1月に入ると、一気に学校の雰囲気が変わった気がする。常に「どう年度を終えるか」「来年はどうなるか」ということが、頭をよぎる。まあ、後者のほうは私には関係なくなってしまったけど。
教頭が言っていたとおり、あっという間にお別れになっちゃいそうだ。青空高校は3年生の登校が1月末で終了だ。少なくとも3年生とのお別れはあっという間にやってくるようだ。
3年生の英語は週に5時間入っている。3時間が3年生全員22人での授業で2時間が5人の選択授業だ。授業というと、全部きっちり教科書を使ってやらなきゃいけないのかな、と思っていたけど、最後くらい楽しんでやりたいなと冬休みから思っていた。
そこで用意したのが、映画を見ることだった。私が英語好きになったきっかけの映画を見てもらおうと、うまく編集した。物語の筋は損なわず、今年やった単語や文法が出てくるところを漏らさぬように。そして、2回に分けて見れるように編集し、プリントを作った。
「最後2回は、映画見るよ!」
3年生は反応が薄い生徒が多く、最初は大して盛り上がらなかった。「映画って何の映画ですか?」と男子が聞いてきたから、「ハリーポッターです。」と言うと、熱烈なファンが数名いるようで、あちこちでどの話が面白い怖いなどと、盛り上がりはじめた。
「今回は英語版を英語字幕で見ます。難しいところは私が解説するけど、みなさんでもわかる英語で話しているから、楽しんで見てほしいなぁ。」
「英語で見る」と言うと、少し空気が重くなったが、もう決めてしまったのだから、引き下がれない。編集とプリントで英語の楽しさが伝わるようにしなくては。
最終授業日は1月31日。あと2週間ある。テスト作りもあるが、2科目ならそこまで辛くない。最後の2時間にかけるため、私は全てを3年生に注ぐことにした。
「先生、来年の準備はしてるかい?」
私は3年生の授業準備がしたいのだが、教頭は私にどうしても声をかけたいらしい。採用される準備はできているのかと、毎日必ず聞いてくるようになっていた。
「まずは『あっという間にお別れになっちゃう』3年生の授業準備を頑張っています。」
今は、それ以外のことに手が回らない。正直に言ってしまった。すると「まあ、そうなんだけどね。」と、どこか腑に落ちないような曖昧な返事をしていた。
「青空高校のためには、まず3年生を卒業させて欲しいさ。今年頑張ってきた佐藤先生のためにもね。」
教頭が言っていることは、私がしようとしていることと何も違わないようだった。じゃあ、このまま、青空高校のために頑張っていればいいのかな? と心に浮かんだ。
もう、ここまで来ると、青空高校のために頑張ることが幸せで、そうしている自分が好きになっていた。
「でもね、先生。佐藤先生は4月から別の学校に行くのさ。これから正式な先生になって、どんどん素敵になっていくことを考えたら、やっぱり準備は必要なのさ。うちの学校は素晴らしいよ、生徒も先生方も。だけど、ここだけが学校じゃない。むしろうちは特殊なことの方が多いくらいさ。長い目で『先生』になっていくには、青空からは離れて、気持ちの整理をつけて、一般的なことも勉強しないとね。そう思うのさ。」
教頭は今日明日、来年度とか目先のことではなく、もっと果てしない未来を見つめてアドバイスしてくれている。たしかに青空は特殊なことの方が多い。ここだけで勤める訳じゃない。離れる心の整理も必要だ。
「やー、ぼくね、先生が青空で頑張ってるのがすごく楽しそうだから、ほかの学校嫌だ! ってなったらどうしようって不安なのさ。『来年度の準備してるかい?』って、自分を安心させるためにも聞いてるんだわ。しつこくてごめんね。」
「頑張ってるのが楽しそう」というところにドキッとした。きっと教頭には私の気持ちは全て見え見えなのだろう。さすが教員を続けてきて、教頭にまでなっただけある。人を見る目がある。
未来の自分のため、今何ができるだろう? と思いを馳せつつ、やはり今を一生懸命に生きるのが基本だと、3年生の授業準備にとりかかった。
この日から、寝る前、ベッドの中で、私が作りたいクラスを思い描くことにした。
みんなでお弁当を食べるクラス。
3年生のように真面目にコツコツ頑張るクラス。
花菜さんのように熱い思いがあるクラス。
学校祭の後、達成感に満ちた花菜さんの笑顔が思い出される。青空に来るために採用試験に落ちたのだ、とさえ思った。先生になろうと頑張った学生時代、青空での数ヶ月。全てが報われた瞬間だった。教員として1番迎えたかった瞬間だった。
やはり、来年もやりたいな。でも、無理だな。
