始めからストーリーの流れが明確に言語化できていると、とても淡白なものができてしまう。また流行りの小説の真似をしようとして、同じような展開を考えると、表現力が至らず空中分解する。
 クリエイティブに創作することは作者自身にも感動をもたらすものだ。登場人物が思いがけずに死んでしまうと落ち込むし後悔する。また楽しいことを書くと自分も楽しくなる。これを予測してやっていたら感情の起伏は起こらない。読者はもっと白けるだろう。
 作品は、あるとき作者の手を離れて自己増殖を始める。文字が勝手に手から紡ぎ出され、ワープロの音が自分のものではないかのように甲高く響くとき、言語の宇宙を漂うような気分になっていく。
 ストーリーは予想を超え、山場が必然的に生まれ人間の本質に一瞬触れたときに作者は満足感を得る。
 複雑で無限の広がりをもつ空間を一本のストーリーが輝く道筋となってほとばしると、気が付いた時には数万字書き上げている。変換ミス、脱字は後で修正すればよい。肝心なことは創造の言語空間を漂う快感を途切れさせず、解放し散逸する未来をずっと眺めていることである。