ガチャリという音と同時に、電話が切れた。

 打水立夏はスマートフォンを耳から離し、小さくガッツポーズをした。

「やった!」

 控えめに喜ぼうと思ったものの、身体の底から溢れ出る感情を抑えきれず彼女はベッドにダイブした。

「明日は太陽とお出かけだ」
 
 厳密にはお出かけではないが、そんな些細なことは立花にはどうでもよかった。ただ太陽と再び一緒に遊べる。その事実が、どうしようもないくらいの嬉しい。体の内側からふつふつと湧き上がってくる感情が、全身を心地よく叩いていた。

 興奮のあまり立夏はベッドの上でタオルケットを巻き込みながらグルグルと転がり回る。

 しばらくしてから彼女は動きを止め、枕元に置いてあったクマのぬいぐるみを抱き抱えてスマートフォンを操作した。SNSアプリを開き、友人に電話をかける。電話の相手はすぐに出た。

「あ、もしもし! 清涼?」

「お、随分と上機嫌じゃんか。もしかして、成功したのか?」

 聞き慣れた爽やかな声。清涼も、声のトーンが上がっている。きっと、喜んでくれているのだろう。

 立夏は再び口元を緩ませた。

「そうなんだよ! 明日来てくれるって! ちょっとびっくりしちゃったよ!」

「そりゃ良かったな! 長年想ってきた甲斐があったんじゃないか?」

「うん! そうなんだよ!」

 そう言われ、立夏は笑顔を弾けさせた。

 彼女は、小学生の頃から太陽に好意を寄せていた。思い返せば、自分はなんて単純な女なんだろうかと立夏は苦笑してしまう。それでも、好きになってしまったものは仕方ない。今でこそああなってしまったが、昔の彼が見せる優しさに、彼女は惹かれていた。

 太陽に避けられるようになってから、今度は自分が太陽に優しくするべきなんだと、そう思うようになった。

 本来の人懐っこい彼に、自分が大好きだった彼に戻ってもらうためにも。

「ここまで頑張ってこれたのも、清涼のおかげだよ! ありがとう!」

「……」

 立花の言葉に、清涼は一瞬だけ言葉に詰まった。だが、そんな清涼の些細な変化に、立花は気が付かなかった。恐らく、いつもなら気付くことができた変化なのだろう。だが、今はあまりにも嬉しくて周りが見えていなかった。

「明日楽しみにしてるから!」

 清涼の気持ちに気が付かず、立花は元気よく叫んだ。

「俺も楽しみにしてるよ。じゃあな!」

「うん! じゃあね!」

 そう言って、立花は電話を切った。

 電話が終わった後、彼女は持っていたスマートフォンを放り投げ、抱き抱えていたぬいぐるみをじっと見つめてから、もう一度、強く抱きしめた。