私にとって、未来を考えることは、今が続かないことを受け入れることのようだった。
教頭が言っていたとおり、あっという間にお別れになっちゃいそうだ。青空高校は3年生の登校が1月末で終了だ。少なくとも3年生とのお別れはあっという間にやってくるようだ。
3年生の英語は週に5時間入っている。3時間が3年生全員22人での授業で2時間が5人の選択授業だ。授業というと、全部きっちり教科書を使ってやらなきゃいけないのかな、と思っていたけど、最後くらい楽しんでやりたいなと冬休みから思っていた。
そこで用意したのが、映画を見ることだった。私が英語好きになったきっかけの映画を見てもらおうと、うまく編集した。物語の筋は損なわず、今年やった単語や文法が出てくるところを漏らさぬように。そして、2回に分けて見れるように編集し、プリントを作った。
「最後2回は、映画見るよ!」
3年生は反応が薄い生徒が多く、最初は大して盛り上がらなかった。「映画って何の映画ですか?」と男子が聞いてきたから、「ハリーポッターです。」と言うと、熱烈なファンが数名いるようで、あちこちでどの話が面白い怖いなどと、盛り上がりはじめた。
「今回は英語版を英語字幕で見ます。難しいところは私が解説するけど、みなさんでもわかる英語で話しているから、楽しんで見てほしいなぁ。」
「英語で見る」と言うと、少し空気が重くなったが、もう決めてしまったのだから、引き下がれない。編集とプリントで英語の楽しさが伝わるようにしなくては。
最終授業日は1月31日。あと2週間ある。テスト作りもあるが、2科目ならそこまで辛くない。最後の2時間にかけるため、私は全てを3年生に注ぐことにした。
「先生、来年の準備はしてるかい?」
私は3年生の授業準備がしたいのだが、教頭は私にどうしても声をかけたいらしい。採用される準備はできているのかと、毎日必ず聞いてくるようになっていた。
「まずは『あっという間にお別れになっちゃう』3年生の授業準備を頑張っています。」
今は、それ以外のことに手が回らない。正直に言ってしまった。すると「まあ、そうなんだけどね。」と、どこか腑に落ちないような曖昧な返事をしていた。
「青空高校のためには、まず3年生を卒業させて欲しいさ。今年頑張ってきた佐藤先生のためにもね。」
教頭が言っていることは、私がしようとしていることと何も違わないようだった。じゃあ、このまま、青空高校のために頑張っていればいいのかな? と心に浮かんだ。
もう、ここまで来ると、青空高校のために頑張ることが幸せで、そうしている自分が好きになっていた。
「でもね、先生。佐藤先生は4月から別の学校に行くのさ。これから正式な先生になって、どんどん素敵になっていくことを考えたら、やっぱり準備は必要なのさ。うちの学校は素晴らしいよ、生徒も先生方も。だけど、ここだけが学校じゃない。むしろうちは特殊なことの方が多いくらいさ。長い目で『先生』になっていくには、青空からは離れて、気持ちの整理をつけて、一般的なことも勉強しないとね。そう思うのさ。」
教頭は今日明日、来年度とか目先のことではなく、もっと果てしない未来を見つめてアドバイスしてくれている。たしかに青空は特殊なことの方が多い。ここだけで勤める訳じゃない。離れる心の整理も必要だ。
「やー、ぼくね、先生が青空で頑張ってるのがすごく楽しそうだから、ほかの学校嫌だ! ってなったらどうしようって不安なのさ。『来年度の準備してるかい?』って、自分を安心させるためにも聞いてるんだわ。しつこくてごめんね。」
「頑張ってるのが楽しそう」というところにドキッとした。きっと教頭には私の気持ちは全て見え見えなのだろう。さすが教員を続けてきて、教頭にまでなっただけある。人を見る目がある。
未来の自分のため、今何ができるだろう? と思いを馳せつつ、やはり今を一生懸命に生きるのが基本だと、3年生の授業準備にとりかかった。
この日から、寝る前、ベッドの中で、私が作りたいクラスを思い描くことにした。
みんなでお弁当を食べるクラス。
3年生のように真面目にコツコツ頑張るクラス。
花菜さんのように熱い思いがあるクラス。
学校祭の後、達成感に満ちた花菜さんの笑顔が思い出される。青空に来るために採用試験に落ちたのだ、とさえ思った。先生になろうと頑張った学生時代、青空での数ヶ月。全てが報われた瞬間だった。教員として1番迎えたかった瞬間だった。
やはり、来年もやりたいな。でも、無理だな。
私にとって、未来を考えることは、今が続かないことを受け入れることのようだった。