コルゼラウデは小さな国である。面積も人口も、アレイザスの六分の一にも満たないが、国家としての古さでは匹敵する。かつて両国は、大陸で並ぶもののない、一つの大国だったのだ。
 コルザと呼ばれたその国は、政教一致国家であった。
 信仰の特性により、遥か昔から聖職者が、王族と同程度の尊敬を集め崇められていた。だが長い年月が経つうちに、徐々にではあるが、彼らが多大な権力を有することに不満を抱く者も増えていった。
 王族の一派が叛乱を起こし、コルザが分裂したのは百六十年ほど前のこと。数年続いた内戦の結果、最終的な勝利を収めたのは、叛乱軍を率いた新王族側である。
 紆余曲折の後、コルザ国土の大半が新王族の統治下に入ることとなった。そして残りの土地は、聖職者とともに叛乱軍に抵抗した旧王族が治めることを許された。前者が現在のアレイザス、後者がコルゼラウデである。
 内戦の間に、少なくない数の聖職者が幽閉され、あるいは処刑されたりして命を落としたという。生き残った者の多くは旧王族に付き従い、その結果、彼らはかつての信仰をほぼそのままに受け継いだ。改められた国名「コルゼラウデ」は「古のコルザ」を意味する。
 現在もコルゼラウデにおいては、聖職者が持つ権力は大きい。分裂前と同じく王族並みだとも言われている。彼らに与えられた領土は「神の降りた地」または「聖地」と呼ばれる土地を含んでいたので、元の信仰を保つ上では適していたのだ。
 大陸に明確な成立国家が無かった時代、現在のコルゼラウデの「聖地」に、天から神が舞い降りた。神は三十日を人々とともに過ごし、かつてのコルザの基礎を作った。そして毎年、地上に留まったこの時期には自らの分身を遣わすと約束して、再び天へと帰っていった──と、伝説は語っている。
 それがただの伝説ではなく、少なくともある程度の真実を含むと考えられているのは、話の三十日に当たる時期に生まれる者たちの特異性に拠る。出生数こそ少ないものの、彼らの九割以上は、何らかの超自然的な能力を有していた。
 主に現れるのは、他人の内面を読み取るといった能力である。手などで直接触れた相手の、あるいは物品を介してその持ち主の、感情や記憶を「()る」「聴く」ことが可能だという。
 そして少数ながら、夢や精神統一によって未来を予言する能力や、病気や怪我を癒す能力を現す者などもいる。
 どのような能力であれ、発現した者はほぼ例外なく、間を置かずに首都の神殿に入り、聖職者となるための修行を課せられる。その過程で能力を制御する方法を学ぶとともに、「神の分身」として身を清め、生涯を神に捧げて生きることを義務づけられるのだった。