪口を言って笑っていた。
嫌われたんだ。
私にはあと3ヶ月しかないのに、と心が叫んでいた。
「天使、」
かすれた声で天使をよんだ。
「辛いね。でもタイムリミットは3ヶ月もあるよ」
「3ヶ月しか、だよ。私、どうすればいいの」
「前にも言ったけど大体は周りに流されてるだけだから匠くんもきっとそうだよ」
その言葉に少し安心した。
その夜、天使と一緒にどうやったら匠くんと付き合えるか作戦会議をした。
作戦会議の時、天使が真剣に考えてくれてほんとに嬉しかった。
私は今入院している。
2ヶ月前にした天使との作戦会議で出た案を先月まで試して見たけれど逆効果でどんどん病気が悪化していくだけだった。
「心乃ちゃん、タイムリミットあと1ヶ月だけど入院しちゃったらね」
天使が困った顔でそう言った。

もし漫画やアニメだったら隣の病室に匠くんが来て同じ病気で一緒に死んで天国で2人で暮らしているだろう。
でもそんなこと現実ではありえない。
隣の病室にはヨボヨボなおじいちゃんしかいない。
しばらく天使と話をしてから病院の先生に呼ばれた。
「心乃ちゃん、単刀直入に言うと余命があと1ヶ月です」
つい知っています、と言いそうになるのを我慢した。
そこから医者が励ますような言葉をかけてきたけどもう何も考えられなかった。
匠くんとつきあえなかった。
天使と初めて話した時、『匠くんは高嶺の花』と言った。
実はその時少しだけチャンスがあるかも、と馬鹿なことを考えていた。
病室に戻ってまた天使と喋った。
天使はいつものように優しい声で話してくれた。
「今日はもう寝る?」
「うん。おやすみ。」
「おやすみ」
「あ、隣に居てほしい。幽霊出そうだから」
「うん。僕は隣にいるよ」
あの時を思い出す。
親が死んでから初めての入院で怖かったとき、天使が隣にいてくれた。
ベットに横になった時天使が
『匠くんと付き合えなかったけど落ち込んでばっかじゃなくて死んでから悔いがないように今できることをしよ』
と教えてくれた。

天使の言っていることは正しい。
匠くんと付き合えなかったからってこんなに落ち込んでいたら死んだ後絶対後悔する。
「うん。そうだね、ありがと!」
そう言ってから今できることを考えた。
考えてるうちにだんだん眠くなってきて眠りについてしまった。
朝起きていつものように天使と喋ってご飯を食べてから今できることを考えるようになった。
もう死ぬと決まっているから検査はないけど珍しい病気だからと言って入院させられているため暇で仕方ない。
天使と一緒に考えてぬいぐるみを買ったり甘いものを食べたりして幸せに過ごした。

タイムリミットはあと1週間しかない。
正直に言うと死ぬのが怖かった。
夜は天使に背中をさすってもらって寝れるか寝れないか。
日が経てば経つほど怖さが増していく。
今も天使に背中をさすってもらってる。
「大丈夫大丈夫、大丈夫だから」
天使が何度も何度も大丈夫と声をかけてくれた。
天使の優しい声で少し心が落ち着く。
「怖、い・・・」
つい声がもれてしまった。
もし今日眠れて明日起きれたとしても毎日こんなに怖い思いをするのかと思うと苦しい。
「絶対大丈夫。ほら深呼吸して」
天使に何度も声をかけてもらってやっと落ち着き、眠りにつく。

今日も寝る時間が来てしまった。
すごくすごく眠いはずなのに寝れない。
昨日と同じように天使と一緒に時間をかけて眠ることができた。
「おはよー」
「おはよ、いつも寝る時ほんとにありがとう」
「いいよいいよ!僕は天使だもん」
よく分からない説明につい笑ってしまう。

「天使の国、行きたいな」
そう独り言を言ったが外出は許されていない。
「いいんじゃない?」
天使の意外な返事に驚いた。
そんな私のことを気にすることも無く
「だって外に出るなってことでしょ?心乃ちゃんが天使の国に行ってる時は周りから見たら寝てることになってるから」
心の中で喜びの声がもれる。
「じゃあ、行きたい!」
「うん、じゃあ行こ!」
そして懐かしい感覚が蘇る。
天使の国に着いた時の安心感。
色、匂い、音、雰囲気
天使の国の全部が安心する。
その時ふと思った。
死んだらここには来れないのか、死んだら天使には会えないのか、気になって天使に聞くと「ここには来れないね、僕に会うことも多分ないと思う」
もう天使に会えないのかと思うとすごく悲しい。
悲しさでいっぱいになって動けないでいると
「帰るよー」
と天使が私の腕を掴んだ。
気づくと病室にいて天使の国にはいなかった。
その後もいつもどうりに天使と話したけど
どこかモヤモヤが残っている。
『僕と会うことは多分ない』という天使の言葉だ。
会えなくなると考えて悲しくなっていたけどもしかしたら会えるかもしれない、と少し期待している。