「被告は真田徹、三十三、定職なし。四流大学を六年かけて卒業。好奇というネット喫茶をねぐらにしていたホームレス。一月十七日に殺害された今田実も三十三。ホームレスのようなものだが山谷のホテル小林という木賃宿に住んでいた。犯行当日、朝方に出たネット喫茶から犯行現場まで真田の画像が七か所の防犯カメラに、ご丁寧に時系列で捉えられている。おまけに、真田が犯行前日の一月十六日に凶器を購入した御徒町のスポーツ用品店の店員の目撃証言がある。凶器はマンクング社のボウガン。犯行現場近くの茂みから犯行の翌日に発見された。真田の指紋が今田の背中に刺さっていた矢からもボウガンからも取れている。検察の証拠固めは完璧だ。真田は隅田川沿いのスポーツセンターのトラックでボウガンの試し打ちをしようとした。スポーツセンターのトイレに入ったところ、たまたま今田がいた。検察のストーリーでは、真田は、今田のちょっとした言動に不快感を覚え、ホームレス生活からの鬱憤もあって、それらを晴らすために、今田に面白半分に照準を合わせたところボウガンが暴発した。故殺ではないので傷害致死罪であれば、量刑はそれほど重くはないと思うが、真田はそもそも今田に会ったこともないと主張している。だから検察のストーリーを全面否認している。しかし供述調書にはサインしているんだ。真田は取り調べ捜査官に強要されたと言っているが、どうも気の弱い投げやりな性格のようだ。これだけ聞きだすのに、えらく時間を要した。最初は、口がきけないのかと思うほど、口が重かった。回答も、こっちがいくつか選択肢を用意して聞かないと、答えない。いつまでも黙り続ける。何を聞いても『とくに』とか『べつに』とか答える。厄介なやつだ。未必の故意による殺人だとする検察のストーリーを受け入れれば、検察が勝訴しても、裁判官の心証もよくなるから、多少量刑は軽くなるのだが、真田は頑として、アリバイを主張している。だから当然、反省もしていない。東北から出てきた今田の遺族に謝罪もしてない。そのくせ接見したとき、留置場の生活も現在の拘置所の生活も、三食屋根付きで、ネット喫茶や脱法ハウスをうろついていた娑婆の生活と比べたら天国のようだとほざいている。冤罪を晴らしてやろうという、こちらのモチベーションが低下する。・・・困ったものだ。検察のストーリーと真田の主張するアリバイはそのレポートにある。防犯カメ