『やむ、Bメロこれでどうなのだよ?』
『少し明るすぎ。ラスサビまでこの明るさは抑えて。』
私が担当させてもらうのは歌詞付けの助言と歌唱。メロディが完成しないと歌詞に取り掛かれないということで今は2人の作業を黙って聞いている状態。
鉛筆を鼻にかけてバランスをとりながら、私は1人歌詞案を練っていた。
「(希望...光...愛情...?)」
それっぽい言葉を連ねっても、よくある薄っぺらいラブソングくらいしか出来上がらない。これを見ると、作曲家というものの凄さを実感する。
『key、暇ならやむの作曲した曲SNSのプロフから飛んで聴いてみてよ。やむのはぱてまと違って歌詞も入ってるから。』
『むっ!!"違って"ってなんなのだよ~!!』
すんなりと了承してやむのプロフィールから適当に目に止まった動画を再生する。

「(うわっ!?...何これ......)」
不気味な効果音から始まる前奏は蜘蛛が顔を歩いているような気持ち悪さで、胸糞悪いという言葉がピッタリなような気がする。気味の悪い効果音、使われている楽器はまるで全て壊れているよう。不協和音同士が重なっていてその気味悪さは震えが出るほど。
「(抉られるみたいな音...)」
どうしたらこんな不気味な音が出るのだろうか...
『あ、おかえりどうだった?』
『とてもいいと思います。気持ちが込められていたと思います。』
こうとしか言えない...褒め方が分からない。いや、凄いけど。凄いけれども。
寒さを感じヘッドホンを外して布団を取りに向かった。精神どころか身体にまで影響をきたすやむの曲はぱてまとは正反対である。
「(なるほど...これは真逆だから2人で曲を作ったら中和するのかな。)」
と呑気なことを考える。
『本当?よかった、あと少しでデモができるから待ってて。』
やむという名前の伏線回収をできたところで、ぱてまが話しかけてきた。
『key、そろそろ私達のこと呼び捨てにして欲しいのだよ。』