その頃錑は与那国島に向かっていた。
俺はどうしても諦められなかった。

みゆをこのまま健志の元においておいたら、ゆかりの言う通り、健志のものになってしまうと心配が脳裏を掠めた。

でも無理矢理東京に連れ帰るわけにはいかないと思い、何か手立てはないかと悩んでいた。

とにかくみゆの側に行こう、そして初めからアタックすると言う考えに至った。

私は受付で仕事をしていると、診療所のドアが開いた。

「北山先生いますか?」

そこにいたのは錑だった。

私は錑の姿に戸惑いを感じた。

あの時、錑の差し伸べられた手を取らなかった事は、後悔はしていない。

でも、簡単に忘れられる人ではない。

北山先生は優しい人、でも恋愛対象ではないとはっきりわかった。

錑を思いながら生きていく道を選び始めていた矢先だった。

「少しお待ち下さい」

心臓がバクバク音を立てて、呼吸が苦しくなった。

あの決心はどこへ行ったの?

錑の顔を見た瞬間、錑の胸に飛び込みたい衝動に駆られた。

深呼吸をして「先生、あのう、桂木さんがお見えです」と伝えた。