小筑さまの話では、朝霧さまの亡くなった母君の影響だという。

 母君さまは、他の妻へと通う右大臣さまへの恨み辛みを、幼い朝霧さまにとうとうと聞かせていたらしい。

 朝霧さまは、そのせいで女嫌いになったとか。
 幼い身の上で、母から愚痴を聞かされ続けたのは気の毒だと思う。

 でも、だからって全女性が愚痴っぽいわけじゃないし、逆に言えばそうならぬよう妻を安心させるのが男の甲斐性ではないか。

「お前こそどうなのだ。結婚する気はあるのか?」

「今はまだいたしません。男は皆、浮気者で薄情ですもの」
 仕返しとばかりにツンと横を向く。

 朝霧さまは「心外だ」と言う。
「男が皆、浮気者で薄情者なわけじゃない」

「朝霧さまだって、女をバカにしているじゃないですか。お互いさまですよ」
「ほぅ。浮気者で薄情でない男が見つかれば、そなたは結婚するというのだな」

「ええ、是非とも紹介していただきとうございます」
「よしわかった。それで希々はどのような夫がよいのだ」

 小筑さまに言った通りに答えると、朝霧さまは首を傾げた。
「控えめだな。公卿でなくてよいのか」

 公卿とは貴族のなかでもごく一部の超がつく上流貴族だ。

 下流貴族の私が公卿の正妻になれるはずがないし、ましてや多くの妻のうちのひとりだなんて、まっぴらごめんである。

「私は身の丈をよく存じておりますもの。優しくて私だけを妻にして、大切にしてくださる方なら、それでいいのです」

「わかった。心得ておこう」